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弐
40.やられる前にやり返す算段
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「わ、私は、さる高貴なお方に仕えている」
グラバーはそう切り出した。
「ま、あんたが商人じゃねえことなんて分かってたよ。で、なんでこんな面倒な真似しやがった?」
コンタは元々、陰でコソコソと策を弄するタイプが大嫌いだった。
日本にいた頃も色々とやらかした男だが、正面切って喧嘩を売ってくる相手はとことん殴る。だがその時はそれで幕引きだ。
だが、自分から出て来ないヤツ、陰湿な手段をとってくるヤツ。こういう手合いを相手にする時は執拗に殴る。相手の心を折るまで殴る。心が折れるまでに、相手は骨も前歯も折れていたりするが。
今回のグラバーの主人とやらは果たしてどちらだろうか? こんな面倒な事をするのは主人とやらの意向かグラバーの独断か。
「……主人が、ソドーで話題に上がっている新人のハンター二人に興味をお持ちになったのだ。領主を失脚にまで追い込んだ二人のハンターをな。そんな二人に会いたいと仰せになられたのだ」
「……続けろ」
コンタのトカレフの銃口はグラバーに向いたままだ。弛んだ頬肉に汗を滴らせながらグラバーは頷き、続きを話し始める。
「この先に待ち伏せているのは私が雇ったゴロツキ共だ。主人の意向ではない事だけはハッキリと言っておく」
マーリは話を聞いて、はぁ、とため息をついた。そして呆れたように口を開いた。
「コンタとキョーコを見極めるためにこんな事を?」
グラバーは一つ頷き、経緯を話し始めた。
グラバー曰く、コンタとキョーコとの面会を望んだ彼の主はとある高位貴族の当主なのだが、身体が弱くて外出もままならない。よって彼の主の元まで二人連れて行くのがグラバーの任務となる。
しかし、グラバーの調査によれば、領主である貴族に容赦なく攻撃を加えるなどの凶行を躊躇せず行い、しかも盗賊団を壊滅させる程の武力を持っている。
街での評判は悪くはない。しかしそれは主の安全を保障するものではなく、危険人物であるという印象は拭い去れなかった。それで、護衛の依頼を出していた商人に金を握らせ、入れ替わったという訳だ。
「それで、街道で賊に襲われたことにして抹殺しようとした?」
杏子がパシュ、パシュ、と氷弾を放ちながら絶対零度の声色でグラバーを威圧している。
普段から抑揚のない喋り方をする杏子が、さらに声のトーンが下がるとは、かなりご機嫌斜めのようである。彼女が氷弾を放つたびに、コンタとトーマスは『きゅっ』ってなっている。
「ち、ちがう! 街の噂が本当かどうか確かめようとしたのだ……」
――ターン!!
また一発、トカレフの銃口が火を噴いた。
「勝手なことばっかり抜かしてんじゃねえぞ? 襲われたら当然反撃する。てめえが雇ったゴロツキどもは無事じゃいられねえだろ。それに、巻き込まれたマーリやトーマス達はどうするつもりだったんだよ? あ?」
コンタは激怒した。事実、トカレフの銃弾はグラバーの頬をかすめて血が滲みだしていた。
「ご、ゴロツキに負けるようであれば、『噂だけが先行した大した事のないヤツ』で済む。巻き込まれた者達には気の毒だが」
「俺達がゴロツキを全滅させたらどうするつもりだったんだよ?」
「そ、その時は無事に依頼完了を報酬を手渡して……」
そこまで聞いた時点で、コンタはもうどうでもよくなっていた。杏子もそう考えていた。このままグラバーも馬車も放りだして、ソドーの街へ帰りたい。しかし、依頼を投げ出してはトーマス達に迷惑が掛かってしまう。どうしたものかと頭を悩ますコンタだったのだが。
「コンタ。この男を全面に出して、このまま進みましょう」
しかし、意外なところから答えが導き出された。マーリである。
「ゴロツキ達がグラバーを見て引き下がるならそのまま進めばよし、攻めてくるのであれば迎え撃ちましょう。そして、この男の主人というのは見当がつきました。会ってみようではありませんか。この男を引き連れて」
マーリは悪い笑みを浮かべていた。
「な!?」
マーリに言葉にグラバーは目を見開く。
(なるほど。主人とやらの思し召しとは言え、グラバーは余程俺達を会わせたくないらしい。それならコイツの目の前で会ってやるのもいい意趣返しになるか)
そうコンタは考え直した。
ここまでの事で、グラバーは自分達の事を危険人物と判断した。よって、命令とは言え主に会わせるのはどうにか阻止したい。
別に最初から「主の願いだ」と言ってくれればいいだけの話だった。その一言さえあれば、コンタ、或いは杏子の方からお断りした可能性が高い。
「トーマス達もそれでいいか?」
コンタは、蚊帳の外になりかけていたトーマス達にも確認をとった。
「俺達は、その高貴なお方とやらには興味もないし会うつもりもねえけどさ、報酬だけはきっちり頂かなきゃなぁ」
報酬はきっちり頂く。ゴロツキ共は向こうの出方次第。グラバーにはトカレフを突き付けて、主人とやらのところまで同行してもらう。そして、主人とやらにグラバーの愚行を全て明らかにしたうえで、糾弾してやろう。
