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大陸の闇編
本隊、動く。
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チンゼイを後にした俺達一行は途中でチョーシューに立ち寄りイセカイ号を造った船大工のダッツンに会って来た。物凄く船が役に立った事、そしてゲン軍を追い払った事を伝えるとえらい喜び様で、
「これからもまた船が造れるって訳だ!こいつぁめでてえ!」
などとハイテンションになり弟子を集めて酒盛りを始めた。
「俺達は先を急ぐんでこれで失礼するよ。じゃあ、元気でな!」
別れを告げて出立しようとする俺達に不服そうな、そしてどこか残念そうな表情を浮かべながらもダッツン達は見送ってくれた。
そしてイセカイ号は日本海側へと舵をとり、全速力で海原を進む。俺の伝言が正しく伝わっていればセリカ達は沿岸の防備にあたっている筈であり、先にセリカ達と合流してからボーラの所へ帰還しようと思っている。
「ほわぁ~、テル!船旅がこれ程快適とはな!」
「いや、ユキ、これ普通じゃないから。ホントはもっとゆっくりで揺れるから。」
アクアが潮流を、サンタナが風を操り、最短距離をかなりの速度で航行しているイセカイ号。陸地が肉眼で見えるほどの距離なので景色的にも変化があって面白い。座礁は流石に怖いのでスプライトが海底を均しながら進んでいる。よって、普通の船旅では味わえない快適さなのだが今回のは出来れば船旅としてはノーカンでお願いしたいものだ。
「主、私、要らない子?」
サンタナ、アクア、スプライトが航行に役立つ仕事をしている中で、こういう時に浮いてしまうのがイオタだ。彼女の属性が【火】という事でどうしても戦闘や破壊活動に特化してしまう部分がある。もちろん鍛冶など高温が必要とされる作業では大活躍だし要は適材適所というだけの事なんだが、自分一人だけが何も出来ない状況ってのはやはり寂しいんだろうな。かと言って船内で鍛冶仕事をする訳にもいかないしな…
「そうだなぁ…じゃあイオタに頼みがある。サンタナとスプライトと三人で俺の仲間がいる所まで飛んでって、俺がそっちに行く事を伝えて欲しい。ついでに自己紹介もしてきてくれよ。サンタナ、スプライト、頼まれてくれるかぁー?」
「主の仲間?」
「あるじの仲間かー!楽しみなのだー!」
「あらあら、私は引率なのですね?」
だってセリカ達はスプライトもイオタも見た事ねえだろ。サンタナが紹介してやらんと。
「アクアは悪いけどこっちで諸々の制御を頼むよ。」
「うむ。承知したぞ。」
「いいか、イオタ。ちゃんと俺が近付いている事を伝えるんだぞ?」
「うん!わかった!」
いい笑顔で頷くと三人はふわりと宙に浮きあがり、ブンブンと手を振るとヘイアンの方向へと飛び去っていった。
◇◇◇
「ついにバレてしまったようですね。」
「或いは連絡が付かないのでしびれを切らしたと言った所でしょうか?」
私達オーシュー、バンドー、エツリアの連合軍はカズトの不在の間ヘイアンの都を守護する任務を帝より承りました。より厳密に言えば精鋭部隊を率いる私は沿岸の守備に就いており、ゲン軍の上陸を防ぐ役割を負っています。帝の身辺は腕利きの暗部であるクノイチのメンバーが警護しているので心配はいりません。私の傍らで警護しているのはクノイチの頭目のソアラ。
「セリカ様。帝へ援軍を求めますか?」
「そうですね……ソアラ、帝に早馬を手配して下さい。ゲン軍襲来。援軍不要。帝は都の防備を固められたし。伝えるのはこんな所ですね。」
「承知致しました。では失礼します。」
ソアラが陣幕へ去って行くのと入れ違いにサニーとグロリアがこちらに来ます。
「思ったより遅かったですね。ポンティアックを始末してから結構な時間が経っていると聞いていますが。」
「まあ、あれだけの大船団ですからね。準備に時間が掛かるのも仕方ないですよ。」
