いや、自由に生きろって言われても。

SHO

文字の大きさ
上 下
229 / 240
大陸の闇編

世界に迷惑を振り撒く奴

しおりを挟む
 敵の船団の中でも一番大きな船を一隻だけ残し、俺はその船の甲板に舞い降りる。イセカイ号も接舷しようと近付いているな。

 「この船に大将がいるんだろ?出て来い」

 俺の問いに答える者はおらず、兵達は遠巻きに俺を取り囲むだけだ。

 「仕方ないな。通らせてもらうぞ」

 一歩踏み出しただけで進行方向を塞いでいた兵達の人垣が割れていく。完全に心が折られているな。面倒がなくていい。そのまま俺は艦橋へと乗り込んでいった。

 「ひっ、ひぃっ!」

 艦橋の中を見渡すと、一際立派なシート…恐らく司令官用の席だろう。その豪華な造りの背もたれの影に隠れる様に蹲っていたこれまた立派な口髭を蓄えた男がいた。

 「お前がこの軍の指揮官か?」

 「…」

 冷や汗を流しガクブルになりながら頷く事だけでどうにか意思表示をしている。こんなんで話を聞けるか?

 「おい、話を聞かせろ」

 「……な、なんだ?」

 どうにか聞き出せそうか?

 「お前らはチンゼイとヘイアンを攻撃した兵力を五万以上失っている。なのになぜまだ喧嘩を売ってくる?」

 「し、神王様は嵐などの天災によって全滅したと考えておられるのだ。このような島国の兵と戦って負ける訳がないと」

 やっぱりか。俺達を舐め過ぎて現実を認められないバカヤロウだったか。

 「それで、一軍を率いて来たお前はこのまま継戦する事についてどう思う?」

 「神王様は十七万に及ぶ本隊で半島から出撃する準備を整えておられる。もう止められないだろう」

 「お前が行って止めて来いよ。そうすりゃこの場は見逃してやるが?」

 「……無駄だ。三万の兵がたった一隻の、しかも十人かそこらの敵兵に全滅させられたなどと聞いて、貴様は信じられるのか?逆に無能と罵られ処刑されて終わりよ」

 なるほどな、と納得してしまう。普通で考えれば三万の軍を全滅させるのにどれだけの兵力が必要か。そんな兵力を狭い島国の中でさらに小国が乱立し群雄割拠しているような状態で捻出出来るとは考えにくい。まして緒戦でチンゼイ包囲をした頃はこっちの水上戦力など物の数では無かっただろうしな。

 「神王ってのはどんなヤツだ?」

 「詳細は不明だ。突如現れ大陸を瞬く間に制覇した英傑だ。政治には全く興味を示さず制圧した地域も部下に適当に任せておいでだ。よって任された部下の資質によって制圧下の人民の生活は大きく異なる」

 「ふうん?反乱とか起きそうなんだが?」

 「…頻発しておる。だが神王様は部下が善政を行おうが悪政を行おうが興味は無い様だ」

 どういう事だ?興味がないなら何故戦争を起こす?普通は何か理由があるだろ。あの土地が欲しいとか隣の国は異教徒だとか君主が気に入らねえとか。

 「興味がないで済まされたら攻め込まれた国はたまったもんじゃねえだろ。無責任にも程があるだろ。誰も止めようとはしなかったのか?」

 「神王様のお考えなど我らは知らん。ただ逆らえば殺される。神王様は個としてもお強い。誰にも止められぬ。制圧し、滅ぼし、女を攫い、次の標的を定める。その事だけを繰り返し、我らはそれに従うのみ」

 なんて迷惑なヤツなんだ神王!今聞いた話じゃ世界中の女攫うのが目的としか思えねえ!そんな理由で戦争吹っ掛けられた国が憐れで涙を誘うな。

 「よし、決めた!殺そう!」

 「は?」

 司令官が呆けた顔で見上げて来る。

 「神王とかいうバカは俺が世界から消滅させると言っている」

 「だがそんな事をすれば大陸が乱れるぞ!」

 「知るかそんなもん。俺は自分の大事なもんを守れりゃそれでいい。大陸の事なんざ知った事か」

 「貴様のような人外が大陸を治めればよいのではないか!?」

 誰がするかそんな事。俺はライムや仲間達と毎日面白おかしく暮らしたいんだよ。しかもさらっと人外とか言いやがった。

 「そんなもんやりたい奴がやればいい。その上で俺にちょっかい掛けて来るならやるだけだ。おい爺さん。俺はこれから半島に向かい神王とかいうバカを殺す。お前は生かしてやるからよく考えて行動しろ。戻って敵対するもよし。神王を止めるもよし。そして……」







 「神王が死んだ後の事を考えて動くもよしだ」

 面倒事を引き受けてくれそうなヤツ、出て来ねえかなっていう淡い期待だな。

 

しおりを挟む
感想 591

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。