26 / 56
なあに、こんなのは余興さ
しおりを挟む
俺と王虎は部屋の中央で向かい合う。
普段の俺は、他人に対してあんまり敵意を剥き出しにすることはないんだよな。砂浜で桃姫様の護衛のヤツに腹を二度……いや、三度か、蹴られた時も、そんなに敵意は持たなかったし。
……あ。こっち側で出席してる三人の中の一人、あの時俺の腹を蹴ったヤツだ! 特徴が無さ過ぎて三下かと思ってたけど、結構偉いヤツだったのか。
ふふ。ふふふ。敵意は持たないけど、根には持つぜ俺は。
まあいい。どうやら俺は、自分の事なら笑って済ませても、守るべきものに害を及ぼすヤツには攻撃的になるらしい。我が主、桃姫様に破廉恥な視線を投げかける王虎をぶっ飛ばしたくて仕方ない。
「おい、貴様、武器持たないアルか?」
ん? ちょっと頭に血が上ってきたのか、今まで流暢な日本語を話していたのがちょっと怪しくなってきたぞ?
さっきの演舞で、大体こいつの力は分かった。これで十分だな。
「俺の得物はこれさ」
そう言って俺は、桃姫様から頂いた鉄扇を右手に持ち、バッと開いて見せた。へえ、骨組みだけじゃなくて、全部鉄で出来てるのか。見事なもんだな。ちゃんと折り畳める巧妙な細工、なかなか手間がかかっている。
それを見た王虎は、こめかみをビキビキ言わせて飛び掛かって来た。余程コケにされたと思ったらしい。短気なヤツだな。
「アイヤー!」
一足飛びに間合いを詰めてきた王虎は、自分の間合いになる前にもう一度跳躍した。かなり高い。
上からの攻撃。確かに自身の攻撃力に落下の勢いを上乗せした一撃は強力だ。
――当たればな。
「ふん」
自分の体重を全部乗せて繰り出してきた王虎の斬撃は、俺があっさり躱してみせる。
強かに床を打ち付ける王虎の木刀。
「なにっ!?」
そんな驚く事はねえだろ。上から来るって分かってる攻撃だ。避ける事なんざ造作もねえ。
斬撃を躱した俺は王虎の背後に立つ。それに瞬時に反応し、後ろに身体を捻りながら木刀を振ってくる。実戦慣れはしてるみたいだな。だけど、演舞の時に見ていた感じじゃこいつの利き腕は右。つまり背後を取られているこいつの攻撃は右から来る。
またしても容易く躱す俺に、王虎の目は明らかにイライラしてるように見えた。いや、そんな目で見られてもさ、来ると分かってる攻撃なんざ普通に躱せるだろ?
……師匠の攻撃は来ると分かってても躱せなかったけどな。
「ハイハイハイ! ハイヤー!」
今度は王虎、連続攻撃に切り替えてきたな。俺の鉄扇が届かない、ギリギリ間合いの外から攻めてくる。
斬、斬、斬。そして最後には意表を突いた回し蹴りが俺の頭を狙ってくる。
へえ、面白いな。この攻撃、今度俺も使ってみようかな?
俺は回し蹴りを屈んで躱しつつ、前に出て王虎の懐へと入る。すかさずヤツは右手の木刀で攻撃してくるが、左足一本で立ってるヤツの攻撃なんざ脅威じゃねえ。ヤツの木刀の一撃は、俺が左手で木刀を持つ手首を掴んで止めた。
そして右手は扇子を持っているから使えないが、右肘の内側でヤツの首を刈る。同時に右脚でヤツの左脚も払う。
「ガハッ!」
仰向けに倒れた王虎は背中を床に強打し、肺の空気を強制的に吐き出され、苦悶の表情だ。
「扇子を使うまでもなかったな。まだやるか?」
俺は右手の扇子を王虎の首に突きつけた。
「……ゥオ、バイベイ……」
王虎があっちの言葉で何か呟く。多分だけど、『我、敗北』って言ったんじゃねえかな? 向こうで桃姫様と一緒に見てたタプタプ商人のおっさんが悔しそうな顔してるもんな。
あれ? 桃姫様はポーッとしてるな。おーい、桃姫様?
「……はっ!? 弥五郎! お見事です!」
そして桃姫様からお褒めのお言葉が。へへへ、調子に乗ってる弱いヤツをやっつけるだけの簡単なお仕事でした!
