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番外編
ウフロンの守護神(笑)
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ウフロン領ヨネーザの街の教会。小さな教会で慎ましやかに夫婦の契りを交わす儀が行われようとしていた。街の誰もが彼等を慕い、感謝の念を抱き、愛していた。彼等もまた、自分達を受け入れ、家族の様に接してくれた街の人々を愛していた。
小さな教会なのでそれ程多くの人は入れない。それでも礼拝堂の中は満員となっており、教会の外にまで多くの人々が集まっている。
ここオーシュー王国では複数の配偶者を持つ事が認められている。だが実際の所複数の妻を娶るのは経済力のある貴族くらいだ。男爵、騎士爵の下級貴族は領主の裁量で自由に取り立てる事が出来る。但し、領地は与えられない場合が殆どであるが。ちなみに子爵以上の上級貴族に取り立てるには女王であるセリカの承認が必要だ。
さて、今ここで祝言を挙げようととしている2人…ではなく3人。3人という事からそれなりの立場の人間である事が窺える。しかしなぜ貴族がこのような小さな教会で式を挙げようとしているのか。
「私、テリー=キャスターはユキ、並びにストラトを生涯愛する事を誓う。」
背中まである長髪は一本に束ねられ、左の頬には2本の傷痕。以前は傷面と呼ばれた凄腕冒険者のテル。そして彼の両隣に侍る少女が2人。テルの相棒として戦場を駆け抜けた腕利き冒険者のユキと宿屋の娘でひたすらにテルを慕い続けたストラト。
「若き3人の将来に幸多からん事を。」
神父が祝福を述べると礼拝堂に詰めかけていた人々から拍手が巻き起こる。
テルは本来の名前をテリー=キャスターと言う。本来であればエツリア王国のキャスター辺境伯の跡取りというなかなかに高貴な血筋の持ち主だった。悲しい過去から国を逃れオーシュー王国で冒険者として生計を立てていたが先のオーシュー内乱、バンドー争乱において目覚ましい活躍を見せた為各国から爵位を贈られている。
テル自身は貴族になるつもりは無かった。しかし妻を2人娶るとなると一般市民の立場ではいろいろと良くない事が分かった。貴族の立場であれば第一夫人、第二夫人と言った具合に世間体も悪いものでは無い。しかし一般人が2人目を娶った場合は愛人と目される場合が多いのである。無論、ここに祝福の為に集まった人達はそんな事は言わないだろう。しかし対外的にはそうもいかない。そこの事情を鑑みて、ウフロン太守のインテグラーレ公爵が自領防衛の功労者であるテルに男爵位を与えた。
もっともこれには駆け引きが存在し、バンドーからは子爵位が、エツリアからは過去の謝罪も含め伯爵位が贈られているテルに対してのオーシュー王国への引き留め工作の意味合いもある。敢えて他の二国より低い爵位を与えたのはセリカの思惑が働いていて、領地経営と無関係で尚且つストラトの件を考えればテルとしても男爵位が一番有難かった。
ともあれ、貴族とは言えたかが男爵の結婚式に参列しているメンバーがいろいろとおかしい。
セリカ女王。サーブ国王にディアス王太子。ジュリア、ジュリエッタ両公女。そしてインテグラーレ公爵を初めとした貴族達。
「あの…大変ありがたいのですが…一冒険者の結婚式に集まるメンバーじゃないと思うんです。」
「うむ。私も驚いてしまった。」
「あわわわわ…」
困惑しきりのテルとセリフとは裏腹に無表情のユキ。そして限界を超えてしまったストラト。
「ははは!諦めろって!俺らの時は魔物の大群まで祝福しに来たんだぞ? アホのギルマスのおかげでな。こっちのギルマスは優秀で羨ましいぜ。」
「ホントだよテル君!ギルマスにブチ切れたかずとを宥めるの大変だったんだから。」
先に大波乱の結婚披露をしたカズトとライムも祝福に訪れていた。
「ああ、リッケンから聞いてますよ。カズトさんとライムさんが大暴れだったって。」
確かに式の最中に魔物が襲来など、実際に起きたら笑えない事態だ。各国の要人も集まっている。笑い話で済ませられるカズト達がおかしい。それに比べれば自分の方は平和で何よりだ、とテルは思い直す。
「それでな、ご祝儀はいろいろと持って来たんだけど、それとは別にこれは最終決戦で世話になったテルへ俺からの個人的な礼だよ。これからのテルには重宝するぞ?」
カズトが差し出したのは長方形の箱で非常に軽い。
「開けて見ても?」
「ああ。でもライムには見つかるな。」
テルは少しだけ箱を開いて覗いて見る。
「!カズトさん!!」
