27 / 56
桃姫、何かに気付く(今更感)
しおりを挟む螺旋状の竪穴のスロープを下層に向かって、“ハルク式荷馬車・参式”で走行していく。
しばらく降りていくと、スロープの終点に到着する。
「付きました。ここがミスリル鉱脈の第一階層です!」
到着した先に広がっていたのは、横に伸びている空洞。ボクが横に採掘していった通称“第一階層”だ。
「ここがミスリル鉱脈……凄く綺麗で幻想的ですね……」
設置してある“発光石”に反射して、坑道内のミスリル原石が虹色に輝いている。サラが言葉を失っているように、まるで幻想の世界のような光景が広がっていた。
「ふむ、これがハルクの見つけたミスリル鉱脈か。ワシもこれほど大規模なものは、初めて目にするのう」
ベテランのドワーフ職人のドルトンさんは、前にも別のミスリル鉱山に入ったことがある。だが大地に愛されたドワーフ族ですら、これほどのミスリル鉱脈は発見してないという。
「あっ、でも、下の階層にはもっと沢山のミスリル原石がありますよ! ここはほとんどボクが採掘してしまったので!」
「な、なんじゃと、これよりも、もっと沢山じゃと⁉ ふう……まったく、どれほどの埋蔵量があるのか予想もできないな」
「はっはっは……そうですね」
ミカエル城の地下に広がる鉱脈は、かなりの深さがと埋蔵量がある。ボクが十年かけても、まだ一割も発見できていない状態。
大げさな話をするなら『ミカエル王都の地下深くに、広大な鉱脈は広がっている』ような大規模な鉱脈なのだ。
「ふん。それほどの大規模な鉱脈があるのなら、ミカエル王国はとんでもない超軍事大国になる可能性もあるのう」
「そうですね。だからルインズ様は国王だった時は、最低限の採掘しか指示してきませんでした」
貴重な金属の採掘量は、その国の国力と軍事力を増大させる。
平和を望むルインズ様は『ハルクよ、国民の生活を豊かにする程度の、最低限の採掘をするのだ』と言ってくれた。
だからボクはその教えをずっと守ってきたのだ。
「じゃが、今の国王は何を考えているか分からん。もしかしたら、この鉱脈を悪用する危険性があるのう」
「そうですね。だからヒニクン国王が何をしているか、調べる必要性があるんです!」
ルインズ様の情報によると、今の国王は怪しげなことを水面下している。特に臣下にも内緒で、この鉱脈で何かをしているという。
嫌な予感しかしないボクは、最優先で鉱脈の現状を調べることにしたのだ。
「それじゃ、第二階層に降りていきましょう。ん? サラ?」
“ハルク式荷馬車・参式”を再発進させようとした時、サラの異変に気がつく。
「ご、ごめんなさい、ハルク君。なんか、息苦しくて、身体が重くて……」
サラは明らかに体調が悪そう。
座席に座りながら顔が白くなって、息が苦しそうにしている。隣のドルトンさんの方に異常はない。
これはどういうことだ?
「『息苦しくて、身体が重い』……あっ、そうか! すぐに対処するね!」
サラの容態で思い当たることがあった。急いで運転席の操作パネルのスイッチを入れる。
キュイン! シュ――――!
直後、“ハルク式荷馬車・参式”の床から、空気が噴き出してくる。
キュイ――――ン! ボワ――――ン!
