いや、自由に生きろって言われても。

SHO

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1巻

1-3

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「……おいコラ」

 イラッと来た時にはやっぱりデコピンだろう。ビシッと一発入れてやる。

「ふぐっ!? ……おはようございます?」

 額を押さえながらセリカが目を覚ました。

「今後の事を宿で話し合うって言っただろうが? なんで気持ち良さそうに爆睡ばくすいしてやがる?」

 この時の俺は心底あきれた表情を浮かべていたことだろう。こんな状況で爆睡しているセリカは、やはりかなりの大物かもしれない。

「ええと。お二人が完全に私の存在を忘れていたようで少々寂しくなりまして……不貞寝ふてねしておりましたが?」

 しかしセリカはあっさりと言い返してきた。うむ。確かにセリカは蚊帳かやの外だったかもしれない。

「あー……スマン。放置してたつもりはなかったんだが」
「なかったんですか!?」

 えっ!? ライムは放置してたつもりだったのか。セリカからはジト目が飛んできた。
 ……それより話題を元に戻そう。

「で、セリカはこれからどーすんだ?」
「逆にお聞きしますが、カズト様方はこれからどうなさるのですか?」

 セリカが質問に質問で返してきた。小癪こしゃくなヤツめ。

「そうだな……国家権力とはノータッチでいきたいんだがなぁ。この街に冒険者ギルドとかある?」

 この世界でも冒険者って職業があること自体は女神様のおかげで知ってたからな。ギルドはある街とない街があるので、確認しないといけない。

「……ございます」

 俺の質問に対するセリカの返答はやや間が空いた。セリカの表情がくもっている。俺達が国家権力に関わらず冒険者になる事が不服なのだろうか。

「なら、冒険者にでもなってこの街で旅の支度を整える。それから元の世界に帰る方法を探す旅をするさ」

 それでも俺は、そうセリカに告げた。そしてライムにも視線を向ける。

「ライムもそれでいいか?」

 ライムは無言でコクリと頷いた。しかし、やはりセリカは俺の方針に思うところがあるらしい。

「私が召喚者をさがして王城を出立した事はおおやけになっています。王女が護衛騎士共々戻らないとなれば捜索そうさくの手が……」
「ん? セリカとおっさんは戻っていいよ?」

 そんな俺の言葉に呆然ぼうぜんとするセリカだったが、我に返るとその口から毒を吐く。

「は? しかし私は捕虜ですよ? 何の制約も付けず戻れとかバカですか? バカなんですか?」

 コイツは余程よほどデコピンがお気に召したらしい。
 ――ビシッ!!

「ぷぎゃっ!!」

 けど、俺はセリカの本音を何となく察していた。
 勇者召喚を強行した挙句に俺とライムを連れ帰る事が出来なければ、いよいよ王城の中にセリカの居場所はなくなるんだろう。彼女としては俺達を王城に連れ帰るか、出奔しゅっぽんして俺達の庇護ひごを受けるかの二択なんじゃないかな。どっちに転んでもセリカはどうにか俺達をつなぎ止めたいと思っているはずだ。
 それを分かった上で、あえてセリカに聞いてみる。

「セリカ、それほどまでに俺達を引き止めたいか?」

 俺はにっこりと笑いセリカ姫に問う。

「は? 私はあなた方の了承なく強引に召喚した張本人ですよ!? 『はい』なんて言える訳がないじゃないですか! 卑怯ひきょうですよ……」
「あんたからはもう敵意も悪意も感じられない。分かるんだよ。あんたは俺達に手伝って欲しいんだろ?」