「おう!」
二人は固く握手した。
箱の中には更に箱。その箱には日本語でこう書かれていた。
《明るい家族計画》
必要になったらリッケンを経由でサンタナに伝言しろ。そのカズトの言葉に感謝するテルだった。
小さな教会なのでそれ程多くの人は入れない。それでも礼拝堂の中は満員となっており、教会の外にまで多くの人々が集まっている。
ここオーシュー王国では複数の配偶者を持つ事が認められている。だが実際の所複数の妻を娶るのは経済力のある貴族くらいだ。男爵、騎士爵の下級貴族は領主の裁量で自由に取り立てる事が出来る。但し、領地は与えられない場合が殆どであるが。ちなみに子爵以上の上級貴族に取り立てるには女王であるセリカの承認が必要だ。
さて、今ここで祝言を挙げようととしている2人…ではなく3人。3人という事からそれなりの立場の人間である事が窺える。しかしなぜ貴族がこのような小さな教会で式を挙げようとしているのか。
「私、テリー=キャスターはユキ、並びにストラトを生涯愛する事を誓う。」
背中まである長髪は一本に束ねられ、左の頬には2本の傷痕。以前は傷面と呼ばれた凄腕冒険者のテル。そして彼の両隣に侍る少女が2人。テルの相棒として戦場を駆け抜けた腕利き冒険者のユキと宿屋の娘でひたすらにテルを慕い続けたストラト。
「若き3人の将来に幸多からん事を。」
神父が祝福を述べると礼拝堂に詰めかけていた人々から拍手が巻き起こる。
テルは本来の名前をテリー=キャスターと言う。本来であればエツリア王国のキャスター辺境伯の跡取りというなかなかに高貴な血筋の持ち主だった。悲しい過去から国を逃れオーシュー王国で冒険者として生計を立てていたが先のオーシュー内乱、バンドー争乱において目覚ましい活躍を見せた為各国から爵位を贈られている。
テル自身は貴族になるつもりは無かった。しかし妻を2人娶るとなると一般市民の立場ではいろいろと良くない事が分かった。貴族の立場であれば第一夫人、第二夫人と言った具合に世間体も悪いものでは無い。しかし一般人が2人目を娶った場合は愛人と目される場合が多いのである。無論、ここに祝福の為に集まった人達はそんな事は言わないだろう。しかし対外的にはそうもいかない。そこの事情を鑑みて、ウフロン太守のインテグラーレ公爵が自領防衛の功労者であるテルに男爵位を与えた。
もっともこれには駆け引きが存在し、バンドーからは子爵位が、エツリアからは過去の謝罪も含め伯爵位が贈られているテルに対してのオーシュー王国への引き留め工作の意味合いもある。敢えて他の二国より低い爵位を与えたのはセリカの思惑が働いていて、領地経営と無関係で尚且つストラトの件を考えればテルとしても男爵位が一番有難かった。
ともあれ、貴族とは言えたかが男爵の結婚式に参列しているメンバーがいろいろとおかしい。
セリカ女王。サーブ国王にディアス王太子。ジュリア、ジュリエッタ両公女。そしてインテグラーレ公爵を初めとした貴族達。
「あの…大変ありがたいのですが…一冒険者の結婚式に集まるメンバーじゃないと思うんです。」
「うむ。私も驚いてしまった。」
「あわわわわ…」
困惑しきりのテルとセリフとは裏腹に無表情のユキ。そして限界を超えてしまったストラト。
「ははは!諦めろって!俺らの時は魔物の大群まで祝福しに来たんだぞ? アホのギルマスのおかげでな。こっちのギルマスは優秀で羨ましいぜ。」
「ホントだよテル君!ギルマスにブチ切れたかずとを宥めるの大変だったんだから。」
先に大波乱の結婚披露をしたカズトとライムも祝福に訪れていた。
「ああ、リッケンから聞いてますよ。カズトさんとライムさんが大暴れだったって。」
確かに式の最中に魔物が襲来など、実際に起きたら笑えない事態だ。各国の要人も集まっている。笑い話で済ませられるカズト達がおかしい。それに比べれば自分の方は平和で何よりだ、とテルは思い直す。
「それでな、ご祝儀はいろいろと持って来たんだけど、それとは別にこれは最終決戦で世話になったテルへ俺からの個人的な礼だよ。これからのテルには重宝するぞ?」
カズトが差し出したのは長方形の箱で非常に軽い。
「開けて見ても?」
「ああ。でもライムには見つかるな。」
テルは少しだけ箱を開いて覗いて見る。
「!カズトさん!!」
「おう!」
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箱の中には更に箱。その箱には日本語でこう書かれていた。
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