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39.考えただけでも敵認定されちゃうよ

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 未だ覚悟が決まらぬグラバーの気持ちとは裏腹に、馬車は粛々と進んで行く。

「さて、もうそろそろ連中が動き出してもいい頃合いだ。こっちも準備しとくか」

 コンタの言葉に一同が頷くが、グラバーだけが顔色が悪い。そんなグラバーを余所に、デイジーは剣の柄に手をかけ、マーリはマジックセイバーを腰のホルダーから抜く。杏子はMDDマルチパーパス・ダークデバイスを右手の人差し指に嵌め込み、コンタはトカレフを右手に持った。
 
(女騎士は長剣、馬車の中での取り回しは不利、マーリ嬢のは杖でしょうか? いずれにしても魔法発動媒体であれば魔法を放つまでは多少の時間はかかるはず。問題はキョーコとコンタですね。あの二人が持つものは魔導武器でしょうか……)

 グラバーは、コンタ達の得物を見て素早く思考を巡らせた。

(どうにも嫌な予感がしますね。この先に配置している伏兵と私の関係がバレでもすれば……いや、ここはマーリ嬢を人質に取って、強引に我が主に引き合わせた方が……)

 狭い馬車の中であれば、自分の技量ならばそれくらいは造作もない。グラバーがそう考えた瞬間だった。

 ――ターン!!

 トカレフの銃口から放たれた弾丸が、グラバーの足元の床に穴を開けた。

「動くな。動いたら殺す」

 ――ターン!!

 コンタはグラバーの足元にもう一発威嚇射撃をした。
 突然の発砲に反応出来ず、呆然としているマーリとデイジーだったが、コンタの二発目の威嚇射撃によりグラバーを敵認定したのか、それぞれの武器をグラバーに向けた。

「な、何故?」

 グラバーは惚けようとしているのだろう。コンタに抗議の視線を向けた。

「何故、だぁ? あんた、俺達のうちの誰かに敵対行動を取ろうとしただろ? 急に敵性反応に変わったからな」

 アナライザー・ゴグルの反応を見ていたコンタと杏子は、グラバーが敵性反応になった事に気付いたが、反応できたのはコンタだけで、杏子は動けなかった。

「さすがコンタ。急転直下いらっしゃった恋心。惚れ直した」

 分かるような分からないような杏子の表現だが、明らかに、自分にはできなかった咄嗟の行動を称賛していると思われる。

「惚れ直すのは後にしてくれ。杏子、まずはコイツを拘束だ。デイジー、悪いが御者に馬車を止めるように言ってくれるか?」

 手早く指示を飛ばすコンタに対し、自分だけに指示がないマーリが悲しそうにコンタを見ている。

「マーリは馬車が止まったら、トーマス達に事情を説明してから集合させてくれ」
「はい!」

 マーリがコンタの指示を受けて嬉しそうにしているのを尻目に、杏子がMDDマルチパーパス・ダークデバイスを装着した指をグラバーに向けてスペルを唱える。

四肢拘束バインド
「ぐッ!?」

 すると、グラバーは見えない何かに拘束されたように身体が動かなくなったようで、自由の効かない身体に表情を歪めた。
 それを見たコンタは感心したようで、杏子の頭をポンポンと叩きながら言った。

「いや、お前のそれって、ホントに便利だな。つーか、お前のイメージ力がすげえのか。大したもんだよ」

 にっこりと、惚れ惚れするような笑顔でそういうコンタに、杏子は頬を染めながら答えた。

「コンタの為なら、私は今すぐこの男の〇〇〇を役立たずにする事だってできる」
「つべたいっ!?」

 そう言って、くねくねしながらグラバーの股間に向けて氷結魔法を叩き込む杏子。イーオンバレーと繋がっていた盗賊達を、阿鼻叫喚の地獄へと叩き込んだ悪魔の魔法だ。
 グラバーとてその情報は知っているのだろう。顔色が青を通り越して白くしている。

「あ? どうした? 何か言いたい事でもあるのか?」

 口をパクパクさせているグラバーに、コンタが問いかけた。

「早く拘束を解いて、この氷を溶かしなさい! さもないと――」

 ――ターン!!

「さもないと、なんだ? あんた、この状態で何ができるってんだ?」

 グラバーの言葉を遮り発砲し、さらに恫喝するコンタ。丁度そのタイミングでトーマス達が馬車に乗り込んできた。

「おーおー、コンタ、容赦ねえな! で、このおっさん、敵なんだって? どうするよ?」

 『面白くなってきやがったぜ』とでも言いたげなトーマスの顔に苦笑しながらコンタが言った。

「この先で待ち伏せしてる奴ら、全員縛り上げて街に戻るか。遺跡の事は残念だけど、こんな奴らに狙われた状態で遺跡に入るのもどうかと思うんだよな」
「そうですね。ハンター協会と兄さまにも報告した方が良いでしょう。何しろ、伯爵家令嬢に危害を加えようとしたのですからね」

 コンタの言葉を受けて、マーリも不敵な笑みを浮かべてグラバーを見下ろした。

「ふ、ふふ。貴様ら、このような事をして、ただでは済まんぞ? 伯爵家もどうなるか――」

 ――ターン!!

「そいつは困るな。ならここで殺して埋めちまうか」
「コンタ、それはホントの外道の台詞」

(どうやら黒幕は伯爵以上の家格の貴族とか、とにかく大物らしいな。面倒な事だ)

 コンタは杏子の言葉を聞き流しながら、どう対処するか、頭を悩ませるのだった。
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