 俺の言葉を聞いたセリカは目を見開いた。そして突然立ち上がり、着ていたドレスのすそをビリビリと破く。

「セバスチョン!!」

 セリカがドアの外へ叫ぶと、やや間をおいてコンコンと扉をノックする音が聞こえた。

「セバスチョンにございます。姫様がお呼びのようですが」

 ライムが扉を開いて、おっさんを迎え入れる。セリカは破いたドレスの切れ端をおっさんに手渡して命じた。

「あなたはこれを持って王城に向かい、母様と陛下へいかに伝えなさい。セリカが召喚者を発見するも魔物の群れと戦闘中で、護衛騎士共々戦闘に介入すれど全員戦死、と」

 これは苛烈かれつだな。中途半端な行動を取るよりは、覚悟を示した方が俺達の助力を得られると判断したか。あるいは俺の反応を見て、脈アリと感じたのかもしれない。
 これを聞いていたライムも、ここが魔物が蔓延はびこる世界だという事に対して驚いている風ではなかった。俺と同じく女神様に情報を詰め込まれたんだろうな。
 しかしそんなセリカの発言は、セバスチョンとしては受け入れられるものではなかったようだ。

「しっ、しかしそれではあまりに! コロナ様が悲しみますぞ!」

 コロナ様ってのはセリカのお母さんかな? ん? セリカが紙になんか書き始めたぞ。

「ならばこの手紙とペンダントを母様に。くれぐれも秘密裏ひみつりに渡しなさい。手紙の内容は他言無用と」

 セリカの決意が込められた強い瞳に、セバスチョンは頷くしかないようだ。

「……畏まりました。私はこれより王城に戻ります。姫様、どうかお達者たっしゃで。ライム様、カズト様。どうか姫様をよろしくお願い致します」

 セリカの手紙の内容は分からないが、セバスチョンは俺達に深々と頭を下げて出て行った。しかも姫様をよろしくだって。

「カズト様。ライム様」

 そして完全にセバスチョンの気配がなくなった頃、セリカが土下座した。

「どうか、私も旅に同行させてくださいまし。伏してお願い申し上げます」

 表面上を取り繕うよりは本音でぶつかった方がいいと考えたのか、姫さんが懇願こんがんしてくる。
 どうあっても、俺達の力が必要なんだろうな。それこそ、王族としての立場をかなぐり捨ててでも。

「まあ、ちょっと落ち着いて話そうか」

 中々見応えのある美しい土下座だったが、とりあえずセリカを普通に座らせて、リラックスして話せる雰囲気を作る。
 王城に戻るつもりがないのは今の流れで分かった。でも俺達の旅に同行しても、姫さんの望みがかなうかどうかは不確定だ。
 国全体の貴族主義からの脱却だっきゃくと平民救済がセリカの望みなのだろうが、そもそも俺とライムがいたくらいで成し遂げられるような、簡単な話ではないと思うんだよな。
 それでもセバスチョンに手紙を持たせて王城に走らせてしまった今、無理矢理にでも俺達と一緒に冒険者登録をし、一緒のパーティとして行動するしか、セリカには選択肢はないんだろう。王城を飛び出し王女の身分を捨てるという選択をした彼女には。

「……分かった、同行を許可するよ。ところで、冒険者登録をする時に身分バレとか大丈夫なのか?」

 冒険者登録の時にフルネーム必須とかだったら、一発でセリカの身分がバレちまうよな。それだとせっかくの工作が無駄になると思うんだが……

「登録は特にフルネームの必要はないですし、スキルも自己申告で構わないはずです。スキルを多く申請しておくとパーティに勧誘されやすいというメリットはありますが……私達に関してはメリットにはなりませんね」

 その事をセリカに質問すると、そう返ってきた。パーティの勧誘に関しては確かにそうだよな。他のパーティに入りたい訳じゃないし。
 こうして俺とライム、そしてセリカはそれぞれの思惑おもわくはありつつも、冒険者として行動する事に決めた。



