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三章 ギルド
チューヤの証言
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「チューヤ! チューヤ!」
魔族の自爆の余波からマリアンヌを守り、自ら盾になったチューヤは、彼女に覆い被さりながら力なく言った。
「よう、無事か?」
「うん! ボクは大丈夫だよ! それよりチューヤ! キミの方が!」
「ああ……お前のお陰で咄嗟に距離を取れたからな。それより、ちょっと疲れたぜ……」
チューヤはそれだけ言うと力尽き、気を失ってしまった。
防壁内に退避していたカールが飛び出していく。
「あのバカめが!!」
カールにしては珍しく冷静さを欠いている。チューヤ達の所へ駆け寄ると、彼の呼吸を確認しながら安堵の息を吐いた。
「取り敢えず生きてはいるようだな。マリは立てるか?」
「うん、ボクは大丈夫! それより早くチューヤを!」
「ああ」
カールはチューヤを担ぎ上げ、村落の中にある憲兵の詰所へと運び安静にさせた。同様に怪我を負ったスージィもベッドの上で眠っている。
「あの爆発の中で生きているとはな。魔族もバケモノだが、コイツも大概だ」
そう言って薄く笑ったカールの姿はどこかチューヤの無事を喜んでいるように見えた。
▼△▼
二日後。ミラとアンドリューが、村の復旧作業の支援要員として男女三十人程を連れて戻ってきた。
このイングラ村とウェル村、スコティ村は同一の領主が治めるいわば共同体と言っていい関係性にある為、比較的協力を取り付ける事は容易ではあった。変異種の襲撃と聞いて不安視する者ももちろんいたが、そこはミラの出番である。
「スクーデリア王立魔法戦士養成学校卒業の四人が来ています!」
正確には卒業どころか退学に近い扱いなのだが、そこは明かさなくてもよい情報だ。結局のところその肩書は信用を得るに足りた為、こうして援軍を連れてくる事ができたのだ。
元々領主の居館があるスコティ村には医師もおり、その医師や少ないながらも支援物資も運んできた。
「こりゃあ一体なんだ?」
その応援部隊が村を囲む防壁を見て、腰を抜かしそうな程驚いていた。しかし、スージィが負傷、チューヤが意識を失ったままと聞いたミラが血相を変えてチューヤが眠る部屋と駆けこんで来た。
「チューヤ様!」
そこにはチューヤのベッドを囲んでアストレイズのメンバーが心配そうな表情で座っていた。中でもマリアンヌはチューヤに寄り添って離れようとしない。この二日間は献身的に彼の世話をし、他の誰にもチューヤに触れさせない程だった。
「チューヤ様がこれほど……」
ミラとすれば、模擬戦で見せつけられたチューヤの力を体感しているだけに、たかがバーサク・シープを相手にここまで衰弱する状況に追い込まれるのはとても信じられるものではない。
「ミラ、村長とアンドリュー隊長、あとは各村の代表者を集めてもらえるか」
「はい……」
いつもの明朗快活な姿は影を潜め、ミラが退室していく。
「ジルさんと師匠にも話しておかなくてはならないな」
「そうね。あとはここの領主様かしら」
カールとスージィが呟く。スージィの怪我は回復に向かっており、ほとんど支障が無くなっていた。身体強化は肉体を活性化させ、回復力もアップさせる効果がある。
二人が話すように事はデリケートにして重大。本来ならば一刻も早く連絡すべきなのだが村の憲兵は負傷中、チューヤも動けない。さらには変異種も全滅したのかどうか分からないため安易に村から離れる訳にも行かない。それはアンドリューやジョージとて同じだろう。結局はチューヤの回復がカギなのだ。
「失礼します」
少しすると、ミラがジョージ、アンドリュー、そして各村の代表を連れて入室してきた。
