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番外編
『転移』
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ライズミーに戻った俺達はその日は久しぶりに王都の屋敷でゆっくりと過ごした。この屋敷はローレルとガイアに任せていたんだが王城よりは落ち着くのでお邪魔させてもらった。この屋敷の管理自体は5人娘達が行っており、メイド業も随分と様になっているし身のこなしもスキが無くなっている。ユーゲンダンジョンで腕を磨いているのは伊達じゃないな。
翌日はユーゲン村に行きルーチェさんとキャロルちゃんに会いに行った。
「おにーちゃん!!ライムおねーちゃん!!」
キャロルちゃんもたまにダンジョンに遊びに行ってる(!!)らしく知らない間にステータスが爆上がりしてるっぽい。猛ダッシュで抱き着いて来るスピードが半端じゃないんだなこれが。まあ、カペラが一緒だからダンジョン内でも大丈夫だろうけど。
ルーチェさんとキャロルちゃんとの再会を楽しんだ後、俺達は王城に戻り日本に転移する事を告げた。
【ご主人様!どうか私も連れて行って下さい!】
【妾も!お願いなのじゃ、マスター!】
うーん。こっちの存在があっちに転移する際に存在を維持できるかどうかも検証してないうちから連れて行くのは怖いんだよなあ…
「あ、カズにぃ。私ね、日本に帰る時にこっちの出来事やみんなの事を忘れないように書いてたノートがあったの。それ、空間収納に入れて行ったんだけどね、向こうに着いた途端に呼び戻されちゃったからあの時は検証出来なかったんだけどほら!ちゃんとノートは残ってる。書いてる内容もちゃんと残ってたよ。」
なるほど。生命体はどうか分からないけど取り敢えず『物体』は大丈夫だった訳か。
「サンタナ、アクア。流石に本体を連れて行くのはちょっと怖い。手のひらサイズでいい。分身体を連れて行ってみよう。成功したらこっちと向こうで念話が出来るかどうかも検証したいしな。」
【なるほど、承知しました。】
【うむ。では分身体はマスターに中に入ろう。】
よし準備はいいかな?
「あれ?カズにぃ、このスキル、時間軸は以前に転移した時間に固定されるけど、場所はこっちで指定できるみたいだよ?」
「ふむ。どうやらそうみたいだな。だけど俺だけが知ってる場所、ライムしか知らない場所、じゃバラバラに転移しちまうから共通で知ってる場所がいいな。」
「…じゃあ、カズにぃ。城址公園のあの場所で。」
「了解。それじゃあみんな。またこの場所に戻って来る。」
「はい。待っています。カズト。ライム。」
「「転移!」」
◇◇◇
視界が開け、辺りを見渡す。うん、ここは城址公園で間違いないな。ライムは…っと、いたいた。
「サンタナ、アクア。いるか?」
【はい、ご主人様。どうやら私達も無事に転移できたようです。】
【妾も無事について来れた様じゃな。】
そうか、よかった。かなりホッとしたよ。
「向こうの世界の本体にアクセスは出来るか?」
【…大丈夫です。転移に成功したと伝えたら大喜びしていますね。】
【妾の本体も同じじゃな。】
えーと、ライム?
