いや、自由に生きろって言われても。

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第二部 バンドー皇国編 3章

228.送還か隠遁か

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 二日後。クランメンバーと日本人組、眷属達が集まった。

 「みんな悪いな、わざわざ集まって貰って。見ての通り、まだ体が思うように動かないんだ。」

 大多数のメンバーは俺の事だから数日もすればケロッと回復するもんだと思っていたらしい。それが約二週間経っても動く事すらままならず、姿も元に戻らない俺を見て、改めて九尾に戦慄していた。

 「集まって貰ったのは俺の今後の事についてだ。」

 俺の一言で室内に緊張感が漂う。

 「えーっと、そんなに緊張しないで楽にして聞いてくれ。この間、夢の中に神様が出て来た。」

 はぁ?って顔になるよね。うん、分かるよ。

 「その神様は俺とライムがこっちに召喚された時に力をくれた神様だ。夢の中だったけどしっかり会話したよ。夢、というより白昼夢に近いかな。多分ランやチェロ、ビート。それにサンタナ。お前達もその神様から俺に従うように言われた事があるはずだ。」

 またみんなの表情が真剣なものになる。

 「続けるぞ?その神様が言うにはだな、俺の姿は元に戻らないらしい。いや、正確に言えば戻す事は出来るんだがその方法がな…」

 「カズト!方法があるなら!!」

 「まあ、落ち着けよセリカ。その方法は安直に決断できるものじゃない。ひとつめ。」

 皆息を飲んで俺の言葉を待つ。

 「俺の体内の妖気を吸い出し誰か他の人間なり動物なりに移し替える。そうすれば俺は元に戻るが妖気を入れられた個体は俺みたいに異形になるか、」

 「九尾のようになっちゃうか…だね…」

 俺の言葉を引き継いだライム。そのライムの一言で室内が絶望に染まる。当然だよな。俺がこの身をと引き換えに倒した九尾と同様の存在がまた生まれるかも知れない。この選択肢は選べないだろ。

 「ふたつめ。俺が元の世界に帰る事。その転移の過程で神様が俺の妖気を浄化してくれるらしい。但し、魔法陣は俺の妖気では起動しないらしいな。あくまでも魔力を充填しなくちゃダメだって。」

 これが今生の別れになるかもしれない選択肢。俺の仲間達はこれを選ぶ事が出来るだろうか?この場合、俺は無力だ。仲間の判断に委ねるしかない。みんな沈痛な面持ちで悩んでいるな。悩んでるって事は喜んでいいのかな、俺。

 「みっつめ。何もせずにこのままでいるって言う選択肢もある。けど、この姿を大衆に晒しながら生きて行ける程俺の心臓は丈夫じゃない。山奥にでも潜んで隠居暮らしだな。」

 「そんな…カズにぃ…」

 「救国の英雄に私達は何も報いる事が出来ないのでしょうか…」

 【ご主人様…】

 「カズ君…こんなの、私達が選択できるのなんて無いですよ…酷いですよ…」

 みんな悪いな。でも、俺にも選択肢はないんだ。ひとつめのは問答無用で却下だし、ふたつめはみんなの魔力供給が絶対条件だ。俺が自発的に選べるのはみっつめしかない。
 
 「カズトさん。あなたは日本に何かイヤな思い出がありますか?戻りたいと思いますか?」

 テル…?

 「俺自身は特に日本に未練は無い。だが、ライムを戻してやりたいとは思っている。それは俺が召喚されてからの基本方針なんだ。テルにこんな事を言うのも何だが、ライムは日本に家族がいる。それだけでも返してやりたい理由になるだろ?だから、俺を戻してくれると言うならライムも一緒だ。」

 みんなの視線がライムに向く。ああ、こりゃ俺の失敗だな。これじゃライムが選択する羽目になっちまう。

 「みんな、すまん!今のは俺の言い方が卑怯だった。」

 そして俺はベッドの上で動かぬ体に鞭打って、土下座した。

 「お願いします。俺とライムを元の世界に戻す為にみんなの力を貸して下さい。」

 静寂が室内を支配する。

 【ご主人様…頭をお上げ下さい。我々眷属はご主人様の願いとあらば命すら差し出す事は拒みません。】
 【その通りじゃ、マイ・マスター。我らだけでも魔力を充填させてみせようぞ。】

 サンタナ、アクア…

 【主よ、そのように願わずとも命令すればよいのだ。】
 【そうですね。お別れするのは寂しいですが、主殿の意に添わずして何が眷属でしょう。】

 ラン・チェロ…

 【カズト様…そのようなお顔をしないで下さいまし。もっと凛とした方が素敵ですわよ?】

 ビート…

 【我が主の為と言うならば我も力を貸そう。】

 エスプリ、お前まで…

 「カズト。あなたの望みがそれならば、それに応える事がこのオーシューやバンドーで恩を受けた私達からの報酬という事でよいですか?」

 「そんな!陛下!?カズ君いなくなっちゃうんですよ!?」

 「そうですよ陛下!いいんですか、それで!?」

 セリカ、苦渋の選択ってのがよく分かるよ。サニー、グロリア、ありがとな。

 「ちょっと宜しいでしょうか。」

 ん?カム?

 「私のパーティ3人は全員盗賊の襲撃で帰るべき故郷を失いました。でもカズトさんやライムさんには故郷があり、そして帰る手段があるのなら帰るべきだと思います。」

 カムの意見に皆考え込んでしまう。

 「みんなにお願いがあるの。あのね、カズにぃと別れる辛さは良く分かる。さっきのカズにぃの話では私とカズにぃが向こうに送還された後、こっちのでの記憶や力がどうなるのか全然触れられていないの。」

 !!!

 ライムの指摘は痛烈だ。確かにその点は何も言われていない。

 「だから私も日本に戻った後カズにぃを憶えていないかもってすごい不安なの。だからお願い。私達を送還したあと何年掛かってもいい。また私達を召喚して欲しい。」

 !!!

 「こっちであった事、みんなの事、カズにぃの事。それを全部書き留めて向こうにいく。例え記憶が無くなっても『記録』を持って向こうに行って。お父さんとお母さんにちゃんと話して。それからまたみんなと…お願いします!」

 ライムの必死の願い。ライムは俺よりももっと深く考えていた。でも俺は確信めいたものがある。何処の世界に飛ばされようと必ず俺とライムは出会うだろうってな。

 「分かりました。カズト、ライム。魔力の充填にどれだけ掛かるか分かりませんがあなた方を送還する準備をします。バンドーのジュリアとジュリエッタ、赤備えも呼んだ方がいいでしょうね。少し時間を下さい。」

 この姿を晒すのはちょっと怖いんだが。

 「大丈夫さ、カズ。見た目が変わったくらいでお前を見限るヤツなんていねえよ。」

 「そうです、マスター。可能ならば私共全員でマスターと隠遁生活もよいと思っていましたし。」

 ローレル、ソアラ。そしてみんな。

 「すまないな。宜しく頼むよ。」

 そして皆がそれぞれやるべき事をやる為に散って行った。
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