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疑惑と恋心

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 「おはよう、ストラト。おやっさんもおはよう。」

 「あ、テル君、ユキちゃん!おはよう!今日も元気で頑張ろうね!」

 いつにも増して元気に見えるストラトだが目元が赤い。一晩泣きはらしたのだろう。昨夜現場に居合わせなかったユキは分かっていないようだがテルはいたたまれない気持ちになる。

 「けっ、空元気出しやがってよ。今日は休んでていいぞって言ったんだがな。」

 スタインもストラトの状態を気にしている。

 「まあ、おめえが気にするこっちゃねえよ。今日もしっかり食ってしっかり稼いで来い。」

 「…ああ。ありがとう。」

 それからのストラトは給仕に忙しいのかはたまた意図的に避けているのか、テル達に近付いて来る事は無かった。

 朝食を終えるとテルとユキはムスタングに乗り込みギルドに向かった。途中、モーリスの工房の前を通りかかったが店は閉められているが何か作業している音は聞こえて来た。少し出来上がりが楽しみになり気分が上向くテル。モーリスはお代は要らないと言っていたが鵜呑みにする訳にもいかない。テルは今日もしっかり働こうと気分を切り替えギルドの扉を開ける。

 「よう!テル。昨日の今日で早いじゃねえか。今日がAランクの初仕事か?」

 「あらおはよう、テル。早いわね。今日も頑張りましょ。」

 「ああ、みんなおはよう。今日もよろしく。」

 まだ早い時間だが出来るだけいい条件の依頼を勝ち取ろうと冒険者達は掲示板に張り出されている依頼票を吟味している。

 「あ、おはようございます、テルさん、ユキさん。こちらへどうぞ。」

 依頼を探そうとしていたテルにローランドが声を掛ける。

 「おはようございます。ローランドさん。」

 促されるままローランドの指定した席に座り挨拶をするテルとユキ。

 「今日はお二人に斡旋したい依頼があるんです。」

 「どういった内容でしょう?」

 「魔物の討伐依頼です。条件はこちらになりますね。強制ではないですが私個人としては是非お受けして頂きたいですね。」

 内容は常時討伐依頼対象になっている魔物の討伐。期間は無期限。ギルド指定の冒険者をパーティに編入する事。要はテル達に師匠を付けるから学んで来い、と言う事なのだろう。

 テルはユキに視線で確認をとる。ユキが頷くのを見てからローランドに向き直り、

 「分かりました。受けましょう。」

 「ありがとうございます!これ、私が提案した案件だったんですよ。もし断られたギルドマスターに叱られる所でした。」

 ぺろっと舌をだして困ったように笑うローランドを見てテルもユキも彼女が真剣に自分達の事を考えてくれていたのだと再認識する。

 「かたじけない。私達の為に…」

 とユキは礼を言うが当のローランドは

 「あら、私はお二人の担当なんですよ?このくらいは当然です!」

 まったく、この街にはいい人しかいないのか、とテルは苦笑する。もしかしたら前世も含めた前半生の反動が来ているのではないかとすら思う。それこそ、ユキと出会ってからは劇的に。

 「あ、そうだ。依頼なんですが、本格的に受けるのは一週間後でもいいですか?今借り物の武器なんですよ。仕上がるのが一週間後になるって言うんでモーリスから借りて来た物なんですよね。」

 「ええ、それは構いませんよ。では一週間後に。パーティに加わる方は当日にご紹介しますので。それからこちらが昨日のオーガの素材の買い取り報酬になります。」

 「おっと、それもありましたね。ありがとうございました。」

 テルとユキは報酬を受け取り通常の依頼を探しに掲示板へ行くが既に目ぼしい依頼は無く、2人は肩を落としてギルドを出た。

 「はいこれ。」

 とテルはユキへ報酬の半分を渡す。

 「ああ、済まない。それでテルには如何ほど返済すればよいのだろうか?」

 ユキとしては当然の疑問であり目下の所一番の心配の種でもある。しかしテルの方はと言うと、

 「え?んー…実はユキが独り立ち出来るまでは保護者代わりでいるつもりだったからいくら返済して貰うかなんて考えてなかったんだ。あはは…」

 実際の所、ユキの分の武器の修繕や宿代、薬代などでそれなりの出費はあったが厳密な金銭の計算などしていなかったしユキに対して請求もするつもりもなかった。自己満足の人助け、という奴だろうか。建前上は『貸しにしておく』などとユキには言っていたが。

 「それにさ。ユキは俺の為に泣いてくれた。優しく抱きしめてくれた。それだけで充分な対価だよ。」

 「むう…それならば毎晩抱擁をしてやらねばならぬな…」

 どこか決意に満ちた目で拳を握りそう言うユキを見てテルは苦笑する。

 「程々に頼むよ。」

 そこでユキはある懸念事項を口する。毎晩同じ部屋で寝泊まりしながらもユキに性的興味を示す所を見せないテルに対する疑惑。

 「テルは…その。男色家なのだろうか?」

 これは特にテルを軽蔑するとかそういう事で尋ねたのではない。ユキが生きた戦国時代に於いては比較的男色は一般的だったからだ。

 「いや!?違うからね!?」

 テルの答えを聞き心底安心するユキだった。そしてまた胸の前で拳を握りしめる。

 (それなら私にもテルと結ばれる機会はあると言う事だな!)

 恋を知らぬ少女が恋に目覚めた時に出来る事は…駆け引き抜きでの体当たりだけだったりする。それは己の欲望に忠実と言う事でもあった。

 テルは…この先が心配になった。
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