「何やら話があるようだが?」
アンドリューがそう切り出した。
「ジョージ村長から聞いていると思うが、魔族の件だ」
カールが魔族というワードを口にすると、室内に緊張が走る。変異種の群れを自在に操り、魔法を無効化する。しかも敗北時には自爆したという。もしも村落の中で自爆されていたら、村は全滅だった。そうジョージから聞かされている。
「そんな恐ろしい敵を、こんな少年が倒したというのか……」
「いくら何でも話を盛りすぎているではないですかな、ジョージ村長」
スコティ村の代表はチューヤのような少年が強敵を倒したなどとても信じられない。またウェル村の代表はチューヤのような少年が倒せたのならば、敵が魔族というのは眉唾ものではないかと疑っている。つまり、二人共チューヤを侮っている。
「ごちゃごちゃうるせーんだよ」
「「「――!!」」」
その時、チューヤが口を開いた。瞼も開き目には力が戻っている。
「チューヤぁ! 良かった! もう目が覚めないのかと――いたいっ!?」
チューヤに抱き着くマリアンヌの頭上に、彼のチョップが落ちる。
「んな訳ねえだろ。お前を庇う瞬間、全魔力を纏魔に振ったんだよ。そのせいで魔力が枯渇したのと、あとは……あの魔族の魔力だな」
「魔族の?」
「ああ。ヤツと戦ってる時、火球を受けながら突っ込んでただろ? そン時に魔力を喰ったんだよ。その魔力が、なんて言うのか――濃すぎてうまく身体に馴染まねえンだ。そのせいで回復が遅れたんだと思うぜ」
あの時のチューヤと魔族の会話が聞こえていた者は思い出していた。戦闘の様子を見守っていたマリアンヌ、それにカール。スージィは傷の回復に努めていたので残念ながら聞こえていない。
魔族は言っていた。自分が純血だと。そしてチューヤが言う魔族の持つ魔力が濃すぎるという証言。
「魔族と人族が停戦したあと混血が進んで今に至っているっていうおとぎ話、あながち嘘でもないかもね」
そうマリアンヌが呟いた。
魔族の自爆の余波からマリアンヌを守り、自ら盾になったチューヤは、彼女に覆い被さりながら力なく言った。
「よう、無事か?」
「うん! ボクは大丈夫だよ! それよりチューヤ! キミの方が!」
「ああ……お前のお陰で咄嗟に距離を取れたからな。それより、ちょっと疲れたぜ……」
チューヤはそれだけ言うと力尽き、気を失ってしまった。
防壁内に退避していたカールが飛び出していく。
「あのバカめが!!」
カールにしては珍しく冷静さを欠いている。チューヤ達の所へ駆け寄ると、彼の呼吸を確認しながら安堵の息を吐いた。
「取り敢えず生きてはいるようだな。マリは立てるか?」
「うん、ボクは大丈夫! それより早くチューヤを!」
「ああ」
カールはチューヤを担ぎ上げ、村落の中にある憲兵の詰所へと運び安静にさせた。同様に怪我を負ったスージィもベッドの上で眠っている。
「あの爆発の中で生きているとはな。魔族もバケモノだが、コイツも大概だ」
そう言って薄く笑ったカールの姿はどこかチューヤの無事を喜んでいるように見えた。
▼△▼
二日後。ミラとアンドリューが、村の復旧作業の支援要員として男女三十人程を連れて戻ってきた。
このイングラ村とウェル村、スコティ村は同一の領主が治めるいわば共同体と言っていい関係性にある為、比較的協力を取り付ける事は容易ではあった。変異種の襲撃と聞いて不安視する者ももちろんいたが、そこはミラの出番である。
「スクーデリア王立魔法戦士養成学校卒業の四人が来ています!」
正確には卒業どころか退学に近い扱いなのだが、そこは明かさなくてもよい情報だ。結局のところその肩書は信用を得るに足りた為、こうして援軍を連れてくる事ができたのだ。
元々領主の居館があるスコティ村には医師もおり、その医師や少ないながらも支援物資も運んできた。
