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弐
44.黒幕はマーリの知人?
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コンタ達一行は一晩の野営を挟み、翌日の昼過ぎに街に到着した。立派な防壁で街を囲んでおり、もはや街というよりは城塞都市と言った方がしっくりくる。
「ここはガーライル市。侯爵家が治めている街で、近隣の町や村を合わせると五万人近くの人口を抱えています。国内屈指の大都市ですね」
防壁を横目に見ながら進む馬車の中で、マーリが説明している。もちろん、地上人であるコンタと杏子に対してだ。
一方、コンタと杏子は説明を聞きながら首を傾げていた。その違和感とは人口に関してである。
日本での感覚で言えば、五万人規模の都市などいくらでもある。それも、賑わっているとは言い難い。それがこの地底世界では屈指の大都市とは。
「この国って人口はどれくらい?」
不審に思ったか、或いは自分が聞き間違えたのか。杏子が確認のためにマーリに問いかけた。
「このアヴァロン王国は総人口が約二百万人、そのうちの約二割が首都であるランドールに集中しています」
総人口二百万。そして首都が四十万。日本で言えば丁度一つの県と同程度の規模だ。なるほど、その中で五万人という人口を抱えていれば、地方都市として屈指の規模というのも頷ける。
マーリの答えに納得した杏子だったが、コンタの方はまだしっくりこない表情をしていた。その視線は高さ五メートルはありそうな、堅固な防壁を向いていた。
「たかだか五万人の人口で、これだけの防壁を造ったのか?」
周辺の村落を含めての五万人。このガーライル市単体ではもっと少ないだろうが、それでも数万人が暮らす都市を丸々包囲する防壁はかなりの規模になっている。一体どれだけの労力が必要になるのか想像もつかない。ソドーにも防壁はあったが、天然の地形を利用していたり、防壁自体ももっと簡素なものだった。
「必要に迫られれば、人間は思わぬ力を発揮するものなのだろうさ」
コンタの疑問に答える形でデイジーが口を開く。
「今回の目的の一つである遺跡の探索。昔、その遺跡から魔物が溢れ出た事があってね。このガーライルや近隣の街や村も大きな被害を被ったのさ。そこで、魔物の脅威から身を守るために、このような強固な防壁が造られたんだ」
デイジーの説明を聞いて、コンタは納得した。
「なるほどな。人間、追い詰められれば想定外の力が発揮されるって訳か」
「火事場のクソ力」
「それはキン肉〇ンの話だバカヤロウ。正しいのは火事場の馬鹿力だ」
「そ、そんな……ガーン」
杏子のありがちな間違いに遠慮なく突っ込むコンタ。そしていつもの光景にほっこりしているマーリとデイジー。
そんなコンタと杏子の夫婦漫才に顔を引き攣らせているグラバー。
不思議と和やかな雰囲気の中、馬車は進んでガーライルの市街地へと入る。しかし周囲のざわめきは馬車の中にも聞こえる程大きかった。
二台の馬車。そして二十人を超える身体の中心を凍らせた男達。
「ま、注目するなっていう方が無理だわな。おーい、御者さん、このままグラバーのご主人様とやらのトコまで行ってくれ」
コンタが馬車の中から声を張り上げると、御者はコクリと頷いた。そんな時、グラバーが弱々しい声を出した。
「今更信じて貰えるとも思えないが……今回の件は私の独断だ。我が主はお前達に純粋に興味があるだけで、決して悪意はない。私はどうなっても構わん。しかし、主の事だけはどうか……」
彗星のように現れたルーキーハンター。素性は不明、ルーキーとしては破格の実力。ソドーの領主の件は表沙汰にはなっていないが、高位の貴族ならば知っていてもおかしくはない。そんなルーキーがどのような人物なのか、興味本位で会いたくなるのも分からない話ではない。
しかし。
「それは会ってから私達が判断する事です。ですがまぁ……大丈夫だと思いますよ」
マーリがコンタと杏子に視線を向けてそう話す。
「なるほど。行き先はマローン侯爵領と聞いていたが、こやつの主人がこのガーライルの者であれば、そう心配する事はないか」
マーリの言葉を聞いたデイジーも、何やら納得顔だ。
どうやら、グラバーの主人の事をマーリもデイジーも知っているらしい。いや、貴族の子女ともなれば、様々な社交の場へ顔を出しているだろうから、面識のある貴族も多いのだろう。そして、このガーライルにいるグラバーの主人は、マーリもデイジーも警戒を解くほどには親交の深い人物という事になる。
「ま、それでもそれを判断するのは俺達だよ」
「ん。そゆこと」
例えマーリ達と旧知の仲だとしても、コンタと杏子にとっては興味本位で自分達を呼び出すような人物だ。正直言って印象は悪い。だから、自分達の目で見極める。それが自分達を害する者であれば、それ相応の対応をとるぞ。コンタと杏子はそう意思表示をした。
「ええ。それでいいと思いますよ。どのような展開になっても私達はコンタとキョーコの味方ですし」
マーリはそう言ってにっこりと微笑んだ。
