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弐
58.物欲センサーさん、今回はお休み?
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『ボス部屋』内のゴブリンを掃討するのに、然程時間は掛からなかった。前衛をこなすトーマス、デイジーの剣士組。魔法剣を扱うマーリは遊撃。それを後方から援護するアニーとクララの魔法使い組。
それだけでもゴブリン相手には過剰戦力気味だ。なので積極的に戦闘に参加している訳ではないが、捕虜たちに目を光らせながらもこっそりゴブリンに魔法を放っている杏子。
コンタは右手に片手剣サイズにしているディバインブレイド、左手にトカレフというロマン装備でゴブリンを蹂躙していた。
――パァン!
ボス部屋内に乾いた銃声が鳴り響いた時、戦闘の喧騒は止んだ。
「どうやら、コイツで打ち止めみたいだな」
最後のゴブリンの眉間に風穴を空けコンタがそう呟くと、皆もそれぞれ剣を収め杖を下ろし、身体を弛緩させた。
「雑魚とは言っても数だけは多かったな……さて、宝箱宝箱っと」
ウキウキしながら部屋の奥へと進むトーマスを生温かい目で見ながら、一同も後を追う。そして部屋の最奥部にそれはあった。
「なんか……普通の木箱?」
杏子の言う通り、そこにあったのは粗末な木箱だった。コンタと二人で迷い込んだ遺跡の宝箱と比べると、かなり粗末な印象を受ける。
「いよいよハズレ臭がすごいわね」
「ホント、お兄の物欲センサーは凄いわ」
アニーとクララの二人がトーマスを窘めるような視線で言った。お宝のグレードによって木箱の質も変わってくるのかもしれない。
しかしマーリとデイジーは、期待に瞳を輝かせて言う。
「まあまあ、まだ分からないではありませんか」
「そうだぞ? なにかこう、ワクワクするな! 早く開けようではないか!」
どうやら、遺跡初体験のマーリとデイジーは、宝箱を開くのも初体験らしい。冒険の末にお宝を手に入れる。この気持ちを高揚させるシチュエーションは、女子であっても通じるものがあるのだろう。
「へっへっへ。それじゃあ開けるぜ?」
トーマスが期待に満ちた表情で、ガタガタと木箱の蓋を開く。そして、ガックリと肩を落とした。
「あーあ」
「ほらね、やっぱり」
中を覗き込んだ双子の姉妹も苦笑いだ。続いてマーリとデイジーも木箱の中を覗いてみるが、やはり苦笑を浮かべるばかり。
他のメンバーの様子を見る限り、余程期待外れのものが入っていたのだろうが、それはそれで気になるコンタと杏子も中身を覗きに行った。
中にあったの二振りのナイフ。グリップは木製だが、握りの形にフィットするように波型に加工されている。刃渡りは十五センチほどで、黒光りしている。ぱっと見は刃が黒いサバイバルナイフだ。
他に目を引く点としては、グリップの中央に透明な水晶玉のようなものがはめ込まれていることくらいか。
「まあまあ、黒い刃というのも珍しいですし、握りの部分の加工もなかなか見事なものです。美術品としてならそれなりに価値はあるのでは?」
蓋を開けた瞬間から抜け殻のようになっているトーマスを励ますように、マーリが声をかけた。
その時すでに、コンタと杏子はアナライザーゴグルでナイフを鑑定していたのだが、思わずといった感じで言葉を漏らした。
「おいおい、こりゃあ……」
「ん。これは大当たり」
そんな二人の会話に、他のメンバーが『は?』という表情で視線を向けた。
「これはプログレッシブナ――」
「オイコラ黙れ」
「むぅ」
なにやら不穏な台詞を吐こうとした杏子を制し、コンタはゴブリンが手にしていた粗末な剣を拾ってきた。そしてそれをトーマスに手渡す。
流れで受け取ったトーマスは怪訝な表情だ。
「そのナイフに魔力を流しながら、その剣を切ってみろ」
「……魔力を流しながら切ればいいんだな?」
どんな名剣でも、鉄でできた剣を切るなど簡単にできるものではない。それを、ゴブリンを倒して入手した、粗末な木箱の中にあったナイフでやれというのだ。