△▼△
「ふふふ。どうやらあの少年、王虎の攻撃の前に防戦一方のようですな」
姫様の横で、脂っこいタプタプした商人がいやらしい笑みを浮かべながら姫様に話しかけているわ。
それを聞いている姫様は柔らかな笑みを絶やす事なく弥五郎の戦いを眺めている。
確かに、王虎の怒涛の攻撃を前に、躱すのが精いっぱい。
……って見えるわよね。
でもあれは、完全に見切ってる。もっと言えば、弥五郎は遊んでる。おそらく事前の演舞で王虎の実力を見切ったんでしょうね。その上で、わざと遊んでるのよ。
姫様もそれを分かっているから、余裕の笑みを絶やす事がないのよね。確かに王虎は強いけど、弥五郎の相手にはならない。
それにしても、普段の弥五郎なら一撃で決めているはずなんだけど、相手の自信ごと粉々にしてやるつもりなのかしら? いつもの弥五郎と違って、怒気を感じる。
「あっ……」
そんな事を思っているうちに、一瞬で勝負は着いた。
……すごいわね。速い連撃の後の意表を突いた回し蹴り。普通、あんなの読めないわよ? あれを躱しながら同時に攻撃するなんて……
結局、王虎は弥五郎に触れる事すら出来ずに一撃で倒されちゃった。
それにしても驚いたなぁ。弥五郎って、剣術だけじゃなかったんだぁ……
あ、姫様なんてポーッと見惚れちゃってるよ?
ホント弥五郎って、天然のアレよね?
*****
弥五郎〇(大外刈りラリアット)×王虎
普段の俺は、他人に対してあんまり敵意を剥き出しにすることはないんだよな。砂浜で桃姫様の護衛のヤツに腹を二度……いや、三度か、蹴られた時も、そんなに敵意は持たなかったし。
……あ。こっち側で出席してる三人の中の一人、あの時俺の腹を蹴ったヤツだ! 特徴が無さ過ぎて三下かと思ってたけど、結構偉いヤツだったのか。
ふふ。ふふふ。敵意は持たないけど、根には持つぜ俺は。
まあいい。どうやら俺は、自分の事なら笑って済ませても、守るべきものに害を及ぼすヤツには攻撃的になるらしい。我が主、桃姫様に破廉恥な視線を投げかける王虎をぶっ飛ばしたくて仕方ない。
「おい、貴様、武器持たないアルか?」
ん? ちょっと頭に血が上ってきたのか、今まで流暢な日本語を話していたのがちょっと怪しくなってきたぞ?
さっきの演舞で、大体こいつの力は分かった。これで十分だな。
「俺の得物はこれさ」
そう言って俺は、桃姫様から頂いた鉄扇を右手に持ち、バッと開いて見せた。へえ、骨組みだけじゃなくて、全部鉄で出来てるのか。見事なもんだな。ちゃんと折り畳める巧妙な細工、なかなか手間がかかっている。
それを見た王虎は、こめかみをビキビキ言わせて飛び掛かって来た。余程コケにされたと思ったらしい。短気なヤツだな。
「アイヤー!」
一足飛びに間合いを詰めてきた王虎は、自分の間合いになる前にもう一度跳躍した。かなり高い。
上からの攻撃。確かに自身の攻撃力に落下の勢いを上乗せした一撃は強力だ。
――当たればな。
「ふん」
自分の体重を全部乗せて繰り出してきた王虎の斬撃は、俺があっさり躱してみせる。
強かに床を打ち付ける王虎の木刀。
「なにっ!?」
そんな驚く事はねえだろ。上から来るって分かってる攻撃だ。避ける事なんざ造作もねえ。
斬撃を躱した俺は王虎の背後に立つ。それに瞬時に反応し、後ろに身体を捻りながら木刀を振ってくる。実戦慣れはしてるみたいだな。だけど、演舞の時に見ていた感じじゃこいつの利き腕は右。つまり背後を取られているこいつの攻撃は右から来る。
またしても容易く躱す俺に、王虎の目は明らかにイライラしてるように見えた。いや、そんな目で見られてもさ、来ると分かってる攻撃なんざ普通に躱せるだろ?
……師匠の攻撃は来ると分かってても躱せなかったけどな。
「ハイハイハイ! ハイヤー!」
今度は王虎、連続攻撃に切り替えてきたな。俺の鉄扇が届かない、ギリギリ間合いの外から攻めてくる。
斬、斬、斬。そして最後には意表を突いた回し蹴りが俺の頭を狙ってくる。
へえ、面白いな。この攻撃、今度俺も使ってみようかな?
