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西国編
宮中に巣食うモノ
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威圧された案内役の男は背中に俺達全員の殺気を浴びながら宮中を案内するという状況で役目を全うせんと必死で頑張っているようだ。こいつ、さてはプロか?
「こちらでお待ち下さい。」
そう言って男は俺達に一室をあてがい部屋から出て行った。
そして。
「なあ。もう帰ろっか。なんだかバカバカしくなってきたぜ。」
「ホントだねえ。退屈で死にそう…」
そう、俺達は待たされている。それはもう長々と待たされている。わざわざオーシュー王国から出張って来たってのにこの扱い。そっちが来いって言うから来たのによ。
「カズト殿、そう言えばヘイアンへ来るまでに立ち寄った諸国で聞いた話、覚えているか?」
今までずっと難しい顔をして考え込んでいたユキがふと思い出したように話しかけて来た。
《サンタナ、この部屋全体に遮音結界を。》
《承知致しました。》
この国の最も高貴なお方のお住まいだ。客人を詰め込む部屋に盗聴の仕掛けの一つや二つはあるだろう。
「派兵した連中が最前線へ送られてるって話か?」
「うむ。その話の裏付けは取れたのだが、このヘイアンを防備する兵が余りにも少なかった。」
「ん?諸国の兵を前線に送ってるのは都の防備の為の兵を薄くしない為じゃないのか?」
「殿。お嬢の言う通りでな。諸国の兵のみならず、本来都の警護に当たるべき者どももチンゼイに向かわされたようじゃ。」
「敢えて都の防備を薄くしてる?この都の中に内通者でもいるか?」
「まあ、そんなトコだろうねえ。それで、この都の守備を一手に引き受けているお大臣様がいるんだが…」
きな臭い報告がなされている途中、赤い反応が近付いて来た。コレな、サンタナに遮音結界張らせた途端赤くなったんだぜ?どう思うよ?
「どうやらそのお大臣とやらがお迎えに来るみたいだ。」
俺の一言で弛緩した空気が一気に張り詰める。
「一応言っとくけど反応赤くなったから。」
「早速黒幕ってとこか。でもカズトさん、この宮中で赤いのって他には?」
うむ。流石はテル。戦場で鍛えた危機管理能力か?
「あー、うん。さっきな、サンタナにこの部屋へ遮音結界を張って貰ったんだよ。その直後から白い反応がどんどん赤くなってやがる。」
「じゃあ帝も敵って事かな?」
「どうだろな。この宮中で数人、一か所に固まってる連中がずっと白いままだ。しかも赤い点に囲まれてるんだ。もしも、奸臣に実権を握られ、帝が傀儡になり果てているってんなら囲まれた白い反応は帝と側付きの侍女とかじゃねえかな?他にも白は大勢いるが、使用人とか下級役人とか、そんな感じだろうと思う。」
「ねえかずと。もしかして今回の詔ってさ…」
「ああ、帝の与り知らぬ所ってヤツかも知れねえな。」
さて、とは言ってもまだ帝が善か悪かも分からん。色々と確認が必要だな。
「サンタナ、場所は分かってるな?お前の判断で顕現するのを許可する。見極めて来い。こっちの事は心配するな。それからアクアはラン達の所へ行ってやってくれ。いざって時に動けるようにな。」
《承知いたしました。では、行って参ります。ご主人様。》
《妾も心得た。任せるが良いのじゃ。》
サンタナ、アクア、二人の精霊王の力というか、存在感が俺から離れて行く。普段は霊体みたいなもんだから拉致されようが監禁されようが物理的な拘束は一切無意味だし人目に付く事も無い。ただし、精霊王と言う人間を遥かに超越した存在だけに人間の感覚とはずれている部分もある事は否めない。それでも俺の意識の中が普段の彼女達のねぐらみたいな物だから、俺の意識を通じて人間とはどういうものなのかはかなり理解している筈だ。
「さて、大臣様がお見えだ。」
もう扉の向こうまで来ている。段蔵爺さんは扉の直上の天井に張り付き、ユキと千代ちゃんは扉の両サイドで気配を消して待ち伏せている。苦無を握っているのが何ともそれっぽい。俺とテルが扉の正面に立ち、俺達の後ろにライムとビート。ライムの側にはエスプリ、さらにエスプリには蘭丸が張り付いている。
〈ギギギィ〉
木で出来た重厚な扉が軋む音。その向こうから現れたのは見るからに文官、しかもかなり位の高そうな衣服を身に付けた三十代前半くらいの男。意外と若いな。だがその顔に張り付けた酷薄そうな笑みは一切信用出来ないタイプの人間だと直感的に分かってしまう。
「ああ、糸目のニヤけヅラとか典型的な小悪党タイプね。」
こら、口に出すなよ、ライム。テルが笑い堪えるのに必死じゃねえか。
「随分と待たせたようで申し訳ない。私はこのキナイを治める帝に代わり政を取り仕切っているポンティアックと申す。主席宰相を務めておる。」
ライムのとってもよく聞こえる独り言が聞こえたのか、引き攣った笑顔のまま自己紹介を始めたポンティアック。連れて来ていた2人の警護はすでにユキと千代ちゃんによって無力化されていたが、それにすら気付かない様ではこの男自体は大したヤツじゃなさそうだ。丁度サンタナの遮音結界が生きている事だし、こいつにちょっと事情を聞いてみるかね。