半ばやけくそになりながら、トーマスはナイフを手に取り魔力を流す。そして試しに、ゴブリンの剣にそっとナイフの刃を触れさせた。
――スッ
「……ッ!!」
特に力を込めた訳ではない。極端に言えば、ナイフの自重でゴブリンの剣を切断してしまった。恐ろしい切れ味だった。その様子を目の当たりにした皆も、驚愕のあまり目を見開くばかりで言葉が出ないようだ。
「なあ、なんなんだよこのナイフは?」
目の前で起こったことだ。それは事実として受け入れた。しかしこの黒い刃のナイフにどんな秘密があるのか、どうしても知りたい。そんなトーマスの思いは皆も同じだろう。コンタに視線が集中する。
「これはプログレッ――あうっ!?」
性懲りもなく不穏な発言をしようとする杏子の頭にゲンコツを落とし、コンタが説明を引き継いだ。
「そいつは、『ヴィブラートナイフ』っつってな、魔力を流すと刃が滅茶苦茶な速度で振動するんだ」
「?」
超高速で振動する刃が対象物の分子結合を分離させることで切断する――
そんな説明が頭に浮かんだコンタだったが、ここは簡略的に説明することにした。
「まあ、振動することによって切れ味が恐ろしく向上するってことだな。見た通り、物質的な防御は無意味だろう」
鉄の剣すら豆腐を切るように切断する。盾も鎧も無意味なのはその場にいた全員が納得した。。
「な、なあこれ……」
コンタの説明を聞いたトーマスが、恐る恐るといった感じで周囲を見渡し問いかけてきた。誰に対してという訳ではなく、想像を遥かに超えたお宝をどうしたらよいのか戸惑っているから助けてくれ、そんな感じだ。
それに対し、双子の姉妹は揃って杖を持ち上げ、自分達には不要だという。
マーリもマジックセイバーを指差しながら言った。
「私にはコレがありますので」
「私はナイフでの戦闘は苦手でな」
続けてデイジーも苦笑しながら言う。
そしてトーマスはコンタと杏子に視線を移した。
「お前が使えよ。俺達はアーティファクトは間に合ってる」
「ん」
コンタの言葉に同意して杏子が頷くと、トーマスが拳を突き上げ叫んだ。
「大当たり、ゲットだぜ!」
それだけでもゴブリン相手には過剰戦力気味だ。なので積極的に戦闘に参加している訳ではないが、捕虜たちに目を光らせながらもこっそりゴブリンに魔法を放っている杏子。
コンタは右手に片手剣サイズにしているディバインブレイド、左手にトカレフというロマン装備でゴブリンを蹂躙していた。
――パァン!
ボス部屋内に乾いた銃声が鳴り響いた時、戦闘の喧騒は止んだ。
「どうやら、コイツで打ち止めみたいだな」
最後のゴブリンの眉間に風穴を空けコンタがそう呟くと、皆もそれぞれ剣を収め杖を下ろし、身体を弛緩させた。
「雑魚とは言っても数だけは多かったな……さて、宝箱宝箱っと」
ウキウキしながら部屋の奥へと進むトーマスを生温かい目で見ながら、一同も後を追う。そして部屋の最奥部にそれはあった。
「なんか……普通の木箱?」
杏子の言う通り、そこにあったのは粗末な木箱だった。コンタと二人で迷い込んだ遺跡の宝箱と比べると、かなり粗末な印象を受ける。
「いよいよハズレ臭がすごいわね」
「ホント、お兄の物欲センサーは凄いわ」
アニーとクララの二人がトーマスを窘めるような視線で言った。お宝のグレードによって木箱の質も変わってくるのかもしれない。
しかしマーリとデイジーは、期待に瞳を輝かせて言う。
「まあまあ、まだ分からないではありませんか」
「そうだぞ? なにかこう、ワクワクするな! 早く開けようではないか!」
どうやら、遺跡初体験のマーリとデイジーは、宝箱を開くのも初体験らしい。冒険の末にお宝を手に入れる。この気持ちを高揚させるシチュエーションは、女子であっても通じるものがあるのだろう。
「へっへっへ。それじゃあ開けるぜ?」
トーマスが期待に満ちた表情で、ガタガタと木箱の蓋を開く。そして、ガックリと肩を落とした。
「あーあ」
