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1巻

1-2

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「おーい! 御者のおっさん! ちょっと手伝ってくれ!」

 ビクリと身を跳ねさせたおっさんは無言でコクコクと首をたてに振ると、御者台から降りてくる。
 おっさんに手伝ってもらったお陰ですぐに作業を終えた俺は、『戦利品』と共に馬車に戻る。結局、適当な街で売り払えるだろうって事で、無事な武器なんかは全て回収してきた。中でも出来の良さそうな剣のうちの二振りは、俺と美少女ちゃんがそれぞれ使う事にした。ちなみに馬は装備だけ外して逃がしてやった。

「なあ、コイツどうする?」

 作業を終えたところで、俺は簀巻きになっているお姫さんを見ながら美少女ちゃんに話しかける。

「さあ? とりあえず起きるまで放置でいいんじゃないですか?」

 美少女ちゃん、結構あっさりしてるな。
 このムカつくお姫さん、高貴な家柄の人だろうって事は分かるけど、どこの誰だかサッパリ分からん。いや、看破使えば分かるんだけどさ。初戦闘でなんか疲れたんだよ。

「あ、おっさん! とりあえず近くの街まで向かってくれるか? ある程度の旅支度が出来る程度の街がいいんだけど」
「は、はい! かしこまりました!」

 とりあえず移動しようと御者のおっさんに指示を出したら畏まられた。いや、俺はアンタの主人じゃないから、そんなに畏まらなくてもいいって。
 ようやく落ち着けたので、俺は改めて美少女ちゃんに向き直り自己紹介を提案する。

「ところでさ、お互い名前も知らない訳だし自己紹介でもしないか? 今更だけど」
「あははっ、ホントに今更ですねー。でもその前に、私の話を聞いて欲しいんです」

 ん? 美少女ちゃんの顔つきが変わったな。目がマジだ。

「私、女神様に言われたんです。召喚に巻き込んでしまった青年と信頼関係を築くようにって。そうすれば私を助けてくれるって」
「……そうか。俺は、女神様には思うがままに自由に生きろって言われたんだ。その為に、この異世界を生き抜くだけの力を与えるってさ」
「え……それじゃあ……そっか、そうですよね……本来無関係の自分を巻き込んだ私を助けるとか、お兄さんにしてみたら意味分かりませんよね……」

 俺の返事に、美少女ちゃんは半泣きだ。俺は慌ててしゃがんで美少女ちゃんに目線を合わせると、頭をでる。ほえ? って表情でこっちを見る美少女ちゃん。

「まだ続きがあるんだよ。その力があれば召喚された少女を救う事も出来る、とも言われたんだ。君が眠ってる間にこっそりあの場を離れていれば、トラブル回避は出来たと思うんだけど、俺はそうせず君を助けた。俺が自分の意思で思うがままに動いた結果だよ」
「……お兄さん?」
「君は俺を信頼する事が出来るかい? 信頼してくれるなら、俺も信頼をもって応えよう」

 俺の言葉を聞いた美少女ちゃんが無言で俺の手を取ると、彼女のステータス情報が流れ込んできた。


 名 前:ライム・フジサワ
 称 号:勇者
 耐久力:900  魔 力:1020
 攻撃力:870  防御力:940
 敏捷性:840
 スキル:【剣術Lv10】【火属性魔法Lv5】【雷属性魔法Lv5】【風属性魔法Lv5】【聖属性魔法Lv5】【鑑定】【空間収納】【隠蔽いんぺい

 この少女はライムというらしい。魔法系のスキルが充実していてちょっとうらやましいぞ。
 そしてステータスを開示するって事は、隠し事なし、信頼の証ですってか。
 それなら俺も信頼に応えようか。空いた方の手でライムの頭を撫でて撫でて撫でまくると、彼女は気持ち良さげに目を瞑る。
 そこで俺は不意打ち気味にこっちのステータス情報を流し込んでやった。

「!! ……えっ!?」

 俺のステータス情報が突然流れ込んで来た事にビックリ、次いでステータスの数値と所持スキルを見て二度ビックリってトコか。ライムは柔らかい笑みを浮かべた。

「よろしくお願いします。カズトさん……そしてありがとう……」
「こちらこそ。ライムさん。よろしくな」
「ライムでいいですよ」
「あ、ああ、分かったよライム」

 「げふんげふん!」
 少しだけいい雰囲気になりかけた時、転がっていた簀巻きからわざとらしい咳払いが聞こえた。思わずちょっと簀巻きに殺気向けちゃった。

「あ?」
「ひっ!」

 すっかり存在を忘れてたわ。ムカつくお姫さん。

「やっと起きたかよ。んで、お前はどこの誰姫さん?」
「相変わらず無礼なゴミだな。私はこの地を治めるオーシュー王国の第二王女、セリカ・ロックハンド・ジワラーである。控えるがいい」

