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三章 ギルド
師弟
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「組合の支部長も悪い人物ではないのですが、何分傭兵の立場を最優先するところがありまして」
そんなマンセルの言葉に頷くチューヤとカールだが、今の彼の発言は二人にとっても良い切っ掛けを与えるものでもあった。
「マンセルさんって傭兵なの? あの支部長の事詳しそうじゃん?」
「ほっほっほ」
チューヤの疑問にも、先程と同じ柔和な笑いでやり過ごすマンセルだが、そこに身を乗り出してきたのはミラだった。
「よくぞ聞いてくれましたっ!」
「おおう!?」
「実は、マンセルさんは私の師匠なんですっ!」
「ほっほっほ」
食いつき気味のミラと相変わらずの笑顔でゆるりと流してしまうマンセルに、チューヤもここぞとばかりに参加する。
「私もその話には興味がある」
「ですよね!? ですよね!? 実は私……」
ちょうど食事も終えそうなタイミングであり、四人はそれぞれお茶で喉を潤している。そこでミラが話し始めた。
十歳になる頃、ミラは傭兵組合の扉を叩いた。理由は様々あるが、簡単に言えば食う為だ。子供なのにと思うかも知れないが、傭兵組合と言っても戦闘要員ばかりを必要としている訳ではない。補給や後方支援などにも割ける人員がいるに越したことはないのだ。
このミナルディ王国にも貧困層というのはそれなりに存在するが、スラムと呼べるほど酷いものはない。それはなぜかと言うと、国の政策の影響もあるだろうが、傭兵組合が職業斡旋所としての側面も持っている事が大きな要因としてあげられる。
一旦組合員になってしまえば日雇いから長期契約に至るまで、何かしらの仕事を見つける事が出来るため、貧困が原因で犯罪に手を染めるケースはそれほど多くはない。それは子供にとっても同様だ。
「それでも私は少しでも稼ぎたい理由があったので、危険なお仕事を引き受けたんです。それは中規模の変異種の群れの討伐任務でした」
ミラの話では、難易度そのものは決して高いものではなかったという。傭兵組合から派遣されたメンバーが二チームに分かれてパーティを組み、二手に分かれて群れを追い込んで行く。その手法は『狩り』の際はよく用いられるものであり、特に不審な事はなかった。
「でも、私達と別のパーティが手柄を独占したかったんでしょうね。変異種の討伐が終わって気が抜けているタイミングで襲ってきたんです」
チューヤもカールも、無くはないだろうなと思う。結局殺してしまえばどうとでも言い逃れが出来てしまうのが命懸けのミッションというものだ。死んだら戦闘中の不幸という事にしてしまえばいいのだから。
「私は直接の戦闘じゃ役に立たなかったので偵察係だったんです。でも気配を察知するとかそういう技術も全然拙くて」
確かにそういう危機を察知する能力があれば、何等かの対応は出来た可能性はあるだろう。しかしまだ幼かったミラは、物陰からそっと覗いて状況を知らせるくらいが関の山。しかしそれだけでもかなり危険と隣り合わせの任務だったに違いない事は想像に難くない。
「向こうのパーティは五人。こっちも五人だけどそのうちの一人は私だから戦力外。しかも不意打ちに闇討ち。絶体絶命ですよね」
それでも戦力的に脅威ではないミラの事は後回しにしたらしい。彼女は物影に隠れて息を殺す事しか出来なかった。
「でもその時死神が現れたんです!」
ミラが両手をグーにして鼻息を荒くして話す。当時の事を思い出して興奮しているようだ。思わすチューヤとカールも聞き返した。
「「死神?」」
「はい! 音もなく裏切者を倒していくおじさんが!」
おじさんと言われてチューヤとカールがマンセルを見る。
「ほっほっほ」
当の彼は相変わらずの笑みを浮かべながら優雅にテーカップを口に付けている。
「結局、生き残ったのはそのおじさんと私だけだったんですけどね。私はすぐにそのおじさんに弟子入りしようと思いました」
今の興奮したミラの説明では今一つハッキリとしないが、その『死神』とやらがマンセルで、ミラに様々な技術を叩き込んだのはこの男だという事は間違いなさそうだ。チューヤとカールの中ではそう結論付いている。
「実はわたくし、暗殺を生業としていた時期がありましてな。裏稼業から足を洗おうともがき苦しんでいる所を先代の商会長、つまりジル様のお父上に拾われたのですよ」
当時すでにミナルディの男爵位を得ていた先代のパーソン商会長の家臣となったマンセルは、表向きは傭兵組合員となり活動し、組合内部を密かに監視していたという。
「先代も傭兵組合という組織が巨大化しすぎ、自浄作用が働かない事を危惧されていたのだと思いますな」
確かに多数の傭兵という武力を抱えている組織なだけに、国にとっても一般人にとっても影響が大きい。その組織のトップ次第でこのミナルディ王国だけではなく、周辺国も巻き込む大混乱にもなりかねない。
そして傭兵組合本部の要人の一人が他国と繋がっている事を突き止めたマンセルは、その人物を闇から闇へと葬った。その後、先代商会長の命で王都を離れ、このピットアインで傭兵として同じように活動していたが、そんな時にミラと出会ったのだという。
「いやマテ。ミラ、お前はこの屋敷の元の持ち主に仕えてたんじゃなかったのか?」
チューヤがみんなが忘れていそうな設定をほじくり返すような発言をする。
