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3章 歌音(カノン)
3-0 プロローグ
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今日もノンの店は賑わっていた。昼はランチメニューをメインに、夜は酒と肴、そして美味い飯。上品な料理も出すが、庶民的なメニューの方が充実している。
元より女将のノンの美貌と人柄、そして味で人気があったのだが、最近では看板娘が増えたことで以前にも増して客が増えている。そう、ナナシとリンネの二人だ。
正統派美少女のナナシと、ボーイッュで健康的な可愛らしさを持つリンネ。この二人がホール係として、時には厨房を手伝う。それを目当てに通いつめる常連客もいる。
そうなると、当然不届きな客も増えてくる訳で。
雑談を交わしながらの食事を楽しんでいる客で込み合っている店内に、悲鳴が響き渡る。
「いやっ! ちょっとお客さん! やめてください!」
「へっへっへ、いいじゃねえかよ。今晩どうだい?」
「お断りです! ウチはそういうお店じゃありません!」
ちょうどいい具合に酒が入った客が、ナナの尻に手を伸ばす。それを拒絶するも尚、下品な誘いをかけてくる。こういった事が多くなってきた。
店の女の子と客との小競り合いがこの程度ならば、女将のノンも苦笑い程度で済ましていた。しかし、それでは済まない迷惑な客もいる。
「なんだとこのアマァ!」
毅然とした態度で断るナナに、客が激高して立ち上がる。流石にこの状態になると、店内は静まり返り、ノンも黙って見ている訳にはいかない。
「あの、お客さん? 他のお客の迷惑になるんでねえ、今日はお引き取りください。お代はいりませんから」
こういった客をうまく捌くのも接客のテクニックの一つだ。しかし、ナナもリンネもまだ若い。感情に素直に反応してしまう。
「金の話じゃねえよ! なんなら女将! あんたが代わりに相手してくれるか? あぁ!?」
店内の客の冷めた視線が集中するが、男は気付いた様子もなく、下卑た笑みを浮かべている。
「あいつ、ヨソモンか新顔だな」
「そうだな。じゃなきゃ、この店であんな事できる訳がねえよ」
そんな声が、あちこちの座席から聞こえてくる。そんな時、店の奥から間延びした声と共に一人の女が現れた。
「なんか大きな声が聞こえたんだけどぉ~、あたしの出番かしらぁ~?」
「んぁ? なんだ。アンタもなかなかいい乳してるじゃねえか。あんたでもいいんだぜ?」
男がその台詞を吐いた瞬間、周囲の客たちの視線が『冷たい』から『憐れみ』に変わり、そして自分の食事を手に持ちながら店の片隅へと避難を開始した。
その間、女は不敵な笑みを浮かべながら右腕をぐるぐると回していた。同時に彼女の豊かな胸も揺れて揺られて揺れまくる。
男の視線は胸部に釘付けで、周囲の客の異変など気付きようもない。
「覚悟はいいかしらぁ~?」
「あ?」
左足を踏み込み、腰の回転運動により生み出された遠心力が、脇を締めて直角に曲げた肘を経由して拳へと伝わる。
「吹っ飛べやこのスケベエがぁーっ!!」
間延びした口調は豹変していた。いや、口調だけではない。
アーモンド型の瞳の目尻は吊り上がり、瞳孔は縦に細長く。いつも上がっている口角はより鋭角に。
好戦的。それ以外に表現のしようがない表情に変わっていた。
「ひっ!?」
軸足になっている右足が床を蹴るように跳ね上がり、踏み込んだ左足へとエネルギーを伝達する。
――ブオン!
