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14.二人への疑惑

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「ねえ、キョーコ。最後のアレ、やらなくても無力化出来てたよね?」

 引き攣り笑いを浮かべながらパーシーが言う。

「乙女を傷つけた者は断罪されるべき」

 答える杏子は少し眠そうだ。

「それにしても凄い魔法ですね。あれだけの人数を苦も無く……しかも連発するだけでなく狙いも正確。キョーコは途轍もない魔法使いだったのですね」

 今度はマーリが称賛するが、やはり杏子は眠そうな顔で答える。

「む。私は大した事ない。コンタが敵を引き付けてくれなければ私はただの役立たず」

(まあ、実際そういう面はあるよな。俺が時間稼いで杏子が殲滅。このパターンが嵌る)

 コンタも実際そう思う。
 日本にいた時の杏子はゲーマーだった。コンタもボッチ気味だったので時間つぶしにゲームをよくやっていた。
 この二人はあまり深く考えなくても前衛後衛の役割を理解していた為、即興でもそれなりのコンビネーションを発揮する。しかし地底世界の人間は、実戦や訓練でそれを養っていかねばならない。
 故に、デイジー達三人の騎士とジェームズ、パーシーの二人のハンターは、コンタと杏子を『常識には疎いが戦闘経験は豊富』という評価をした。
 だがマーリは少し違った。

「コンタとキョーコは家名は無いのですか? 魔法といい着衣といい、ちょっと平民とは思えないのですが」

(しかも、平民でキョーコ程の魔法の達者ならば、少なからず増長しているはず。前衛の価値を認めて正当な評価をしているのは戦術、戦略に関して教育を受けていると思うのだけれど……)

 非常識な魔法行使。レアな収納魔法。見た事もない装備品。上等な仕立ての服。こんな平民がいるものか。マーリはそう思う。仮に貴族であれば態度を改めねば礼を失する事になる。

「あー、家名はあるが別に貴族じゃないんで気にしなくていいです」
「ん。私達の世界では平民でも家名はある。というか平民しかいない」

(私達の世界? 平民しかいない?)

「そうなのですね。安心しました。もしも貴族の方であれば随分と失礼な態度を取ってしまったもので」

 杏子の言葉に引っ掛かりを覚えたマーリだが、表面上は平静を取り繕う。

(まさかですね……)

 この時マーリの脳裏にはある伝説が過ぎった。しかし詮索するにもまだ信頼関係を築けていない今、二人が真実を話してくれる可能性は低いと考え、取り敢えず目先の問題に着手する事にした。
 何はともあれ、盗賊の制圧のやり方で色々な人間が色々な思いをした事は置いておくとしても、二十人全員を殺す事無く捕縛する事に成功した。
 ……ただし盗賊たちの一部機能は死んでしまったかも知れないが。
 盗賊たちが使っていた馬車があるので馬車に盗賊たちを詰め込むと、交代で見張りを立てて、短いながらも夜明けまで仮眠をとる事にした一行。

「ちっくしょぉ……なんで溶けねえんだよこの氷はよぉ……」

 しかし盗賊たちは眠れなかったという。

 翌朝。
 明るくなったところでゴードンとヘンリーが尋問を始めた。盗賊団の規模は如何ほどか。仲間は他にいるのか。余罪は。アジトはどこか。バックに大物は付いているのか、等々。

「騎士団ってのは警察の代わりもやるのか?」
「ケーサツが何かは分からないけど、治安維持は本来街の警備隊の仕事さ。でも騎士団も自領を守るという役割があるから、犯罪者が武装集団だったりする場合は今みたいな仕事もするね!」

 コンタの疑問にパーシーが答えてくれた。コンタの感覚では自衛隊が犯罪者を取り締まっているような不自然さがあったのだが、そんなもんかと納得する事にした。詰まるところ、騎士団も警備隊も、指揮系統を辿っていけば最後には領主に行きつくらしいというのがその理由だ。

