いや、自由に生きろって言われても。

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第二部 バンドー皇国編 3章

226.戦闘終了

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 【アガァッ!? ガアアッ!】

 どうだ?これだけ喉奥深くまで腕突っ込まれたら苦しいだろ、犬っころ。確かこの状態になると噛み切れないんだったか?まあ、どうでもいいか。

 「サンタナ。俺の魔力を吸い上げろ。空っぽにしてもいいぜ?ただし、使。」

 【ご主人様…お考えは変わりませんか?】

 そんな悲しそうに言うなよ。決心が揺らぐだろ。俺だって結構おっかないんだからさ。

 「悪いな。俺の出来の悪い頭じゃこれしか方法が思いつかなかったんだ。」

 【…ライムの指示で仲間達は皆アクアが押さえています。私はご主人様の回復を。】

 「いや、それは必要ない。その代り俺諸共九尾を逃がさない様に結界を張れ。命令だ。」

 俺の強い口調にサンタナがビクリとするのが分かる。

 【…ご主人様…分かりました…】

 これでよし。後は俺と九尾の我慢比べだな。俺は九尾の喉奥で握っていた拳を目いっぱい開いた。

 【ゴアア!?】

 「苦しいかキツネ。今からお前の妖気を吸い尽くしてやるからよ。」

 スキル『魔力吸収』を起動させる。このスキルで妖気を吸収出来るかどうかは賭けだったがどうやらいけるみたいだ。あらかじめサンタナに俺の魔力タンクは空に近い状態にしてもらっている。

 「ぐ、ぐあああああっ!?」

 九尾の妖気が流れ込んで来る。これは完全にダメなヤツだな。異物が入り込んで来る。体が拒絶したがっている。苦しい。辛い。痛い。このまま死んだ方がマシだぜこりゃ…

 【や、やめろ…小僧…このままでは貴様も死ぬぞ…】

 なんだ?九尾め。口がきけなくなったもんで念話で話し掛けて来やがった。

 【やめい…やめろと言っておるのじゃ!妾の膨大な妖気を人間如きが受け入れられる筈があるまいっ!】

 ヤツの鋭い爪が俺を切り裂く。何度も。何度も何度も。

 「っ!! いててて…へへ…」

 しかし妖気を吸い取られ続けているヤツにさっきまでの『強さ』はない。

 「散々嬲ってくれやがって…くらえ…」

 ヤツの金色の瞳によく見えるように、空いている左手でピースサインを作ってやる。

 【何を? や、やめるのじゃ! や、やめぎゃあああああっ!】

 ヤツの両目を潰す。そしてそのまま左手からも妖気を吸収してやる。

 【ひ、ひいいい…こ、小僧、取引じゃ…取引を…」

 ふん、かなり追い詰められてるな?今更取引など。

 【小僧…うぬは…このままでは人間をやめる事になるぞ…】

 おお。覚悟はしてるぞ?つーかな、てめえの妖気が気持ち悪すぎてもう…

 「うるせえ。早く死ね。お前の妖気は体に悪すぎる。」

 あーあ。なんだか斬られた脚が生えて来たぜ。しかも皮膚が固くて真っ黒だし。犬歯が伸びて行く感覚もあるし背中に翼も生えてねえか?

 【う、…ふ、ふふ…やらかしてしもうたかのう…妾の負けじゃ…よもやこれだけの妖気を全て吸い尽くすとは…小僧…】

   九尾の身体から力が抜けて行くのを感じ取れる。魔力吸収のスキルも手応えがない。九尾の妖気がついに底をついたのだろう。足元には小型犬サイズにまで縮んだ狐が横たわっていた。

 は、はは…やっと終わったか…もう意識を手放してもいい、か、な…

 【…お疲れ様でした。ご主人様…】

◇◇◇

 カズにぃ…

 カズにぃは自分の身と引き換えに九尾を無力化してこの国の危機を救った。でも、カズにぃの姿は人間ではなくなっていた。九尾の妖気により変質した体は耳は長く伸び犬歯は伸びて牙となり瞳は真紅。体は黒い皮膚で覆われ背には蝙蝠のような翼。そして頭には2本の角。

 「カズにぃ…魔王になっちゃったの? でも魔王になったカズにぃもカッコいいよ。だから起きてよ…魔王でも魔神でもいいから目を覚ましてよ…お願いだよ…」

 「ライム…」

 【ライム、聞きなさい。このままご主人様を人目につかない様にしてライズミーの王城地下に運び込みましょう。スタリオンはセリカ達と共にリクオウとデボネアに合流なさい。ラン、チェロ、ビート、エスプリ。オーシュー王都までご主人様を運ぶ手助けを。私とアクアはご主人様の姿を隠蔽します。いいですね?アクア?】

 【無論じゃ。】

 「セリカ陛下。ライムさん。ライズミーまでの道中、俺とユキがカズトさんを護衛します。」

 「儂も行こうかの。主君の一大事じゃからな。」

 「もちろんアタシも行くよ。若いモンが爺さんの相手をするのは大変だろうからね。」

 「テル、ユキ。段蔵、千代女。申し出有難く。どうか、カズトとライムをお願いします。」

◇◇◇

 「あれからもう一週間ですね、セリカ様。」

 私とジュリエッタ、オーシュー王国とエツリア王国の皆さんは皇都に集まっています。まだまだバンドーの復興には時間が必要ですがそれでもオーシュー王国とエツリア王国には謝礼や今後の体制などで話し合わねばならない案件が沢山あるのです。

 「そうですね。まだ昨日の事のように感じます。」

 セリカ様は悔し気にきゅっと唇を噛みしめます。

 今日は雲一つない青空です。ショーナン領の禍々しい妖気はあの日を境に嘘のように消え去りました。あの日、ショーナン領から離れていた私達は晴れ行く空を見てカズト様の勝利を確信しました。皇都に、いえ、現在は公都になっていますが、そこにいたジュリエッタもそう思っていたそうです。でも、帰還した顔ぶれの中にはカズト様もライム様も、そしてスタリオン様以外の眷属達の姿も有りませんでした。

 「皆無事ですよ。ご覧の通り、驚異は無くなりました。」

 戦場から戻ってこう告げた時のセリカ様の悲しそうな、無理に作った笑顔は忘れられません。自分の無力さが悔しかったのでしょうか。その気持ちは私も良く分かります。私はその場に居合わせる事すら許されなかったのですから。
 
   カズト様やライム様がどうなったかは詳細は聞かされていません。最終決戦に参加した皆さんに聞いても悔しげに唇を噛み、俯き、曖昧に誤魔化されます。きっと触れられたくないのでしょう。それから私は詮索するのをやめました。

   カズト様はこの国の民の為に戦って下さったのです。そんなカズト様を失望させない様に頑張る事が恩返しになるのでしょうね。

   「よくやった。頑張ったな。」

   そう言いながらカズト様に頭を撫でて頂けるように。
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