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西国編
飯の心配
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「つまり、こやつが言いたい事はじゃな、ダンジョンのボス部屋という狭い空間ではなくこの広い世界全てが戦闘空間になると言う事じゃ。」
口の中を飴玉でいっぱいにして喋れないスプライトに代わってアクアが説明してくれた。
「ハッキリと申し上げますと、ご主人様と戦闘になった場合は接近戦では勝負になりません。デコピン一発で撃沈ですので。ならばどうするか、と言う事なのですが…」
ああ、なるほどな。俺が行けないフィールドに逃げ込み、そこから一方的に俺を攻撃するってか。外での戦闘なら水中なり空なり、人間が行けない場所はたくさんある。スプライトだってずる賢く戦えばもっと俺は苦戦したかも知れないしな。地中に潜られたとか大地と融合したとかされたら心底面倒だろ。
「空、か。」
サンタナの言葉から導き出した答えは空。確かに精霊は空も自由自在に移動できるだろう。
「流石はご主人様、挑んで来るのは空中戦かと。」
「だがなあ、俺は空を飛べないが、迎撃する術ならいくらでもあるぞ?」
そう言って俺は指先に魔力を集めて空に向かってぶっ放す。おお~、雲に穴が空いたぜ!
「あるじ!そんなものをぶつけたら火のヤツが死んでしまうのだ!?」
非難の声は飴玉を完食したらしいスプライトだ。
「おお、食い終わったか?どうだ?三種類の味は?」
「うん!次々と新しい味の組み合わせが出て来て楽しかったのだー!ありがとうなのだ!…って違うのだ!あんなものを食らっては精霊王と言えども消滅してしまうのだ!」
そっか。めんどくせえな。心を折る程度に留めておかなきゃならんって事だな。
「…ご主人様。空を飛んでみませんか?」
突如としてもたらされたサンタナの甘い誘惑。
「火の精霊王とやり合うなら妾の力も役に立つと思うがのう?」
便乗してくるアクアの誘惑。
「あたしもー!特にないけど応援するのだー!」
あまり役に立ちそうにないスプライトの無邪気な応援。
「…教えてくれよ。空の飛び方。俺に力を貸してくれ。」
サンタナもアクアも硬直している。なんで??スプライトはニコニコしてるだけだが。
「ど、どうした?」
「ご主人様に必要とされるなんて望外の喜びですっ!ひぐっ!ご主人様は私どもの力など無くても不自由なさらないお方…頼りにされるのは嬉しゅうございますっ!」
サンタナが滂沱の涙だ。そ、そんなにか。いつも頼りにしてんだけどなぁ?
「おにいちゃん!ただまー!とてきたよー!」
お?蘭丸が帰って来た。
「おお、お帰り!……蘭丸、何獲ってきた?」
「んー?うし?」
んなデケえ牛どうやって…いや、妖狐だしな。いや。しかし牛が野生にいるのか?
「……どこでコレを?」
「んーとね、さくのなかでいっぱいたおれてた?」
100パー置き去りにされた家畜じゃねえか。でも疫病かなにかかも知れないな。集団死とか、食わない方がいいだろう。
「蘭丸。死んでた獲物を食べるのはやめた方がいい。何故かと言うと、病気で死んだかも知れないからだ。」
「ぼーき?」
「びょうきな。病気で死んだヤツを食べると病気が伝染するかも知れないだろ?だから、ダメなんだ。」
「……あーし、しっぱいした?」
あらら、しょんぼりしちゃったよ。
「そうだな。今回は失敗だった。でも次は大丈夫だろ?蘭丸は賢いからな。」
「うん!つぎはだいじょぶ!」
ヨシヨシと蘭丸の頭を撫でてやると嬉しそうに尻尾を振る。それにしても、飯、どうすっかな?
あ!そうだ!