「はい! そうですよ? でも、それにはちょっとした秘密がありまして」
「秘密?」
「はい! 聞きたいですか?」
どや顔で引っ張るミラだった。
そんなマンセルの言葉に頷くチューヤとカールだが、今の彼の発言は二人にとっても良い切っ掛けを与えるものでもあった。
「マンセルさんって傭兵なの? あの支部長の事詳しそうじゃん?」
「ほっほっほ」
チューヤの疑問にも、先程と同じ柔和な笑いでやり過ごすマンセルだが、そこに身を乗り出してきたのはミラだった。
「よくぞ聞いてくれましたっ!」
「おおう!?」
「実は、マンセルさんは私の師匠なんですっ!」
「ほっほっほ」
食いつき気味のミラと相変わらずの笑顔でゆるりと流してしまうマンセルに、チューヤもここぞとばかりに参加する。
「私もその話には興味がある」
「ですよね!? ですよね!? 実は私……」
ちょうど食事も終えそうなタイミングであり、四人はそれぞれお茶で喉を潤している。そこでミラが話し始めた。
十歳になる頃、ミラは傭兵組合の扉を叩いた。理由は様々あるが、簡単に言えば食う為だ。子供なのにと思うかも知れないが、傭兵組合と言っても戦闘要員ばかりを必要としている訳ではない。補給や後方支援などにも割ける人員がいるに越したことはないのだ。
このミナルディ王国にも貧困層というのはそれなりに存在するが、スラムと呼べるほど酷いものはない。それはなぜかと言うと、国の政策の影響もあるだろうが、傭兵組合が職業斡旋所としての側面も持っている事が大きな要因としてあげられる。
一旦組合員になってしまえば日雇いから長期契約に至るまで、何かしらの仕事を見つける事が出来るため、貧困が原因で犯罪に手を染めるケースはそれほど多くはない。それは子供にとっても同様だ。
「それでも私は少しでも稼ぎたい理由があったので、危険なお仕事を引き受けたんです。それは中規模の変異種の群れの討伐任務でした」
ミラの話では、難易度そのものは決して高いものではなかったという。傭兵組合から派遣されたメンバーが二チームに分かれてパーティを組み、二手に分かれて群れを追い込んで行く。その手法は『狩り』の際はよく用いられるものであり、特に不審な事はなかった。
「でも、私達と別のパーティが手柄を独占したかったんでしょうね。変異種の討伐が終わって気が抜けているタイミングで襲ってきたんです」
チューヤもカールも、無くはないだろうなと思う。結局殺してしまえばどうとでも言い逃れが出来てしまうのが命懸けのミッションというものだ。死んだら戦闘中の不幸という事にしてしまえばいいのだから。
「私は直接の戦闘じゃ役に立たなかったので偵察係だったんです。でも気配を察知するとかそういう技術も全然拙くて」
確かにそういう危機を察知する能力があれば、何等かの対応は出来た可能性はあるだろう。しかしまだ幼かったミラは、物陰からそっと覗いて状況を知らせるくらいが関の山。しかしそれだけでもかなり危険と隣り合わせの任務だったに違いない事は想像に難くない。
「向こうのパーティは五人。こっちも五人だけどそのうちの一人は私だから戦力外。しかも不意打ちに闇討ち。絶体絶命ですよね」
それでも戦力的に脅威ではないミラの事は後回しにしたらしい。彼女は物影に隠れて息を殺す事しか出来なかった。
「でもその時死神が現れたんです!」
ミラが両手をグーにして鼻息を荒くして話す。当時の事を思い出して興奮しているようだ。思わすチューヤとカールも聞き返した。
「「死神?」」
「はい! 音もなく裏切者を倒していくおじさんが!」
おじさんと言われてチューヤとカールがマンセルを見る。
「ほっほっほ」
当の彼は相変わらずの笑みを浮かべながら優雅にテーカップを口に付けている。
「結局、生き残ったのはそのおじさんと私だけだったんですけどね。私はすぐにそのおじさんに弟子入りしようと思いました」
今の興奮したミラの説明では今一つハッキリとしないが、その『死神』とやらがマンセルで、ミラに様々な技術を叩き込んだのはこの男だという事は間違いなさそうだ。チューヤとカールの中ではそう結論付いている。
「実はわたくし、暗殺を生業としていた時期がありましてな。裏稼業から足を洗おうともがき苦しんでいる所を先代の商会長、つまりジル様のお父上に拾われたのですよ」
当時すでにミナルディの男爵位を得ていた先代のパーソン商会長の家臣となったマンセルは、表向きは傭兵組合員となり活動し、組合内部を密かに監視していたという。
「先代も傭兵組合という組織が巨大化しすぎ、自浄作用が働かない事を危惧されていたのだと思いますな」
確かに多数の傭兵という武力を抱えている組織なだけに、国にとっても一般人にとっても影響が大きい。その組織のトップ次第でこのミナルディ王国だけではなく、周辺国も巻き込む大混乱にもなりかねない。
そして傭兵組合本部の要人の一人が他国と繋がっている事を突き止めたマンセルは、その人物を闇から闇へと葬った。その後、先代商会長の命で王都を離れ、このピットアインで傭兵として同じように活動していたが、そんな時にミラと出会ったのだという。
「いやマテ。ミラ、お前はこの屋敷の元の持ち主に仕えてたんじゃなかったのか?」
チューヤがみんなが忘れていそうな設定をほじくり返すような発言をする。
「はい! そうですよ? でも、それにはちょっとした秘密がありまして」
「秘密?」
「はい! 聞きたいですか?」
どや顔で引っ張るミラだった。
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