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47.躾は厳しく!

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 翌朝、コンタ達はレベッカのもとへ赴き、遺跡探索の依頼を受ける旨を伝えた。しかし、そこで問題となってくるのが報酬の事だ。果たしてレベッカはいかなる報酬を提示してくるのか。
 この場合、コンタ達が欲しているいるのは富や名誉ではない。レベッカの誠意だ。

「なあ杏子。お前の便利魔法なら、あの侯爵サマの毒による中毒症状って治せるんじゃねえのか?」
「ん。問題ない」

 コンタは、敢えてレベッカの前でそれを口にし、杏子も事もなげに答えた。

「そっ、それならば!」

 今すぐ魔法で治して欲しい。そう言いかけるレベッカを、コンタが制する。

「いいや。自分の命のために、ハンターに命を懸けろという依頼を出したからには、自らの命を俺達に預けてもらう」
「あらあら、コンタは意地悪ですね」

 そんなコンタの言葉に、マーリがクスクスと笑う。杏子も僅かに口端を上げ、笑みを浮かべているようだ。コンタの言葉が彼の本心ではない事は分かっているらしい。

「……分かりました。私の命、あなた方に預けます。どうか、宜しくお願い致します」

 レベッカが、覚悟を決めた表情でそう言った。コンタの言い分も分からないではないという事だろう。実際に、自分の依頼を受けた幾人ものハンターが、戻ってこないのは事実なのだから。

「それじゃあ、俺達は行くか」

 軽い調子でそう口にし、出て行こうとするコンタと、それに従う杏子、マーリ、デイジー。

「あ、あの! 報酬の件は!」

 肝心の、報酬をどうするかの話がまだ終わっておらず、慌ててレベッカが引き止める。

「それは俺達が戻るまで、お互いに考えておこう。それに、急いだほうがいいんだろう?」
「そ、それは……」

 それっきり、言葉を発する事がなかったレベッカに、一言挨拶を告げ、コンタ達は城を出た。城門の外ではトーマス達が待っていた。

「よお! 早かったな! で、どうなったよ?」

 そんなトーマス達に、これから遺跡探索に向かう事を告げ、街で補給品を整えて、遺跡へ向けて出発した。
 遺跡までは徒歩で一日、厳密に言えば、朝街を出れば夕刻あたりに遺跡へ到着する。遺跡の付近には、ハンター向けに商売をしようという連中が集まってできた集落があり、空きがあれば宿に宿泊する事も可能だ。
 殆どの場合は、宿で疲れを癒すか集落の中で野営して、翌朝から遺跡の探索に入るのがセオリーだ。
 そんな中、マーリがコンタへ話しかけた。

「……それで、本当のところはどうなんですの?」
「……本当の事、とは?」

 そんなマーリの質問に、デイジーやトーマス達兄妹も耳を傾けた。杏子だけは、いつもと変わらぬ表情の乏しい顔で歩いている。道端で引っこ抜いた雑草を、ぺしぺしと振り回しながら。

「レベッカ様の、病を治さなかった事ですわ」

 無表情で歩いていた杏子が、一瞬だけコンタを見た。

「らしくないではありませんか? 私の知るコンタとキョーコという人物ならば、あの場でレベッカ様を治癒する。そう思っていたのですが?」

 言葉の意味だけを聞けば、コンタと杏子を責めているかのようなマーリの発言。しかし、その表情はどこか悪戯っぽい笑みを浮かべている。現にマーリはレベッカの前で、敢えてコンタに話を合わせているのだから、コンタに考えがある事は察しているのだ。

「……あの場で治癒してはい、さようなら。それでも良かったんだけどな。でもそれだと、また毒を盛られてまた呼び出されちまうだろ」

 コンタが苦笑しながら言う。

「おそらく黒幕は、俺達が薬草採取に行くと聞いて妨害に出るだろう。そこをとっちめて、ついでに黒幕もとっちめて、そこでようやく事件解決って訳だ。レベッカお嬢サマにはもう少しつらい思いをしてもらう事になるが」
「だいじょぶ。こっそり解毒しておいた。完治はさせてないけど」

 この杏子の発言には、コンタも含めて全員が驚いていた。

「身体の辛さは幾分緩和されているはず。でも完治させるのは薬草の仕事」

 相変わらずの無表情な杏子の言葉に、トーマスが腹を抱えて笑った。

「そうだよなぁ! 依頼は薬草採取であって、侯爵サマの病気を治す事じゃねえもんな!」
「そうよね! あたし達も危ない橋を渡るんだから、レベッカ様にも頑張ってもらわないとね」
「そうそう、その通りよ!」

 そしてアニーとクララの姉妹も同意する。

「コンタは、レベッカ様の今後の安全も考えて、敢えてあのような態度をとったのですね? ウフフフ」
「ん。コンタは優しさでできている」

 マーリと杏子が浴びせる生温かい笑みに、コンタはむず痒いような顔をしていた。
 
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