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壱
17.マーリの策略
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マーリ達は領主の屋敷に滞在する事になっているらしく、そのまま馬車に乗って領主の屋敷へと向かって行った。
「私達は明日早朝に自領へ向けて出立します。恐らく次に会うのはお二人が王都方面へ来る機会があった時でしょうか。きっとその時は押しも押されぬ大人物になっているのでしょうね」
マーリが去り際にそんな事を言っていた。
「それじゃあ俺達は、取り敢えずハンターとして名声を得るよう頑張ってみるかね」
「ん。貴族も王族も黙らせるくらいの大物に成り上がろう」
コンタはマーリの期待を裏切らない程度には頑張ろうという気持ち。
杏子はファンタジー小説にありがちなテンプレのフラグをわざと立て、積極的に回収して早々に成り上がろうという遊び心。
「おい、お前思い切り目立って最短距離を上り詰めようとか思ってねえだろな?」
「……」
「視線をそらすな視線を。それから変な汗をかくのは止めろ」
「ごめんなさい近藤さん」
「ったくお前は……」
杏子の態度に若干呆れながらも、二人は宿の食堂へと戻る。そしてドアを開けて食堂に入った彼らを待ち受けていたのは歓声とどよめきだった。
「よお!兄さんたち戻ったか!」
「貴族のお嬢様になんか嫌がらせされなかったか?」
「それにしてもアンタらだったのか、すっげえな!」
「兄さんの方はともかく、お嬢ちゃんの方は強そうに見えねえんだけどな!」
「ま、飲め飲め! あ、お嬢ちゃんはこっちのがいいか?」
食堂で食事中だった客が次々と話しかけてくる。
それもバンバンと背中を叩きながら、ジョッキに酒を注いで押し付けるようにしながら。年齢より幼く見える杏子にはジュースのようなものが勧められていた。
「ちょ、ちょっと待て! こりゃ何の騒ぎだ?」
コンタが助けを求めるように女将のリナへ視線を送る。
リナは心底楽しそうな笑顔でコンタ達を見つめていたが、同じくコンタ達を見つめていたラナとルナの双子は、何やら視線に熱が籠っている感じがする。
「コンタお兄ちゃんとキョーコお姉ちゃんが、悪い盗賊をいっぱいやっつけたんですか!?」
「さっきの貴族様のお話が聞こえてたんですぅ!」
ラナとルナの言葉で二人は理解した。コンタはがっくりと肩を落とし、杏子の方は分かりにくいがドヤ顔をしている。
「マーリ様、狙ってやがったか?」
「ん、多分」
「はぁ……マーリ様と取り巻き達は口を閉ざすと約束してくれた。それは守ってはくれるんだろう。トップハムさんも大丈夫だろうな。けど……」
「む。本人たちは約束を守るけど、ここの人達が言いふらすのは約束の外」
「そゆ事だな」
これはマーリにしてやられたか。そんな思いは巡るものの、ここの客たちは心から感謝してくれているのが分かるだけに何とも言えない気持ちになるコンタ。しかし杏子の方は望むところだろうか。
「目立ちたくなかったんだけどなぁ……」
「手遅れ」
「だよなぁ」
この後二人は、宿の宿泊客たちに次々と料理を勧められ飲み物を注がれ賑やかな時間を過ごした。そして時間の経過と共にぽつりぽつりと客たちが部屋に引き上げはじめ、最後まで食堂に残ったのがコンタと杏子。
「……悪くない」
杏子が両手でコップを握りながらポツリと呟いた。そしてちびりと水を喉へと流し込む。
「……にしても、少し大袈裟だとは思うけどな」
確かに盗賊を捕らえた事は歓迎すべき事なのだろう。それは分かる。しかしコンタとしては感謝のされ方が激しすぎると思わずにはいられないのだ。野営場で相対した時の感覚では、盗賊たちがそれほどの脅威とは思えなかったのがその理由だ。正規の軍人が十人もいれば制圧出来たのではないかと思っている。
「お客さん」
そのコンタの疑問に答えてくれたのは女将であるリナだった。
「ここは宿屋。お客さんは殆どが旅人。盗賊団は旅人を狙う。真っ当な商売をして得た利益と掛替えの無い命を身勝手に奪い、ハンターが命懸けで持ち帰ったお宝を横から掻っ攫う。そのくせ神出鬼没で警備隊も騎士団もなかなか尻尾を掴めない。あの人も遺跡の帰りに盗賊にね……」
『あの人』というのはリナの夫の事だろうか。リナは遠くを見るような目をしていた。次いで双子の娘に視線をやる。ラナとルナは余程疲れたのだろう、テーブルに突っ伏して眠りこけていた。
「あの子達にとっても、盗賊ってのは父親を殺した憎い仇なのよね。お客さんたちは仇を取ってくれたヒーローなの。もちろん、私にとってもそう」
コンタと杏子は黙ってリナの話を聞いていた。そして思う。
