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大陸の闇編
どこまで続く?味方のターン:ソアラのフェイズそしてユキのフェイズ
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ソアラは水弾砲の砲座に座り巧みに砲座を旋回させながら砲身の仰角を調節し、照準を定める。
〈ドゥッ!!〉
最大威力での砲撃は魔法や攻城兵器ですら届かない距離の敵を粉砕する。長距離であればある程命中させるのは難しいのだがソアラはなんでもない事のようにやってのける。
「いい腕じゃの、ソアラちゃんや」
「いいえ、私など御老体に比べればまだまだひな鳥のようなものですよ」
「ほっほっほ。謙遜も過ぎれば嫌味に聞こえるぞい」
「滅相も無い。御老体と千代女殿にはまだまだ及びません」
〈ドゥッ!〉
下でバリスタを撃っている段蔵と軽口を叩きながらもう一発放ち大型船を撃沈するソアラ。砲撃しながらソアラは思う。カズトに拾われた幸運を。
ソアラはこれまでの人生の大半を闇の世界で生きてきた。孤児院で暮らしていたが裏組織に買われ過酷な訓練を受ける。同じような境遇の少女達が集められ、肩を寄せ合って耐えて来た。主な任務は敵対勢力への潜入、諜報、暗殺。貴族が表立って出来ない汚れ仕事を一手に請け負うのが自分達の仕事だった。
こういった仕事をこなすには多くの知識と技術が必要になる。街娘、農民の子、冒険者、貴婦人、娼婦。それらになり切る為の訓練は戦闘技術を磨く以上に過酷だった。いつしかソアラは才覚を認められクノイチという女性ばかりの裏組織の頭領となっていた。それなりに有力な貴族のお抱えとなり、寝食に困る事は無くなった。反吐が出るような命令ばかりをこなす必要はあったが。
配下の娘達を引き連れて王都を離れる任務に就いていたソアラたちが王都に帰還した日、セリカ王女がクーデターを成功させ、自分達を雇っていた貴族は失脚し、支援組織も壊滅していた事を知る。
(民の事を思えばこれで良かったのかも知れないな)
セリカならば世の中を変えてくれるだろう。自分達のような存在が必要ない世の中がくればいい。そう思う。しかし自分に従ってくれる娘達はどうすればいいのだろう。
(今回のクーデターの立役者の首、国王派の貴族へ持っていけば…)
それがカズトとの出会いだった。触れる事すら出来ずに捕縛され、自分達の境遇と凶行に至った経緯を話す。カズトは許してくれた。厳しい言葉も浴びせられたがそれは彼なりの優しさと照れ隠しだった事はバレバレだった。敵ですら包み込む包容力と優しさと器の大きさに惹かれたソアラは配下を率いてカズトの元へ降る。
「我らクノイチ二十人分の命の重さ、こんな事では返せません。5号ちゃん、砲台を頼みますよ」
ソアラはゴーレム5号ちゃんに砲台を預け、自らは敵船団へ突入し乱舞していた。
「ま、ソアラは身軽さが身上だ。混乱に乗じてサクッとやるのは得意だからな。それにしてもゴーレムって大砲まで撃てるのか…」
カズトはゴーレムの多芸振りに舌を巻いていた。
ひと時も同じ場所には留まっていない。恐るべき運動性能とステルス性能。死角から死角へと動き回り、敵は攻撃された事すら認識出来ずに事切れる。忍刀で突き、苦無を飛ばし、同士討ちを誘い、姿をくらます。
「ふ。相も変わらず戦の中に身を置く生活だと言うのに…何と満たされた日々か」
敵の攻撃を伸身宙返りで躱し両手に三本ずつ握られた苦無が着地と同時に放たれる。波に揺れる船上の不安定さなどまるで関係がないようだ。
