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大陸の闇編
世界に迷惑を振り撒く奴
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敵の船団の中でも一番大きな船を一隻だけ残し、俺はその船の甲板に舞い降りる。イセカイ号も接舷しようと近付いているな。
「この船に大将がいるんだろ?出て来い」
俺の問いに答える者はおらず、兵達は遠巻きに俺を取り囲むだけだ。
「仕方ないな。通らせてもらうぞ」
一歩踏み出しただけで進行方向を塞いでいた兵達の人垣が割れていく。完全に心が折られているな。面倒がなくていい。そのまま俺は艦橋へと乗り込んでいった。
「ひっ、ひぃっ!」
艦橋の中を見渡すと、一際立派なシート…恐らく司令官用の席だろう。その豪華な造りの背もたれの影に隠れる様に蹲っていたこれまた立派な口髭を蓄えた男がいた。
「お前がこの軍の指揮官か?」
「…」
冷や汗を流しガクブルになりながら頷く事だけでどうにか意思表示をしている。こんなんで話を聞けるか?
「おい、話を聞かせろ」
「……な、なんだ?」
どうにか聞き出せそうか?
「お前らはチンゼイとヘイアンを攻撃した兵力を五万以上失っている。なのになぜまだ喧嘩を売ってくる?」
「し、神王様は嵐などの天災によって全滅したと考えておられるのだ。このような島国の兵と戦って負ける訳がないと」
やっぱりか。俺達を舐め過ぎて現実を認められないバカヤロウだったか。
「それで、一軍を率いて来たお前はこのまま継戦する事についてどう思う?」
「神王様は十七万に及ぶ本隊で半島から出撃する準備を整えておられる。もう止められないだろう」
「お前が行って止めて来いよ。そうすりゃこの場は見逃してやるが?」
「……無駄だ。三万の兵がたった一隻の、しかも十人かそこらの敵兵に全滅させられたなどと聞いて、貴様は信じられるのか?逆に無能と罵られ処刑されて終わりよ」
なるほどな、と納得してしまう。普通で考えれば三万の軍を全滅させるのにどれだけの兵力が必要か。そんな兵力を狭い島国の中でさらに小国が乱立し群雄割拠しているような状態で捻出出来るとは考えにくい。まして緒戦でチンゼイ包囲をした頃はこっちの水上戦力など物の数では無かっただろうしな。
「神王ってのはどんなヤツだ?」
「詳細は不明だ。突如現れ大陸を瞬く間に制覇した英傑だ。政治には全く興味を示さず制圧した地域も部下に適当に任せておいでだ。よって任された部下の資質によって制圧下の人民の生活は大きく異なる」
「ふうん?反乱とか起きそうなんだが?」
「…頻発しておる。だが神王様は部下が善政を行おうが悪政を行おうが興味は無い様だ」
どういう事だ?興味がないなら何故戦争を起こす?普通は何か理由があるだろ。あの土地が欲しいとか隣の国は異教徒だとか君主が気に入らねえとか。
「興味がないで済まされたら攻め込まれた国はたまったもんじゃねえだろ。無責任にも程があるだろ。誰も止めようとはしなかったのか?」
「神王様のお考えなど我らは知らん。ただ逆らえば殺される。神王様は個としてもお強い。誰にも止められぬ。制圧し、滅ぼし、女を攫い、次の標的を定める。その事だけを繰り返し、我らはそれに従うのみ」
なんて迷惑なヤツなんだ神王!今聞いた話じゃ世界中の女攫うのが目的としか思えねえ!そんな理由で戦争吹っ掛けられた国が憐れで涙を誘うな。
「よし、決めた!殺そう!」
「は?」
司令官が呆けた顔で見上げて来る。
「神王とかいうバカは俺が世界から消滅させると言っている」
「だがそんな事をすれば大陸が乱れるぞ!」
「知るかそんなもん。俺は自分の大事なもんを守れりゃそれでいい。大陸の事なんざ知った事か」
「貴様のような人外が大陸を治めればよいのではないか!?」
誰がするかそんな事。俺はライムや仲間達と毎日面白おかしく暮らしたいんだよ。しかもさらっと人外とか言いやがった。
「そんなもんやりたい奴がやればいい。その上で俺にちょっかい掛けて来るならやるだけだ。おい爺さん。俺はこれから半島に向かい神王とかいうバカを殺す。お前は生かしてやるからよく考えて行動しろ。戻って敵対するもよし。神王を止めるもよし。そして……」
「神王が死んだ後の事を考えて動くもよしだ」
面倒事を引き受けてくれそうなヤツ、出て来ねえかなっていう淡い期待だな。
「この船に大将がいるんだろ?出て来い」
俺の問いに答える者はおらず、兵達は遠巻きに俺を取り囲むだけだ。
「仕方ないな。通らせてもらうぞ」
一歩踏み出しただけで進行方向を塞いでいた兵達の人垣が割れていく。完全に心が折られているな。面倒がなくていい。そのまま俺は艦橋へと乗り込んでいった。
「ひっ、ひぃっ!」
艦橋の中を見渡すと、一際立派なシート…恐らく司令官用の席だろう。その豪華な造りの背もたれの影に隠れる様に蹲っていたこれまた立派な口髭を蓄えた男がいた。
「お前がこの軍の指揮官か?」
「…」
冷や汗を流しガクブルになりながら頷く事だけでどうにか意思表示をしている。こんなんで話を聞けるか?
