156 / 240
西国編
取り敢えず脱出成功
しおりを挟む
妾はアクア。水の精霊王ウンディーネじゃ。とあるダンジョンでダンジョンマスターをしておったのだが、珍しく最下層まで降りて来た輩がおったもので興味本位にちょっかいを出したらとんでもないお方だったのじゃ。容赦なく叩きのめされ心をポッキリと折られての。それ以来そのお方の眷属となってお仕えしておる。だがの、一旦仲間と認めて頂けた後はそれはもう居心地が良いものでの。もはやあのお方から離れるなど考えられぬ。ああ、マスター。仕事とは言えこうして妾を離すなど…
『あれ?あくあさまー?』
『アクア様?どうなされた?』
『ご主人様が暴れる準備ですか?』
こやつらも妾と同じくあのお方の眷属での。かわいい喋り方じゃが見た目は狂暴そうな地竜のスタリオン。本当は素直で良い子なのじゃ。
そしてマスターの乗馬を務めておるラングラー。皆はランと呼んでおる。見た目は黒鹿毛の立派な馬じゃが実はバイコーンなのじゃ。
で、マスターの奥方、ライムの乗馬を務めておるのがチェロキー。皆はチェロと呼んでおるな。これも見た目は葦毛の立派な馬じゃが正体はユニコーンじゃ。この3頭だけでも眷属に従えているマスターの凄さが分かろうと言うものじゃろ?おっと、こやつらに用向きを伝えねばな。
『もうすぐ騒ぎが起こる。お主らに火の粉が掛からぬようマスターから遣わされて来たのじゃが…本当の目的は別じゃろうな。』
『脱出させる者がおるのですね?』
『恐らくな。』
おっとマスターから念話じゃ!
『アクア、聞こえるか?もうすぐサンタナとテル、ユキが帝を連れてそっちに飛ぶ。守ってやってくれ。お前の判断で脱出して構わん。邪魔する者がいれば…いや絶対いると思うが蹴散らしていいからな?』
『承知した。任せるが良いのじゃ。』
むふ。うふふふふふ。マスターから頼まれ事じゃ。腕が鳴るのお!
『お主ら、聞こえたか?護衛じゃ。傷一つ付けさせぬぞ!』
『おお~!!』×3
◇◇◇
「この先だな。やるぞ、ユキ。」
「うむ。」
テルはユキを連れて、帝が幽閉されている牢の手前へとテレポートした。カズト達のいる部屋へと兵達が集中している為、この牢を監視する兵は3人に減っている。
初手はユキの苦無の投擲から始まった。音も無く放たれた苦無はサクッと一人の額に突き刺さる。どさりと音を立てて倒れた同僚に気付いた他の2人は何が起こったか分からず狼狽える。
「おい!どうした!おい!がっ!?」
「なんだ?何がどうなった?ぐあっ!?」
倒れた男に駆け寄った二人の背後に突然現れたテルが一刀の元に二人を斬り捨てた。
「ふ。また腕を上げたのではないか?」
「ああ。鍛錬は欠かしていないからな。」
「流石は我が伴侶。惚れ直したぞ。」
軽口を叩きながら3人の懐を改めて牢の鍵を探しているテルとユキに牢の中より帝が誰何する。
「お主たちは何者ぞ?尋常ではない腕のようだが。何処ぞの刺客か?」
やや間を置いて鍵を探し出し牢を開けたテルとユキは帝の前に片膝を付き頭を下げる。
「突然のご無礼お許しを。私はエツリア王サーブ、並びにバンドー大公ジュリアの名代として勅令を受け参上いたしました、テリー=キャスター伯爵にございます。そこにサンタナ様がおられると思いますが?」
『ええ、いますよ、テル。ユキ。相変わらず鮮やかなお手並みでした。ご主人様より念話が来ています。アクアの所まで飛んでもらえますか?』
「はい。ではそちらの侍女の方々も私に掴まって下さい。今から帝を外へお連れします。」
そして牢の中にいた全員の姿が消え、次に姿を現したのは厩舎の中だった。
「ひぃっ!」
『落ち着きなさいマセラティ。ここにいるのは皆我が主カズト様の眷属達なのです。』
現れて最初に目に入ったのが地竜のスタリオン。いきなり地竜が目の前にいるのだから驚くのは無理もない。しかもカズトからの連絡を受け、ランもチェロも本来の姿で待機しているのだ。バイコーンとユニコーンが戦闘態勢なのである。
「ここにいるメンバーで帝をお守りしますのでどうか竜車の中でお休みになっていて下さい。」
「いや待て。この御所の中には1000からの兵がいるのだぞ?いかに強力な眷属と言えども…」
「たかが1000など問題有りません。すでに全滅している頃ですよ。」
「なんと…」
僅か数人の一行が1000の兵に囲まれるというのに『たかが1000』と言い切るテルにマセラティは絶句する。
「サンタナ様、アクア様。どうも俺の言葉では帝は安心できぬ様なのでお姿を現したらいかがですか?」
『そうですか。ではアクア、本気モードで顕現しましょうか?』
サンタナが悪戯っぽく笑いながらアクアに同意を求める。
『ふふ、本気モードか。よかろう。』
辺りが光に包まれそこに居る皆の視覚を奪う。そして目蓋を開いた時、マセラティが見たそれは。
「こ、これは!」
6枚の翅と金色の髪。全体が黄緑の燐光に包まれたサンタナと。水色の肌と水色の髪。清らかな水のヴェールに包まれたアクア。
『私が風の精霊王サンタナ。』
『妾は水の精霊王アクアじゃ。』
「はっ!?」
マセラティは人生で初めて他者に平伏した。
『あれ?あくあさまー?』
『アクア様?どうなされた?』
『ご主人様が暴れる準備ですか?』
こやつらも妾と同じくあのお方の眷属での。かわいい喋り方じゃが見た目は狂暴そうな地竜のスタリオン。本当は素直で良い子なのじゃ。
そしてマスターの乗馬を務めておるラングラー。皆はランと呼んでおる。見た目は黒鹿毛の立派な馬じゃが実はバイコーンなのじゃ。
で、マスターの奥方、ライムの乗馬を務めておるのがチェロキー。皆はチェロと呼んでおるな。これも見た目は葦毛の立派な馬じゃが正体はユニコーンじゃ。この3頭だけでも眷属に従えているマスターの凄さが分かろうと言うものじゃろ?おっと、こやつらに用向きを伝えねばな。
『もうすぐ騒ぎが起こる。お主らに火の粉が掛からぬようマスターから遣わされて来たのじゃが…本当の目的は別じゃろうな。』
『脱出させる者がおるのですね?』
『恐らくな。』
おっとマスターから念話じゃ!
