いや、自由に生きろって言われても。

SHO

文字の大きさ
上 下
183 / 240
西国編

飯の心配

しおりを挟む
 「つまり、こやつが言いたい事はじゃな、ダンジョンのボス部屋という狭い空間ではなくこの広い世界全てが戦闘空間バトルフィールドになると言う事じゃ。」

 口の中を飴玉でいっぱいにして喋れないスプライトに代わってアクアが説明してくれた。

 「ハッキリと申し上げますと、ご主人様と戦闘になった場合は接近戦では勝負になりません。デコピン一発で撃沈ですので。ならばどうするか、と言う事なのですが…」

 ああ、なるほどな。俺が行けないフィールドに逃げ込み、そこから一方的に俺を攻撃するってか。外での戦闘なら水中なり空なり、人間が行けない場所はたくさんある。スプライトだってずる賢く戦えばもっと俺は苦戦したかも知れないしな。地中に潜られたとか大地と融合したとかされたら心底面倒だろ。

 「空、か。」

 サンタナの言葉から導き出した答えは空。確かに精霊は空も自由自在に移動できるだろう。

 「流石はご主人様、挑んで来るのは空中戦かと。」

 「だがなあ、俺は空を飛べないが、迎撃する術ならいくらでもあるぞ?」

 そう言って俺は指先に魔力を集めて空に向かってぶっ放す。おお~、雲に穴が空いたぜ!

 「あるじ!そんなものをぶつけたら火のヤツが死んでしまうのだ!?」

 非難の声は飴玉を完食したらしいスプライトだ。

 「おお、食い終わったか?どうだ?三種類の味は?」

 「うん!次々と新しい味の組み合わせが出て来て楽しかったのだー!ありがとうなのだ!…って違うのだ!あんなものを食らっては精霊王と言えども消滅してしまうのだ!」

 そっか。めんどくせえな。心を折る程度に留めておかなきゃならんって事だな。

 「…ご主人様。空を飛んでみませんか?」

 突如としてもたらされたサンタナの甘い誘惑。

 「火の精霊王とやり合うなら妾の力も役に立つと思うがのう?」

 便乗してくるアクアの誘惑。

 「あたしもー!特にないけど応援するのだー!」

 あまり役に立ちそうにないスプライトの無邪気な応援。

 「…教えてくれよ。空の飛び方。俺に力を貸してくれ。」

 サンタナもアクアも硬直している。なんで??スプライトはニコニコしてるだけだが。

 「ど、どうした?」

 「ご主人様に必要とされるなんて望外の喜びですっ!ひぐっ!ご主人様は私どもの力など無くても不自由なさらないお方…頼りにされるのは嬉しゅうございますっ!」

 サンタナが滂沱の涙だ。そ、そんなにか。いつも頼りにしてんだけどなぁ?

 「おにいちゃん!ただまー!とてきたよー!」

 お?蘭丸が帰って来た。

 「おお、お帰り!……蘭丸、何獲ってきた?」

 「んー?うし?」

 んなデケえ牛どうやって…いや、妖狐だしな。いや。しかし牛が野生にいるのか?

 「……どこでコレを?」

 「んーとね、さくのなかでいっぱいたおれてた?」

 100パー置き去りにされた家畜じゃねえか。でも疫病かなにかかも知れないな。集団死とか、食わない方がいいだろう。

 「蘭丸。死んでた獲物を食べるのはやめた方がいい。何故かと言うと、病気で死んだかも知れないからだ。」

 「ぼーき?」

 「な。病気で死んだヤツを食べると病気が伝染するかも知れないだろ?だから、ダメなんだ。」

 「……あーし、しっぱいした?」

 あらら、しょんぼりしちゃったよ。

 「そうだな。今回は失敗だった。でも次は大丈夫だろ?蘭丸は賢いからな。」

 「うん!つぎはだいじょぶ!」

 ヨシヨシと蘭丸の頭を撫でてやると嬉しそうに尻尾を振る。それにしても、飯、どうすっかな?

 あ!そうだ!

 「ちょっと飯買って来るから少し待っててくれるか?」

 「は?どちらへ?」

 「コンビニ。」

 転移魔法で日本に行って、飯買って戻ってくりゃいいじゃん。

◇◇◇

 この人がホンダ卿ね。割と小柄なおじさんだけど武人の雰囲気はあるわね。黙って私を見据える視線から感じる威圧感は歴戦の勇士の貫禄十分。

 「ライム殿は得物はどうなさる?」

 ジュークさんが聞いてきた。

 「片手剣で。」

 そうすると木剣が渡された。ホンダ卿は槍ね。先端に丸く布を巻いてある訓練用のヤツだ。

 「ふふふ。木剣ではぬるいとお思いかな?」

 冗談。死ぬ危険性が少ない訓練用の武器だからこそ超マジの一撃食らわす算段でしょ。要は向こうは本気の本気って事ね。

 「いえ。こちらも本気を出せるというものですよ。」

 敢えて挑発的な発言をしてみる。あ、ホンダ卿がちょっと笑った?というか、さっきから喋ってるのジュークさんばっかりね?

 「それでは両者構え!」

 ハカタの市街地からやや離れた場所に築かれた砦。海にも陸にも睨みを利かせられる中々の立地だと思う。そんな砦の一角にある訓練場で相対する私とホンダ卿。ジュークさんが言ってた通りの人らしく、まずは一合打ち合えば分かるとばかりにここに案内されて今に至る。

 ブォンブォンブォンと頭上で槍を回転させてからビシッとこちらに穂先を向けて構えるホンダ卿。槍の長さは3メートル程か。うん、この人出来る。アクセル隊長とやってもいい線行くんじゃないかな?

 「はじめ!」

 審判役のジュークさんの掛け声と同時に私は間合いを詰める。ジュークさんとやった時と同じね。

 「ぬっ!?」

 あ、このホンダ卿、凄い。反応したよ!?私の縮地に合わせて突きを繰り出して来た!しかも美少女勇者ライムちゃんの顔を狙うとか結構えげつないわね。でも甘い甘い。スッと顔をズラして躱しながら更に間合いを詰める。

 ここまで間合いを詰めたら相手は長柄の武器。懐に入られたらお手上げでしょ?って思ったら私の方が甘かった!

 ホンダ卿、突き出した槍を引きながら身体を回転させ槍の柄の部分で横から殴って来た。でも抵抗もそこまでだったみたい。私は横薙ぎの柄を左腕のガントレットで受け右手の剣で首筋に寸止め。

 「そ、そこまで!」

 「完敗だ。見事だな、ライム殿。」

 ホンダ卿、渋くてカッコいい声です。

 「いえ、勉強させて頂きました。」

 うん、これホント。正直、侮ってたかも。

 「ジューク!客人をもてなす支度に掛かれ!小難しい話は明日にする!今宵は美味い酒が呑めそうだ!」

 あははは。気に入られたみたいね。なんて言うか、想像通りの人。

 かずと。こっちは順調だよ!


____________________________________________________

 ファンタジー小説大賞エントリー中!宜しければ左上の投票バナーをぽちっとお願い致します!

 

 
しおりを挟む
感想 591

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。