元冒険者でギルドの受付嬢だったサニー。女騎士のグロリア。カズトと共に幾多の修羅場を潜り抜けた一騎当千の乙女達。海を埋め尽くすかのような大群を目前にしても怯むどころか軽口を叩く余裕すらあります。彼女達も私と同様、カズトのお陰で常識をどこかへ忘れてきてしまった被害者ですね。
「ふふ。」
「おや、どうしたんです?セリカ様?」
「いえ、今頃カズト達はどうしているのかと。」
「ゲン軍の運命は言わずもがなですが…またびっくりするような事を仕出かしているに違いないですよ。」
「確かに。」
数の上では絶望的な状況なのにカズトの事を考えると笑みが漏れてしまいますね。
おや、こちらに向かって騎馬が一頭向かって来ますね。サニーとグロリアが私を守る様に立ち塞がります。しかしその騎馬は前方で停まり、下馬した騎士がこちらに向かって来ます。
「陛下、部隊の展開終わりました。ただ、予想より敵が多いですね。カタパルトの数が足りないです。敵の上陸を全て防ぐのは難しいかも知れません。」
「あら、アクセル団長?始まる前から泣き言ですか?」
彼は最近騎士団長に昇格したアクセル。元々は冒険者でカズトと共にリューセン村を守り切った強者で相当に腕が立ちます。
「ははっ、こいつぁ手厳しい。なに、上陸した事を後悔させてやりますよ。サニーさんもグロリアさんも陛下を宜しく頼む。」
そう言い残し再び馬に跨りアクセルは前線に戻って行きました。
「それでは私達も…」
「おいおい陛下、アタシらを置いてかないでくれよ?」
「そうじゃ!儂の戟も使ってやらんと錆付いてしまうわ!」
「セリカ様?私もおりましてよ?」
エルフの戦士にして錬金術師のローレル。そしてドワーフの腕利き鍛冶職人のガイア。カッシの領主にして【栗毛の槍姫】の異名を持つシルビア。ここにオーシュー最強の強者が揃っているのです。負ける道理がありませんね。
『精強なる兵士諸君!私はオーシュー女王セリカ!我が祖国を侵そうとする野蛮な侵略者達の汚れた足でこの大地を汚させてはなりません!セリカの名に於いて命じます!侵略者達を駆逐しなさい!』
ローレルの風魔法にのせた私の声が戦場に響き渡りました。身の程を知らない侵略者達に思い知らせてやりましょうか。
「これからもまた船が造れるって訳だ!こいつぁめでてえ!」
などとハイテンションになり弟子を集めて酒盛りを始めた。
「俺達は先を急ぐんでこれで失礼するよ。じゃあ、元気でな!」
別れを告げて出立しようとする俺達に不服そうな、そしてどこか残念そうな表情を浮かべながらもダッツン達は見送ってくれた。
そしてイセカイ号は日本海側へと舵をとり、全速力で海原を進む。俺の伝言が正しく伝わっていればセリカ達は沿岸の防備にあたっている筈であり、先にセリカ達と合流してからボーラの所へ帰還しようと思っている。
「ほわぁ~、テル!船旅がこれ程快適とはな!」
「いや、ユキ、これ普通じゃないから。ホントはもっとゆっくりで揺れるから。」
アクアが潮流を、サンタナが風を操り、最短距離をかなりの速度で航行しているイセカイ号。陸地が肉眼で見えるほどの距離なので景色的にも変化があって面白い。座礁は流石に怖いのでスプライトが海底を均しながら進んでいる。よって、普通の船旅では味わえない快適さなのだが今回のは出来れば船旅としてはノーカンでお願いしたいものだ。
「主、私、要らない子?」
サンタナ、アクア、スプライトが航行に役立つ仕事をしている中で、こういう時に浮いてしまうのがイオタだ。彼女の属性が【火】という事でどうしても戦闘や破壊活動に特化してしまう部分がある。もちろん鍛冶など高温が必要とされる作業では大活躍だし要は適材適所というだけの事なんだが、自分一人だけが何も出来ない状況ってのはやはり寂しいんだろうな。かと言って船内で鍛冶仕事をする訳にもいかないしな…
「そうだなぁ…じゃあイオタに頼みがある。サンタナとスプライトと三人で俺の仲間がいる所まで飛んでって、俺がそっちに行く事を伝えて欲しい。ついでに自己紹介もしてきてくれよ。サンタナ、スプライト、頼まれてくれるかぁー?」