そして馬車はガーライル市の中心部、水堀と高い防壁で囲まれた屋敷へと入って行った。
「ところで、マローン侯爵領にはいかないの?」
「……あれは、嘘です」
杏子の問いかけに、グラバーがそっと答えた。
「ここはガーライル市。侯爵家が治めている街で、近隣の町や村を合わせると五万人近くの人口を抱えています。国内屈指の大都市ですね」
防壁を横目に見ながら進む馬車の中で、マーリが説明している。もちろん、地上人であるコンタと杏子に対してだ。
一方、コンタと杏子は説明を聞きながら首を傾げていた。その違和感とは人口に関してである。
日本での感覚で言えば、五万人規模の都市などいくらでもある。それも、賑わっているとは言い難い。それがこの地底世界では屈指の大都市とは。
「この国って人口はどれくらい?」
不審に思ったか、或いは自分が聞き間違えたのか。杏子が確認のためにマーリに問いかけた。
「このアヴァロン王国は総人口が約二百万人、そのうちの約二割が首都であるランドールに集中しています」
総人口二百万。そして首都が四十万。日本で言えば丁度一つの県と同程度の規模だ。なるほど、その中で五万人という人口を抱えていれば、地方都市として屈指の規模というのも頷ける。
マーリの答えに納得した杏子だったが、コンタの方はまだしっくりこない表情をしていた。その視線は高さ五メートルはありそうな、堅固な防壁を向いていた。
「たかだか五万人の人口で、これだけの防壁を造ったのか?」
周辺の村落を含めての五万人。このガーライル市単体ではもっと少ないだろうが、それでも数万人が暮らす都市を丸々包囲する防壁はかなりの規模になっている。一体どれだけの労力が必要になるのか想像もつかない。ソドーにも防壁はあったが、天然の地形を利用していたり、防壁自体ももっと簡素なものだった。
「必要に迫られれば、人間は思わぬ力を発揮するものなのだろうさ」
コンタの疑問に答える形でデイジーが口を開く。
「今回の目的の一つである遺跡の探索。昔、その遺跡から魔物が溢れ出た事があってね。このガーライルや近隣の街や村も大きな被害を被ったのさ。そこで、魔物の脅威から身を守るために、このような強固な防壁が造られたんだ」
デイジーの説明を聞いて、コンタは納得した。
「なるほどな。人間、追い詰められれば想定外の力が発揮されるって訳か」
「火事場のクソ力」
「それはキン肉〇ンの話だバカヤロウ。正しいのは火事場の馬鹿力だ」
「そ、そんな……ガーン」
杏子のありがちな間違いに遠慮なく突っ込むコンタ。そしていつもの光景にほっこりしているマーリとデイジー。
そんなコンタと杏子の夫婦漫才に顔を引き攣らせているグラバー。
不思議と和やかな雰囲気の中、馬車は進んでガーライルの市街地へと入る。しかし周囲のざわめきは馬車の中にも聞こえる程大きかった。
二台の馬車。そして二十人を超える身体の中心を凍らせた男達。
「ま、注目するなっていう方が無理だわな。おーい、御者さん、このままグラバーのご主人様とやらのトコまで行ってくれ」
コンタが馬車の中から声を張り上げると、御者はコクリと頷いた。そんな時、グラバーが弱々しい声を出した。
「今更信じて貰えるとも思えないが……今回の件は私の独断だ。我が主はお前達に純粋に興味があるだけで、決して悪意はない。私はどうなっても構わん。しかし、主の事だけはどうか……」
彗星のように現れたルーキーハンター。素性は不明、ルーキーとしては破格の実力。ソドーの領主の件は表沙汰にはなっていないが、高位の貴族ならば知っていてもおかしくはない。そんなルーキーがどのような人物なのか、興味本位で会いたくなるのも分からない話ではない。
しかし。
「それは会ってから私達が判断する事です。ですがまぁ……大丈夫だと思いますよ」
マーリがコンタと杏子に視線を向けてそう話す。
「なるほど。行き先はマローン侯爵領と聞いていたが、こやつの主人がこのガーライルの者であれば、そう心配する事はないか」
マーリの言葉を聞いたデイジーも、何やら納得顔だ。
どうやら、グラバーの主人の事をマーリもデイジーも知っているらしい。いや、貴族の子女ともなれば、様々な社交の場へ顔を出しているだろうから、面識のある貴族も多いのだろう。そして、このガーライルにいるグラバーの主人は、マーリもデイジーも警戒を解くほどには親交の深い人物という事になる。
「ま、それでもそれを判断するのは俺達だよ」
「ん。そゆこと」
例えマーリ達と旧知の仲だとしても、コンタと杏子にとっては興味本位で自分達を呼び出すような人物だ。正直言って印象は悪い。だから、自分達の目で見極める。それが自分達を害する者であれば、それ相応の対応をとるぞ。コンタと杏子はそう意思表示をした。
「ええ。それでいいと思いますよ。どのような展開になっても私達はコンタとキョーコの味方ですし」
マーリはそう言ってにっこりと微笑んだ。
そして馬車はガーライル市の中心部、水堀と高い防壁で囲まれた屋敷へと入って行った。
「ところで、マローン侯爵領にはいかないの?」
「……あれは、嘘です」
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