 4 冒険者の洗礼


 さて、俺達と行動を共にするのであれば、セリカにはやってもらわなくてはならない『儀式』がある。

「ライム、『仲間になる儀式』やるからこっちに来てくれ。セリカも」
「あ、はーい」
「カズト様、何を?」

 俺が二人に声をかけると、何をするか理解しているライムは嬉しそうに駆け寄ってくる。逆に何をするのか分からないセリカの方は、首をかしげていた。

「お互いのステータスとスキルを包み隠さず開示するんだ。俺とライムはもう済んでるけどな。これ以上ない信頼関係だろ? 命に関わる事だし」

 俺は真面目な顔でセリカに告げた。セリカが本気で俺達についてくるつもりなら拒まないだろう。
 これは互いを仲間と認めるかどうかの儀式であり、踏み絵でもある。もし拒むのならそれはそれで構わない。俺とライムの二人で旅をするだけだ。

「カズトさんに関しては、ステータスやスキルの内容を知ってるくらいじゃ、万が一戦うことになってもどうにもならないと思うけどなー」

 ライムが言っていることは、地震や台風なんかの天災に例えると分かりやすいと思う。
 近々地震が起こるらしい。あるいは巨大な台風が接近している。しかし人間の力では地震を止める事は出来ないし、台風を消滅させる事も出来ない。分かっていてもどうしようもないって事だな。その数値が分かっていたところで、普通の人間には手のほどこしようがないくらい、俺のステータスはぶっ壊れている。それこそ天災レベルで。

「私が見たステータスとは、違うのですか?」

 偽装された俺のステータスしか見ていないセリカは半信半疑だ。ただし十人の騎士を瞬殺した力はたりにしているから半分は信じられるといった所か。

「うん、そうだよ。今の私達はカズトさんのお荷物なだけ。だから捨てられないように必死に尽くしてカズトさんの信頼を勝ち取らなきゃダメなの」

 いや待て。ちょっと待つんだライム。尽くすとか、相応ふさわしくない単語を出すんじゃない。
 そんな事しなくたって見捨てたりしないって。

「お荷物なんて思ってないから、尽くすとか言うのはやめてくれ。ほれ、やるぞ。初めはライムとセリカな」

 俺に言われて二人はお互いの手に触れ、ステータス情報を流し始めた。

「これは……すごいですね。流石は勇者様です。この国最強とされた冒険者でも数値は400から500くらいだったと言われています」

 ライムのステータスを見たセリカが感嘆していた。なるほど、ライムのステータスは、その最強と言われた冒険者の二倍だもんな。

「えへへ~、でもこれ多分初期値だからまだまだ伸びると思うよ? でもセリカ姫も結構強かったんだね! 護衛の騎士くらいならやり方次第で完封出来そうだよ!」

 ライムの言葉通り、俺達のステータスは初期値なのだろう。騎士達との戦いで俺のステータスは上がった訳だから、まだ伸びしろがあるはずだ。
 そして次はセリカと俺の番だ。ライムからの評価が高いので期待してしまうな。

「それじゃあセリカ、次は俺とだ」

 セリカが神妙な顔で俺の手に触れる。

「私にはあなたの力が必要です。私の全てを曝け出す事で、信頼の証とさせていただきます」

 セリカの指先からステータスが流れ込んで来る。


 名 前:セリカ・ロックハンド・ジワラー
 称 号:オーシュー王国第二王女
 耐久力:210  魔 力:370
 攻撃力:60   防御力:170
 敏捷性:110
 スキル:【水属性魔法Lv3】【風属性魔法Lv2】【聖属性魔法Lv4】【鑑定】


 なるほど、ライムの言う通り中々のステータスだ。
 耐久と防御が高くてコテコテの前衛向きだけど、スキルは魔法一辺倒という中々にとんがった構成だな。それでも攻撃力以外は軒並み平均値以上だし、聖属性魔法を持っているのも大きい。
 さて、俺の力をアテにする宣言をしたセリカだが、それでも彼女は覚悟を決めた。今度は俺のターンだな。

「……信頼には信頼で返すよ」

 相手が誰であれ、理由がなんであれ、信頼されるのは嬉しい事だな。俺は自然と笑みを浮かべながらセリカへステータスを流していく。
 そして俺のスキルとステータスを確認した彼女の目は、驚愕きょうがくに見開かれた。

「な!! ……こんな……カズト様は……人間……なのですか?」
「ははっ、失礼な。多分まだ人間だと思うぞ?」

 俺は苦笑気味に返す。
 ステータス上は人間の範疇はんちゅうに収まらなくても、俺の両親は間違いなく普通の人間だぞ?