「で、その山賊達はどうなるんだ?」
「軽くて終身奴隷、普通はコレだね」

 パーシーが首を掻き斬る仕草をする。

「ちなみに盗賊を捕縛した僕らにも、いくらか報奨金が出ると思うよ? あの貴族のお嬢様がちゃんと正規の手続きを踏んでくれればね」
「それと、盗賊が集めた金目の物は、持ち主が不明なものは直接盗賊を捕縛するか殺した者が貰う事ができるんだ。まあ、仮に奴らにアジトがあって、アジトまで乗り込んでお宝を回収すればの話だけどさ」

 パーシーの話にジェームズが捕捉してくれた。今回は貴族が絡んでいるので色々と面倒がありそうだという印象をコンタは持った。最悪は盗賊絡みで入手できるであろう利益は放棄してもいい、そうも思う。そういった会話をしている所に盗賊たちの聴取が終わったらしいマーリとデイジーがやってきた。

「聴取が終わりました」
「お疲れ様です」
「それで、あの盗賊たちなのですが、やはりアジトがあるようです。留守を守るのは四人、他に仲間はいないようなので十分制圧可能と思われますが、皆さんはどうなさいますか?」

 コンタと杏子にとって更なる収入源は魅力的だったが、それよりも先ずは生活拠点を見つける事の方が重要と思われた。それでも、もしトップハム一行がアジトを目指すなら同行するし、直接ソドーの街に行くならそれに従うだけだ。

「盗賊のお宝は魅力的ですが、私は直接ソドーへ向かおうと思いますが……ジェームズ、パーシー、それでいいかな?」

 トップハムはソドーに直行したいらしいが、一応護衛の二人の意見も聞く。

「僕達は依頼主に従うよ。契約を途中で投げ出しちゃ次の仕事が来なくなるからね!」
「パーシーの言う通りなので僕らはソドーまできっちり護衛しますよ」

 それを聞いてコンタと杏子も頷き合った。

「じゃあ俺達もトップハムさんに同行させてもらいます。なにしろ商談がありますんで」
「そうですか……それは残念です」
『残念です』のところは明らかにコンタと杏子を見ていたマーリだった。

 その後は捕らえた盗賊の扱いについて、マーリ側とトップハム側で話し合いが持たれたが、結局トップハム一行が盗賊を馬車毎連行して街まで行き、警備隊に引き渡す事になった。盗賊捕縛の報酬はトップハム一行の総取りでいいらしい。
 マーリ達はアジトに残っている盗賊を制圧しに行くということだ。アジトにあるお宝を回収すればそれなりに収入もあるのだろう。

「では、道中お気を付けて。まあ、あなた方なら心配は無用でしょうが」
「いえ。お気遣い恐れ入ります。マーリ様方もどうかお気を付け下さい」
「ええ、ありがとう。私たちもソドーの街には数日逗留する予定ですので、またお会いできる事をお祈りしておりますわ」

 マーリとトップハムが挨拶を交わし、マーリたちは森の中へ、トップハムたちは街道をソドーへと向かって進んだ。
 盗賊を乗せた馬車はジェームズとパーシーが、トップハムの馬車にはコンタと杏子が乗り込む。道中、のどかな風景を楽しみながら色々とトップハムに話を聞いた。
 一般的な魔法に対する認識、通常の人間の戦闘力はゴブリンと比べてどうなのか。街で生活する上でどれだけの収入が必要か。その他ルールや注意事項など。

「とりあえずベッドで眠りたい……」
「ほっほっほ、今しばらく我慢して下さい。ほら、見えてきましたよ。ソドーの街です」

 トップハムに言われて目を凝らして見ると、峻嶮な山を背にした城塞都市が見えてきた。

「あそこが俺達の拠点になるかも知れない街か」
「む……あそこにベッドが……くぅ、くぅ」

 寝不足の上に多量の魔力行使、さらに馬車の揺れも手伝って、杏子はコンタの肩に頭をのせて寝息を立て始めた。

「これで膝枕の件は貸し借りなしだぞ」
「……あまい」
「……」

 
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