いや、自由に生きろって言われても。

SHO

文字の大きさ
上 下
165 / 240
西国編

強化合宿の提案

しおりを挟む
 「何と…古の九尾の妖狐までも手懐けていたとは…」

 蘭丸の正体を聞いてボーラはまだ呆けている。このヘイアンでは過去に都を大混乱に陥れた妖狐に対し潜在的に恐怖や畏怖という感情が刷り込まれているらしい。時を経て語り継がれてきた伝承が現代を生きる人達にも未だ浸透している。バンドーでも同じように語り継がれて行くんだろうな。

 「あーし、そんなことしてないよー?」

 と蘭丸が異議申し立てしていたように、かなり脚色された部分もあるようだけどな。

 「それはそうと、俺達がいない間、こっちはどうだったんだ?」

 これについてはテルが答えてくれた。

 「まず、潜伏していたポンティアックの配下や協力者たちは殆ど拘束したよ。あとは無視しても問題ないレベルだと思う。それから、遠ざけられていたボーラ様に近しい貴族や豪族たちも徐々にヘイアンに戻って来ている。もしかすると、セリカ様たちの本隊が到着する前に俺達が出発しても大丈夫かも知れないかな?」

 ふむ。それならボーラの側近は都の防衛に回してセリカ達を沿岸警備に配置出来るか。

 「俺達の方だが、まず行きは山陰ルート、帰りは山陽ルートを通ったんだが、海には敵の姿は確認出来なかった。だが関門海峡は封鎖されている。いや、厳密に言えばチンゼイに渡る事は可能なんだけどな。」

 「? どういう事だろうか?」

 今一つピンと来ない表情のボーラにライムが続けて説明する。

 「地元の人の話だと、チンゼイに向かう船には手出しして来ないんだけど、チンゼイからこちらに来ようとする船は沈められるらしいの。実際ゲンの軍船がたくさん浮かんでいたわ。そんな訳で、行ったら最後戻って来られないものだから、地元の人は船を出してくれないんだ。」

 「けど、向こうで船大工やってるっていうおっさんと知り合ってな。今造ってる最中の船が仕上がってたら譲って貰う事にしたんだ。あと三週間くらいで仕上がるらしい。船頭はいなくてもアクアとサンタナが居れば船なんて自由自在だからな。即金で買って来た。」

 「それってやっぱりチンゼイに出征した本島の軍をチンゼイに閉じ込める目的なのかな。それともチンゼイには何か秘密があって情報漏洩を避けているのか…」

 それな。俺もそこんとこ興味が湧いている。なので…

 「テルの懸念も尤もだと思う。けど、それは実際にチンゼイに向かえば分かるだろ。どうやらゲンはチンゼイに向かう分にはフリーパスで通してくれるみたいだしな。で、このメンバーで予定通りチンゼイに向かおうと思うんだが、チンゼイに向かう前に強化合宿を行いたいと思います!」

 うん、みんなの頭に???って浮いてるよ。見えるよ。

 「あははっ、あのね、チョーシューに大規模なダンジョンがあったの。そこでみんなパワーアップしちゃおうって事ね。」

 「セリカ達の到着を待っているとちょっと時間が足りないかも知れない。だからボーラの元側近の戦力がヘイアンに揃い次第出発するからそのつもりでいてくれ。テルもユキも爺さんも千代ちゃんもダンジョンは未経験だろ?ほら、血が騒ぐだろ?」

 あれ?なぜに苦笑が返ってくる?

 「おにいちゃん!あーし、だんじょんいくー!」

 よしよし、蘭丸はいい子だな。ただ、その口調で通すならいっそ見た目も幼女になってくれ。ギャップが酷くて馴染めない。

 『ご主人様。あのダンジョンの属性は《土》です。』

 サンタナが教えてくれた。そう言えば、ファンタジーじゃおなじみの属性の優劣の設定ってあるのかな?

 『特に優劣はないのじゃ。火は水に弱いなどと誤解しておる輩もおるが、結局は魔力の強さが優劣に直結するのじゃ。』

 なるほど。火に水を掛ければ火は消えるが火の勢いが強ければ水は蒸発してしまう。土は風が吹けば舞い上がるが岩ならば風が吹いてもビクともしない、そんな感じか。アクアの言いたい事はそういう事だろう。

 こうして一週間の後、俺達はチョーシューに向けて出発する事にした。

 
しおりを挟む
感想 591

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。