「主の仲間?」
「あるじの仲間かー!楽しみなのだー!」
「あらあら、私は引率なのですね?」
だってセリカ達はスプライトもイオタも見た事ねえだろ。サンタナが紹介してやらんと。
「アクアは悪いけどこっちで諸々の制御を頼むよ。」
「うむ。承知したぞ。」
「いいか、イオタ。ちゃんと俺が近付いている事を伝えるんだぞ?」
「うん!わかった!」
いい笑顔で頷くと三人はふわりと宙に浮きあがり、ブンブンと手を振るとヘイアンの方向へと飛び去っていった。
◇◇◇
「ついにバレてしまったようですね。」
「或いは連絡が付かないのでしびれを切らしたと言った所でしょうか?」
私達オーシュー、バンドー、エツリアの連合軍はカズトの不在の間ヘイアンの都を守護する任務を帝より承りました。より厳密に言えば精鋭部隊を率いる私は沿岸の守備に就いており、ゲン軍の上陸を防ぐ役割を負っています。帝の身辺は腕利きの暗部であるクノイチのメンバーが警護しているので心配はいりません。私の傍らで警護しているのはクノイチの頭目のソアラ。
「セリカ様。帝へ援軍を求めますか?」
「そうですね……ソアラ、帝に早馬を手配して下さい。ゲン軍襲来。援軍不要。帝は都の防備を固められたし。伝えるのはこんな所ですね。」
「承知致しました。では失礼します。」
ソアラが陣幕へ去って行くのと入れ違いにサニーとグロリアがこちらに来ます。
「思ったより遅かったですね。ポンティアックを始末してから結構な時間が経っていると聞いていますが。」
「まあ、あれだけの大船団ですからね。準備に時間が掛かるのも仕方ないですよ。」
元冒険者でギルドの受付嬢だったサニー。女騎士のグロリア。カズトと共に幾多の修羅場を潜り抜けた一騎当千の乙女達。海を埋め尽くすかのような大群を目前にしても怯むどころか軽口を叩く余裕すらあります。彼女達も私と同様、カズトのお陰で常識をどこかへ忘れてきてしまった被害者ですね。
「ふふ。」
「おや、どうしたんです?セリカ様?」
「いえ、今頃カズト達はどうしているのかと。」
「ゲン軍の運命は言わずもがなですが…またびっくりするような事を仕出かしているに違いないですよ。」
「確かに。」
数の上では絶望的な状況なのにカズトの事を考えると笑みが漏れてしまいますね。
おや、こちらに向かって騎馬が一頭向かって来ますね。サニーとグロリアが私を守る様に立ち塞がります。しかしその騎馬は前方で停まり、下馬した騎士がこちらに向かって来ます。
「陛下、部隊の展開終わりました。ただ、予想より敵が多いですね。カタパルトの数が足りないです。敵の上陸を全て防ぐのは難しいかも知れません。」
「あら、アクセル団長?始まる前から泣き言ですか?」
彼は最近騎士団長に昇格したアクセル。元々は冒険者でカズトと共にリューセン村を守り切った強者で相当に腕が立ちます。
「ははっ、こいつぁ手厳しい。なに、上陸した事を後悔させてやりますよ。サニーさんもグロリアさんも陛下を宜しく頼む。」
そう言い残し再び馬に跨りアクセルは前線に戻って行きました。
「それでは私達も…」
「おいおい陛下、アタシらを置いてかないでくれよ?」
「そうじゃ!儂の戟も使ってやらんと錆付いてしまうわ!」
「セリカ様?私もおりましてよ?」
エルフの戦士にして錬金術師のローレル。そしてドワーフの腕利き鍛冶職人のガイア。カッシの領主にして【栗毛の槍姫】の異名を持つシルビア。ここにオーシュー最強の強者が揃っているのです。負ける道理がありませんね。
『精強なる兵士諸君!私はオーシュー女王セリカ!我が祖国を侵そうとする野蛮な侵略者達の汚れた足でこの大地を汚させてはなりません!セリカの名に於いて命じます!侵略者達を駆逐しなさい!』
ローレルの風魔法にのせた私の声が戦場に響き渡りました。身の程を知らない侵略者達に思い知らせてやりましょうか。
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