「えへへ…私はここで初めてカズにぃに出会ったんだ。危ない所を助けて貰って…お礼も言わせずいなくなって…折角だからこの場所でやり直しを要求するっ!」
そう言い切ったライムは抱き着いて来て…唇を重ねて来た。そして。
「ありがとう。これで本当にお礼が出来た気がする。」
俺は無言でライムの頭をポフポフしてやり、2人並んで街を見下ろす。この風景も随分と懐かしい気がする。懐かしく感じるのに新鮮な気持ちもある。隣にいる少女の存在がそうさせているんだろう。
「ライム、お前ん家って親父さん何時頃になったらいる?」
「うんと、7時くらいかな?」
「まだ時間あるな。ちょっとドライブでもしながら手土産でも買うかね。」
「…うんっ!」
俺のアパートに戻り愛車に乗り込む。車の運転は久しぶりだ。しかしウインドウに流れる景色は記憶にあるものと何も変わってはいない。カーステレオから流れるBGM。ビートの効いたロック・ナンバー。エレキギターの歪んだ音が何とも懐かしい。随分と長い時間異世界にいたんだな、と実感した。その長い時間、いつも隣にいたのがコイツだ。ドライバーズシートの俺とナビシートのライム。日本に戻って来た事を実感しながら隣にいる大切な存在を思う。それだけで幸せな時間が流れた。会話など無くても幸せそうなライムがそこにいる。
ライムの家への手土産を買い、軽くカフェで談笑する。
「そろそろ行くか?」
「うん…カズにぃ。」
車を走らせライムの家へ向かう。
「はじめまして。伊東一刀です。」
「ああ、話は聞いているよ。上がりなさい。」
思ったよりも若い親父さんだった。俺を見極めようとする視線が鋭い。どうやらライムが事前にメールで知らせていたようで、呼び鈴を押したら夫婦で待ち構えていた。
「お父さん。私が2年前乱暴されそうになった事、覚えてる?その時助けてくれた人が彼だよ。」
「「!!」」
そしてライムは語り続けた。異世界に召喚された事。その異世界でも俺が命懸けでライムを守り続けた事。そして両親に会わせる為に帰還の方法を探し続けた事。
「娘を暴漢から助けてくれた事は感謝する。しかし異世界などと言われても信じる事が出来ると思うかね?」
「そうですね。でもこれなら如何でしょうか?サンタナ、アクア。」
【お呼びでしょうか、ご主人様。】
【妾はここに。マスター】
異世界の精霊を目の当たりにしたライムの両親は異世界の件を信じざるを得なかったらしい。ライムをこっちでも異世界でも救った事に対し大変感謝されてしまった。
「一刀君。今日尋ねて来たのは何か本題があるんじゃないのかい?」
会話が途切れたタイミングで親父さんが切り出して来た。
「はい。この先も異世界と日本とを行き来する生活になります。それ程に娘さんも俺も異世界にとって重要人物になっています。その報告が一つ。そしてこっちが本命です。娘さんを頂きに参りました。」
「…そうか。交際を許して下さいなどと言う生易しいものでは無かったか。ははは。」
「異世界などに行かれては私達の出る幕はなさそうですものね。一刀さん。娘を守ってくれると約束して下さいますか?」
「もちろんです。今までもこれからも、俺の人生はライムを守る為にあります。」
力無く笑う親父さんと念押ししてくるお袋さん。それに俺はきっぱりと答えた。まあ、許して貰えないならライムの卒業を待って強引に攫うまでだ。
「娘の卒業と同時に入籍しなさい。ちゃんとこちらでの正式な手続きは踏む事。…たまには娘と一緒に遊びに来なさい。」
時は流れて3月某日。俺とライムは夫婦になった。
翌日はユーゲン村に行きルーチェさんとキャロルちゃんに会いに行った。
「おにーちゃん!!ライムおねーちゃん!!」
キャロルちゃんもたまにダンジョンに遊びに行ってる(!!)らしく知らない間にステータスが爆上がりしてるっぽい。猛ダッシュで抱き着いて来るスピードが半端じゃないんだなこれが。まあ、カペラが一緒だからダンジョン内でも大丈夫だろうけど。
ルーチェさんとキャロルちゃんとの再会を楽しんだ後、俺達は王城に戻り日本に転移する事を告げた。
【ご主人様!どうか私も連れて行って下さい!】
【妾も!お願いなのじゃ、マスター!】
うーん。こっちの存在があっちに転移する際に存在を維持できるかどうかも検証してないうちから連れて行くのは怖いんだよなあ…
「あ、カズにぃ。私ね、日本に帰る時にこっちの出来事やみんなの事を忘れないように書いてたノートがあったの。それ、空間収納に入れて行ったんだけどね、向こうに着いた途端に呼び戻されちゃったからあの時は検証出来なかったんだけどほら!ちゃんとノートは残ってる。書いてる内容もちゃんと残ってたよ。」
なるほど。生命体はどうか分からないけど取り敢えず『物体』は大丈夫だった訳か。
「サンタナ、アクア。流石に本体を連れて行くのはちょっと怖い。手のひらサイズでいい。分身体を連れて行ってみよう。成功したらこっちと向こうで念話が出来るかどうかも検証したいしな。」
【なるほど、承知しました。】
【うむ。では分身体はマスターに中に入ろう。】
よし準備はいいかな?
