いや、自由に生きろって言われても。

SHO

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西国編

こいつらの出港準備はこんなもん。

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 船大工や村人達との宴を終えた俺達は折角なので『イセカイ号』の船室で寝る事にした。流石に中は寝台列車なみの狭さだったがそれは仕方のない事だろう。一応、甲板の下のブロックには従魔達の休むスペースもある。何と驚くなかれ、エレベーター式で甲板の一部が上下するんだぜ?空母が格納庫から航空機を飛行甲板に上げる仕組みと同じなんだが、あのおっさん、どこでこんな知識を手に入れたんだか。

 本来なら、水やら食料やら、船旅となると大量の積載物が発生するもんだがウチには空間収納持ちのライムがいるから船内のスペースには結構余裕がある。雑魚寝でいいなら結構な人数が乗れそうだな。

 そして俺は一応船長ポジションって事で他よりも広い部屋がプライベートルームとしてあてがわれたので久しぶりにライムと夫婦水入らずで眠った。いいじゃん。夫婦だし。

 「ねえ、かずと。どうしてこうなってんの?」

 「…俺が知るか。」

 朝目覚めると、俺の腹の上にもふもふがぐでーっと寝ていた。こっちにケツを向けているせいで、たまにわっさわっさと動く金色の尻尾が鼻先をくすぐる。蘭丸、てめえ、わざとか?そして隣のライムの上にはゴロゴロと喉を鳴らしながら恍惚の表情でもみもみしている黒猫姿のビート。お前、それ、ライムの乳揉んでるじゃねえかコラ。

 「おいライム。布団の中にまだなんかいる。」

 蘭丸を脇に転がして身体の自由を確保して毛布をめくると、そこには掌サイズで顕現しているちっちゃいサンタナ、アクア、スプライトが涎ダラダラのだらしない顔で寝てやがる。

 「ライム、ちょっとこいつ等に電撃流してやってくれ。」

 「了解。髪の毛逆立つくらいのヤツでいいよね?」

 《あばばばばばばばばば!》

 直後、俺の眷属達の悲鳴で船内の全員が目覚めたらしい。



 「じゃあみんな、方針説明すっから何か意見のあるヤツはじゃんじゃん出してくれ。」

 朝食の席で今後の行動方針を示す。飯食いながらとか行儀が悪い?いいんだよ。みんなでワイワイ食うのが好きなんだよ。日本じゃ一人暮らしが長かったからな。

 「話によれば、チンゼイへの上陸自体は妨害はないらしい。でも係留している船に工作されるとかそういうのは考えられるから上陸したら速攻で船はライムの収納にしまい込む。あとはチンゼイの中で情報収集する訳だけど、ついでにイセカイ号でゲンの軍船をゲリラ的に沈めて行けたらいいと考えてる。」

 「なるほどのお…儂らは船を持ち歩いている訳じゃから、連中にとってはまさに神出鬼没じゃな。」

 「それだけじゃねえぞ、爺さん。俺達には風と水が味方してくれる。一方的に、圧倒出来る。」

 「でもさぁ、お館様。サンタナ様とアクア様で大嵐でも起こしたらゲンの軍船なんて一網打尽じゃないのかい?」

 千代ちゃんは最近になって俺をお館様と呼ぶようになった。漸く、日本に居た時の主君、武田信玄を吹っ切ったみたいだな。

 「千代ちゃん。鎌倉幕府は何度元の襲来を受けた?」

 「そりゃ、二度だね。どっちも神風が吹いて撤退したんだろ?」

 そうなんだけど、問題は何故二度も来たかって事だ。

 「元は神風を単なる偶然だと思った。まあ、実際偶然だったんだけどな。それでも、二度も偶然は無いだろうって思ったから二度目の襲来が有った訳だろ?」

 「まあ、そうかもねぇ?」

 「千代ちゃんが言ったように、サンタナ、アクアの力で蹴散らしてしまうと連中は単なる自然災害だと思っちまうだろうな。」

 「…なるほど。それだと懲らしめた事にはならないか。少なくとも向こうはこっちに負けたとは思わないねぇ。」

 「そゆ事。俺達は、連中に対して『この国に喧嘩を売ったらヤバい』、そう思わせなきゃならねえんだ。だから、力を見せつけてやるのさ。売られた喧嘩は全力で買うぞってな。」

 それからはこれと言って意見は出なかったんで普通に雑談しながら食事を終え、出港準備に入る。といっても各自の役割を船乗りたちにレクチャーしてもらうくらいだが。

 そして出航前。ドックに注水が終わりイセカイ号が水に浮かぶ。桟橋から階段を掛けて乗り込む。なんとかスタリオンも乗り込めた。丈夫な階段だな。

 ちなみにダッツンが見送りの時に掛けた言葉はこうだ。

 「それじゃあ気を付けてな。んで、そこのお嬢さん方はなんで髪がチリチリになっとるんじゃ?」

 うん、やっぱ気になるよね、そこ。
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