コンタ達の腹は決まった。
グラバーはそう切り出した。
「ま、あんたが商人じゃねえことなんて分かってたよ。で、なんでこんな面倒な真似しやがった?」
コンタは元々、陰でコソコソと策を弄するタイプが大嫌いだった。
日本にいた頃も色々とやらかした男だが、正面切って喧嘩を売ってくる相手はとことん殴る。だがその時はそれで幕引きだ。
だが、自分から出て来ないヤツ、陰湿な手段をとってくるヤツ。こういう手合いを相手にする時は執拗に殴る。相手の心を折るまで殴る。心が折れるまでに、相手は骨も前歯も折れていたりするが。
今回のグラバーの主人とやらは果たしてどちらだろうか? こんな面倒な事をするのは主人とやらの意向かグラバーの独断か。
「……主人が、ソドーで話題に上がっている新人のハンター二人に興味をお持ちになったのだ。領主を失脚にまで追い込んだ二人のハンターをな。そんな二人に会いたいと仰せになられたのだ」
「……続けろ」
コンタのトカレフの銃口はグラバーに向いたままだ。弛んだ頬肉に汗を滴らせながらグラバーは頷き、続きを話し始める。
「この先に待ち伏せているのは私が雇ったゴロツキ共だ。主人の意向ではない事だけはハッキリと言っておく」
マーリは話を聞いて、はぁ、とため息をついた。そして呆れたように口を開いた。
「コンタとキョーコを見極めるためにこんな事を?」
グラバーは一つ頷き、経緯を話し始めた。
グラバー曰く、コンタとキョーコとの面会を望んだ彼の主はとある高位貴族の当主なのだが、身体が弱くて外出もままならない。よって彼の主の元まで二人連れて行くのがグラバーの任務となる。
しかし、グラバーの調査によれば、領主である貴族に容赦なく攻撃を加えるなどの凶行を躊躇せず行い、しかも盗賊団を壊滅させる程の武力を持っている。
街での評判は悪くはない。しかしそれは主の安全を保障するものではなく、危険人物であるという印象は拭い去れなかった。それで、護衛の依頼を出していた商人に金を握らせ、入れ替わったという訳だ。
「それで、街道で賊に襲われたことにして抹殺しようとした?」
杏子がパシュ、パシュ、と氷弾を放ちながら絶対零度の声色でグラバーを威圧している。
普段から抑揚のない喋り方をする杏子が、さらに声のトーンが下がるとは、かなりご機嫌斜めのようである。彼女が氷弾を放つたびに、コンタとトーマスは『きゅっ』ってなっている。
「ち、ちがう! 街の噂が本当かどうか確かめようとしたのだ……」
――ターン!!
また一発、トカレフの銃口が火を噴いた。
「勝手なことばっかり抜かしてんじゃねえぞ? 襲われたら当然反撃する。てめえが雇ったゴロツキどもは無事じゃいられねえだろ。それに、巻き込まれたマーリやトーマス達はどうするつもりだったんだよ? あ?」
コンタは激怒した。事実、トカレフの銃弾はグラバーの頬をかすめて血が滲みだしていた。
「ご、ゴロツキに負けるようであれば、『噂だけが先行した大した事のないヤツ』で済む。巻き込まれた者達には気の毒だが」
「俺達がゴロツキを全滅させたらどうするつもりだったんだよ?」
「そ、その時は無事に依頼完了を報酬を手渡して……」
そこまで聞いた時点で、コンタはもうどうでもよくなっていた。杏子もそう考えていた。このままグラバーも馬車も放りだして、ソドーの街へ帰りたい。しかし、依頼を投げ出してはトーマス達に迷惑が掛かってしまう。どうしたものかと頭を悩ますコンタだったのだが。
「コンタ。この男を全面に出して、このまま進みましょう」
しかし、意外なところから答えが導き出された。マーリである。
「ゴロツキ達がグラバーを見て引き下がるならそのまま進めばよし、攻めてくるのであれば迎え撃ちましょう。そして、この男の主人というのは見当がつきました。会ってみようではありませんか。この男を引き連れて」
マーリは悪い笑みを浮かべていた。
「な!?」
マーリに言葉にグラバーは目を見開く。
(なるほど。主人とやらの思し召しとは言え、グラバーは余程俺達を会わせたくないらしい。それならコイツの目の前で会ってやるのもいい意趣返しになるか)
そうコンタは考え直した。
ここまでの事で、グラバーは自分達の事を危険人物と判断した。よって、命令とは言え主に会わせるのはどうにか阻止したい。
別に最初から「主の願いだ」と言ってくれればいいだけの話だった。その一言さえあれば、コンタ、或いは杏子の方からお断りした可能性が高い。
「トーマス達もそれでいいか?」
コンタは、蚊帳の外になりかけていたトーマス達にも確認をとった。
「俺達は、その高貴なお方とやらには興味もないし会うつもりもねえけどさ、報酬だけはきっちり頂かなきゃなぁ」
報酬はきっちり頂く。ゴロツキ共は向こうの出方次第。グラバーにはトカレフを突き付けて、主人とやらのところまで同行してもらう。そして、主人とやらにグラバーの愚行を全て明らかにしたうえで、糾弾してやろう。
コンタ達の腹は決まった。
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