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西国編
ゲン陣営の混乱
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ハカタからイキまでは直線距離にしておよそ80㎞と言ったところだろうか。船団が湾を出たタイミングで水の精霊達と風の精霊達に命じて潮流と風向きをイキ向けて変化させる。こうでもしないと外輪船の速度に随伴する船が付いて来られないからな。
「結構速度は出てるようには感じるけど船に乗ってると実際どれくらいのスピードなのか分かんねえな。」
「だよね。景色が海ばっかりっていうのも分かり辛いね。」
そんな訳でいつ頃イキに着くのか見当もつかん。代り映えのしない景色にも飽きてしまい手持無沙汰になってしまった俺はマストにある見張り台へと繋がっている伝声管の蓋をあけた。
「蘭丸、どうだ?テルの船はちゃんと付いて来てるか?」
『………』
「おい、ちゃんと見てるか?」
『………はっ!? だ、だだだだいじょーぶだよ?あーし、おひるね、してないよ?』
「…お前、ゴーレム抱えて器用にマスト登って行ったみたいだが。」
『だきまくらなんかにしてないよ?』
「…ちゃんと周囲の確認しとけよ。」
『あーい!』
蘭丸はちっさい俺の姿をしたゴーレムを抱き枕にしてお昼寝中だったらしい。眷属化している蘭丸とは直接念話も出来るんだが折角の船旅だ。船ならではのクラシカルな音声伝達を使うのも乙なもんだ。それにしてもお昼寝してしまうくらいには時間が経ってたのか、と艦長席の傍らに置いてある某百均から購入した時計を見る。すると出航してから二時間程経過していた。そろそろいいか。
「進路変更、取り舵。」
「進路変更!とぉーりかぁーじ!」
俺は船を左方向へ迂回させた。エスプリの声がイイ感じに本職っぽい。
「よし、戻せ。」
「もどぉーせー!」
うん、いいね。この進路変更は出航前に諸侯連合軍との間で示し合わせたものだ。本隊の諸侯連合艦隊は正面からイキに接近して迎撃に出たゲンの水軍と交戦に入る。俺達イセカイ号とテルの補給艦は迂回してイキの西側から上陸して奴らの本拠地を急襲する。補給艦には陸戦部隊が乗り込んでおり、補給艦に随伴してきた護衛の船の連中も上陸して戦う。つまり俺達が本命で必死になってゲンから守って見せた艦隊は囮な訳だ。
ちなみに、百均の時計は『タカチホ』をはじめとした各艦に進呈してある。この世界で正確な時刻なんてそれほど意味はないんだが、こういった戦時の作戦行動で連携を取るにはタイミングを合わせる事は重要だからな。それからもう一つ、安物だが双眼鏡を艦長用と見張り用に各艦に備えておいた。こっちはかなり有用だろう。ゲンに対してもかなりのアドバンテージになるはずだ。
◇◇◇
ある日、偵察に出ていた船が帰還し報告が上がった。
「どうやらハカタ砦近郊で大型船の建造を始めた模様です。詳細は不明ですが建物の大きさと位置から造船所で間違いないかと。」
ふん、性懲りもない。何度も妨害され完成に至った事などないというのに島国のサル共は失敗から学ぶという事が出来ないらしい。
「何度足掻いても同じ事よ。周辺海域の兵力で夜襲をかけよ。目標は施設の破壊だ。抗っても無駄だという事を思い知らせてやるだけでよい。我々の任務はチンゼイに渡った敵兵力の足止めなのだからな。」
「はっ!」
数日後、予期せぬ事態が降りかかった。
「将軍!夜襲に向かった部隊が壊滅しました!生き残りはごく少数!」
なんだと?まさか命令を無視して上陸したのか?それでなければ海上戦力を持たぬ奴らに負ける要素など無いではないか?
「それが…逃げ帰った兵共は余程恐ろしい目に遭ったのか…うわごとのように『あれは悪魔の船だ』と繰り返すばかりで詳細はまるで…」
悪魔の船だと?まさか既に連中は船を完成させたと言うか?いや、あり得んな。工期が短すぎる…
「天災の類ではないのか?局地的な嵐や竜巻ならあり得ん話ではあるまい。いずれにしても放置は出来ん。偵察を進めると共に兵力の補充もせねばならんが…本国では作戦も佳境の筈だ。止むを得ん。チンゼイの包囲を薄くしても構わん。こちらに集結させよ。」
「宜しいのですか?」
「うむ。チンゼイ内陸では火山が猛威を振るっている。そちらの対応で海に注意を割く余裕などサル共にはあるまいよ。」
「は、ではそのように。」
それからも数度にわたってハカタの造船所を急襲するが、上がってくる報告は『味方壊滅』というものだけだった。しかも共通しているのは『敵はただ一隻の黒鉄の船。あれには神か悪魔が乗っている。敵対すれば天罰を食らい一瞬で壊滅する』という荒唐無稽な話だった。しかし、事実として向かわせた部隊は帰っては来ない。
「黒鉄の船だと?鉄が水に浮くと?事実とは思えんがこれ以上放置も出来まい。チンゼイを包囲している全軍を集結させよ。全力でその悪魔の船とやらを沈めてやらねばなるまい。」
しかし、この時点で私は既に手遅れになっているとは思いも寄らなかった。漸くチンゼイ包囲部隊が集結したそのタイミングで。
「敵船団襲来!超大型の船あり!その他多数!」
なん、だと?
私は混乱する頭の中で纏まらない考えを無理矢理に整理する。なぜこの全軍が集結したタイミングなのだ?それにこのイキが前線の拠点なのを何故に知っている?情報が流れぬよう手は打った筈だ。それに超大型船だと?あまりにも工期が短すぎる!通常の大型船ですら急がせてもそんな短い工期では出来んぞ!?
「やつらめ…どんなカラクリを使いおった…」
「将軍、御采配を…」
「うむ、是非もない。全兵力で迎撃する。一人も生かして帰すな。」
「は!」
ゲン帝国の威信にかけてやられはせんぞ!
「結構速度は出てるようには感じるけど船に乗ってると実際どれくらいのスピードなのか分かんねえな。」
「だよね。景色が海ばっかりっていうのも分かり辛いね。」
そんな訳でいつ頃イキに着くのか見当もつかん。代り映えのしない景色にも飽きてしまい手持無沙汰になってしまった俺はマストにある見張り台へと繋がっている伝声管の蓋をあけた。
「蘭丸、どうだ?テルの船はちゃんと付いて来てるか?」
『………』
「おい、ちゃんと見てるか?」
『………はっ!? だ、だだだだいじょーぶだよ?あーし、おひるね、してないよ?』
「…お前、ゴーレム抱えて器用にマスト登って行ったみたいだが。」
『だきまくらなんかにしてないよ?』
「…ちゃんと周囲の確認しとけよ。」
『あーい!』
蘭丸はちっさい俺の姿をしたゴーレムを抱き枕にしてお昼寝中だったらしい。眷属化している蘭丸とは直接念話も出来るんだが折角の船旅だ。船ならではのクラシカルな音声伝達を使うのも乙なもんだ。それにしてもお昼寝してしまうくらいには時間が経ってたのか、と艦長席の傍らに置いてある某百均から購入した時計を見る。すると出航してから二時間程経過していた。そろそろいいか。
「進路変更、取り舵。」
「進路変更!とぉーりかぁーじ!」
俺は船を左方向へ迂回させた。エスプリの声がイイ感じに本職っぽい。
「よし、戻せ。」
「もどぉーせー!」