 本当に姫様だったのかよ……とりあえずムカついたんで、セリカ姫とやらにデコピンかましながら考えた。

「ふぎゃあぁ!」

 オーシュー? ジワラー? まさかな……

「痛いわよ! なんて事するのよ!」
「おい、キャラ変わってんぞ?」

 俺はそう言ってもう一発デコピンをかます。

「フンギャアアァ!」
「お前な、少しは立場を考えろよな? お前は今捕虜ほりょ同然な訳なんだが、理解出来ないならもう十発くらい食らってみるか?」
「そこは普通もう一発だよね!? 十発なんだ……」

 ライムは俺の容赦のなさに遠い目になっている。

「すみませんすみませんすみませんすみません許して許して許して許して許して許して」

 一方のセリカ姫は、簀巻きにされてんのに見事な土下座だ。いや正座の状態で手は後ろ、額は馬車の床に擦り付けているから、土下座のスタイルとは少し違うが。
 でもあれじゃバランス悪いだろ。馬車が傾く度に、あっちにゴロゴロこっちにゴロゴロしてる。
 しばらくはゴロゴロ転がるセリカ姫さんを見てるだけで面白かったけど、飽きてきたんでそろそろ今回の召喚もとい、誘拐事件についての事情聴取をする事にした。
 けどその前に……

「おっさん! 悪いけどちょっと馬車停めてくれるー?」

 御者のおっさんに声をかけて馬車を停めさせる。で、何をするかと言うと、抜き身の剣を持ってセリカ姫の前に仁王立におうだちする。

「動くなよ? 動いたらいろいろ大事なモノを失うかもしれないぞ?」

 簀巻きにしていたロープを切るのに少しおどしたら、また気絶してしまった。ちょっとやりすぎたか。
 目を覚ましたセリカに事情を話すよう促すと、彼女は今回の召喚に至った経緯けいいを話してくれた。


 セリカは、王女と言っても母親は平民出身で、貴族主義が強く根付くこの国では、その辺の貴族の中にすら王族であるセリカを蔑むような目で見るやからもいるという。そんな状況だけに、セリカは常々王女としての威厳いげんを保つ為、わざと尊大で高圧的な態度で周囲に接していたそうだ。さっきの態度がまさにそれだな。
 現在、オーシュー王国は南に国境を接するバンドー皇国に圧迫されており、のらりくらりとかわしてはいるものの、いつ戦端せんたんが開かれてもおかしくない状況にあるという事だ。オーシュー王国も大国のひとつともくされてはいるが、バンドー皇国と全面対決となれば、恐らく国土はあっという間に蹂躙じゅうりんされてしまうであろう、というのがセリカの見解だった。
 そこで彼女はオーシュー王国を含む周辺国家の伝承に目を付けた。
 大昔、この地に住んでいたのは黒髪黒目の民族であった。ある時、大陸からやってきた金髪碧眼きんぱつへきがんの民族の侵略により、またたに黒髪黒目の民族は北へ北へと駆逐くちくされていく事となる。
 そんな中、黒髪黒目の民族を率いて頑強に抵抗する一人の英雄がいた。彼の率いる軍だけは高い士気をほこり、金髪碧眼の異民族に負けなしだったという。
 しかし黒髪黒目の英雄に手を焼いた異民族達は、ある謀略ぼうりゃくを以て英雄を捕らえ処刑してしまう。

「我、いつの日か必ず生まれ変わりて異民族共を攻め滅ぼさん」

 それが今際いまわきわの英雄の言葉だったそうだ。
 そして現在、このオーシュー王国は北に位置する為か、黒髪黒目の民族の血を引く者が多く残る。王族でありながら平民の血を受け継ぐセリカが、かの英雄と同じ黒髪黒目の勇者を召喚すれば、民からの支持は確固たるものとなって国力が増し、バンドー皇国への牽制けんせいにもなるかもしれない。またその勇者は直接的に戦力としても期待出来る。そしてその勇者を従えるセリカの王宮内での発言権は強くなり、貴族主義を排除する足がかりにもなるだろう。
 このように、伝説の英雄が復活したとなれば、国内外に及ぼす影響は計り知れない。
 英雄伝説はそれほどまでにこの地に浸透しんとうしており、その存在に傾倒けいとうしている者も多い。特に、異民族の血を色濃く受け継ぐ貴族にしいたげられている平民達には。