決して耳の錯覚ではない風切り音。男には、眼前に迫る拳が実際の数倍にも見えていたかもしれない。
「へブッ!」
男の左の頬に渾身の右フックが炸裂し、錐揉み状になって吹き飛んでいく。そして店内の壁をぶち壊して静止した男は、そのまま脱力して気を失った。
「スイカさん、ありがとう!」
ナナがペコリとお辞儀をしながら礼を口にする。
スイカは、テンの依頼でリンネをこの店まで護衛も兼ねて連れてきたのだが、結局用心棒として居座っている。
あまり表には出ないが、店の裏方として手伝いもしていて、今まで一人で切り盛りしてきたノンとしてみれば大助かりだった。ただし、育ち盛りの少女が二人と食欲旺盛な女用心棒のおかげで、食費は嵩んでいるが。
「あら~、いいのよぉ、これがあたしの仕事だしぃ~? それよりナナちゃん? あとでそれ、揉ませてくれないかしらぁ~?」
「絶対ダメです! 自分の揉んで下さい! それじゃあスケベなおじさんと変わらないじゃないですか!」
ナナシが胸を隠しながら断固拒否の構え。
このスイカという女、美少女が大好きだった。このやり取りも定番となっていたが、それを見ながら自分の胸をまさぐりしょんぼりしているのはリンネだ。
大体ここまでがワンセットの騒動を、客たちは微笑ましく見守っている。そして落ち着きを取り戻した店内は、楽しい食事の時間が再会されるのだった。
その後、騒ぎを起こした男を外へと放り出したスイカだったが、何か気にかかる様子だ。
「最近ん~、この類の客が増えてる気がするのよねえ~?」
元より女将のノンの美貌と人柄、そして味で人気があったのだが、最近では看板娘が増えたことで以前にも増して客が増えている。そう、ナナシとリンネの二人だ。
正統派美少女のナナシと、ボーイッュで健康的な可愛らしさを持つリンネ。この二人がホール係として、時には厨房を手伝う。それを目当てに通いつめる常連客もいる。
そうなると、当然不届きな客も増えてくる訳で。
雑談を交わしながらの食事を楽しんでいる客で込み合っている店内に、悲鳴が響き渡る。
「いやっ! ちょっとお客さん! やめてください!」
「へっへっへ、いいじゃねえかよ。今晩どうだい?」
「お断りです! ウチはそういうお店じゃありません!」
ちょうどいい具合に酒が入った客が、ナナの尻に手を伸ばす。それを拒絶するも尚、下品な誘いをかけてくる。こういった事が多くなってきた。
店の女の子と客との小競り合いがこの程度ならば、女将のノンも苦笑い程度で済ましていた。しかし、それでは済まない迷惑な客もいる。
「なんだとこのアマァ!」
毅然とした態度で断るナナに、客が激高して立ち上がる。流石にこの状態になると、店内は静まり返り、ノンも黙って見ている訳にはいかない。
「あの、お客さん? 他のお客の迷惑になるんでねえ、今日はお引き取りください。お代はいりませんから」
こういった客をうまく捌くのも接客のテクニックの一つだ。しかし、ナナもリンネもまだ若い。感情に素直に反応してしまう。
「金の話じゃねえよ! なんなら女将! あんたが代わりに相手してくれるか? あぁ!?」
店内の客の冷めた視線が集中するが、男は気付いた様子もなく、下卑た笑みを浮かべている。
「あいつ、ヨソモンか新顔だな」
「そうだな。じゃなきゃ、この店であんな事できる訳がねえよ」
そんな声が、あちこちの座席から聞こえてくる。そんな時、店の奥から間延びした声と共に一人の女が現れた。
「なんか大きな声が聞こえたんだけどぉ~、あたしの出番かしらぁ~?」
「んぁ? なんだ。アンタもなかなかいい乳してるじゃねえか。あんたでもいいんだぜ?」
男がその台詞を吐いた瞬間、周囲の客たちの視線が『冷たい』から『憐れみ』に変わり、そして自分の食事を手に持ちながら店の片隅へと避難を開始した。
その間、女は不敵な笑みを浮かべながら右腕をぐるぐると回していた。同時に彼女の豊かな胸も揺れて揺られて揺れまくる。
男の視線は胸部に釘付けで、周囲の客の異変など気付きようもない。
「覚悟はいいかしらぁ~?」
「あ?」
左足を踏み込み、腰の回転運動により生み出された遠心力が、脇を締めて直角に曲げた肘を経由して拳へと伝わる。
「吹っ飛べやこのスケベエがぁーっ!!」
間延びした口調は豹変していた。いや、口調だけではない。
アーモンド型の瞳の目尻は吊り上がり、瞳孔は縦に細長く。いつも上がっている口角はより鋭角に。
好戦的。それ以外に表現のしようがない表情に変わっていた。
「ひっ!?」
軸足になっている右足が床を蹴るように跳ね上がり、踏み込んだ左足へとエネルギーを伝達する。
――ブオン!
決して耳の錯覚ではない風切り音。男には、眼前に迫る拳が実際の数倍にも見えていたかもしれない。
「へブッ!」
男の左の頬に渾身の右フックが炸裂し、錐揉み状になって吹き飛んでいく。そして店内の壁をぶち壊して静止した男は、そのまま脱力して気を失った。
「スイカさん、ありがとう!」
ナナがペコリとお辞儀をしながら礼を口にする。
スイカは、テンの依頼でリンネをこの店まで護衛も兼ねて連れてきたのだが、結局用心棒として居座っている。
あまり表には出ないが、店の裏方として手伝いもしていて、今まで一人で切り盛りしてきたノンとしてみれば大助かりだった。ただし、育ち盛りの少女が二人と食欲旺盛な女用心棒のおかげで、食費は嵩んでいるが。
「あら~、いいのよぉ、これがあたしの仕事だしぃ~? それよりナナちゃん? あとでそれ、揉ませてくれないかしらぁ~?」
「絶対ダメです! 自分の揉んで下さい! それじゃあスケベなおじさんと変わらないじゃないですか!」
ナナシが胸を隠しながら断固拒否の構え。
このスイカという女、美少女が大好きだった。このやり取りも定番となっていたが、それを見ながら自分の胸をまさぐりしょんぼりしているのはリンネだ。
大体ここまでがワンセットの騒動を、客たちは微笑ましく見守っている。そして落ち着きを取り戻した店内は、楽しい食事の時間が再会されるのだった。
その後、騒ぎを起こした男を外へと放り出したスイカだったが、何か気にかかる様子だ。
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