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西国編
小手調べのつもりだったんだが大反響?
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「ちゃんと追跡出来てるか?」
「うむ、問題ないようじゃな。」
敵の船団もあとわずか、というところでアクアによる潮流の包囲網をワザと緩めていく。あくまで自然現象の範疇に収まりそうな絶妙さだ。残り10艘にも満たない敵船は好機とばかりに逃げていくが、途中から水中に追跡者が居る事など必死で逃げる彼等が気付くはずもなく。
「陽動で何艘か囮になるかとも思ったけどその辺はどうです?アクア様。」
「そんな余裕は無いようじゃな。纏まって逃げておる。拠点に行くのは間違いなかろう。」
傭兵の経験があるテルとしては比較的当たり前の行動を懸念しただけの事だがその心配はないらしい。シャチによる追跡は群れで行っており、標的が何手かに別れても逃がさず追跡できるようにしていた。やるな、ヌシのヤツ。
「よし、追跡が出来てるんなら問題ない。みんなお疲れ様。これより帰投する。エスプリ、180度反転。」
「反転180度、よーそろー。」
お?エスプリのヤツ、どこで覚えたんだよそんな専門用語。渋い声でそんな返しをされちゃ俺も面舵とか取り舵とか言わなくちゃダメな流れになるじゃねえか。
ハカタの造船ドックに帰投し、イセカイ号をドック内部に停泊させるとたちまち人だかりが出来上がった。造船に携わってる職人達だな。
「旦那、お疲れさんでした。船のメンテナンスはどうしやす?」
話し掛けてきたのは船大工の棟梁だ。この男もゴツい外見なんだが意外と気配りが出来るんだよな。でなきゃ頭領とか務まらないか。
「そうだな…攻撃は全く受けていないんだが…建造中の船に支障が出ないなら頼めるか?」
「へへっ!単艦で敵の大船団を殲滅してくださったんだ、メンテはするのが当然!それに旦那たちの戦いを見てこいつ等も気合が漲ってましてねぇ。逆に工期を短縮して見せまさぁ!」
「そ、そうなのか?じゃあ済まないがよろしく頼むよ。」
「へい!旦那たちはゆっくり休んでくだせえ!おう、てめえら!ちゃきちゃき取っ掛かりやがれィ!」
《へいっ!》
ははは。ホントに気合が入ってやがるな。ああいう気風のいいのは嫌いじゃないが、夜通しの戦闘の後だしみんなを休ませたいから早々にドックを離れて砦の中の屋敷へ移動するために砦へと歩みを進める。
「……どう思う?これ。」
「まあ、あれだけ明るくして派手にブチかませばねぇ…」
「あいつらも徹夜で観戦してたってか?」
「少なくとも敵船団が来襲してくる情報は流れたんだからぐっすり眠っている訳にもいかないですよ、カズトさん。」
まあ、それもそうか。一応迎撃の為戦闘待機くらいはしていただろうな。と言うのは、砦の門の外に守備兵が総出で俺達を出迎えているようなんだ。その集団の先頭には愛用の槍を肩に構えたホンダ卿がいる。
「あー、敵は殲滅した。いくらか逃がして泳がせているから直に敵の拠点も割れると思う。こちらの被害はない。」
ホンダ卿に向けて一応戦勝報告をする。
《うおおおおおおおお!!!》
途端に兵達の歓声が爆発した。しばらく雷鳴の如き歓声で盛り上がっていたが、ホンダ卿が左手をサッと上げるとピタリと歓声が止む。
「見事。」
ホンダ卿の短すぎる労いの言葉。しかしその一言には万感の思いが込められている事が伝わってくる。その思いを感じた俺達もみな自然と笑顔になった。恐らく、ゲンの来襲以来ここまでの圧勝は初めてなんだろう。敵は海から小突いてさっと逃げる戦いに終始してたって言うしな。それだけに今回の圧勝は希望をもたらした筈だ。
「次は新造艦にホンダ卿も乗り込んで思う存分やればいい。なかなか爽快ですよ。」