「おい、話を聞かせろ」
「……な、なんだ?」
どうにか聞き出せそうか?
「お前らはチンゼイとヘイアンを攻撃した兵力を五万以上失っている。なのになぜまだ喧嘩を売ってくる?」
「し、神王様は嵐などの天災によって全滅したと考えておられるのだ。このような島国の兵と戦って負ける訳がないと」
やっぱりか。俺達を舐め過ぎて現実を認められないバカヤロウだったか。
「それで、一軍を率いて来たお前はこのまま継戦する事についてどう思う?」
「神王様は十七万に及ぶ本隊で半島から出撃する準備を整えておられる。もう止められないだろう」
「お前が行って止めて来いよ。そうすりゃこの場は見逃してやるが?」
「……無駄だ。三万の兵がたった一隻の、しかも十人かそこらの敵兵に全滅させられたなどと聞いて、貴様は信じられるのか?逆に無能と罵られ処刑されて終わりよ」
なるほどな、と納得してしまう。普通で考えれば三万の軍を全滅させるのにどれだけの兵力が必要か。そんな兵力を狭い島国の中でさらに小国が乱立し群雄割拠しているような状態で捻出出来るとは考えにくい。まして緒戦でチンゼイ包囲をした頃はこっちの水上戦力など物の数では無かっただろうしな。
「神王ってのはどんなヤツだ?」
「詳細は不明だ。突如現れ大陸を瞬く間に制覇した英傑だ。政治には全く興味を示さず制圧した地域も部下に適当に任せておいでだ。よって任された部下の資質によって制圧下の人民の生活は大きく異なる」
「ふうん?反乱とか起きそうなんだが?」
「…頻発しておる。だが神王様は部下が善政を行おうが悪政を行おうが興味は無い様だ」
どういう事だ?興味がないなら何故戦争を起こす?普通は何か理由があるだろ。あの土地が欲しいとか隣の国は異教徒だとか君主が気に入らねえとか。
「興味がないで済まされたら攻め込まれた国はたまったもんじゃねえだろ。無責任にも程があるだろ。誰も止めようとはしなかったのか?」
「神王様のお考えなど我らは知らん。ただ逆らえば殺される。神王様は個としてもお強い。誰にも止められぬ。制圧し、滅ぼし、女を攫い、次の標的を定める。その事だけを繰り返し、我らはそれに従うのみ」
なんて迷惑なヤツなんだ神王!今聞いた話じゃ世界中の女攫うのが目的としか思えねえ!そんな理由で戦争吹っ掛けられた国が憐れで涙を誘うな。
「よし、決めた!殺そう!」
「は?」
司令官が呆けた顔で見上げて来る。
「神王とかいうバカは俺が世界から消滅させると言っている」
「だがそんな事をすれば大陸が乱れるぞ!」
「知るかそんなもん。俺は自分の大事なもんを守れりゃそれでいい。大陸の事なんざ知った事か」
「貴様のような人外が大陸を治めればよいのではないか!?」
誰がするかそんな事。俺はライムや仲間達と毎日面白おかしく暮らしたいんだよ。しかもさらっと人外とか言いやがった。
「そんなもんやりたい奴がやればいい。その上で俺にちょっかい掛けて来るならやるだけだ。おい爺さん。俺はこれから半島に向かい神王とかいうバカを殺す。お前は生かしてやるからよく考えて行動しろ。戻って敵対するもよし。神王を止めるもよし。そして……」
「神王が死んだ後の事を考えて動くもよしだ」
面倒事を引き受けてくれそうなヤツ、出て来ねえかなっていう淡い期待だな。
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