「ちょっと飯買って来るから少し待っててくれるか?」
「は?どちらへ?」
「コンビニ。」
転移魔法で日本に行って、飯買って戻ってくりゃいいじゃん。
◇◇◇
この人がホンダ卿ね。割と小柄なおじさんだけど武人の雰囲気はあるわね。黙って私を見据える視線から感じる威圧感は歴戦の勇士の貫禄十分。
「ライム殿は得物はどうなさる?」
ジュークさんが聞いてきた。
「片手剣で。」
そうすると木剣が渡された。ホンダ卿は槍ね。先端に丸く布を巻いてある訓練用のヤツだ。
「ふふふ。木剣ではぬるいとお思いかな?」
冗談。死ぬ危険性が少ない訓練用の武器だからこそ超マジの一撃食らわす算段でしょ。要は向こうは本気の本気って事ね。
「いえ。こちらも本気を出せるというものですよ。」
敢えて挑発的な発言をしてみる。あ、ホンダ卿がちょっと笑った?というか、さっきから喋ってるのジュークさんばっかりね?
「それでは両者構え!」
ハカタの市街地からやや離れた場所に築かれた砦。海にも陸にも睨みを利かせられる中々の立地だと思う。そんな砦の一角にある訓練場で相対する私とホンダ卿。ジュークさんが言ってた通りの人らしく、まずは一合打ち合えば分かるとばかりにここに案内されて今に至る。
ブォンブォンブォンと頭上で槍を回転させてからビシッとこちらに穂先を向けて構えるホンダ卿。槍の長さは3メートル程か。うん、この人出来る。アクセル隊長とやってもいい線行くんじゃないかな?
「はじめ!」
審判役のジュークさんの掛け声と同時に私は間合いを詰める。ジュークさんとやった時と同じね。
「ぬっ!?」
あ、このホンダ卿、凄い。反応したよ!?私の縮地に合わせて突きを繰り出して来た!しかも美少女勇者ライムちゃんの顔を狙うとか結構えげつないわね。でも甘い甘い。スッと顔をズラして躱しながら更に間合いを詰める。
ここまで間合いを詰めたら相手は長柄の武器。懐に入られたらお手上げでしょ?って思ったら私の方が甘かった!
ホンダ卿、突き出した槍を引きながら身体を回転させ槍の柄の部分で横から殴って来た。でも抵抗もそこまでだったみたい。私は横薙ぎの柄を左腕のガントレットで受け右手の剣で首筋に寸止め。
「そ、そこまで!」
「完敗だ。見事だな、ライム殿。」
ホンダ卿、渋くてカッコいい声です。
「いえ、勉強させて頂きました。」
うん、これホント。正直、侮ってたかも。
「ジューク!客人をもてなす支度に掛かれ!小難しい話は明日にする!今宵は美味い酒が呑めそうだ!」
あははは。気に入られたみたいね。なんて言うか、想像通りの人。
かずと。こっちは順調だよ!
____________________________________________________
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「ハッキリと申し上げますと、ご主人様と戦闘になった場合は接近戦では勝負になりません。デコピン一発で撃沈ですので。ならばどうするか、と言う事なのですが…」
ああ、なるほどな。俺が行けないフィールドに逃げ込み、そこから一方的に俺を攻撃するってか。外での戦闘なら水中なり空なり、人間が行けない場所はたくさんある。スプライトだってずる賢く戦えばもっと俺は苦戦したかも知れないしな。地中に潜られたとか大地と融合したとかされたら心底面倒だろ。
「空、か。」
サンタナの言葉から導き出した答えは空。確かに精霊は空も自由自在に移動できるだろう。
「流石はご主人様、挑んで来るのは空中戦かと。」
「だがなあ、俺は空を飛べないが、迎撃する術ならいくらでもあるぞ?」
そう言って俺は指先に魔力を集めて空に向かってぶっ放す。おお~、雲に穴が空いたぜ!