「うむ。是非にも。」
男臭い笑みを交換しながら拳を突き合わせる。
そんな短いやりとりをして俺達はあてがわれた屋敷へ戻って休息をとった。
「殿、今戻ったぞい。」
「アタシらいない間にド派手にやってくれちゃって。寂しいじゃないか。」
俺達が屋敷に戻り、充分な休息をとった頃を見計らうかのようなタイミングでハカタの街へ偵察に出ていた爺さんと千代ちゃんが戻って来た。まあ、確かに今回はタイミングが悪かったがそれを俺に言われてもなぁ…
「文句ならゲンの奴らに言ってくれ。で、どうだった?」
「うむ。このチンゼイを治める御仁方はなかなかのものじゃった。配下の裏切りまでは分からんが、御領主様方は内通の心配はいらんわい。」
「ただ、隣接する領主同士の仲がよろしくないのが玉に瑕だけどねぇ。」
まあそれくらいなら問題ないだろう。仲良くなれとは言わないが、ゲンを退けるまでの間くらいは休戦協定を結んで貰う。強引にでもな。
「じゃが、その心配もいらんかもしれん。殿、諸侯会議はあっさりと終わるやもしれんぞい?」
「へえ?どうしてだ?ここらの領主達は良くも悪くも頑固者が多いって話だが。」
「昨夜の戦じゃよ。殿を中心にまとまれば勝てる。その思いで諸侯は一致し始めたようじゃ。」
「ハカタの街からでも良く見えたよ。お館様の、ありゃあ『天罰』かい?いつもと色が違ってたけど。」
それは朗報だな。瓢箪から駒というか棚から牡丹餅というか。頑固な爺さん達を説得するのが一番面倒だったし。
「ま、何にしても悪い話が無くて何よりだ。二人共ありがとな。ゆっくり休んでくれ。」
「そうだねえ。でもまだ諸侯が揃った訳じゃないから安心はできない。少し休んだらアタシらはもう一仕事してくるさね。」
全く、日本人ってのは昔から勤勉なんだな。仲間が働いてたら俺ものんびりしてられねえだろが。
「サンタナ、アクア、スプライト、イオタ。多重融合に慣れておきたい。悪いが付き合ってくれ。」
負担が大きい多重融合にも慣れておく為に鍛錬しておこう。
「うむ、問題ないようじゃな。」
敵の船団もあとわずか、というところでアクアによる潮流の包囲網をワザと緩めていく。あくまで自然現象の範疇に収まりそうな絶妙さだ。残り10艘にも満たない敵船は好機とばかりに逃げていくが、途中から水中に追跡者が居る事など必死で逃げる彼等が気付くはずもなく。
「陽動で何艘か囮になるかとも思ったけどその辺はどうです?アクア様。」
「そんな余裕は無いようじゃな。纏まって逃げておる。拠点に行くのは間違いなかろう。」
傭兵の経験があるテルとしては比較的当たり前の行動を懸念しただけの事だがその心配はないらしい。シャチによる追跡は群れで行っており、標的が何手かに別れても逃がさず追跡できるようにしていた。やるな、ヌシのヤツ。
「よし、追跡が出来てるんなら問題ない。みんなお疲れ様。これより帰投する。エスプリ、180度反転。」
「反転180度、よーそろー。」
お?エスプリのヤツ、どこで覚えたんだよそんな専門用語。渋い声でそんな返しをされちゃ俺も面舵とか取り舵とか言わなくちゃダメな流れになるじゃねえか。
ハカタの造船ドックに帰投し、イセカイ号をドック内部に停泊させるとたちまち人だかりが出来上がった。造船に携わってる職人達だな。
「旦那、お疲れさんでした。船のメンテナンスはどうしやす?」
話し掛けてきたのは船大工の棟梁だ。この男もゴツい外見なんだが意外と気配りが出来るんだよな。でなきゃ頭領とか務まらないか。
「そうだな…攻撃は全く受けていないんだが…建造中の船に支障が出ないなら頼めるか?」
「へへっ!単艦で敵の大船団を殲滅してくださったんだ、メンテはするのが当然!それに旦那たちの戦いを見てこいつ等も気合が漲ってましてねぇ。逆に工期を短縮して見せまさぁ!」
「そ、そうなのか?じゃあ済まないがよろしく頼むよ。」
「へい!旦那たちはゆっくり休んでくだせえ!おう、てめえら!ちゃきちゃき取っ掛かりやがれィ!」
《へいっ!》
ははは。ホントに気合が入ってやがるな。ああいう気風のいいのは嫌いじゃないが、夜通しの戦闘の後だしみんなを休ませたいから早々にドックを離れて砦の中の屋敷へ移動するために砦へと歩みを進める。
「……どう思う?これ。」
「まあ、あれだけ明るくして派手にブチかませばねぇ…」
「あいつらも徹夜で観戦してたってか?」
「少なくとも敵船団が来襲してくる情報は流れたんだからぐっすり眠っている訳にもいかないですよ、カズトさん。」
まあ、それもそうか。一応迎撃の為戦闘待機くらいはしていただろうな。と言うのは、砦の門の外に守備兵が総出で俺達を出迎えているようなんだ。その集団の先頭には愛用の槍を肩に構えたホンダ卿がいる。
「あー、敵は殲滅した。いくらか逃がして泳がせているから直に敵の拠点も割れると思う。こちらの被害はない。」
ホンダ卿に向けて一応戦勝報告をする。
《うおおおおおおおお!!!》
途端に兵達の歓声が爆発した。しばらく雷鳴の如き歓声で盛り上がっていたが、ホンダ卿が左手をサッと上げるとピタリと歓声が止む。
「見事。」
ホンダ卿の短すぎる労いの言葉。しかしその一言には万感の思いが込められている事が伝わってくる。その思いを感じた俺達もみな自然と笑顔になった。恐らく、ゲンの来襲以来ここまでの圧勝は初めてなんだろう。敵は海から小突いてさっと逃げる戦いに終始してたって言うしな。それだけに今回の圧勝は希望をもたらした筈だ。
「次は新造艦にホンダ卿も乗り込んで思う存分やればいい。なかなか爽快ですよ。」
「うむ。是非にも。」
男臭い笑みを交換しながら拳を突き合わせる。
そんな短いやりとりをして俺達はあてがわれた屋敷へ戻って休息をとった。
「殿、今戻ったぞい。」
「アタシらいない間にド派手にやってくれちゃって。寂しいじゃないか。」
俺達が屋敷に戻り、充分な休息をとった頃を見計らうかのようなタイミングでハカタの街へ偵察に出ていた爺さんと千代ちゃんが戻って来た。まあ、確かに今回はタイミングが悪かったがそれを俺に言われてもなぁ…
「文句ならゲンの奴らに言ってくれ。で、どうだった?」
「うむ。このチンゼイを治める御仁方はなかなかのものじゃった。配下の裏切りまでは分からんが、御領主様方は内通の心配はいらんわい。」
「ただ、隣接する領主同士の仲がよろしくないのが玉に瑕だけどねぇ。」
まあそれくらいなら問題ないだろう。仲良くなれとは言わないが、ゲンを退けるまでの間くらいは休戦協定を結んで貰う。強引にでもな。
「じゃが、その心配もいらんかもしれん。殿、諸侯会議はあっさりと終わるやもしれんぞい?」
「へえ?どうしてだ?ここらの領主達は良くも悪くも頑固者が多いって話だが。」
「昨夜の戦じゃよ。殿を中心にまとまれば勝てる。その思いで諸侯は一致し始めたようじゃ。」
「ハカタの街からでも良く見えたよ。お館様の、ありゃあ『天罰』かい?いつもと色が違ってたけど。」
それは朗報だな。瓢箪から駒というか棚から牡丹餅というか。頑固な爺さん達を説得するのが一番面倒だったし。
「ま、何にしても悪い話が無くて何よりだ。二人共ありがとな。ゆっくり休んでくれ。」
「そうだねえ。でもまだ諸侯が揃った訳じゃないから安心はできない。少し休んだらアタシらはもう一仕事してくるさね。」
全く、日本人ってのは昔から勤勉なんだな。仲間が働いてたら俺ものんびりしてられねえだろが。
「サンタナ、アクア、スプライト、イオタ。多重融合に慣れておきたい。悪いが付き合ってくれ。」
負担が大きい多重融合にも慣れておく為に鍛錬しておこう。
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