「あれ?カズにぃ、このスキル、時間軸は以前に転移した時間に固定されるけど、場所はこっちで指定できるみたいだよ?」
「ふむ。どうやらそうみたいだな。だけど俺だけが知ってる場所、ライムしか知らない場所、じゃバラバラに転移しちまうから共通で知ってる場所がいいな。」
「…じゃあ、カズにぃ。城址公園のあの場所で。」
「了解。それじゃあみんな。またこの場所に戻って来る。」
「はい。待っています。カズト。ライム。」
「「転移!」」
◇◇◇
視界が開け、辺りを見渡す。うん、ここは城址公園で間違いないな。ライムは…っと、いたいた。
「サンタナ、アクア。いるか?」
【はい、ご主人様。どうやら私達も無事に転移できたようです。】
【妾も無事について来れた様じゃな。】
そうか、よかった。かなりホッとしたよ。
「向こうの世界の本体にアクセスは出来るか?」
【…大丈夫です。転移に成功したと伝えたら大喜びしていますね。】
【妾の本体も同じじゃな。】
えーと、ライム?
「えへへ…私はここで初めてカズにぃに出会ったんだ。危ない所を助けて貰って…お礼も言わせずいなくなって…折角だからこの場所でやり直しを要求するっ!」
そう言い切ったライムは抱き着いて来て…唇を重ねて来た。そして。
「ありがとう。これで本当にお礼が出来た気がする。」
俺は無言でライムの頭をポフポフしてやり、2人並んで街を見下ろす。この風景も随分と懐かしい気がする。懐かしく感じるのに新鮮な気持ちもある。隣にいる少女の存在がそうさせているんだろう。
「ライム、お前ん家って親父さん何時頃になったらいる?」
「うんと、7時くらいかな?」
「まだ時間あるな。ちょっとドライブでもしながら手土産でも買うかね。」
「…うんっ!」
俺のアパートに戻り愛車に乗り込む。車の運転は久しぶりだ。しかしウインドウに流れる景色は記憶にあるものと何も変わってはいない。カーステレオから流れるBGM。ビートの効いたロック・ナンバー。エレキギターの歪んだ音が何とも懐かしい。随分と長い時間異世界にいたんだな、と実感した。その長い時間、いつも隣にいたのがコイツだ。ドライバーズシートの俺とナビシートのライム。日本に戻って来た事を実感しながら隣にいる大切な存在を思う。それだけで幸せな時間が流れた。会話など無くても幸せそうなライムがそこにいる。
ライムの家への手土産を買い、軽くカフェで談笑する。
「そろそろ行くか?」
「うん…カズにぃ。」
車を走らせライムの家へ向かう。
「はじめまして。伊東一刀です。」
「ああ、話は聞いているよ。上がりなさい。」
思ったよりも若い親父さんだった。俺を見極めようとする視線が鋭い。どうやらライムが事前にメールで知らせていたようで、呼び鈴を押したら夫婦で待ち構えていた。
「お父さん。私が2年前乱暴されそうになった事、覚えてる?その時助けてくれた人が彼だよ。」
「「!!」」
そしてライムは語り続けた。異世界に召喚された事。その異世界でも俺が命懸けでライムを守り続けた事。そして両親に会わせる為に帰還の方法を探し続けた事。
「娘を暴漢から助けてくれた事は感謝する。しかし異世界などと言われても信じる事が出来ると思うかね?」
「そうですね。でもこれなら如何でしょうか?サンタナ、アクア。」
【お呼びでしょうか、ご主人様。】
【妾はここに。マスター】
異世界の精霊を目の当たりにしたライムの両親は異世界の件を信じざるを得なかったらしい。ライムをこっちでも異世界でも救った事に対し大変感謝されてしまった。
「一刀君。今日尋ねて来たのは何か本題があるんじゃないのかい?」
会話が途切れたタイミングで親父さんが切り出して来た。
「はい。この先も異世界と日本とを行き来する生活になります。それ程に娘さんも俺も異世界にとって重要人物になっています。その報告が一つ。そしてこっちが本命です。娘さんを頂きに参りました。」
「…そうか。交際を許して下さいなどと言う生易しいものでは無かったか。ははは。」
「異世界などに行かれては私達の出る幕はなさそうですものね。一刀さん。娘を守ってくれると約束して下さいますか?」
「もちろんです。今までもこれからも、俺の人生はライムを守る為にあります。」
力無く笑う親父さんと念押ししてくるお袋さん。それに俺はきっぱりと答えた。まあ、許して貰えないならライムの卒業を待って強引に攫うまでだ。
「娘の卒業と同時に入籍しなさい。ちゃんとこちらでの正式な手続きは踏む事。…たまには娘と一緒に遊びに来なさい。」
時は流れて3月某日。俺とライムは夫婦になった。
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