「これは、単騎で城を落とせますね……」
「物理攻撃に限定すれは城くらいはな。全力でスキル使えば、都市でも滅ぼせると思う。ただし地形も変わるけど」

 セリカの評価に対して俺は正直に言った。

「ライム様の言う通りでした。私達には、信頼を失わぬよう全力を尽くす事しか出来ないようです」

 ライムもそうだが、どうにも圧倒的なステータス差のせいか、セリカも俺を対等な存在として見る事が出来ていないふしがあるな。

「よせってば。俺だってままならない事が沢山あるんだし」
「でも、私などを簡単に信用しても良いのですか? 裏切るかもしれませんよ?」

 裏切りか……嫌な言葉だよな。

「そうだな……理不尽な理由の裏切りだったら全力で潰すけどな」

 そう笑って言いながら、俺は元の世界での事を思い出していた。

「あれ? カズトさん、どうしました?」

 俺の様子が変わったのに気づいたのか、ライムが声をかけてきた。
 俺はポツリポツリと、この世界に来る直前までの、元の世界の事を話しだした。

「そんな訳でさ。あんまり簡単に人を信じられなくなってた。でもさ」

 一拍置いて、俺は話し続ける。

「二人とも、俺の事を信頼するって言ってくれたよな。そんな二人を俺が信頼出来なくてどうするって話だよ。俺は人間嫌いにはなりたくない。まあ、二人に裏切られた時はそれが俺の器だって事で諦めるよ」

 そう言って俺は薄く笑った。


「私の事はセリカとお呼びください。もう姫でも王女でもありませんので。『おい!』とか『お前!』でもよろしいですよ?」

 お互いのステータスを開示したことで、俺達三人の親密度は増したように思える。機密事項であるステータスを共有化したという連帯感が、互いを信頼する事に繋がった訳だ。
 ――裏切りを恐れる俺の弱さを曝け出したのも、良かったのかもしれないが。

「あー、熟年夫婦じゅくねんふうふみたいな呼び方は勘弁してくれ。それと、俺の事も様付けするのもやめてくれ」
「ではご主人様と?」

 そんなセリカの言葉に、ライムが反応した。

「あー! じゃあ私はおにいちゃ……」
「やめてくださいお願いします美少女二人からご主人様とかおにいちゃんとか呼ばれるのムリですごめんなさい!」

 俺は一部の特殊な嗜好しこうを持つ人が聞いたら泣いて喜びそうな呼び方をしようとする二人をさえぎり、懇願した。普通に名前を呼ぶ選択肢はねえのかこいつら……と。

「「美少女!?」」

 俺の不用意な発言を聞き逃さなかったライムとセリカが見事にユニゾンする。しまった。口が滑った。

「うっ……とにかく、今日はもう疲れたから寝る」
「ふふっ。おやすみなさい、カズにぃ」
「おやすみなさい、カズト」

 なんか一気に心の距離縮めてきたな!?
 ライムがカズにぃでセリカがカズト、か。まあいいや。
 ……いや、良くなかった。

「なんで二人とも俺のベッドに寝ようとする? なぁっ!?」
「「すーすーすやすや」」

 なんてこった。俺は仕方なく空いているベッドに移動して眠りについた。


 ――ちゅんちゅん、ちゅんちゅん
 あー、スズメが鳴いてる。これが朝チュンか、文字通りの。いかがわしいことは何もしてないぞ。
 なんでスズメ? とも思ったけど、植生が一緒なら、この世界にいてもおかしくないか。
 さて、ちょっと外出て目覚めのタバコでも吸ってくるかー。
 異世界での初めての朝だ。早朝の冷たい空気が頭を覚醒かくせいさせる。
 タバコの煙を深く吸い込み肺に巡らせ、一本目を吸い終える。二本目にいきたいところだが、今後入手は不可能かもしれないから思いとどまった。
 一服を終えて建物に戻った俺は、受付で朝食の準備が出来た旨を伝えられた。
 ライム達を呼ぶ為に自室の扉の前まで来てノックしようとした時、部屋の中の話し声に気付く。まだ早朝で外が静かなせいか声が響くな。

