いや、自由に生きろって言われても。

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西国編

取り敢えず脱出成功

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 妾はアクア。水の精霊王ウンディーネじゃ。とあるダンジョンでダンジョンマスターをしておったのだが、珍しく最下層まで降りて来た輩がおったもので興味本位にちょっかいを出したらとんでもないお方だったのじゃ。容赦なく叩きのめされ心をポッキリと折られての。それ以来そのお方の眷属となってお仕えしておる。だがの、一旦仲間と認めて頂けた後はそれはもう居心地が良いものでの。もはやあのお方から離れるなど考えられぬ。ああ、マスター。仕事とは言えこうして妾を離すなど…

 『あれ?あくあさまー?』
 『アクア様?どうなされた?』
 『ご主人様が暴れる準備ですか?』

 こやつらも妾と同じくあのお方の眷属での。かわいい喋り方じゃが見た目は狂暴そうな地竜のスタリオン。本当は素直で良い子なのじゃ。
 そしてマスターの乗馬を務めておるラングラー。皆はランと呼んでおる。見た目は黒鹿毛の立派な馬じゃが実はバイコーンなのじゃ。
 で、マスターの奥方、ライムの乗馬を務めておるのがチェロキー。皆はチェロと呼んでおるな。これも見た目は葦毛の立派な馬じゃが正体はユニコーンじゃ。この3頭だけでも眷属に従えているマスターの凄さが分かろうと言うものじゃろ?おっと、こやつらに用向きを伝えねばな。

 『もうすぐ騒ぎが起こる。お主らに火の粉が掛からぬようマスターから遣わされて来たのじゃが…本当の目的は別じゃろうな。』

 『脱出させる者がおるのですね?』

 『恐らくな。』

 おっとマスターから念話じゃ!

 『アクア、聞こえるか?もうすぐサンタナとテル、ユキが帝を連れてそっちに飛ぶ。守ってやってくれ。お前の判断で脱出して構わん。邪魔する者がいれば…いや絶対いると思うが蹴散らしていいからな?』

 『承知した。任せるが良いのじゃ。』

 むふ。うふふふふふ。マスターから頼まれ事じゃ。腕が鳴るのお!

 『お主ら、聞こえたか?護衛じゃ。傷一つ付けさせぬぞ!』

 『おお~!!』×3

◇◇◇

 「この先だな。やるぞ、ユキ。」

 「うむ。」

 テルはユキを連れて、帝が幽閉されている牢の手前へとテレポートした。カズト達のいる部屋へと兵達が集中している為、この牢を監視する兵は3人に減っている。

 初手はユキの苦無の投擲から始まった。音も無く放たれた苦無はサクッと一人の額に突き刺さる。どさりと音を立てて倒れた同僚に気付いた他の2人は何が起こったか分からず狼狽える。

 「おい!どうした!おい!がっ!?」
 「なんだ?何がどうなった?ぐあっ!?」

 倒れた男に駆け寄った二人の背後に突然現れたテルが一刀の元に二人を斬り捨てた。

 「ふ。また腕を上げたのではないか?」

 「ああ。鍛錬は欠かしていないからな。」

 「流石は我が伴侶。惚れ直したぞ。」

 軽口を叩きながら3人の懐を改めて牢の鍵を探しているテルとユキに牢の中より帝が誰何する。

 「お主たちは何者ぞ?尋常ではない腕のようだが。何処ぞの刺客か?」

 やや間を置いて鍵を探し出し牢を開けたテルとユキは帝の前に片膝を付き頭を下げる。

 「突然のご無礼お許しを。私はエツリア王サーブ、並びにバンドー大公ジュリアの名代として勅令を受け参上いたしました、テリー=キャスター伯爵にございます。そこにサンタナ様がおられると思いますが?」

 『ええ、いますよ、テル。ユキ。相変わらず鮮やかなお手並みでした。ご主人様より念話が来ています。アクアの所まで飛んでもらえますか?』

 「はい。ではそちらの侍女の方々も私に掴まって下さい。今から帝を外へお連れします。」

 そして牢の中にいた全員の姿が消え、次に姿を現したのは厩舎の中だった。

 「ひぃっ!」

 『落ち着きなさいマセラティ。ここにいるのは皆我が主カズト様の眷属達なのです。』

 現れて最初に目に入ったのが地竜のスタリオン。いきなり地竜が目の前にいるのだから驚くのは無理もない。しかもカズトからの連絡を受け、ランもチェロも本来の姿で待機しているのだ。バイコーンとユニコーンが戦闘態勢なのである。

 「ここにいるメンバーで帝をお守りしますのでどうか竜車の中でお休みになっていて下さい。」

 「いや待て。この御所の中には1000からの兵がいるのだぞ?いかに強力な眷属と言えども…」

 「たかが1000など問題有りません。すでに全滅している頃ですよ。」

 「なんと…」

 僅か数人の一行が1000の兵に囲まれるというのに『たかが1000』と言い切るテルにマセラティは絶句する。

 「サンタナ様、アクア様。どうも俺の言葉では帝は安心できぬ様なのでお姿を現したらいかがですか?」

 『そうですか。ではアクア、本気モードで顕現しましょうか?』

 サンタナが悪戯っぽく笑いながらアクアに同意を求める。

 『ふふ、本気モードか。よかろう。』

 辺りが光に包まれそこに居る皆の視覚を奪う。そして目蓋を開いた時、マセラティが見たそれは。

 「こ、これは!」

 6枚の翅と金色の髪。全体が黄緑の燐光に包まれたサンタナと。水色の肌と水色の髪。清らかな水のヴェールに包まれたアクア。

 『私が風の精霊王サンタナ。』

 『妾は水の精霊王アクアじゃ。』

 「はっ!?」

 マセラティは人生で初めて他者に平伏した。
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