〈がっ!〉
〈ぐああっ!〉
放たれた六本の苦無は全て別々の敵兵の眉間を貫き、倒れ伏す敵には目もくれず次の敵を求めて飛ぶ。
「ユキ、突出しすぎだぞ」
「分かっているよ。だがテルが私を一人にする訳がない。だからどこまでも行ける」
ユキは戦国時代の忍び。可憐な見た目から想像できないが、戦国最強の忍びと言われる加藤段蔵と望月千代女の二人を相手取りてこずらせる程の腕利きだ。何の因果か敵として戦っていた段蔵と千代女諸共この世界に飛ばされた。満身創痍の状態で魔物に襲われている所をテルに救われ、それからカズトと出会った。ユキにとっては二人共恩人である。テルにとってもカズトは恩人だ。
「恩人の為にこの技を振るえるというのは嬉しいものだな、テル」
「ああ。生き残る為とか任務だからって理由じゃない。友の為ってのがいい」
主君の命令だから憎くもない敵を殺す。罪もない人間を罠に嵌める。主君の意向次第では昨日の敵は今日は友になり、今日の友は明日には敵になる。戦国の戦とはそんなものだ。敵だ、味方だといって特に感情は抱かない。現に殺し合いを演じた段蔵も千代女も今はカズトの傘下で味方になっているが思う所はない。いや、むしろ仲間意識すらある。カズトの仲間達と縁を結び、彼等に仇為す者あらば排除したい。そんな気持ちになっている自分がなんだかこそばゆい。カズトの下では仲間はどこまで行っても仲間だ。仲間の為だから戦える。そうでなければ三万の敵に突っ込めるものか。
「友の為、か。いいな。カズト殿の敵は私達にとっても憎き敵だ。いくぞ、旦那様よ!」
にぃっと笑みを浮かべ敵の中へ切り込んで行くユキ。
「表情が豊かになったのはいい事だよな?こんな戦場のど真ん中だとしても」
苦笑を浮かべテルは妻の後を追った。
「あの夫婦は最凶だな…忍術と超能力の組み合わせってどんだけだよ。あ、あいつらは連れてないんだな」
カズトはユキ達がゴーレムを連れていない事にこっそり安堵していた。
〈ドゥッ!!〉
最大威力での砲撃は魔法や攻城兵器ですら届かない距離の敵を粉砕する。長距離であればある程命中させるのは難しいのだがソアラはなんでもない事のようにやってのける。
「いい腕じゃの、ソアラちゃんや」
「いいえ、私など御老体に比べればまだまだひな鳥のようなものですよ」
「ほっほっほ。謙遜も過ぎれば嫌味に聞こえるぞい」
「滅相も無い。御老体と千代女殿にはまだまだ及びません」
〈ドゥッ!〉
下でバリスタを撃っている段蔵と軽口を叩きながらもう一発放ち大型船を撃沈するソアラ。砲撃しながらソアラは思う。カズトに拾われた幸運を。
ソアラはこれまでの人生の大半を闇の世界で生きてきた。孤児院で暮らしていたが裏組織に買われ過酷な訓練を受ける。同じような境遇の少女達が集められ、肩を寄せ合って耐えて来た。主な任務は敵対勢力への潜入、諜報、暗殺。貴族が表立って出来ない汚れ仕事を一手に請け負うのが自分達の仕事だった。
こういった仕事をこなすには多くの知識と技術が必要になる。街娘、農民の子、冒険者、貴婦人、娼婦。それらになり切る為の訓練は戦闘技術を磨く以上に過酷だった。いつしかソアラは才覚を認められクノイチという女性ばかりの裏組織の頭領となっていた。それなりに有力な貴族のお抱えとなり、寝食に困る事は無くなった。反吐が出るような命令ばかりをこなす必要はあったが。
配下の娘達を引き連れて王都を離れる任務に就いていたソアラたちが王都に帰還した日、セリカ王女がクーデターを成功させ、自分達を雇っていた貴族は失脚し、支援組織も壊滅していた事を知る。
(民の事を思えばこれで良かったのかも知れないな)