うん、いいね。この進路変更は出航前に諸侯連合軍との間で示し合わせたものだ。本隊の諸侯連合艦隊は正面からイキに接近して迎撃に出たゲンの水軍と交戦に入る。俺達イセカイ号とテルの補給艦は迂回してイキの西側から上陸して奴らの本拠地を急襲する。補給艦には陸戦部隊が乗り込んでおり、補給艦に随伴してきた護衛の船の連中も上陸して戦う。つまり俺達が本命で必死になってゲンから守って見せた艦隊は囮な訳だ。
ちなみに、百均の時計は『タカチホ』をはじめとした各艦に進呈してある。この世界で正確な時刻なんてそれほど意味はないんだが、こういった戦時の作戦行動で連携を取るにはタイミングを合わせる事は重要だからな。それからもう一つ、安物だが双眼鏡を艦長用と見張り用に各艦に備えておいた。こっちはかなり有用だろう。ゲンに対してもかなりのアドバンテージになるはずだ。
◇◇◇
ある日、偵察に出ていた船が帰還し報告が上がった。
「どうやらハカタ砦近郊で大型船の建造を始めた模様です。詳細は不明ですが建物の大きさと位置から造船所で間違いないかと。」
ふん、性懲りもない。何度も妨害され完成に至った事などないというのに島国のサル共は失敗から学ぶという事が出来ないらしい。
「何度足掻いても同じ事よ。周辺海域の兵力で夜襲をかけよ。目標は施設の破壊だ。抗っても無駄だという事を思い知らせてやるだけでよい。我々の任務はチンゼイに渡った敵兵力の足止めなのだからな。」
「はっ!」
数日後、予期せぬ事態が降りかかった。
「将軍!夜襲に向かった部隊が壊滅しました!生き残りはごく少数!」
なんだと?まさか命令を無視して上陸したのか?それでなければ海上戦力を持たぬ奴らに負ける要素など無いではないか?
「それが…逃げ帰った兵共は余程恐ろしい目に遭ったのか…うわごとのように『あれは悪魔の船だ』と繰り返すばかりで詳細はまるで…」
悪魔の船だと?まさか既に連中は船を完成させたと言うか?いや、あり得んな。工期が短すぎる…
「天災の類ではないのか?局地的な嵐や竜巻ならあり得ん話ではあるまい。いずれにしても放置は出来ん。偵察を進めると共に兵力の補充もせねばならんが…本国では作戦も佳境の筈だ。止むを得ん。チンゼイの包囲を薄くしても構わん。こちらに集結させよ。」
「宜しいのですか?」
「うむ。チンゼイ内陸では火山が猛威を振るっている。そちらの対応で海に注意を割く余裕などサル共にはあるまいよ。」
「は、ではそのように。」
それからも数度にわたってハカタの造船所を急襲するが、上がってくる報告は『味方壊滅』というものだけだった。しかも共通しているのは『敵はただ一隻の黒鉄の船。あれには神か悪魔が乗っている。敵対すれば天罰を食らい一瞬で壊滅する』という荒唐無稽な話だった。しかし、事実として向かわせた部隊は帰っては来ない。
「黒鉄の船だと?鉄が水に浮くと?事実とは思えんがこれ以上放置も出来まい。チンゼイを包囲している全軍を集結させよ。全力でその悪魔の船とやらを沈めてやらねばなるまい。」
しかし、この時点で私は既に手遅れになっているとは思いも寄らなかった。漸くチンゼイ包囲部隊が集結したそのタイミングで。
「敵船団襲来!超大型の船あり!その他多数!」
なん、だと?
私は混乱する頭の中で纏まらない考えを無理矢理に整理する。なぜこの全軍が集結したタイミングなのだ?それにこのイキが前線の拠点なのを何故に知っている?情報が流れぬよう手は打った筈だ。それに超大型船だと?あまりにも工期が短すぎる!通常の大型船ですら急がせてもそんな短い工期では出来んぞ!?
「やつらめ…どんなカラクリを使いおった…」
「将軍、御采配を…」
「うむ、是非もない。全兵力で迎撃する。一人も生かして帰すな。」
「は!」
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