「こりゃあ一体なんだ?」
その応援部隊が村を囲む防壁を見て、腰を抜かしそうな程驚いていた。しかし、スージィが負傷、チューヤが意識を失ったままと聞いたミラが血相を変えてチューヤが眠る部屋と駆けこんで来た。
「チューヤ様!」
そこにはチューヤのベッドを囲んでアストレイズのメンバーが心配そうな表情で座っていた。中でもマリアンヌはチューヤに寄り添って離れようとしない。この二日間は献身的に彼の世話をし、他の誰にもチューヤに触れさせない程だった。
「チューヤ様がこれほど……」
ミラとすれば、模擬戦で見せつけられたチューヤの力を体感しているだけに、たかがバーサク・シープを相手にここまで衰弱する状況に追い込まれるのはとても信じられるものではない。
「ミラ、村長とアンドリュー隊長、あとは各村の代表者を集めてもらえるか」
「はい……」
いつもの明朗快活な姿は影を潜め、ミラが退室していく。
「ジルさんと師匠にも話しておかなくてはならないな」
「そうね。あとはここの領主様かしら」
カールとスージィが呟く。スージィの怪我は回復に向かっており、ほとんど支障が無くなっていた。身体強化は肉体を活性化させ、回復力もアップさせる効果がある。
二人が話すように事はデリケートにして重大。本来ならば一刻も早く連絡すべきなのだが村の憲兵は負傷中、チューヤも動けない。さらには変異種も全滅したのかどうか分からないため安易に村から離れる訳にも行かない。それはアンドリューやジョージとて同じだろう。結局はチューヤの回復がカギなのだ。
「失礼します」
少しすると、ミラがジョージ、アンドリュー、そして各村の代表を連れて入室してきた。
「何やら話があるようだが?」
アンドリューがそう切り出した。
「ジョージ村長から聞いていると思うが、魔族の件だ」
カールが魔族というワードを口にすると、室内に緊張が走る。変異種の群れを自在に操り、魔法を無効化する。しかも敗北時には自爆したという。もしも村落の中で自爆されていたら、村は全滅だった。そうジョージから聞かされている。
「そんな恐ろしい敵を、こんな少年が倒したというのか……」
「いくら何でも話を盛りすぎているではないですかな、ジョージ村長」
スコティ村の代表はチューヤのような少年が強敵を倒したなどとても信じられない。またウェル村の代表はチューヤのような少年が倒せたのならば、敵が魔族というのは眉唾ものではないかと疑っている。つまり、二人共チューヤを侮っている。
「ごちゃごちゃうるせーんだよ」
「「「――!!」」」
その時、チューヤが口を開いた。瞼も開き目には力が戻っている。
「チューヤぁ! 良かった! もう目が覚めないのかと――いたいっ!?」
チューヤに抱き着くマリアンヌの頭上に、彼のチョップが落ちる。
「んな訳ねえだろ。お前を庇う瞬間、全魔力を纏魔に振ったんだよ。そのせいで魔力が枯渇したのと、あとは……あの魔族の魔力だな」
「魔族の?」
「ああ。ヤツと戦ってる時、火球を受けながら突っ込んでただろ? そン時に魔力を喰ったんだよ。その魔力が、なんて言うのか――濃すぎてうまく身体に馴染まねえンだ。そのせいで回復が遅れたんだと思うぜ」
あの時のチューヤと魔族の会話が聞こえていた者は思い出していた。戦闘の様子を見守っていたマリアンヌ、それにカール。スージィは傷の回復に努めていたので残念ながら聞こえていない。
魔族は言っていた。自分が純血だと。そしてチューヤが言う魔族の持つ魔力が濃すぎるという証言。
「魔族と人族が停戦したあと混血が進んで今に至っているっていうおとぎ話、あながち嘘でもないかもね」
そうマリアンヌが呟いた。
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