「これが勇者召喚を行った理由です。全ては勇者の力を以てこの貴族社会のゆがみを正すため。徹頭徹尾てっとうてつび、自分の欲望の為ではないのです」

 セリカは俺とライムの目を正面から見据え、きっぱりと言い放った。

「なるほどな。まあ、分からなくもない。けど、俺達の意思を全く無視でいきなり召喚ってどうなのよ?」
「ですよね。セリカ姫様が民や国を大事に思っているのと同じように、私達にも大事な家族や友人がいるんですよ?」

 セリカの召喚の動機には一定の理解を示してはいるが、ライムとて完全に納得出来る訳ではないだろう。こんな異世界に、なぜ自分が? という思いがあるはずだ。言葉にややとげがある。

「うぅ、申し訳ありません……」

 それを聞いたセリカはすっかり反省しているようだ。

「ま、今後の事は姫さん交えて落ち着いたトコで詰めないか? いい加減腹も減ったし疲れたし、今日は風呂ふろ入って寝たいよ」
「あっ! 私もその! 汚れちゃったんでお風呂入りたいです! でもカズトさん、騎士さん達からの戦利品だけでお金足りますか? 宿代とか食事代とか。装備も必要ですよね?」

 俺の言葉に同意するライムだけど、確かに彼女の懸念けねんももっともだ。

「おい、姫さん。とりあえずの宿代と飯代よろしく!」
「へっ?」

 なぜか意外そうな顔をするセリカ。こっちに召喚されたばっかの俺達が金を持っているとでも思ったのかね、コイツは。

「あん?」
「わっ、分かりました……わ、私も、その、きっと酷い顔をしていると思いますので……お風呂には入りたいです……」

 渋々といった感じのセリカだったが、コイツには当面俺達を養う義務があると俺は思うんだ。



 3 セリカ、勝負に出る


 それから俺達は再び出発し、馬車に揺られて街へと向かう。
 馬車から見る外の風景は、日本とまるで変わらない。森林をうように出来た道は、日本で見た林道そっくりだったし、森林を抜けてみれば、川に沿うように伸びる未舗装みほそうの街道もまた、時代劇でよく目にするのどかな光景だ。
 森を出発して一時間ほど経過しただろうか。ようやく街に到着した。
 この街はタカミと言うらしい。このオーシュー王国の王都ライズミーから五十キロメートルほど北に位置しているとセリカが教えてくれた。キロメートルって単位がこっちでも使われているのには驚いたが、俺とライムにとっては都合がいい事この上ない。
 街の周囲は防護柵ぼうごさくに囲まれていて、ちょっとしたとりでのようだ。入場門があり、門番がいる。
 本来は、俺とライムみたいな身分を証明する物がない者は、お金を払って仮の身分証明書を発行してからでないと街には入れないらしい。
 ただ今回は、御者のおっちゃんが門番に小金を握らせたおかげで、馬車の中を確認されることもなく、あっさりと中に入れた。「さる高貴なお方が乗っているが、お忍びなので領主にも報告しないように」とか言ってるのが聞こえたけど、それで入れるってザルすぎないか?
 ちなみにお金の単位はなんと『エン』だそうだ。街でパン一個が100エンから150エンと言うから、日本円とそう変わらない感覚で大丈夫みたい。
 街に入ってもやはり馬車から街の光景をぼんやりとながめていた俺だったが、視界に飛び込んできた光景には違和感を抱かずにはいられなかった。

「建築様式や街の造りは西洋風なんだな」

 その意外な光景に思わず俺はつぶやいた。
 街中の通路は石畳いしだたみが敷かれ、建物は石造りやレンガ造りのものも多い。加えて色彩もカラフルで垢抜あかぬけた感じだ。

「おしゃれなヨーロッパの街並みみたいだけど、庭に松とか柿とか桜とか、そういう和風な樹木があったりするからしっくりこないんだね」

 ライムも俺と同じく違和感があったようで、苦笑しながらその理由を分析していた。
 彼女の言う通り、生えている植物がほぼ日本で目にするものばかりだからな。もしかすると生態系は日本と変わらないのかもしれない。
 俺達の馬車は、宿を探して、街の大通りを進む。俺達は当然土地勘もないので、宿の手配は御者のおっさん任せだ。セリカも宿泊する以上、宿のグレードの心配はいらないだろう。
 そしていざ御者のおっさんが見繕みつくろった宿に入ったのだが、ここで部屋割りについて一悶着ひともんちゃく起きた。