直接の被害者がここにいた。あの盗賊団が犯人かどうかは知る術はない。しかし今後こういった悲しい思いをする人が少なくなるのは間違いない。だからみんなは自分達に感謝する。
恐らく数日中には、自分達は盗賊討伐の功労者としてそれなりに注目される存在になってしまうだろう。その視線は好意的なものだけではないかも知れない。そうなった時に敵意を黙らせるだけの名声を得る。杏子の考えも悪くはないか。コンタはそう思った。
「……ラナちゃんとルナちゃん、運びましょうか?」
いつまでもテーブルに突っ伏したまま寝かせておくのも気の毒に思ったコンタが言った。それに正直に言えば部屋に戻り色々と考えたいし杏子とも話し合う必要もある。
「お願いしようかな?」
リナもそろそろ頃合いだと思ったのか了承した。
「分かりました。杏子もいいか?」
「ん」
コンタと杏子がラナとルナをそれぞれ抱き上げ、リナの案内で双子姉妹の寝室へ行きそっとベッドへ寝かしつける。そしてリナと軽く挨拶を交わした後、二人は自室へと戻って来た。
「色々あるな」
「ん。まずは見た目から」
部屋に戻った二人が始めたのは盗賊のアジトからの戦利品の確認作業だ。良いものがあればそのまま使うつもりである。
ハンター登録をしてハンターとして活動する。その為には装備品が必要だ。贅沢を言わなければ新品を買い揃える程度の資金は手に入ったが、この世界をよく知らない二人は無駄遣いをするつもりはない。
「まあ、杏子にゃ必要ねえから、あくまでも偽装の意味合いの武器防具だもんな。見た目で選んで結構じゃね?」
「ん。コンタは実用性重視?」
「ああ。俺のリフレクション・フィールドはその都度展開させなきゃなんねえからな。万が一に備えて急所だけでも守っておきたい」
「それを言ったら、私もディメンジョンアーマーを常時展開するだけの魔力量はない」
「じゃあ真面目に選ぼうぜ」
「ん」
二人は比較的見栄えの良いものを見繕う。胸部を保護する革のブレストアーマーにグローブ、そしてブーツ。剣帯。杏子はショートソード。コンタはロングソードとナイフ。
「これにマントを羽織ればそれなりに見えんだろ。杏子、こいつらに洗浄魔法かけてくれよ? さすがにブーツとかは他人が履いてたものはちょっとな……」
「ん、任せて」
二人は特別潔癖症という訳ではないのだが、『水虫とか伝染したらイヤだなぁ』くらいの感じだ。
こうして翌日以降の装備を決めて寝る準備に入る二人。風呂は一緒が経済的だとか、縞々と水玉のどっちか選べとか、色々とコンタを悩ませるイベントはあったが、何とかコンタも眠りについた。
「私達は明日早朝に自領へ向けて出立します。恐らく次に会うのはお二人が王都方面へ来る機会があった時でしょうか。きっとその時は押しも押されぬ大人物になっているのでしょうね」
マーリが去り際にそんな事を言っていた。
「それじゃあ俺達は、取り敢えずハンターとして名声を得るよう頑張ってみるかね」
「ん。貴族も王族も黙らせるくらいの大物に成り上がろう」
コンタはマーリの期待を裏切らない程度には頑張ろうという気持ち。
杏子はファンタジー小説にありがちなテンプレのフラグをわざと立て、積極的に回収して早々に成り上がろうという遊び心。
「おい、お前思い切り目立って最短距離を上り詰めようとか思ってねえだろな?」
「……」
「視線をそらすな視線を。それから変な汗をかくのは止めろ」
「ごめんなさい近藤さん」
「ったくお前は……」
杏子の態度に若干呆れながらも、二人は宿の食堂へと戻る。そしてドアを開けて食堂に入った彼らを待ち受けていたのは歓声とどよめきだった。
「よお!兄さんたち戻ったか!」
「貴族のお嬢様になんか嫌がらせされなかったか?」
「それにしてもアンタらだったのか、すっげえな!」
「兄さんの方はともかく、お嬢ちゃんの方は強そうに見えねえんだけどな!」
「ま、飲め飲め! あ、お嬢ちゃんはこっちのがいいか?」
食堂で食事中だった客が次々と話しかけてくる。
それもバンバンと背中を叩きながら、ジョッキに酒を注いで押し付けるようにしながら。年齢より幼く見える杏子にはジュースのようなものが勧められていた。
「ちょ、ちょっと待て! こりゃ何の騒ぎだ?」
コンタが助けを求めるように女将のリナへ視線を送る。
リナは心底楽しそうな笑顔でコンタ達を見つめていたが、同じくコンタ達を見つめていたラナとルナの双子は、何やら視線に熱が籠っている感じがする。
「コンタお兄ちゃんとキョーコお姉ちゃんが、悪い盗賊をいっぱいやっつけたんですか!?」
「さっきの貴族様のお話が聞こえてたんですぅ!」
ラナとルナの言葉で二人は理解した。コンタはがっくりと肩を落とし、杏子の方は分かりにくいがドヤ顔をしている。
「マーリ様、狙ってやがったか?」
「ん、多分」