更に床の下から、新たなる駆動音が聞こえてきた。どちらも新たなる超魔具が作動したものだ。
「えっ……もう苦しくない⁉ すごく楽になりました、ハルク君!」
しばらくしてサラの体調が回復する。顔色は元に戻り、元気そうに自分の身体を動かしている。
「さっきの私の体調不良は、なんだったんだろう?」
「説明するのが遅れてごめん、サラ。実はこのミスリル鉱脈は“少しだけ”息苦しくて、身体が重くなる場所なんだ!」
王都の地下にあるミスリル鉱脈は、普通とは少しだけ違う場所。空気に“魔素”が少しだけ濃く混じっているのだ。
また重力と呼ばれる下に引く力が“少しだけ”強く、身体が重く感じしてしまうのだ。
「なるほど、そうだったんですね。あっ、でも、ドルトンさんは?」
「辞典によるとドワーフ族は人族よりも頑丈で、地下に強い体質らしいから、まだ平気だったのかな、たぶん」
大地の精霊に愛されたドワーフ族は、呼吸や骨格などが強靭。そのためドルトンさんに異常はなく、人族のサラだけ苦しくなったのだろう。
「ふむ、そう言われてみれば、ワシも少しだけ違和感があったかもな。だが、今はまったく無くなったぞ。さっき何の超魔具を起動させたのだ、小僧?」
「実はこの空気が出てくるのは、《空気清浄器》という超魔具の機能なんです!」
今回、ミスリル鉱脈に潜るにあたって、“ハルク式荷馬車・参式”に色んな機能を追加してある。
その中の一つが《空気清浄器》。機能を簡単に説明すると、『生きていくうえで適切な空気が流れてくる』超魔具だ。
あまり知られていないが、人は生きていくために“空気”と呼ばれる存在が必要となる。少しでも変なものが混じっていたり、空気が薄くなると人は体調を悪くしてしまう。
だから常に適切な空気が吸えるような超魔具を、事前に開発設置しておいたのだ。
綺麗な空気の元は、サラに作っておいたポーション。それに魔道具を組みわせて、最後にボクの鍛冶仕事でくみ上げたものだ。
「あと、身体が軽くなったのは、《重力制御装置》の機能です!」
こっちの機能を簡単に説明すると、『重力の強さを自由に制御』する超魔具だ。
今回は強くなってきた重力を相殺して、地上と同じ強さに調整。地下に潜っていく度に、自動的に強さを相殺していく機能がある。
ちなみに手動で強さを調整可能なために、逆に重力を強くすることも可能だ。
あっ、でも『人が動けなくなるほど強力な超重力』なんて機能があっても、日常では使い道はないかも。
「……という訳で、荷馬車の中にいる限りは、最下層にも対応できます!」
鉱脈の最下層は、ここよりも更に少しだけ過酷な環境になる。
だがこの二つの超魔具があれば、なんの問題なく降りていくことが可能だと、二人に説明をする。
「く、空気を生み出して、さらに重力を制御できる……じゃと⁉ 相変わらずとんでもない物を作り出しおって、オヌシは。この荷馬車さえあれば、魔界にも乗り込んでいけそうじゃぞ」
「はっはっは……おそれいります」
「でもハルク君の発明のおかげで、快適に先に進めそうですね」
「そうだね、サラ。よし、こんどこそ本当に下層に向かおう!」
超魔具のお蔭で、過酷な環境に対しての対応は万端。
こうして更に下の“第二下層”にボクたちは向かうのであった。
しばらく降りていくと、スロープの終点に到着する。
「付きました。ここがミスリル鉱脈の第一階層です!」
到着した先に広がっていたのは、横に伸びている空洞。ボクが横に採掘していった通称“第一階層”だ。
「ここがミスリル鉱脈……凄く綺麗で幻想的ですね……」
設置してある“発光石”に反射して、坑道内のミスリル原石が虹色に輝いている。サラが言葉を失っているように、まるで幻想の世界のような光景が広がっていた。
「ふむ、これがハルクの見つけたミスリル鉱脈か。ワシもこれほど大規模なものは、初めて目にするのう」