「カズにぃ、何にもしてこなかったね」
「そうですね。美少女二人と一緒に寝たというのにヘタレですね」

 一緒には寝てねえからな、セリカ?

「ヘタレというか、オクテなんだよー」
「ああ、一線を越えてしまえばケダモノになるタイプですよ」

 セリカってホントに口が悪いよな。ライムはフォローしてくれるけど。

「何気にセリカ、毒吐いてるよ!?」
「でも、信用出来る殿方のようです」
「うん、そうだね!」

 俺の名前が聞こえたんで部屋に入るのが躊躇ためらわれたが、セリカとライムの口調もだいぶ砕けたものになっているし、打ち解けてきたようで何よりだ。けど、内容が結構酷い。
 俺はノックしながら扉越しに声をかける。

「起きてるんなら準備して出てきてくれ。朝飯の準備が出来たそうだ。食堂で待ってるから」

 俺は食堂へと移動して適当なテーブルに座り、お茶を飲みながら二人を待った。

「カズにぃ、おはよー」
「おはようございます、カズト」

 そのお茶を一杯飲み終えた頃、ライムとセリカが食堂に現れる。身だしなみは既に整っているようだ。

「ああ、おはよ。飯食ったらとりあえず武器屋へ行って装備揃えて、それからギルドに行こうか」
「それがいいね!」
「それではささっと食べて出かけましょう」

 俺の提案にこころよく同意してくれた二人と、異世界初の朝食をとる。
 メニューはパンとスープと葉野菜のサラダ、それにハム。
 パンは異世界ファンタジー小説で目にする固い黒パンではなくて、普通にフカフカしたパンだった。スープは刻んだハムとくず野菜やさいを煮込んだもので塩味だが、日本から来た俺にしてみれば少々物足りないかな。サラダは三種類くらいの野菜を千切ったものがボウルに盛られているが、何の野菜かはちょっと分からなかった。ハムはあぶってあり、パンに挟んで食べると結構いける。

「セリカ、悪いんだけど、マジで当座の費用立て替えてくれ。ギルドの依頼を受けて返すよ」
「お気になさらず。馬車に用意していた現金しかありませんが、それをパーティの運用資金という事にしましょうか」
「マジで!?」

 お財布事情が切実なので本気でセリカに金策を頼んでみたら、あっさり了承された。

「ただ、私は既に存在しない事になっている工作までしました。今から城に戻ってお金を持ってくる訳にもいきませんので、決して多くない額ですが、それでもよろしいですか?」

 セリカの言う事は一理ある。せっかくセバスチョンに手紙を持たせて王城に走らせたんだしな。

「いや、全然かまわないよ。じゃあ、金銭管理はセリカが頼むよ」

 食事を終えた俺達は街に出て装備品をそろえた。
 俺はレザーアーマーに鉄のガントレット。レザーの肘当ひじあてと膝当ひざあて。膝下までのレザーブーツ。それから麻や綿のシャツと革のパンツを数着購入して着替えた。腰には戦利品の剣をいている。
 俺に関して言えば常時魔力障壁を展開しているので、安価な防具を装備する意味はあまりない。しかし冒険者として活動していく以上、冒険者らしい恰好はしておくべきだ。何より、日本から着てきたパーカーとジーンズでは悪目立ちしすぎるんだよな、こっちの世界では。
 ライムは俺と似たようなレザー装備だが、青いマントを羽織った。それにバックラーか。勇者っぽいな。ヒラヒラした制服じゃ旅も大変だから、ライムもレザーパンツ。武器も俺と同じく戦利品のロングソードを腰に佩く。
 セリカは白っぽいパンツにロングブーツ、上はチェインメイル。さらにその上にサーコートを被ってウエストにはベルトを装備。ベルトは武器や暗器、ポーション類の瓶なんかを差し込めるポケットが付いている便利品。武器は魔力増幅の魔石が埋め込まれたメイスにしたようだ。そんで顔を隠す為にフード付きのローブも追加。