「あるじ!そんなものをぶつけたら火のヤツが死んでしまうのだ!?」
非難の声は飴玉を完食したらしいスプライトだ。
「おお、食い終わったか?どうだ?三種類の味は?」
「うん!次々と新しい味の組み合わせが出て来て楽しかったのだー!ありがとうなのだ!…って違うのだ!あんなものを食らっては精霊王と言えども消滅してしまうのだ!」
そっか。めんどくせえな。心を折る程度に留めておかなきゃならんって事だな。
「…ご主人様。空を飛んでみませんか?」
突如としてもたらされたサンタナの甘い誘惑。
「火の精霊王とやり合うなら妾の力も役に立つと思うがのう?」
便乗してくるアクアの誘惑。
「あたしもー!特にないけど応援するのだー!」
あまり役に立ちそうにないスプライトの無邪気な応援。
「…教えてくれよ。空の飛び方。俺に力を貸してくれ。」
サンタナもアクアも硬直している。なんで??スプライトはニコニコしてるだけだが。
「ど、どうした?」
「ご主人様に必要とされるなんて望外の喜びですっ!ひぐっ!ご主人様は私どもの力など無くても不自由なさらないお方…頼りにされるのは嬉しゅうございますっ!」
サンタナが滂沱の涙だ。そ、そんなにか。いつも頼りにしてんだけどなぁ?
「おにいちゃん!ただまー!とてきたよー!」
お?蘭丸が帰って来た。
「おお、お帰り!……蘭丸、何獲ってきた?」
「んー?うし?」
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「……どこでコレを?」
「んーとね、さくのなかでいっぱいたおれてた?」
100パー置き去りにされた家畜じゃねえか。でも疫病かなにかかも知れないな。集団死とか、食わない方がいいだろう。
「蘭丸。死んでた獲物を食べるのはやめた方がいい。何故かと言うと、病気で死んだかも知れないからだ。」
「ぼーき?」
「びょうきな。病気で死んだヤツを食べると病気が伝染するかも知れないだろ?だから、ダメなんだ。」
「……あーし、しっぱいした?」
あらら、しょんぼりしちゃったよ。
「そうだな。今回は失敗だった。でも次は大丈夫だろ?蘭丸は賢いからな。」
「うん!つぎはだいじょぶ!」
ヨシヨシと蘭丸の頭を撫でてやると嬉しそうに尻尾を振る。それにしても、飯、どうすっかな?
あ!そうだ!
「ちょっと飯買って来るから少し待っててくれるか?」
「は?どちらへ?」
「コンビニ。」
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◇◇◇
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「ライム殿は得物はどうなさる?」
ジュークさんが聞いてきた。
「片手剣で。」
そうすると木剣が渡された。ホンダ卿は槍ね。先端に丸く布を巻いてある訓練用のヤツだ。
「ふふふ。木剣ではぬるいとお思いかな?」
冗談。死ぬ危険性が少ない訓練用の武器だからこそ超マジの一撃食らわす算段でしょ。要は向こうは本気の本気って事ね。
「いえ。こちらも本気を出せるというものですよ。」
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ハカタの市街地からやや離れた場所に築かれた砦。海にも陸にも睨みを利かせられる中々の立地だと思う。そんな砦の一角にある訓練場で相対する私とホンダ卿。ジュークさんが言ってた通りの人らしく、まずは一合打ち合えば分かるとばかりにここに案内されて今に至る。
ブォンブォンブォンと頭上で槍を回転させてからビシッとこちらに穂先を向けて構えるホンダ卿。槍の長さは3メートル程か。うん、この人出来る。アクセル隊長とやってもいい線行くんじゃないかな?
「はじめ!」
審判役のジュークさんの掛け声と同時に私は間合いを詰める。ジュークさんとやった時と同じね。
「ぬっ!?」
あ、このホンダ卿、凄い。反応したよ!?私の縮地に合わせて突きを繰り出して来た!しかも美少女勇者ライムちゃんの顔を狙うとか結構えげつないわね。でも甘い甘い。スッと顔をズラして躱しながら更に間合いを詰める。
ここまで間合いを詰めたら相手は長柄の武器。懐に入られたらお手上げでしょ?って思ったら私の方が甘かった!
ホンダ卿、突き出した槍を引きながら身体を回転させ槍の柄の部分で横から殴って来た。でも抵抗もそこまでだったみたい。私は横薙ぎの柄を左腕のガントレットで受け右手の剣で首筋に寸止め。
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