ベテランのドワーフ職人のドルトンさんは、前にも別のミスリル鉱山に入ったことがある。だが大地に愛されたドワーフ族ですら、これほどのミスリル鉱脈は発見してないという。
「あっ、でも、下の階層にはもっと沢山のミスリル原石がありますよ! ここはほとんどボクが採掘してしまったので!」
「な、なんじゃと、これよりも、もっと沢山じゃと⁉ ふう……まったく、どれほどの埋蔵量があるのか予想もできないな」
「はっはっは……そうですね」
ミカエル城の地下に広がる鉱脈は、かなりの深さがと埋蔵量がある。ボクが十年かけても、まだ一割も発見できていない状態。
大げさな話をするなら『ミカエル王都の地下深くに、広大な鉱脈は広がっている』ような大規模な鉱脈なのだ。
「ふん。それほどの大規模な鉱脈があるのなら、ミカエル王国はとんでもない超軍事大国になる可能性もあるのう」
「そうですね。だからルインズ様は国王だった時は、最低限の採掘しか指示してきませんでした」
貴重な金属の採掘量は、その国の国力と軍事力を増大させる。
平和を望むルインズ様は『ハルクよ、国民の生活を豊かにする程度の、最低限の採掘をするのだ』と言ってくれた。
だからボクはその教えをずっと守ってきたのだ。
「じゃが、今の国王は何を考えているか分からん。もしかしたら、この鉱脈を悪用する危険性があるのう」
「そうですね。だからヒニクン国王が何をしているか、調べる必要性があるんです!」
ルインズ様の情報によると、今の国王は怪しげなことを水面下している。特に臣下にも内緒で、この鉱脈で何かをしているという。
嫌な予感しかしないボクは、最優先で鉱脈の現状を調べることにしたのだ。
「それじゃ、第二階層に降りていきましょう。ん? サラ?」
“ハルク式荷馬車・参式”を再発進させようとした時、サラの異変に気がつく。
「ご、ごめんなさい、ハルク君。なんか、息苦しくて、身体が重くて……」
サラは明らかに体調が悪そう。
座席に座りながら顔が白くなって、息が苦しそうにしている。隣のドルトンさんの方に異常はない。
これはどういうことだ?
「『息苦しくて、身体が重い』……あっ、そうか! すぐに対処するね!」
サラの容態で思い当たることがあった。急いで運転席の操作パネルのスイッチを入れる。
キュイン! シュ――――!
直後、“ハルク式荷馬車・参式”の床から、空気が噴き出してくる。
キュイ――――ン! ボワ――――ン!
更に床の下から、新たなる駆動音が聞こえてきた。どちらも新たなる超魔具が作動したものだ。
「えっ……もう苦しくない⁉ すごく楽になりました、ハルク君!」
しばらくしてサラの体調が回復する。顔色は元に戻り、元気そうに自分の身体を動かしている。
「さっきの私の体調不良は、なんだったんだろう?」
「説明するのが遅れてごめん、サラ。実はこのミスリル鉱脈は“少しだけ”息苦しくて、身体が重くなる場所なんだ!」
王都の地下にあるミスリル鉱脈は、普通とは少しだけ違う場所。空気に“魔素”が少しだけ濃く混じっているのだ。
また重力と呼ばれる下に引く力が“少しだけ”強く、身体が重く感じしてしまうのだ。
「なるほど、そうだったんですね。あっ、でも、ドルトンさんは?」
「辞典によるとドワーフ族は人族よりも頑丈で、地下に強い体質らしいから、まだ平気だったのかな、たぶん」
大地の精霊に愛されたドワーフ族は、呼吸や骨格などが強靭。そのためドルトンさんに異常はなく、人族のサラだけ苦しくなったのだろう。
「ふむ、そう言われてみれば、ワシも少しだけ違和感があったかもな。だが、今はまったく無くなったぞ。さっき何の超魔具を起動させたのだ、小僧?」
「実はこの空気が出てくるのは、《空気清浄器》という超魔具の機能なんです!」
今回、ミスリル鉱脈に潜るにあたって、“ハルク式荷馬車・参式”に色んな機能を追加してある。
その中の一つが《空気清浄器》。機能を簡単に説明すると、『生きていくうえで適切な空気が流れてくる』超魔具だ。
