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 私……エスメラルダに、突如結婚の話が舞い込んで来た。

 父からその話を受けた時、私は一瞬自分の耳を疑ってしまった。

 と言うのも……それは、一般的な結婚話とは事情が大きく違って居たからだ──。



「アイリーン……妹の代わりに、私があの方の元へ嫁げと──?」

「そうだ。だが仕方ないだろう?あの子は、この結婚話を拒否して男と駆け落ちしてしまったんだから──。」

 そう言って、父は溜息をついた。



「だが……幸いな事にお前達は双子だ、見た目もよく似て居る。それに、お前もあの子同様魔力も持って居るんだし……何かと都合が良いんだよ。それに何より、お前は引っ込み思案な性格が災いしあの子と違って昔から殿方との縁に恵まれないだろう?」

「そ、それは確かにそうですが……。」



 妹のアイリーンは、姉の私に顔こそそっくりだが……性格は明るく、愛嬌があって多くの殿方から好かれて居た。

 そしてそんな殿方達から、付き合って欲しいと代わる代わる求愛され……これまでずっと恋人が途切れた事が無い位、殿方と縁がある娘だった。



「エスメラルダ、私達はあなたの事が心配なのよ?この先、一生独り身で居るなんて事になるより……例えあの子の代わりでも、結婚し妻となって生きる事が幸せですよ。女一人で生きて行ける程、この世の中は甘く無いのですからね。」

「お母様……。」

 この結婚話に戸惑う私を、母は無視し持論を述べ……そんな母の言葉に、父もそうだと言って深く頷いて居る。



 あぁ、やはりこうなってしまうのね。

 この家に、私の意思など全く持って存在しないのだ──。



 いつもいつも、両親から溺愛されて居る妹のアイリーンが優先され……私の気持ちは二の次、いや……いつだって無視されてしまうのだ。

 その為、私は両親に言われるまま黙って多くの事に従い、ここまで大人しく生きて来たのだった。



 いや、私とて最初の頃はそんな両親に反抗して見せた事もあったが……姉なのに聞き分けの無い事を言うなと散々に怒られたり、益々アイリーンと比較され可愛げが無いなど責められてしまい……返って自分が辛い思いをするだけなので、両親に対し明らかに反抗的な態度を取る事は辞めたのだ。



 そしてそんな私を、アイリーンは無様ねと言うような馬鹿にしたような目で見て来て……私はそんな彼女を姉として余り好きにはなれなかったが、こんな事を両親に知られたらまた怒られると思い必死に隠して居るのだった。



 そんな私だったけれど……まさか、結婚相手まで勝手に決められてしまうとは流石に思っても居なかったわ──。



 しかし結局、あれこれ言った所でどうせ私の意見は聞いて貰えないし……アイリーンも駆け落ち中で依然行方不明のまま。

 更には結婚相手となるあちらの家からは、既に借金の肩代わりをして貰って居る状態だと言う。
 
 

 実は最近、父の事業が上手く行って居らず……母はこのまま生活が苦しくなっていくのを大層恐れ、そして毎日毎日嘆いて居た。


 
 そんな状況だから、借金まで肩代わりしてくれたそのお相手を逃したくない……この先も何かと力になって欲しいとお相手に望むのは、分からないでもない。



 と、このような状況を踏まえれば……私がこの結婚話を断る事は無理に等しいわね──。



「……分かりました。私、妹の代わりにあの方の花嫁になります──。」
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