「はぁ……マーリ様と取り巻き達は口を閉ざすと約束してくれた。それは守ってはくれるんだろう。トップハムさんも大丈夫だろうな。けど……」
「む。本人たちは約束を守るけど、ここの人達が言いふらすのは約束の外」
「そゆ事だな」
これはマーリにしてやられたか。そんな思いは巡るものの、ここの客たちは心から感謝してくれているのが分かるだけに何とも言えない気持ちになるコンタ。しかし杏子の方は望むところだろうか。
「目立ちたくなかったんだけどなぁ……」
「手遅れ」
「だよなぁ」
この後二人は、宿の宿泊客たちに次々と料理を勧められ飲み物を注がれ賑やかな時間を過ごした。そして時間の経過と共にぽつりぽつりと客たちが部屋に引き上げはじめ、最後まで食堂に残ったのがコンタと杏子。
「……悪くない」
杏子が両手でコップを握りながらポツリと呟いた。そしてちびりと水を喉へと流し込む。
「……にしても、少し大袈裟だとは思うけどな」
確かに盗賊を捕らえた事は歓迎すべき事なのだろう。それは分かる。しかしコンタとしては感謝のされ方が激しすぎると思わずにはいられないのだ。野営場で相対した時の感覚では、盗賊たちがそれほどの脅威とは思えなかったのがその理由だ。正規の軍人が十人もいれば制圧出来たのではないかと思っている。
「お客さん」
そのコンタの疑問に答えてくれたのは女将であるリナだった。
「ここは宿屋。お客さんは殆どが旅人。盗賊団は旅人を狙う。真っ当な商売をして得た利益と掛替えの無い命を身勝手に奪い、ハンターが命懸けで持ち帰ったお宝を横から掻っ攫う。そのくせ神出鬼没で警備隊も騎士団もなかなか尻尾を掴めない。あの人も遺跡の帰りに盗賊にね……」
『あの人』というのはリナの夫の事だろうか。リナは遠くを見るような目をしていた。次いで双子の娘に視線をやる。ラナとルナは余程疲れたのだろう、テーブルに突っ伏して眠りこけていた。
「あの子達にとっても、盗賊ってのは父親を殺した憎い仇なのよね。お客さんたちは仇を取ってくれたヒーローなの。もちろん、私にとってもそう」
コンタと杏子は黙ってリナの話を聞いていた。そして思う。
直接の被害者がここにいた。あの盗賊団が犯人かどうかは知る術はない。しかし今後こういった悲しい思いをする人が少なくなるのは間違いない。だからみんなは自分達に感謝する。
恐らく数日中には、自分達は盗賊討伐の功労者としてそれなりに注目される存在になってしまうだろう。その視線は好意的なものだけではないかも知れない。そうなった時に敵意を黙らせるだけの名声を得る。杏子の考えも悪くはないか。コンタはそう思った。
「……ラナちゃんとルナちゃん、運びましょうか?」
いつまでもテーブルに突っ伏したまま寝かせておくのも気の毒に思ったコンタが言った。それに正直に言えば部屋に戻り色々と考えたいし杏子とも話し合う必要もある。
「お願いしようかな?」
リナもそろそろ頃合いだと思ったのか了承した。
「分かりました。杏子もいいか?」
「ん」
コンタと杏子がラナとルナをそれぞれ抱き上げ、リナの案内で双子姉妹の寝室へ行きそっとベッドへ寝かしつける。そしてリナと軽く挨拶を交わした後、二人は自室へと戻って来た。
「色々あるな」
「ん。まずは見た目から」
部屋に戻った二人が始めたのは盗賊のアジトからの戦利品の確認作業だ。良いものがあればそのまま使うつもりである。
ハンター登録をしてハンターとして活動する。その為には装備品が必要だ。贅沢を言わなければ新品を買い揃える程度の資金は手に入ったが、この世界をよく知らない二人は無駄遣いをするつもりはない。
「まあ、杏子にゃ必要ねえから、あくまでも偽装の意味合いの武器防具だもんな。見た目で選んで結構じゃね?」
「ん。コンタは実用性重視?」
「ああ。俺のリフレクション・フィールドはその都度展開させなきゃなんねえからな。万が一に備えて急所だけでも守っておきたい」
「それを言ったら、私もディメンジョンアーマーを常時展開するだけの魔力量はない」
「じゃあ真面目に選ぼうぜ」
「ん」
二人は比較的見栄えの良いものを見繕う。胸部を保護する革のブレストアーマーにグローブ、そしてブーツ。剣帯。杏子はショートソード。コンタはロングソードとナイフ。
「これにマントを羽織ればそれなりに見えんだろ。杏子、こいつらに洗浄魔法かけてくれよ? さすがにブーツとかは他人が履いてたものはちょっとな……」
「ん、任せて」
二人は特別潔癖症という訳ではないのだが、『水虫とか伝染したらイヤだなぁ』くらいの感じだ。
こうして翌日以降の装備を決めて寝る準備に入る二人。風呂は一緒が経済的だとか、縞々と水玉のどっちか選べとか、色々とコンタを悩ませるイベントはあったが、何とかコンタも眠りについた。
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