俺は回し蹴りを屈んで躱しつつ、前に出て王虎の懐へと入る。すかさずヤツは右手の木刀で攻撃してくるが、左足一本で立ってるヤツの攻撃なんざ脅威じゃねえ。ヤツの木刀の一撃は、俺が左手で木刀を持つ手首を掴んで止めた。
そして右手は扇子を持っているから使えないが、右肘の内側でヤツの首を刈る。同時に右脚でヤツの左脚も払う。
「ガハッ!」
仰向けに倒れた王虎は背中を床に強打し、肺の空気を強制的に吐き出され、苦悶の表情だ。
「扇子を使うまでもなかったな。まだやるか?」
俺は右手の扇子を王虎の首に突きつけた。
「……ゥオ、バイベイ……」
王虎があっちの言葉で何か呟く。多分だけど、『我、敗北』って言ったんじゃねえかな? 向こうで桃姫様と一緒に見てたタプタプ商人のおっさんが悔しそうな顔してるもんな。
あれ? 桃姫様はポーッとしてるな。おーい、桃姫様?
「……はっ!? 弥五郎! お見事です!」
そして桃姫様からお褒めのお言葉が。へへへ、調子に乗ってる弱いヤツをやっつけるだけの簡単なお仕事でした!
△▼△
「ふふふ。どうやらあの少年、王虎の攻撃の前に防戦一方のようですな」
姫様の横で、脂っこいタプタプした商人がいやらしい笑みを浮かべながら姫様に話しかけているわ。
それを聞いている姫様は柔らかな笑みを絶やす事なく弥五郎の戦いを眺めている。
確かに、王虎の怒涛の攻撃を前に、躱すのが精いっぱい。
……って見えるわよね。
でもあれは、完全に見切ってる。もっと言えば、弥五郎は遊んでる。おそらく事前の演舞で王虎の実力を見切ったんでしょうね。その上で、わざと遊んでるのよ。
姫様もそれを分かっているから、余裕の笑みを絶やす事がないのよね。確かに王虎は強いけど、弥五郎の相手にはならない。
それにしても、普段の弥五郎なら一撃で決めているはずなんだけど、相手の自信ごと粉々にしてやるつもりなのかしら? いつもの弥五郎と違って、怒気を感じる。
「あっ……」
そんな事を思っているうちに、一瞬で勝負は着いた。
……すごいわね。速い連撃の後の意表を突いた回し蹴り。普通、あんなの読めないわよ? あれを躱しながら同時に攻撃するなんて……
結局、王虎は弥五郎に触れる事すら出来ずに一撃で倒されちゃった。
それにしても驚いたなぁ。弥五郎って、剣術だけじゃなかったんだぁ……
あ、姫様なんてポーッと見惚れちゃってるよ?
ホント弥五郎って、天然のアレよね?
*****
弥五郎〇(大外刈りラリアット)×王虎
0
お気に入りに追加
499
あなたにおすすめの小説
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
残影の艦隊~蝦夷共和国の理想と銀の道
谷鋭二
歴史・時代
この物語の舞台は主に幕末・維新の頃の日本です。物語の主人公榎本武揚は、幕末動乱のさなかにはるばるオランダに渡り、最高の技術、最高のスキル、最高の知識を手にいれ日本に戻ってきます。
しかし榎本がオランダにいる間に幕府の権威は完全に失墜し、やがて大政奉還、鳥羽・伏見の戦いをへて幕府は瓦解します。自然幕臣榎本武揚は行き場を失い、未来は絶望的となります。
榎本は新たな己の居場所を蝦夷(北海道)に見出し、同じく行き場を失った多くの幕臣とともに、蝦夷を開拓し新たなフロンティアを築くという壮大な夢を描きます。しかしやがてはその蝦夷にも薩長の魔の手がのびてくるわけです。
この物語では榎本武揚なる人物が最北に地にいかなる夢を見たか追いかけると同時に、世に言う箱館戦争の後、罪を許された榎本のその後の人生にも光を当ててみたいと思っている次第であります。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?


明日、雪うさぎが泣いたら
中嶋 まゆき
歴史・時代
幼い頃に神隠しに遭った小雪は、その頃に出逢った少年との再会を信じていた。兄の恭一郎は反対するが、妙齢になるにつれ、小雪は彼のことを頻繁に夢に見るようになって…。
夢の少年と兄の間で揺れる恋の結末と、小雪が選んだ世界とは?
戦国九州三国志
谷鋭二
歴史・時代
戦国時代九州は、三つの勢力が覇権をかけて激しい争いを繰り返しました。南端の地薩摩(鹿児島)から興った鎌倉以来の名門島津氏、肥前(現在の長崎、佐賀)を基盤にした新興の龍造寺氏、そして島津同様鎌倉以来の名門で豊後(大分県)を中心とする大友家です。この物語ではこの三者の争いを主に大友家を中心に描いていきたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる