いや、自由に生きろって言われても。

西国編

精霊融合

　マジックポケットに入りそうなサイズの食べ物を買い込み、マジックポケットに収納して異世界へと転移する。一度行った事のある座標なら異世界も日本も自由に行き来出来る事は予め確認してある。ただ、日本へ転移する場合は人目に付くと大騒ぎになるので基本自宅のアパートの部屋に転移する事にしている。それに服装も異世界仕様だしな。このまま外に出たらイベントでもないのにコスプレしているイタい人だ。

　「おかーり、おにいちゃん。」

　「ご主人様。お帰りなさいませ。」

　出迎えてくれたのはサンタナと蘭丸。アクアとスプライトはランの馬体を洗っているようだ。アクアが出す魔法の水は毛並みにも良さそうだな。当のランの方は洗われて気持ちがいいのだけれど格上の存在である精霊王の二人に洗わせているのが居心地悪いのか、なんとも微妙な表情だ。ここは助け船を出してやるか。

　「お～い、飯買って来たぞ！」

　「あ！あるじー！おかえりなのだ！ご飯なのだ？」

　「マスター、早かったの？もう少しラングラーの身体を磨きたかったのじゃが。」

　『ご容赦下さいませ、アクア様…』

　普段は凛としているランの戸惑う姿は中々にレアだな。そんなランを見てニヤニヤしながらみんなにはマジックポケットから適当に食べ物を出して好きな物を選ばせる。意外に人気なのが焼きそばパンだな。スプライトも蘭丸も口の周りがソースでベタベタだ。サンタナとアクアは何度か日本に連れて行っているので上手におにぎりを食べている。ランにはスーパーでにんじんとジャガイモを買って来たぞ。野菜を箱買いして一つ一つマジックポケットに突っ込むのは非常に面倒だった。俺も空間収納欲しいな、ちくしょう。ライムの収納と違って状態保存の効果が無いから時間が経過すると腐っちまうんだよな。

　ちなみにラン曰く、品種改良した日本の野菜は美味いらしい。他のみんなも美味そうに食っている。向こうの食い物はこっちより味付けが複雑だしな。初めて口にしたらそらー衝撃だろう。二日分くらいは買って来たつもりが食い尽くされたよチクショー。こっちと違って向こうでは金持ちじゃねえんだぞコラ。

　「さて、飯も食ったしサンタナ、アクア、そろそろ頼むよ。」

　空を飛ぶ。サンタナの魅力的な提案。今の俺だけの力ではどう頑張っても無理な行為。サンタナの力を借りて今から挑戦しようと思う。

　「試した事が無いのでどれ程の負荷が掛かるか分かりません。一人ずつの方が良いでしょう。まずは私からご主人様の意識に入りますね。」

　サンタナの姿ふっと消え、頭の中で話し掛けて来る。

　『ご主人様。これはいつもの顕現していない状態です。この状態はあくまでもご主人様の意識の中に私と言う存在が別個にある事は理解出来ますか？』

　「ああ。特に違和感はないけどな。」

　『この状態では私の力を私が行使するだけで、私の力そのものをご主人様が使っている訳ではありません。逆にこっそりご主人様の魔力の海に浸って極上の快楽を得ていたのは内緒です。』

　「おいコラ。」

　『それで、これからする事は、意識の中にある私とご主人様の意識を繋げて一体化させ、最終的にはご主人様が風の精霊王としての能力を自在に操る事が出来るようになる。そういう事です。』

　「ほう…」

　『手順としては接続コネクト、同調チューン、融合シンセサイズ。この三段階です。』

　「接続、同調、融合…」

　『やる事は言葉の通りなのです。私とご主人様を接続し、そして同調させ、一つになる。どのようなイメージを以てそれを成すかはご主人様次第ですが、異世界の知識があるご主人様ならば幾分やり易いのではないかと。』

　接続…コネクト？コネクト…そうか。要は繋げるだけの事だ。複雑に考えすぎるな。俺の頭のシナプスから魔力の糸を紡ぎだせ。サンタナのシナプスに結び付けろ。1本、２本、４本、８本、１６本、３２本、６４本、１２８本２５６本、５１２本…そして理解した。

　「これが接続コネクトか…」

　『はい。今ご主人様と私は同じ器の中にいるような状態です。しかしまだ別個に存在しています。』

　ああ、分かるな。なんか纏まりのない、サイズの合わない服を着ているような、そんな感じだ。

　『次に同調チューンですね。ご主人様のイメージで言えば服のサイズを合わせる、でしょうか。』

　そうだな。これは接続コネクトよりは簡単そうだ。部分部分を微調整して行けばいい。

　『ああ…段々私がご主人様と同様の存在に…ここまで来れば後は簡単です。サイズを合わせた服を着るだけなのですから。ご主人様…早く…』

　融合シンセサイズ！サンタナ！俺と一つになれ！

　『はい！』

　「おおお……これが…精霊融合エレメンタル・シンセサイズ…」
　「ここまで至ったのはあるじが初めてなのだー！」

　「このちから…おにいちゃんがこのちから　つかってたら　あーし、すぐけされてたかも…」

　全身が薄っすらと緑色に輝いている。俺の純白の魔力とは別に、風属性の途轍もないエネルギーが溢れ出て来る。そうか。精霊融合エレメンタル・シンセサイズって言うのか。

　確かにこの力が有ればもう少し楽に妖狐に勝てたかも知れない。でもあの時はサンタナもアクアも仲間を守るので精一杯だったからな。

　『ご主人様。いまの貴方は思うがままに私の力を扱えるはず。さあ！羽を広げて大空へ！』

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