「私はカズトさんといろいろ確認しなくちゃいけない事案がいっぱい、ホントにいっぱいあるのでカズトさんと同じ部屋でお願いします!」

 なぜかライムが必死だ。確かに、今後どうするかとか、話さなくちゃいけない事は沢山ある。けど同じ部屋ってのはさ……

「私は! 私は捕虜の身です! 捕虜に監視も付けずに一人部屋とかバカなんですか? ちゃんと捕虜には監視を付けなさい! カズト様! あなたが自ら監視しなさい!」

 負けじとセリカがムキになって言う。なんだコイツ? つーか、誰がセリカを一人部屋にするって言ったよ?
 はぁ、宿代飯代さえ払ってもらえば、セリカは逃がしてもいいかなーなんて思ってたんだけど。セリカ、事情を話して自分の素の部分をさらけ出してからは、悪意とか敵意とかが一切感じられないんだよな。
 むしろ好意的というか。それにいつの間にか俺の事『様』付けだし。
 しかしだ。

「誰がバカだ」
「ふぎゃっ!」

 お約束になりつつあるデコピンを一発、セリカにブチかます。
 まったく、仕方ないな。御者のおっさんも含めてみんな一緒ならいいだろ。

「四人部屋って空いてます?」

 俺は宿の受付の人に聞いてみた。

「はい、一部屋空いてございます。四人部屋を一部屋でよろしいですか?」

 見るからに貴族っぽい恰好かっこうのセリカにすっかり恐縮きょうしゅくしている様子の受付の人が、確認してくる。

「あの、私ごときが姫様と同じ部屋に泊まるなど恐れ多い事でございます。私めは厩舎きゅうしゃでもお貸しいただければ十分ですので……」

 しかしここで問題発生。御者のおっさんが遠慮えんりょしやがった。かっちりした綺麗きれいな身なりだし、きっと執事しつじとかそんなんだろうな。彼の立場的には、セリカと同じ部屋で寝泊まりとかやっぱ無理か。ちなみに名前はセバスチャンだったら、お約束を踏襲とうしゅうしていてちょっとうれしいんだが。

「セバスチョン……」

 セリカが何とも言えない目でおっさんを見る。外し方までお約束じゃないか。
 それにしてもどうするか。俺としてもライムとは打ち合わせはしたい。かと言って二人きりで同室というのも落ち着かない。セバスチョンと俺、ライムとセリカのペアで二人部屋を二つという選択肢もなくはないが、ライムとはまだ込み入った話が出来ていないからなあ……
 再び受付の人と交渉だ。

「じゃあ、三人部屋と一人部屋って空いてます?」
生憎あいにくと三人部屋はございません。一人部屋ならちょうど一室の空きはございますが……」
「じゃあ四人部屋と一人部屋でお願いします」
「畏まりました。お部屋のかぎはこちらです。お部屋までご案内致しますね」
「お願いします」

 受付とのやり取りを終えた俺はセバスチョンに一声かけた。

「おっさんは一人部屋でゆっくり休んでくれな」

 セバスチョンが会計を済ませたところで、俺達は受付の人に案内されて部屋へ向かう。セバスチョンが一人部屋、俺とライムとセリカが四人部屋だ。というか、執事が一人で個室を使うとか姫様より豪勢ごうせいな気がしないでもなかった。


 部屋に入ると、そこそこ広い空間にベッドが四つ並んでいた。そしてそれぞれのベッドのわきに小ぶりな机がある。食事をとったり手紙を書いたりする為のものだろうか。引き出しも付いていて、小物を収納する事も出来る。上着をかけたりするクローゼットは共同のようだ。
 それぞれが適当なベッドに腰掛けて一息ついた所で、俺はセリカに話しかけた。

「セリカ。あんた俺に鑑定使ったよな? で、鑑定スキル持ちのあんたに聞きたいんだが、この世界の一般的なステータスの数値ってどれくらいなんだ?」

 女神様に詰め込まれた情報のお陰である程度の知識は備わっているが、その情報に齟齬そごがないとは限らない。この世界に生きる人間からのなまの情報も必要だろう。

「一般成人男性が80から100前後です。訓練した騎士だと150前後でしょうか」

 セリカの答えに、女神様の知識は合ってたなと思いつつ、俺は苦笑した。俺とライムの二人で世界征服出来る気がする。やらないけどな。
 ライムが強硬きょうこうに俺との同室を主張したのは、このステータスを生かす方向性を相談したかったのだろう。その上で今後この異世界でどう生きていくか。確かに俺やライムの異常なステータスの話なんておおっぴらに出来ないから、宿の個室でこっそり、というのもうなずける。
 もう一度俺のステータスを確認してみよう。