「こちらでお待ち下さい。」
そう言って男は俺達に一室をあてがい部屋から出て行った。
そして。
「なあ。もう帰ろっか。なんだかバカバカしくなってきたぜ。」
「ホントだねえ。退屈で死にそう…」
そう、俺達は待たされている。それはもう長々と待たされている。わざわざオーシュー王国から出張って来たってのにこの扱い。そっちが来いって言うから来たのによ。
「カズト殿、そう言えばヘイアンへ来るまでに立ち寄った諸国で聞いた話、覚えているか?」
今までずっと難しい顔をして考え込んでいたユキがふと思い出したように話しかけて来た。
《サンタナ、この部屋全体に遮音結界を。》
《承知致しました。》
この国の最も高貴なお方のお住まいだ。客人を詰め込む部屋に盗聴の仕掛けの一つや二つはあるだろう。
「派兵した連中が最前線へ送られてるって話か?」
「うむ。その話の裏付けは取れたのだが、このヘイアンを防備する兵が余りにも少なかった。」
「ん?諸国の兵を前線に送ってるのは都の防備の為の兵を薄くしない為じゃないのか?」
「殿。お嬢の言う通りでな。諸国の兵のみならず、本来都の警護に当たるべき者どももチンゼイに向かわされたようじゃ。」
「敢えて都の防備を薄くしてる?この都の中に内通者でもいるか?」
「まあ、そんなトコだろうねえ。それで、この都の守備を一手に引き受けているお大臣様がいるんだが…」
きな臭い報告がなされている途中、赤い反応が近付いて来た。コレな、サンタナに遮音結界張らせた途端赤くなったんだぜ?どう思うよ?
「どうやらそのお大臣とやらがお迎えに来るみたいだ。」
俺の一言で弛緩した空気が一気に張り詰める。
「一応言っとくけど反応赤くなったから。」
「早速黒幕ってとこか。でもカズトさん、この宮中で赤いのって他には?」
うむ。流石はテル。戦場で鍛えた危機管理能力か?
「あー、うん。さっきな、サンタナにこの部屋へ遮音結界を張って貰ったんだよ。その直後から白い反応がどんどん赤くなってやがる。」
「じゃあ帝も敵って事かな?」
「どうだろな。この宮中で数人、一か所に固まってる連中がずっと白いままだ。しかも赤い点に囲まれてるんだ。もしも、奸臣に実権を握られ、帝が傀儡になり果てているってんなら囲まれた白い反応は帝と側付きの侍女とかじゃねえかな?他にも白は大勢いるが、使用人とか下級役人とか、そんな感じだろうと思う。」
「ねえかずと。もしかして今回の詔ってさ…」
「ああ、帝の与り知らぬ所ってヤツかも知れねえな。」
さて、とは言ってもまだ帝が善か悪かも分からん。色々と確認が必要だな。
「サンタナ、場所は分かってるな?お前の判断で顕現するのを許可する。見極めて来い。こっちの事は心配するな。それからアクアはラン達の所へ行ってやってくれ。いざって時に動けるようにな。」
《承知いたしました。では、行って参ります。ご主人様。》
《妾も心得た。任せるが良いのじゃ。》
サンタナ、アクア、二人の精霊王の力というか、存在感が俺から離れて行く。普段は霊体みたいなもんだから拉致されようが監禁されようが物理的な拘束は一切無意味だし人目に付く事も無い。ただし、精霊王と言う人間を遥かに超越した存在だけに人間の感覚とはずれている部分もある事は否めない。それでも俺の意識の中が普段の彼女達のねぐらみたいな物だから、俺の意識を通じて人間とはどういうものなのかはかなり理解している筈だ。
「さて、大臣様がお見えだ。」
もう扉の向こうまで来ている。段蔵爺さんは扉の直上の天井に張り付き、ユキと千代ちゃんは扉の両サイドで気配を消して待ち伏せている。苦無を握っているのが何ともそれっぽい。俺とテルが扉の正面に立ち、俺達の後ろにライムとビート。ライムの側にはエスプリ、さらにエスプリには蘭丸が張り付いている。
〈ギギギィ〉
木で出来た重厚な扉が軋む音。その向こうから現れたのは見るからに文官、しかもかなり位の高そうな衣服を身に付けた三十代前半くらいの男。意外と若いな。だがその顔に張り付けた酷薄そうな笑みは一切信用出来ないタイプの人間だと直感的に分かってしまう。
「ああ、糸目のニヤけヅラとか典型的な小悪党タイプね。」
こら、口に出すなよ、ライム。テルが笑い堪えるのに必死じゃねえか。
「随分と待たせたようで申し訳ない。私はこのキナイを治める帝に代わり政を取り仕切っているポンティアックと申す。主席宰相を務めておる。」
ライムのとってもよく聞こえる独り言が聞こえたのか、引き攣った笑顔のまま自己紹介を始めたポンティアック。連れて来ていた2人の警護はすでにユキと千代ちゃんによって無力化されていたが、それにすら気付かない様ではこの男自体は大したヤツじゃなさそうだ。丁度サンタナの遮音結界が生きている事だし、こいつにちょっと事情を聞いてみるかね。
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