『アクア、聞こえるか?もうすぐサンタナとテル、ユキが帝を連れてそっちに飛ぶ。守ってやってくれ。お前の判断で脱出して構わん。邪魔する者がいれば…いや絶対いると思うが蹴散らしていいからな?』
『承知した。任せるが良いのじゃ。』
むふ。うふふふふふ。マスターから頼まれ事じゃ。腕が鳴るのお!
『お主ら、聞こえたか?護衛じゃ。傷一つ付けさせぬぞ!』
『おお~!!』×3
◇◇◇
「この先だな。やるぞ、ユキ。」
「うむ。」
テルはユキを連れて、帝が幽閉されている牢の手前へとテレポートした。カズト達のいる部屋へと兵達が集中している為、この牢を監視する兵は3人に減っている。
初手はユキの苦無の投擲から始まった。音も無く放たれた苦無はサクッと一人の額に突き刺さる。どさりと音を立てて倒れた同僚に気付いた他の2人は何が起こったか分からず狼狽える。
「おい!どうした!おい!がっ!?」
「なんだ?何がどうなった?ぐあっ!?」
倒れた男に駆け寄った二人の背後に突然現れたテルが一刀の元に二人を斬り捨てた。
「ふ。また腕を上げたのではないか?」
「ああ。鍛錬は欠かしていないからな。」
「流石は我が伴侶。惚れ直したぞ。」
軽口を叩きながら3人の懐を改めて牢の鍵を探しているテルとユキに牢の中より帝が誰何する。
「お主たちは何者ぞ?尋常ではない腕のようだが。何処ぞの刺客か?」
やや間を置いて鍵を探し出し牢を開けたテルとユキは帝の前に片膝を付き頭を下げる。
「突然のご無礼お許しを。私はエツリア王サーブ、並びにバンドー大公ジュリアの名代として勅令を受け参上いたしました、テリー=キャスター伯爵にございます。そこにサンタナ様がおられると思いますが?」
『ええ、いますよ、テル。ユキ。相変わらず鮮やかなお手並みでした。ご主人様より念話が来ています。アクアの所まで飛んでもらえますか?』
「はい。ではそちらの侍女の方々も私に掴まって下さい。今から帝を外へお連れします。」
そして牢の中にいた全員の姿が消え、次に姿を現したのは厩舎の中だった。
「ひぃっ!」
『落ち着きなさいマセラティ。ここにいるのは皆我が主カズト様の眷属達なのです。』
現れて最初に目に入ったのが地竜のスタリオン。いきなり地竜が目の前にいるのだから驚くのは無理もない。しかもカズトからの連絡を受け、ランもチェロも本来の姿で待機しているのだ。バイコーンとユニコーンが戦闘態勢なのである。
「ここにいるメンバーで帝をお守りしますのでどうか竜車の中でお休みになっていて下さい。」
「いや待て。この御所の中には1000からの兵がいるのだぞ?いかに強力な眷属と言えども…」
「たかが1000など問題有りません。すでに全滅している頃ですよ。」
「なんと…」
僅か数人の一行が1000の兵に囲まれるというのに『たかが1000』と言い切るテルにマセラティは絶句する。
「サンタナ様、アクア様。どうも俺の言葉では帝は安心できぬ様なのでお姿を現したらいかがですか?」
『そうですか。ではアクア、本気モードで顕現しましょうか?』
サンタナが悪戯っぽく笑いながらアクアに同意を求める。
『ふふ、本気モードか。よかろう。』
辺りが光に包まれそこに居る皆の視覚を奪う。そして目蓋を開いた時、マセラティが見たそれは。
「こ、これは!」
6枚の翅と金色の髪。全体が黄緑の燐光に包まれたサンタナと。水色の肌と水色の髪。清らかな水のヴェールに包まれたアクア。
『私が風の精霊王サンタナ。』
『妾は水の精霊王アクアじゃ。』
「はっ!?」
マセラティは人生で初めて他者に平伏した。
0
お気に入りに追加
5,674
あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。