 名 前:カズト・イトー
 称 号:シュヴァリエ(New!)
 耐久力:6930  魔 力:127000
 攻撃力:6690  防御力:5220
 敏捷性:7110
 スキル:【近接戦闘術Lv10】【気功術Lv10】【看破】【偽装】【魔力吸収】【戦闘指揮Lv5】


 お? 騎士との戦闘で少しステータスが上がってるな。それに称号とやらが新しく付与されてる。

「そういえばカズトさん、気功術って?」

 俺が称号の件を話す前に、ライムから質問が飛んできた。お互いにステータスの交換をした時からずっと気になっていたんだろう。
 馬車の中ではセリカの事情聴取がメインだったから、お互いのステータスに関しては話すタイミングがなかったんだよ。
 それにしても、これは俺も上手く説明出来るかどうか。

「俺達の世界では、体内を巡ってる『生命力』みたいなものを『気』って呼んでなかった? こっちの世界の『魔力』ってのは、まさに『生命力』そのものらしいんだ。動物であれ植物であれ、全ての命あるものには魔力が宿ってるんだと思う。気功術はそれを自在に操るスキルだね」
「なるほど~、気功術はカズトさんの有り余る『魔力』を糧に発動する技なんですね。魔力と気って別物かと思ってました。ていうか、魔力吸収でその辺の草木から魔力集めたら、カズトさんて実質ガス欠無しなんじゃ?」

 確かにライムの言う通り。でも、そもそも俺の桁違いの魔力が枯渇こかつするような状況は、御免被ごめんこうむりたいもんだけどな。

「ところで、ライムのステータスなんだけど」

 とりあえず話題をライムのステータスに持っていこう。森でステータスを交換した時に感じた印象を、ライムに伝えてみる。

「魔力多めだし魔法スキルが充実してる割には剣術Lv10とか。完璧なオールラウンダーだな。まさに勇者って感じの。ところで、聖属性ってどんな事が出来るのかな?」
「えーと……」

 少し悩むような素振りを見せた後、ライムが答えてくれた。

「ダメージを回復するヒール、それに敵のステータスを下げるデバフ、味方のステータスを上げるバフが使えるみたいです。ある程度、攻撃魔法もありますね」

 うわぁ……各種属性の攻撃魔法に接近戦では剣術があって、さらに回復系に補助系魔法とか、完璧か。これは使い勝手が良すぎて悩むな。

「あえて言えば、前衛は俺に任せてサポートかなぁ?」

 苦肉の策でライムにそう言うと、『仮にも勇者をサポートに回すとかどんだけ贅沢ぜいたくなんですか』って言いたそうな視線が返ってきた。だけど俺のステータスを考えるとなあ……前衛で身体張るのは俺の役目って事で納得してもらおう。
 そして俺は、新しく称号がステータスに追加されていた事をライムに話した。追加されたタイミングとしては、恐らくライムにステータス情報を流した直後だと思う。あの行為が、これからもライムを保護していくぞっていう決意表明になったんじゃないかな?

「シュヴァリエって、確か騎士って意味でしたよね!?」

 心なしかライムの目がキラキラしているぞ。

「あー、うん。こっちに来た直後にはなかったから、ライムを守るって決めてから新しく追加されたんだろう。勇者を守る騎士みたいな事で。その、よろしく?」
「えへへへ~」

 ライムがニヨニヨし始めた。なぜだ。
 まあこの辺りでステータスの話は一段落しただろう。俺は話題を変えた。

「あのさ、ライム。ここまでの風景やセリカの話を聞いて思った事があるんだけどさ」
「ああ、なんとなく予想は出来ます」

 ライムも同じ印象を持っていたようだ。

「この世界ってさ。俺達の世界とは違う歴史を歩んだ日本じゃないかな」
「それ、思いました! 風景は日本ぽいのに、建物や文化とかがヨーロッパ風ですごい違和感が」

 和風と洋風が融合ゆうごうしたようないびつな世界という印象は、俺とライムで共通していた。

「それに、オーシュー王国とかバンドー皇国って名称だよな。オーシューは奥州おうしゅう、バンドーは坂東ばんどう。昔は関東一帯を坂東って呼んでたらしいし、奥州の南に坂東ってのも地理的に一致する」
「ですよねー」

 結局ライムも同じ事を思っていたみたいだ。しかし、この世界が俺達の世界のパラレルワールドだとしても、現時点では地理的な話以外で役立つ事はあまりなさそうだな。
 さて、次はセリカをどうするか、なんだけど。

「おーい、セリカ姫さーん」
「すぴーすぴー」

 ……寝てやがる。

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