「ほらね、やっぱり」
中を覗き込んだ双子の姉妹も苦笑いだ。続いてマーリとデイジーも木箱の中を覗いてみるが、やはり苦笑を浮かべるばかり。
他のメンバーの様子を見る限り、余程期待外れのものが入っていたのだろうが、それはそれで気になるコンタと杏子も中身を覗きに行った。
中にあったの二振りのナイフ。グリップは木製だが、握りの形にフィットするように波型に加工されている。刃渡りは十五センチほどで、黒光りしている。ぱっと見は刃が黒いサバイバルナイフだ。
他に目を引く点としては、グリップの中央に透明な水晶玉のようなものがはめ込まれていることくらいか。
「まあまあ、黒い刃というのも珍しいですし、握りの部分の加工もなかなか見事なものです。美術品としてならそれなりに価値はあるのでは?」
蓋を開けた瞬間から抜け殻のようになっているトーマスを励ますように、マーリが声をかけた。
その時すでに、コンタと杏子はアナライザーゴグルでナイフを鑑定していたのだが、思わずといった感じで言葉を漏らした。
「おいおい、こりゃあ……」
「ん。これは大当たり」
そんな二人の会話に、他のメンバーが『は?』という表情で視線を向けた。
「これはプログレッシブナ――」
「オイコラ黙れ」
「むぅ」
なにやら不穏な台詞を吐こうとした杏子を制し、コンタはゴブリンが手にしていた粗末な剣を拾ってきた。そしてそれをトーマスに手渡す。
流れで受け取ったトーマスは怪訝な表情だ。
「そのナイフに魔力を流しながら、その剣を切ってみろ」
「……魔力を流しながら切ればいいんだな?」
どんな名剣でも、鉄でできた剣を切るなど簡単にできるものではない。それを、ゴブリンを倒して入手した、粗末な木箱の中にあったナイフでやれというのだ。
半ばやけくそになりながら、トーマスはナイフを手に取り魔力を流す。そして試しに、ゴブリンの剣にそっとナイフの刃を触れさせた。
――スッ
「……ッ!!」
特に力を込めた訳ではない。極端に言えば、ナイフの自重でゴブリンの剣を切断してしまった。恐ろしい切れ味だった。その様子を目の当たりにした皆も、驚愕のあまり目を見開くばかりで言葉が出ないようだ。
「なあ、なんなんだよこのナイフは?」
目の前で起こったことだ。それは事実として受け入れた。しかしこの黒い刃のナイフにどんな秘密があるのか、どうしても知りたい。そんなトーマスの思いは皆も同じだろう。コンタに視線が集中する。
「これはプログレッ――あうっ!?」
性懲りもなく不穏な発言をしようとする杏子の頭にゲンコツを落とし、コンタが説明を引き継いだ。
「そいつは、『ヴィブラートナイフ』っつってな、魔力を流すと刃が滅茶苦茶な速度で振動するんだ」
「?」
超高速で振動する刃が対象物の分子結合を分離させることで切断する――
そんな説明が頭に浮かんだコンタだったが、ここは簡略的に説明することにした。
「まあ、振動することによって切れ味が恐ろしく向上するってことだな。見た通り、物質的な防御は無意味だろう」
鉄の剣すら豆腐を切るように切断する。盾も鎧も無意味なのはその場にいた全員が納得した。。
「な、なあこれ……」
コンタの説明を聞いたトーマスが、恐る恐るといった感じで周囲を見渡し問いかけてきた。誰に対してという訳ではなく、想像を遥かに超えたお宝をどうしたらよいのか戸惑っているから助けてくれ、そんな感じだ。
それに対し、双子の姉妹は揃って杖を持ち上げ、自分達には不要だという。
マーリもマジックセイバーを指差しながら言った。
「私にはコレがありますので」
「私はナイフでの戦闘は苦手でな」
続けてデイジーも苦笑しながら言う。
そしてトーマスはコンタと杏子に視線を移した。
「お前が使えよ。俺達はアーティファクトは間に合ってる」
「ん」
コンタの言葉に同意して杏子が頷くと、トーマスが拳を突き上げ叫んだ。
「大当たり、ゲットだぜ!」
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