セリカならば世の中を変えてくれるだろう。自分達のような存在が必要ない世の中がくればいい。そう思う。しかし自分に従ってくれる娘達はどうすればいいのだろう。
(今回のクーデターの立役者の首、国王派の貴族へ持っていけば…)
それがカズトとの出会いだった。触れる事すら出来ずに捕縛され、自分達の境遇と凶行に至った経緯を話す。カズトは許してくれた。厳しい言葉も浴びせられたがそれは彼なりの優しさと照れ隠しだった事はバレバレだった。敵ですら包み込む包容力と優しさと器の大きさに惹かれたソアラは配下を率いてカズトの元へ降る。
「我らクノイチ二十人分の命の重さ、こんな事では返せません。5号ちゃん、砲台を頼みますよ」
ソアラはゴーレム5号ちゃんに砲台を預け、自らは敵船団へ突入し乱舞していた。
「ま、ソアラは身軽さが身上だ。混乱に乗じてサクッとやるのは得意だからな。それにしてもゴーレムって大砲まで撃てるのか…」
カズトはゴーレムの多芸振りに舌を巻いていた。
ひと時も同じ場所には留まっていない。恐るべき運動性能とステルス性能。死角から死角へと動き回り、敵は攻撃された事すら認識出来ずに事切れる。忍刀で突き、苦無を飛ばし、同士討ちを誘い、姿をくらます。
「ふ。相も変わらず戦の中に身を置く生活だと言うのに…何と満たされた日々か」
敵の攻撃を伸身宙返りで躱し両手に三本ずつ握られた苦無が着地と同時に放たれる。波に揺れる船上の不安定さなどまるで関係がないようだ。
〈がっ!〉
〈ぐああっ!〉
放たれた六本の苦無は全て別々の敵兵の眉間を貫き、倒れ伏す敵には目もくれず次の敵を求めて飛ぶ。
「ユキ、突出しすぎだぞ」
「分かっているよ。だがテルが私を一人にする訳がない。だからどこまでも行ける」
ユキは戦国時代の忍び。可憐な見た目から想像できないが、戦国最強の忍びと言われる加藤段蔵と望月千代女の二人を相手取りてこずらせる程の腕利きだ。何の因果か敵として戦っていた段蔵と千代女諸共この世界に飛ばされた。満身創痍の状態で魔物に襲われている所をテルに救われ、それからカズトと出会った。ユキにとっては二人共恩人である。テルにとってもカズトは恩人だ。
「恩人の為にこの技を振るえるというのは嬉しいものだな、テル」
「ああ。生き残る為とか任務だからって理由じゃない。友の為ってのがいい」
主君の命令だから憎くもない敵を殺す。罪もない人間を罠に嵌める。主君の意向次第では昨日の敵は今日は友になり、今日の友は明日には敵になる。戦国の戦とはそんなものだ。敵だ、味方だといって特に感情は抱かない。現に殺し合いを演じた段蔵も千代女も今はカズトの傘下で味方になっているが思う所はない。いや、むしろ仲間意識すらある。カズトの仲間達と縁を結び、彼等に仇為す者あらば排除したい。そんな気持ちになっている自分がなんだかこそばゆい。カズトの下では仲間はどこまで行っても仲間だ。仲間の為だから戦える。そうでなければ三万の敵に突っ込めるものか。
「友の為、か。いいな。カズト殿の敵は私達にとっても憎き敵だ。いくぞ、旦那様よ!」
にぃっと笑みを浮かべ敵の中へ切り込んで行くユキ。
「表情が豊かになったのはいい事だよな?こんな戦場のど真ん中だとしても」
苦笑を浮かべテルは妻の後を追った。
「あの夫婦は最凶だな…忍術と超能力の組み合わせってどんだけだよ。あ、あいつらは連れてないんだな」
カズトはユキ達がゴーレムを連れていない事にこっそり安堵していた。
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