あまり知られていないが、人は生きていくために“空気”と呼ばれる存在が必要となる。少しでも変なものが混じっていたり、空気が薄くなると人は体調を悪くしてしまう。
だから常に適切な空気が吸えるような超魔具を、事前に開発設置しておいたのだ。
綺麗な空気の元は、サラに作っておいたポーション。それに魔道具を組みわせて、最後にボクの鍛冶仕事でくみ上げたものだ。
「あと、身体が軽くなったのは、《重力制御装置》の機能です!」
こっちの機能を簡単に説明すると、『重力の強さを自由に制御』する超魔具だ。
今回は強くなってきた重力を相殺して、地上と同じ強さに調整。地下に潜っていく度に、自動的に強さを相殺していく機能がある。
ちなみに手動で強さを調整可能なために、逆に重力を強くすることも可能だ。
あっ、でも『人が動けなくなるほど強力な超重力』なんて機能があっても、日常では使い道はないかも。
「……という訳で、荷馬車の中にいる限りは、最下層にも対応できます!」
鉱脈の最下層は、ここよりも更に少しだけ過酷な環境になる。
だがこの二つの超魔具があれば、なんの問題なく降りていくことが可能だと、二人に説明をする。
「く、空気を生み出して、さらに重力を制御できる……じゃと⁉ 相変わらずとんでもない物を作り出しおって、オヌシは。この荷馬車さえあれば、魔界にも乗り込んでいけそうじゃぞ」
「はっはっは……おそれいります」
「でもハルク君の発明のおかげで、快適に先に進めそうですね」
「そうだね、サラ。よし、こんどこそ本当に下層に向かおう!」
超魔具のお蔭で、過酷な環境に対しての対応は万端。
こうして更に下の“第二下層”にボクたちは向かうのであった。
0
お気に入りに追加
499
あなたにおすすめの小説
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
残影の艦隊~蝦夷共和国の理想と銀の道
谷鋭二
歴史・時代
この物語の舞台は主に幕末・維新の頃の日本です。物語の主人公榎本武揚は、幕末動乱のさなかにはるばるオランダに渡り、最高の技術、最高のスキル、最高の知識を手にいれ日本に戻ってきます。
しかし榎本がオランダにいる間に幕府の権威は完全に失墜し、やがて大政奉還、鳥羽・伏見の戦いをへて幕府は瓦解します。自然幕臣榎本武揚は行き場を失い、未来は絶望的となります。
榎本は新たな己の居場所を蝦夷(北海道)に見出し、同じく行き場を失った多くの幕臣とともに、蝦夷を開拓し新たなフロンティアを築くという壮大な夢を描きます。しかしやがてはその蝦夷にも薩長の魔の手がのびてくるわけです。
この物語では榎本武揚なる人物が最北に地にいかなる夢を見たか追いかけると同時に、世に言う箱館戦争の後、罪を許された榎本のその後の人生にも光を当ててみたいと思っている次第であります。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?


明日、雪うさぎが泣いたら
中嶋 まゆき
歴史・時代
幼い頃に神隠しに遭った小雪は、その頃に出逢った少年との再会を信じていた。兄の恭一郎は反対するが、妙齢になるにつれ、小雪は彼のことを頻繁に夢に見るようになって…。
夢の少年と兄の間で揺れる恋の結末と、小雪が選んだ世界とは?
戦国九州三国志
谷鋭二
歴史・時代
戦国時代九州は、三つの勢力が覇権をかけて激しい争いを繰り返しました。南端の地薩摩(鹿児島)から興った鎌倉以来の名門島津氏、肥前(現在の長崎、佐賀)を基盤にした新興の龍造寺氏、そして島津同様鎌倉以来の名門で豊後(大分県)を中心とする大友家です。この物語ではこの三者の争いを主に大友家を中心に描いていきたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる