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しおりを挟む1 巻き込まれた異世界召喚
俺の名前は伊東一刀。年齢は二十四歳。傷心中である。
というのは、職場の同僚兼交際相手の女が自身の上司(妻子持ち)と浮気していた事実が発覚、その後いろいろあって、俺は仕事を辞める事になってしまったからだ。
自分で言うのも何だが、普段の俺は温厚で、沸点も高く滅多な事では怒らない。とはいえ流石に頭にきたので、文句のひとつでも言ってやろうと上司の元へ向かったところ、その時ヤツに言われた言葉にブチ切れてしまった。
「お前、あの女と別れろ。ゴネたらクビだぞ」
なぜ、社会的に間違った行為をしている人間から、圧力をかけられなければならないのか。こんな理不尽を許せる訳がない。
気付いた時には、ボコボコになった上司が土下座していた。
騒ぎを聞き付け集まってきた同僚達の中に交際相手だった女を見付けた。顔面蒼白だ。俺は極上の笑顔を彼女に向けながら、土下座中の上司の後頭部を踏み付ける事で、少し溜飲を下げた。
どうとでもなれと思っての行動だったため、冷静に考えると少しやりすぎた感もあったが、原因が原因だけに、上司側は俺を訴えることはしなかった。とはいえ、ここまでやってしまってはお咎めなしとはいかず、俺はクビになったというわけだ。
仕事と恋人を同時に失えば、落ち込みもするし気力も無くなる。
ということで、退職後しばらくは部屋に引きこもって、趣味に時間を費やす事にした。
なにせ俺はかなりの多趣味人間である。マンガやアニメなどのサブカルチャーからパチンコパチスロ、競馬。いくつかの楽器を嗜んだりバイクや車を乗り回したり。それから、スポーツ各種に格闘技。特に格闘技は、学生時代から空手を続けていたり合気道をかじったりと、いろいろやっている。
まあ、これだけ手を広げれば当然広く浅く、になるのだが。
そんな俺は最近、ファンタジー小説を読み耽っていた。
季節は晩秋、部屋の中の方が快適だったし外出する気力も湧かなかったから。
「あちゃー、タバコ切れたし」
仕方ないな、と溜息をついて厚手のパーカーを羽織り、近所、といっても徒歩五分くらいの場所にある自販機へと足を運ぶ。
「結構冷えるな……」
近くの高校の制服を着た少女が、手前のジュースの自販機の前で、どれにしようかな? と悩んでいる後ろを通り、奥の自販機でタバコを買う。
ガコン、ガコン、と二個まとめ買いして箱を取り出し、上体を起こそうとした時、異変に気付いた。
「おい! そこから離れろっ!」
「は? えっ? なに?」
俺が咄嗟に声を上げるも、飲み物を選ぶのに集中していた少女は異変に気付いていない。
そして俺が少女の方に手を差し伸べた時、彼女の足元を中心にして展開していた青く輝く円形の幾何学模様が、俺のいた場所にまで広がってくる。その直後、強い光が俺達二人を包み込んだ。
突然の事態に、俺は驚きと共に言葉を零す。
「これってさっきまで読んでた小説みたいな展開!?」
俺がさっきまで読んでいたのは、異世界召喚ファンタジーものだった。
何もない空間に、女性の声が響く。
「あなたは異世界召喚に巻き込まれました」
ほらね?
「あー、なんとなく察しました。えーと、あなたは神様? ですか? それに『巻き込まれた』っていうのは?」
俺は数メートル先に見えるヒトらしきモノに尋ねる。
後光が眩しすぎて容姿は分からないが、声から察するに女神様か。
それにしても、巻き込まれましたって、直球すぎて苦笑する。
「その認識で間違いありません。本来はあなたの側にいた少女が召喚対象だったのですが、あなたが召喚魔法陣の中に飛び込んでしまったのです」
「やっぱりそういう事だったんですね。このままじゃあの子が異世界にでも飛ばされちゃうんじゃないかと思って、助けようとしたんですけど」
それで俺も召喚されたんじゃ、本末転倒だけどな。
俺の物言いに、女神様は少しばかり感嘆したように言葉を続けた。
「こうなる事を予測していたにもかかわらず、己の危険を顧みずに少女を助けようとしたあなたの行動は高潔なものです。あなたに異世界を生き抜く力を授けましょう。本来なら召喚対象ではないあなたは、特別な力を持たずに異世界に転送されるはずだったのですが、それではあまりに理不尽でしょう」
「力を頂けるならありがたく。それで、その力を以て何かをなせと?」
「いいえ、あなたの思うがまま、自由に生きて構いません」
ふむ、召喚されてチート、かどうかはまだ分からないが、能力を貰う。でも義務が発生する訳ではなく、自由に行動しろと。
選択肢を間違えば魔王扱いされるとかありそうだな。衝動的に上司をボコボコにしてしまった件を思い出した俺は、自嘲気味に笑う。
「そういえば、あの子はどうなったんですか?」
気になってたんだよな、一応助けようとしたんだし。
「あの少女も、あなたと同じ場所に召喚されました。この先幾多の困難が待ち受けています……さて、そろそろあなたに力を授けましょう」
女神様はそう言うけど、なんだか答えになってないな。そんな事を考えた瞬間、猛烈な痛みが頭を襲った。
「ぐっ! があぁっっ!?」
なんだよこれ、頭に膨大な情報が詰め込まれてきてる! 脳みそがパンクしちまいそうだ!
「かっ……はっ……」
あまりの激痛に俺が意識を手放す間際。
「その力があれば、少女を救う事も出来るでしょう。ですが、それを決めるのはあなた自身です……」
女神の声が微かに聞こえた気がした。
いつの間にか地面に横たわっていた俺は、目を覚まして起き上がった。
「先に目覚めたのは俺か」
傍らでは制服姿の少女がすーすーと寝息を立てている。
さらに周囲を見渡してみたが、木しかない。木、木、木、まさに森である。木漏れ日がほどよい明るさにしてくれているし、澄んだ空気が心地よい。
「とりあえずっと」
俺は着ていたパーカーを脱ぎ、少女にかけてやる。
一応確認してみたけど、服装やら所持品は、召喚される直前のままだった。もちろんタバコもライターもある。こっちの世界には存在しないかもしれないから大事に吸わなきゃな、なんて思いながらも早速一本目に火を点ける。
さて、貰った『力』を確認するか。目覚める前、女神様から頭に詰め込まれた膨大な量の情報から、自分がどんな『力』を持っているかは理解出来た。
でも、頭で分かっていても身体が動かなきゃ意味がない。詰め込まれた情報によれば、ここは魔物も魔法もアリのヤバい世界らしいからな。
ましてやここは森の中だ。いつ魔物とエンカウントしてもおかしくない。どんなスキルを持っているかだけでも把握しておくべきだよな。
ということで確認してみた俺のステータスはこうだ。
名 前:カズト・イトー
称 号:なし
耐久力:6700 魔 力:126800
攻撃力:6500 防御力:5100
敏捷性:7000
スキル:【近接戦闘術Lv10】【気功術Lv10】【看破】【偽装】【魔力吸収】【戦闘指揮Lv5】
どうやらこの世界には、個人のレベルは存在せず、スキルにのみレベルが存在するようだ。
また、ステータスについてだが、耐久力はいわゆるヒットポイントに近いものらしい。他の項目は文字通り、ってところか。ちなみに、一般成人男性のステータスは平均100ってトコらしい。俺のステータスは高すぎないか?
そしてスキルだが……うん、俺、魔法スキル一個も持ってねぇ。
せっかく異世界来たのに魔法使えないのか……
他のスキルを見ていくと、まずは【近接戦闘術】。これは剣術や槍術、徒手格闘術など、接近戦のスキル全てを統合した上位スキルらしい。いいスキルだな。
それから【気功術】。これは体内の『気』を操作して、ビームや砲弾のように撃ち出す事が出来るスキルのようだ。『気』というのは生物が内包しているエネルギーの事で、この世界では『魔力』と表現するらしい。イメージ次第では攻撃だけじゃなく、防御や索敵にも使えそうだな。後で試してみよう。
そして【看破】。これは見たものの本質を読み取るスキル【鑑定】の上位版のようで、より詳細な情報を読み取る事が出来るらしい。対象のステータスだけでなく、こちらに敵意があるかどうかや嘘をついているかなども見抜けるというから驚きだ。
次に【偽装】。これは自分のステータスや所持品などの情報を、偽装する事が出来るスキルだ。これは鑑定では破れない。
その次、【魔力吸収】。周囲の魔力を文字通り吸収する事が出来る。自然界に漂っているという魔力だけでなく、その気になれば動植物が内包する魔力すらも奪う事が可能だ。動植物から吸収する時は直接触れる必要があるみたいだけど、かなり強力なスキルだな。
最後に【戦闘指揮】。これは仲間と共に戦闘する際に、俺の意思を仲間に反映出来るスキルらしいが……ちょっとピンと来ないな。これに関しては後回しにしとくか。
ちなみにステータスは、身体接触により任意の相手に開示する事が可能なようで、鑑定スキルを持っていない相手に自分のステータスを知らせる時には有効だ。まあ、戦闘時なんかは手の内が知られてたら死活問題だから、あんまやらんよな。
さて、俺達がこの世界に飛ばされてどれくらいの時間気を失っていたのかは分からないが、召喚した連中が俺達を放置するとは考えにくい。理不尽な事は受け入れるつもりはないから、その場合は荒事になる可能性もある。
ということで、とりあえず今はスキルの訓練をしておくべきだろう。
集中する。イメージを固める。身体中の魔力を右手に集め、右の掌から放射してみる。
……おお? 白く光る球体が出現したぞ!
よし、次は形状を変えるイメージだな。球体から円錐形へ。大丈夫、出来た。
さらに円錐を射出するイメージ。右掌を前方に突き出す。円錐は掌から三センチほど離れた場所をキープしている。
「飛んでけ!」
俺の言葉に、ドヒュン! という射出音と共に円錐形の魔力はすっ飛んで行き、数十メートル先の岩を粉砕した。
「うおぅ……なんかスゲーんだけど威力調整が必要だな、こりゃ……流石にちょっと強すぎる」
さて、次は魔力を全身に纏ってみる。鎧代わりに防御障壁を展開しようって目論見だったんだが……あっさり上手くいった。訓練も兼ねてこのまま常時展開させておこう。なんか全身がうっすらと光ってる気がするけどまあいいや。
そして索敵にも応用してみよう。今度は、魔力を足元から薄く広げていくイメージ。
周囲に広げた俺の魔力のエリアに俺以外の魔力の持ち主が入り込んでくれば、それを『異物』として認識出来る。その異物に看破をかければ敵味方の判別まで出来そうだ。
この索敵エリアは、網膜に地図を直接表示されているような感覚だ。
普段は異物は白い光点にしておいて、看破をかけて、敵意があるなら赤い光点で、こちらに友好的なら青い光点で表示させてみるか。
急に襲われる可能性もあるし、防御障壁と一緒に、索敵も常時展開していた方が良さそうだな。
そうして魔力の防御障壁を纏い、索敵エリアを構築した俺は、手にしたステータスでの動きを確認するべく、身体を動かし始めた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
少女は足元からの光に呑み込まれた直後、白い世界にいた。
女神は少女に、勇者召喚によって異世界に連れて行かれるのだと告げた後、こう言葉を続けた。
「あなたが目覚めた時、近くにあなたを助けようとして巻き込まれた青年がいるはずです。青年と信頼関係を築く事が出来たなら、彼はあなたの助けとなるでしょう」
荘厳な光が逆光となり、女神の姿は朧気にしか見えなかったが、慈しみに満ちた声は確かに少女に届いていた。
そして少女もカズトと同様に、膨大な情報を詰め込まれると、気を失った。
「これって……光に包まれた時に私を助けようとしてくれたっていうお兄さんが着ていたパーカー……?」
目を覚ました少女は、自分の物ではない、しかし自分の身体を覆っていたパーカーに気付く。そして周囲に視線を巡らせると、ほどなくして青年の姿を見付けた。
そして見入ってしまった。
彼の全身が、ぼんやりとした白い光で覆われていたからだ。
この深い森の中で光る姿は幻想的に思えた。
あの動きは拳法とか空手とか、そんな格闘技の型だろうか? 左右の突きや回し蹴り、全てが鋭く、そして滑らかだ。
少女は格闘技の事はよく分からないが、ただ『美しい』と思った。いつまでも見ていたかったが、少女は青年の『演舞』が終わるまで自分のステータスを確認する事にした。
そして与えられた知識とステータスを照らし合わせている途中、ふと、少女は女神の言葉を思い出して、声を上げた。
「あの人は私を助けようとして巻き込まれたんだ。見ず知らずの私の為に……そうだ! 謝らなくちゃ!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
お、どうやら少女が目覚めたようだな。こっちも一段落ついたし少し休むか。
俺が動きを止めるのを待っていたのか、少女がこっちに小走りで向かってきた。
「あ、あああああのっ! 巻き込んじゃったみたいでゴメンナサイッッ! それからこのパーカー、ありがとうございましたっ!」
目の前に来るなり、深々と頭を下げられてしまった。
「いや、えーと、別に怒ってないからとりあえず落ち着こうか。それから、今の状況は理解出来てる?」
「はい、ステータスやスキルの確認もしました。私、ファンタジー小説とか好きでよく読んでたんで、割とアッサリこの状況受け入れちゃいました!」
てへっと舌を出し笑う少女。なにこの可愛い生き物! そういえばまともに顔を見たのは今が初めてだけど、むっちゃ美少女だよ!
「そういうお兄さんもすごく落ち着いてますね」
「ああ、俺も割とその手の小説読んだからなー。まあ、なんとかなるでしょ」
何でもないように少女に答えたが、実のところ、それほど楽観的な状況ではなかった。
つい先ほど、展開していた索敵エリアに侵入してくる者がいたのだ。
美少女との会話にデレそうになった俺だけど、気を引き締め直して彼女に言う。
「俺らを拉致った犯人の関係者が来たみたいだよ」
俺の言葉に目の前の少女の顔が強張った。いくら状況を受け入れたといっても、やっぱ緊張するよな……
数分後、見えてきたのはフルプレートメイルにランスや剣で武装した十騎の騎馬隊と、馬車が一台だった。小奇麗な身なりの御者が一人に、中にもう一人か。
「さて、テンプレだとこのままお城に連行されて、お願いという名の強制労働が待ってると思うんだ。魔王を倒してこい、とかさ。どうしたモンかな」
「やっぱそうですよね? ここはお兄さんに任せていいですか? 上目遣いでお願いしちゃいますっ!」
結構あざといなこの子! けどまあ、女の子にいきなり戦闘させる訳にもいかねえよなぁ。
「とりあえず俺の後ろに隠れて、怯えてるフリでもしててくれ」
「いやいやいや! フツーに怖いですって! フリじゃなくてマジで怯えてますからっ!」
そうかな? 結構ノリノリに見えるんだけどなぁ……
さて、俺の今後の予定は、この騎士連中と後ろの馬車に乗ってる人の態度次第で変わってくるんだが……
俺はスキルの一つ、看破を発動しておく。コレを使って対象を見れば、情報が丸裸になる。
ついでにもうひとつ、偽装も発動。あちらが俺に鑑定をかけても、連中からは俺のステータスがゴミクズ同然に見えるようにした。本当のステータスを見られたら騒ぎになりそうだからな。
やがて近付いてきた騎士達は、俺達の前方で包囲するように半円形に展開した。
そして馬車の扉が開き、人影が出てくる。コイツが俺達を召喚した黒幕か……って、また美少女じゃん!
2 召喚の黒幕と彼女の事情
うん、見た目は美少女なんだけどな。シルバーブロンドの長い髪とダークブラウンの瞳。歳の頃は十六、七くらい、着ている服は豪華だし、多分お姫様だろう。蔑むような視線に、口元には人を小馬鹿にするような薄ら笑いを浮かべている。せっかくの美少女がいろいろと台無しだ。恐らく俺を鑑定したんだな。
索敵エリアに映るお姫さんの光点は、既に敵対を表す赤色になっている。
「貴様は何者か? 貴様のようなゴミが勇者であるはずがない。であれば、私が召喚したのは後ろにいる小娘のはずだが」
さらにその台詞の直後、護衛のヤツらの反応も赤い光点に変わった。
そもそも、この誘拐犯御一行は俺に鑑定をかけるまでは中立反応だった。
そりゃそうか、コイツら、俺の後ろの美少女ちゃんを回収しに来たんだろうからな。俺の存在は完全にイレギュラーだったはずだ。
さて、お姫さんに何者かを問われたので、一応返事だけでもしておこう。
「俺? この子の保護者みたいなもんだよ。誘拐されそうになってたトコを助けようとしたら、巻き込まれて俺も誘拐されちゃったんだよな」
わざと挑発的に言ってやる。
「……なるほど。本来であれば城内に召喚されるはずが、このような離れた場所に転移するとは……貴様のようなゴミが邪魔したおかげか。探知魔法でここを探し当てるのは骨が折れたぞ? 一日がかりで移動してきたわ」
いや、俺が邪魔したとか言われてもな。むしろ女神様が気を利かせて転移場所をズラしてくれたんじゃないかなぁ?
このお姫さんの態度からして、城内に転移してたら、ステータスやスキルの確認をする暇もなく拘束されてた可能性が高いもんな。
それにしてもこいつらが一日がかりで移動してきたっていうのが本当なら、俺達は随分長い時間、無防備に気を失っていた事になるけど……無事だったのも女神様のお陰かもしれない。もしそうならマジ感謝だ。
「で? 俺達をどうするつもりだ?」
一応予想は付いているが、俺はお姫さんに問いかけてみた。
「小娘は連れ帰って我らの手駒になってもらう。しかし貴様のようなゴミはいらん。ここで死ぬがいい」
お姫さんがそう吐き捨てるや否や、護衛騎士達が俺の方に殺到してくる。殺気は本物、殺す気で来てるな。向こうがその気なら、こっちも容赦はしない。
俺の背後で美少女ちゃんが身体を強張らせるのが伝わってきた。
「あー、ちょっとアレな光景が広がると思うから、目瞑って耳塞いでしゃがんでてくれる? 大丈夫、この場は俺が何とかするから」
俺は後ろの美少女ちゃんに声をかけ、気功術で円錐形のエネルギー体を十発作り出し浮遊させる。どうやらそれぞれに意識をリンクさせておけば、遠隔操作は可能みたいだな。この技はマジックミサイルと名付けよう。
十発というのは護衛騎士と同じ数。一人に一発ずつ射出してやる。
――パシュンパシュンパシュン!
大気を切り裂き射出されたマジックミサイルは、向かってくる騎士達のプレートメイルを貫通し爆散した。
ドゴッという骨肉が破壊される嫌な音が十人分。続いてガシャッガシャッという鎧騎士が落馬する音も十人分。
さて、あとは目を見開いて硬直しているムカつくお姫さんだな。
とりあえず腹パン一発かまして気絶させて、馬車の中に放り込んだ。
暴れられても困るので、馬車にあったロープと布で簀巻きにしてやった。このロープって多分、美少女ちゃんを拘束する為に準備してたんだろうな。
あれ? 御者の人? 腰抜かして震えてるけど、アンタは殺さないから。だって俺馬車動かせないし。だから逃げるなよ? と睨みつけておく。
それからえーと……美少女ちゃんも回収しなくちゃ。
「おーい。終わったぞー」
「えっ? あ、はい……」
美少女ちゃんは俺の言葉にビクッとした後、周囲を見回しペタンと座り込む。
あー、直接戦闘シーンは見ていないにしても、騎士の遺体がそこらに転がってるもんなー。
「どうした? 立てるか? 腰でも抜けた?」
俺はそう言って美少女ちゃんに手を差し伸べるが――
「あ、はい、その……」
「ん? 気分悪くなった?」
美少女ちゃんは俯いてモジモジし始めた。大丈夫か?
「た、立てません……」
顔を上げると意を決した表情でそう言い放った彼女は、顔を真っ赤にしてまた俯いた。
「ん、まあ、こんな状況だし仕方ないよ。うん。それより、ちょっとゴメンな?」
「えっ? ちょっ! ダメッ! ヤダッ!」
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「もう、お兄さん強引です……私、重くないですか?」
「全然大丈夫だけど?」
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「お兄さんて、優しいんですね! 敵には容赦無いですけど! あれ? どこに行くんですか?」
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「ああ、ちょっと武器調達に。ほら、俺ら丸腰だからな、騎士共の武器を拝借してくるよ。あとは小物とか金とか、いろいろ必要なモンはあるだろ?」
俺は美少女ちゃんにそう言って安心させると、未だ震えている御者のおっさんにも声をかけた。
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