「二人共、似合ってるな。凛々りりしいぞ。さて、ギルドへ行くか」


 ギルドに到着した俺は扉を開ける。三人で中に入った途端、いろんな視線が突き刺さった。好奇、情欲、暴威、卑下ひげ、いろいろだ。どれも好意的じゃあないな。

「カズにぃ、これはテンプレありそうだね!」
「やめろ、フラグ立てるな」

 地雷発言をするライムをたしなめながら、周囲の視線を無視して受付カウンターへ向かう。

「すみませーん、冒険者登録したいんですけどー」
「登録ですね、本日は私、サニーが担当致します。よろしくお願いしますね。それでは早速冒険者についてのご説明をさせていただきます」

 俺の呼びかけに応じてサニーと名乗った受付嬢さんはブラウンアッシュのゆるふわボブで、大きめのやや垂れ気味な目から優しそうな印象を受ける。歳は二十代前半くらいか? 受付を任されるくらいだから、かなり容姿は整っている方だと思う。
 そのサニーさんからざっくりと説明された。冒険者ランクは上からS、A、B、C、D、Eの六段階ある。ギルドの依頼を受けて達成する事で貢献度こうけんどが上がっていき、一定のポイントに到達すると昇級する。その他に説明されたのは、公衆道徳を守れ、喧嘩けんかするな、他人に迷惑かけるな。そんな感じだ。
 新米冒険者は最下級のEランクから始まるらしく、俺達も例外ではない。

「よろしければ、こちらの書類にご記入ください。書けない、書きたくない箇所かしょ空欄くうらんで構いませんが、名前と戦闘スタイルは必須でお願いしますね」

 文字は……うん、大丈夫だな。読めるし書ける。女神様に詰め込まれた情報の中に文字の知識もあったみたいだ。ライムも大丈夫みたいだな。
 俺は名前と戦闘スタイルだけ書いて提出した。近接戦闘全般。名前はカズト。
 ライムは剣術。
 セリカは水属性魔法と回復魔法。
 そこでサニーが尋ねてきた。

「それでは登録させていただきますね。一時間ほどお時間かかりますが、どうなさいますか? 外出されても構いませんが?」

 ふむ、一時間か……

「どうする? ここで待ってても暇だと思うけど」

 俺はライムとセリカに聞いてみた。

「私は街の様子を見てみたいな! ね、カズにぃも見たくない?」
「私も気分転換に街を散策するのがいいと思います」

 ライムもセリカも外出に賛成のようなので、街をブラブラする事に決定だな。

「適当に外で時間を潰して来ますんで」

 サニーに一声かけてから、俺達は三人連れ立ってギルドを出た。
 特に目的もなくブラブラと街並みを眺めながら歩き、気になる店があれば入ってみたり、屋台で軽食を買ってかじりついたりして時間を過ごす。
 ここまでは比較的平和なお散歩だったのだが、実は少し前から気配も隠さずついてきてるんだよ。五人のチンピラが。
 モヒカンやスキンヘッド、顔のいたる所にピアスやタトゥーで装飾した、どう見てもヒャッハー!! とか叫びながら人様に迷惑をかけて生きていそうな見た目のヤツらだ。ちなみに冒険者ギルドで見た顔でもある。
 俺の索敵に引っ掛かっているチンピラ五人は、既に敵意アリアリ状態。
 看破で見たところ、チンピラ達のステータスは平均110ってトコだ。魔法スキルを持ってるヤツはいない。


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