いや、自由に生きろって言われても。

SHO

文字の大きさ
上 下
199 / 240
西国編

一矢も報いさせんよ

しおりを挟む
 『あー、あー、ゲンの将兵諸君、聞こえるか?この海域は我が国の領海である。即刻立ち去れ。さもなくば、殲滅する。』

 を打ち上げる前に一応警告はしておく。サンタナの風魔法によってこの海域一帯に俺の声が響き渡る。夜襲を仕掛けようとしている連中に警告もなにもあったもんじゃないとは思うが今後一切奇襲は通用しない事を認識させるために敢えて恥ずかしい思いをしながら自分の声を聞かせている。

 暫く様子を見るが索敵マップの赤い点は引き返すどころか更に接近してきている。もはや夜襲のメリットは消えている筈だがそれでも来るという事はガチでやる気な訳だ。

 「舐められたものね。」

 ライムがそう呟く。全く以てその通り。

 『諸君らの意思は確認した。遺憾ながら…皆殺しだ。』

 ゲンの無言の宣戦布告を受け、こちらの態度も表明した。あとは殺るだけだ。火属性の赤い魔力を纏った俺はいつもの『天罰』を作り出す。その数およそ20個。直径は1メートル程だ。今までの属性を持たない俺の魔力では白っぽい魔力球だったのだが今日の魔力球はオレンジ色。コイツを上空に撃ち出して…そのまま維持。そして活性化。

 『ごしゅじんさまー。おひさまがいっぱいー?』

 上空に浮かんだオレンジ色の魔力球はその内包した魔力を活性化させる事で輝きを増す。スタリオンが言った通り、まさにそれは照明弾と言うよりは疑似太陽というのがふさわしいだろう。20もの疑似太陽は海域一帯を照らし出し、ゲンの水軍の布陣も丸裸だ。

 《な、なんだ!?急に空が明るくなったぞ!?》

 ドックや少し離れたハカタの砦から騒ぎが聞こえる。敵であるゲンの動揺は如何ほどか。

 『ごしゅじんさま、ぶぉーってしていい?』

 スタリオンから可愛い要請が上がってきた。可愛いのはその表現だけで結果は凄惨なものになるであろうその要請。

 「おお。思いっきりぶちかませ。敵の多い所に目掛けて容赦なくな。」

 『わかったー!』

 俺達のイセカイ号は武装を持たないただの固くて速い船でしかない。戦闘力はクルーに依存する訳だ。そう言ってみるとコンセプトは空母に近い気がしないでもない。空母自体には殆ど戦闘力は無いが搭載されている航空戦力が絶大だろ?ほら、似てるし。

 キィィィィィーーーンという甲高い音と共にスタリオンがその口腔内へと周辺に浮遊している魔力を吸収し始める。ドラゴン族のブレス攻撃の際の予備動作だ。

 「薙ぎ払う感じで斉射しろ」

 《ブォォォーーーーツ!!》

 俺の言葉にひとつ頷いたスタリオンはブレスを吐き出し首を左から右へと動かした。一条の光が敵船団を貫きながらスタリオンを起点に扇形に残像を残す。

 「うわぁ…凶悪ねぇ。私達、出番あるかしら?」

 ライムが半笑いでスタリオンのブレスの威力に呆れているが、そのスタリオンをボコったのはお前じゃなかったか?

 それはともかく、スタリオンの一撃は敵戦力のざっと二割以上を葬った。さっき俺はこの船のコンセプトを空母に近いと言ったが訂正させて貰おうか。スタリオンという超威力の主砲を搭載したこの船は紛れもなく大火力の戦艦だな。

 「アクア、奴らを散開させるな。」

 「うむ、一か所に纏めてしまえば良いのじゃな?」

 スタリオンの一撃で恐慌をきたした敵船団は散り散りに散開しようとしていた。そうなると面倒なのでアクアに潮流を操作させる。潮流は敵船団を囲うように渦を巻き、渦の外側には決して逃がさない。さらにその渦はどんどん直径を狭めていきゲンの船は渦の中心へと集められていく。

 「たかが手漕ぎの船が自然の脅威から逃れられるかよ。サンタナ!速度を上げろ!エスプリ!アクアの作った渦の外側を周回する様に舵を取れ!うまくやれよ!」

 その間にもテルとユキは瞬間移動テレポーテーションによる奇襲を繰り返し、敵船団の指揮能力を奪っていく。

 「よし、スタリオンはご苦労さんだったな。後は敵を睨み付けてるだけでいいぞ。」

 『はーい!』

 「ライム、ビート、蘭丸は魔法の射程に入ったら出番だぞ。全滅はさせるなよ?それからテル達に当てないようにな。」

 「了解!それにしてもうまく嵌ったね!」

 「本当ですわね。出番が残っていてホッとしておりますわ。」

 「おにいちゃん、あーし、ぜんりょく だしていい?」

 蘭丸が全力出したら全滅するからダメ。それに俺の疑似太陽もただの照明代わりじゃないんだぜ?敵兵は残り約2000、その半分程にロックオンしてある。テル達が戻って来たら火属性の天罰、初披露といくか。

 そして朝日が水平線から顔を出し始めた頃、ゲン軍はただ一艘の船を残し海の藻屑となった。80艘の船団に2500の兵を繰り出し夜襲を仕掛けながらもたった一隻の船に文字通り一矢も報いる事も出来ずに。

 
しおりを挟む
感想 591

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。