いや、自由に生きろって言われても。

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西国編

諸侯会議③

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 「アソの山を噴火させたの私。みんなに大きな迷惑をかける事になってしまったのは意図するところではなかったけど、本当にごめんなさい。」

 オドオドした感じでペコリと頭を下げながら素直に謝罪するイオタの様子に思わず良く出来ました、と頭を撫でてやりたい衝動を抑え込み諸侯を見渡すと。

 「はっはっは!何をバカな!」
 「そのような少女がアソを噴火させたなどと!」
 「いやまったく!面白い冗談だ!」

 うん。その反応、無理もないとは思うんだ。でもなあんたら、イオタが突然現れたの見てただろ?それだけでもイオタが普通の女の子な訳ねえじゃねえか。それにな、そんな態度をとってると…

 「むぅ…折角謝ったのに…」

 イオタの身体から尋常でないプレッシャーが溢れ出て来た。ほら見ろ。こいつは沸点が異常に低いんだ。

 「な、なんだ!?」
 「ひぃ!」

 とは言え、諸侯も悪気があった訳じゃねえからな。ここは助け船を出しておこう。それにしても、俺の隣のテルやホンダ卿といった俺が『仲間認定』している連中にはプレッシャーは向いていないところを見るとイオタも幾分冷静な判断が出来るようにはなってるみたいだ。

 「あのな、一応言っておくけどこいつはサラマンダー。火の精霊王だ。こいつの縄張りで悪さを仕出かしたゲンの奴らを追い出す為にアソを噴火させたらしいんだが、地元の民にまで被害が及んだ事に関しては心を痛めていたんだ。そこでこうして謝罪した訳なんだが、精霊王が人間に頭を下げて謝罪したのにも関わらず笑われてしまっては気分を害するのも仕方ないと俺は思うんだが。みんなはどうだ?」

 「せっ、精霊王様がもうおひとり!?」
 「これは真に申し訳ございませぬ!」
 「何卒お許しを!」

 「……もういい。謝っているのは私。許してくれるのなら。」

 一連のやりとりでイオタの放つプレッシャーが霧散する。

 「精霊王様直々の謝罪、無碍にする事などできましょうか。」

 諸侯の中の一人が心底ほっとした表情でそう告げる。この男は確か内陸部に領地を持つ、つまり自分の領地がイオタの暴走によって被災した貴族だった筈だ。そんな男がイオタの謝罪を受け入れたのならば他の諸侯に否やはないだろう。

 「ん、ありがとう。復興には私の仲間の精霊王達が全面的に協力している。私もゲンの討伐には力を尽くす。それを以て罪滅ぼしとしたい。」

 そう言って再びペコリと頭下げるイオタ。今度は諸侯達が歓声を爆発させた。その歓声は精霊王が味方に付いた故の戦に対する勝利の確信か。それとも噴火の脅威が去り復興の目処が着いた故の安心感か。その様子を見ていたイオタが『これでよかった?』と不安そうな表情で見上げてくる。

 「ちゃんとごめんなさい出来たな。偉いぞ。」

 そんなイオタの頭をくしゃりと撫でてやると安心したようにニッコリ笑うイオタ。うん、いい笑顔だ。そして順番待ちをするようにサンタナ、スプライト、アクアが並んでいる。お前らな…

 「うおっほん!カズト殿、そろそろ宜しいですかな?」

 順番に精霊王達の頭を撫で、イオタが二周目の列を作ろうと並んだところでジュークのわざとらしい咳払いとともに多分に呆れが含まれた声色で『いい加減にしろ』という深い意味を持つであろう言葉が吐き出された。

 「あ、ああ、すまん。それで、具体的にどのようにゲンと戦うのか。それは造船ドックに移動してから説明しようと思う。済まないが全員移動してくれ。」

 ゲンの夜襲をイセカイ号が単艦で殲滅したという事は知っている者も多いが実際に船を見た者は少ない。ならば現在建造中の船を見て貰う事で具体的なイメージを持って貰おうと思う。職人達とホンダ卿配下を別にすれば、建造中の船の仕様を知る者は殆どいないしな。


 ハカタの街を出て各々が自分達の用意した馬車に乗り込む。俺達はもちろんスタリオンの牽く竜車がある。俺とライム、テルは各自愛馬がいるので竜車には乗り込まずに先導を務める。ゆったりしたペースで進んで約一時間、造船ドックに到着。造船ドックの規模は巨大だが建物の造りは簡素なものだ。そのドックの外観を見た諸侯達から些か拍子抜けしたような空気が流れてくる。
 
 モノを造るだけの場所だ。風雨を凌げればそれでいい。ガッカリするのは中で造ってるものを見てからにしやがれ。

 「あー、取り敢えずは中にどうぞ。中では大規模な作業が行われているので危険が伴う。勝手な行動は慎むように。」

 そう一言釘を刺して諸侯を造船ドックの内部へと招き入れる。

 「おお……」

 諸侯達は感嘆の声を絞り出すだけで精一杯、言葉を紡ぐ事は出来ないようだな。それだけ造船ドックの内部は外観と比べて圧巻の光景が広がっていたという事だろう。職人達の威勢のいい怒号が飛び交う中、諸侯達の視線は一か所に注がれていた。

 ドックは一番から六番まであり、一番には100メートル級バトルシップ。二番から五番までは30メートル級デストロイヤー。六番は現在空いているが主にイセカイ号のメンテナンスに使っている。諸侯達の視線はその一番ドックのバトルシップを注視している。

 「おーい!棟梁はいるか?」

 近くにいた職人に声を掛けると急いで棟梁を連れて来てくれた。

 「旦那、こちらの方々はどちらさんで?」

 棟梁が恐る恐ると言った感じで聞いてくる。この身なりの団体を見りゃわかるだろうに。

 「察しの通りだよ。チンゼイ各地を治める諸侯のお歴々だ。」

 「へえ…やっぱりですかい。で、儂は何を?」

 「ああ、ここで造ってる船の進捗と仕様、見込んでいる性能、その他諸侯から質問があればそれに答えてやって欲しい。」

 「ああ、そういう事ですかい。そんなら、魔道具技師の方からも責任者呼んだ方がいいですかい?」

 「そうだな。頼めるか?」

 「へい!少々お待ちを。」

 魔道具技師っていうのは錬金術師を中心とした、主に動力部を担当している連中の事だ。なるほど、船大工には難しい事は説明出来ないだろうし、主に『船に動力を積み込む』という新しい概念の方が興味をひくであろう事は想像に難くない。

 船大工の棟梁が各セクションの責任者を連れて来て、実際に船を見ながら説明したり質疑応答をしたり。さながら日本でたまに目にする工場見学の様相だ。船の方は武装を搭載すればほぼ外観は完成の域まで漕ぎつけており、説明からも明確なイメージを掴めるだろう。当初の計画になかった仕様も追加されていたりして俺も聞いていて中々に楽しめた。

 「うむ!これならば勝てる!」
 「ゲンの奴らめ!目にもの見せてくれるわ!」

 などと諸侯も闘魂に火が着いたようでなによりだ。この後、砦の一室に移動し、諸侯と詳細を詰める事になったのだがこれはホンダ卿にお任せして俺達は一休みしよう。
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