いや、自由に生きろって言われても。

SHO

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西国編

カズトだけじゃないんだよ?

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 スンシュー国よりチンゼイ遠征軍の将軍として派遣されたのはホンダ卿という人物だそうだ。スンシュー国内ではスンシュー三羽烏と呼ばれている実力者らしい。豪勇にして寡黙。大凡交渉に向いている人物ではないとの事。但し戦に於いては無双を誇り部下からの人気も高いらしい。

 「我が殿はハカタに拠点を構えてチンゼイ北部を荒らすゲン軍に睨みを利かせております。ですが…。」

 ん?ジュークさんが言い淀む。何か問題のある人物なのかな?

 「殿の判断基準は強いか否か。恐らく殿を使って事を為そうとするならば、力でねじ伏せて見せよ。そういう流れになるのはほぼ確定です。」

 ああ~、そういうタイプね…でも白黒付けるのは簡単そうだからそっちの方向なら大歓迎。

 「それなら問題ないです。あたし達の誰が相手でも。」

 ジュークさんの眼がキラリと光る。このパターン、私知ってるよ?

 「面白い。ならば私が確かめさせて頂いても宜しいですかな? 私如きを倒せぬ様ではハカタへ行っても無駄足となりましょう。」

 ほら、こうなる訳よ。まあ、この美少女勇者ライムちゃんがお相手して差し上げましょうか。

 《美少女勇者って…ライム、あなた既に人妻なのにいつまで美少女を名乗るんですの?》

 ………美少女人妻勇者ライムちゃんがお相手してあげるわ!

 《だからいつまで美少女を名乗ってるんですの!?》

 ………ビートうるさい!ぺっ!

 「ならば私がお相手します。夫カズトに全権を委ねられましたし。」

 「ふむ。女性と言えども手加減は致しませんぞ?」

 多分ホンダさんの家臣ってみんなこんなんだろうなあ…主君に会いたくば我の屍を超えて行け!みたいなノリの。嫌いじゃないけどね!

 「もちろん!では、始めましょうか?」

 約10メートル離れて対峙する私とジュークさん。普通の人なら10メートルって飛び道具や投擲武器が無いと届かない距離だけど、私にとっては接近戦の間合いの中。

 「では、こちらから行きますよ?目を離さないで下さいね?」

 「うむ、参られよ!」

 ジュークさんは大剣を構えている。破壊力重視のパワーファイターね。なかなかいい気合だわ。でも!

 「な!?」

 ジュークさんには何が起こったのか理解出来ていないだろうな。ううん、結果だけ見れば何が起こったのかは分かるだろう。但し、過程はすっぽりと抜け落ちているだろうけど。

 「い、今のは?」

 「今のは間合いを詰めて一の太刀でジュークさんの大剣を弾き、二の太刀で首を刈りに行きました。」

 一歩目からトップスピードの縮地。中段に構えたジュークさんの大剣が邪魔なので横に払う。返す刀でジュークさんの首筋にピタリと刃を付ける。やったのはこれだけ。

 「な、何と…全く見えませんでした。」

 「合格という事で?」

 「もちろんです!」

 むふふ。頑張ったから後でかずとにいっぱいご褒美おねだりしちゃおう♪

◇◇◇

 「むう…ライムが居ない弊害がこんな所で…」

 「本当に…今まであまりにも当たり前だったので気付きませんでした。」

 ライムのいない弊害とは。まあ有体に言えば飯だ。ライムの空間収納魔法は中で時間が止まってる。だから出来立ての飯をたっぷりと保管している。なので長期の旅で周囲に人里が無くてもいつでも出来立ての美味い飯を食う事が可能だ。俺のコートのマジックポケットも似たような性能だけどポケットの入り口よりデカい物は収納出来ないという制限がある。とにかく直径がポケットの入り口に収まるサイズなら収納可能だがそれ以上は無理だ。

 「いつもライムの収納に頼ってたからなぁ…俺のマジックポケットには飴玉くらいしか入ってないぞ。」

 「となると、獲物を狩って来るしかない訳じゃな。」

 「おにいちゃん!あーし、ごはんとってくるー!」

 う~む。一抹の不安は残るがここは蘭丸に頼んでみようか。

 「蘭丸、頼まれてくれるか?」

 「うん!いってくるねー!」

 本当に無邪気な返事で五本にまで増えた尻尾を風に靡かせて蘭丸は駆けて行った。さて、蘭丸が戻るまで火の精霊王とやらの情報をインプットしておこうか。今までの精霊王とは違い今回はダンジョンに囚われていないため、ウチの三人の精霊王はかなり明確に火の精霊王の存在を知覚しているっぽい。

 「なあ、その火の精霊王ってどんなヤツ?」

 俺の問いにまずサンタナが答える。

 「四大属性の内最も攻撃的で破壊力に特化しているのが『火』です。当然強力な火属性攻撃を繰り出してきます。」

 次いでアクア。

 「かと言って世界に暖かさを与える事を司っている精霊でもあるからの。普段は温厚な性格をしておるハズなのじゃ。これだけ暴れたと言う事はゲンの連中め、余程の事を仕出かしたか。若しくは異常に沸点が低い個体が精霊王に至ったのか…」

 ふん、どっちにしてもゲンだけじゃなく無関係の地元民まで巻き込んだんだ。お仕置きは必要だろ?

 「あるじー。元来精霊は人間より霊格の高い存在なのだ。だから火のヤツもおとなしくあるじの話を聞くとは思えないのだ。」

 まあ、今までがそうだったし、それは既定路線だよな。今更な話だ。

 「純粋な力関係で言えばあるじは精霊王より遥かに上なのだ。でもダンジョンの外での戦いとなると、精霊にはあるじには無いアドバンテージがあるのだ。」

 お?これは興味深い情報だな。サンタナもアクアも頷いている。

 …
 ……
 ………

 いつまで待っても次の言葉が出て来ないスプライト。見ると大口を開けて何かを待っている。この野郎…情報には対価が必要だってか。よかろう。

 「ふご!ほご!もごっ!」

 三連発で飴玉を放り込んでやった。オレンジ、メロン、グレープの三連コンボだ。

 「もごもごもご♪」

 何言ってるかわかんねーよ。


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