いや、自由に生きろって言われても。

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第二部 バンドー皇国編 3章

221.敵の首魁の長い話

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 さて…皇都にいるジュリエッタは治安回復の為に留まるって言ってたから大丈夫だとは思うがジュリアは素直に聞いてくれるといいんだが…

 「殿、また来たようじゃな。」

 「ああ、スタリオン、またブレス頼むよ。」

 ショーナン領に入ってからはずっとこんな調子で小規模な攻撃を散発的に繰り返してくる。まあ、俺達を倒す事より敢えてのが目的なんだろう。自分のパワーアップの為にな。胸糞悪くなる戦術だし相手の思うように動くのもムカつくんで俺達は極力殺さないようにしていた。

 【はーい!いくよー!】

 スタリオンの口からブレスが吐き出されるがそれは敵に向かってではなく俺達の前方の地面に向かって掃射される。俺達の眼前に空堀が出来た格好だな。奴らはただライムに向かって来るように操られているだけのようで、障害物があっても真っすぐライムに向かって来やがる。当然、連中の進行方向に落とし穴があれば普通に落ちるし回避や迂回なんて行動もない。

 「まったく不憫な事ですね。元々は普通に暮らしていた領民だったでしょうに…」

 スタリオンが空けた空堀の中でもがき続ける異形の化け物を見て沈痛な面持ちでセリカが呟いた。

 「そうですね。それだけに許せないです。この状況を引き起こした将軍とやらも御前様とやらも。」

 セリカの隣に馬を寄せたシルビアも同意する。

 「殿、あと半刻も馬を飛ばせば将軍の屋敷だよ。飛ばすかい?」

 「ああ、こんな事はさっさと終わらせちまおう。みんな、急ぐぞ!」

 千代ちゃんの言葉を受けて俺達は『震源地』へ向けて飛ばす。途中で異形の者達の迎撃もあったがスタリオンの空堀作戦やビート、セリカ、ローレル、ライムの水魔法と雷魔法の合わせ技で麻痺させて進む。 



 「なんだこりゃ…?」

 異形の化け物共を潜り抜けて辿り着いた将軍の屋敷。そこには屋敷とその周辺を埋め尽くさんばかりの異形の化け物の大群がいた。

 「千や二千じゃきかねえな、こりゃ。」

 げんなりして思わず愚痴っぽいセリフが口をついて出て来る。

 「ん?カズにぃ、あれ!」

 「…ああ。」

 密集の中にとんでもないプレッシャーを放っているヤツがいる。地竜であるリクオウや精霊王達と同等、あるいはそれ以上か。

 俺達とそのプレッシャーの主との直線上にいた異形の者達が消滅し、霧となってヤツに吸収されていく。そして遮蔽物が無くなった事によりヤツの姿が露わになる。

 金髪。そして金色の瞳。そして透き通るような白い顔。シャープな輪郭につりあがった目。こんな状況でなければ美女と言ってもいい容姿だが…

 「ムカつくな。あのニヤけたツラが。」

 まるで俺達を小馬鹿にしたように口の端を歪めて笑っている。

 「妾の圧を受けて平然としておるとは流石は勇者殿御一行と言った所かの?よくぞ妾の復活の為に掌の上で踊ってくれたものよ。感謝するぞえ?」

 掌で踊ってただと?

 「ふふふ、得心がいかぬかえ?」

 「話してくれるの?妖怪おばさん?」

 うわ、ライムってすげーな。ほら、妖怪おばさんのこめかみがビクビク言ってるぞ?

 「おばっ!…ふふふ、まあよいわ。妾は生を受けてより数千年…」

 この後の話が死ぬほど長かったので要約する。

 この女、数千年前に大陸で生まれ、その美貌で王の寵愛を受けたらしこむ。そして骨抜きになった王を操り国を傾かせる。しかしやりたい放題がいつまでも続く訳もなく討伐されそうになるが逃げ延び、時が流れれば復活し時の王朝を滅亡に追い落とす。そんな事を何度か繰り返していく内にこの列島に流れ着き、そこでも悪事を働いた。

 「しかし強力な力を持つ術者に正体を見破られての。妾を異次元へと封印しおったのじゃ。」

 ここまでで約2時間は話し込んでいる。俺達はみんなで座ってお茶会をしながら聞いていた。それにしてもどっかで聞いたような話だな。

 「そんな時にオーシュー王家の小娘が勇者召喚をしおった。妾はそれを好機ととらえバンドーの権力者でしかも小心者の夢枕に何度も何度も立ったのじゃ。」

 また長くなったので要約するとだ、セリカの勇者召喚によってバンドー皇国は窮地に立たされる。それを回避するにはバンドーも強力な召喚魔法を使い対抗するしかない。そこで女は将軍に術式を教えたわけだ。但しそれは召喚魔法ではなく異次元の封印を解く解呪の術式だった。しかし初回の術式は不備があり、本当に偶然にもユキと爺さん、千代ちゃんが召喚されてしまった。要は俺達の世界は異次元にあるらしいって事だな。解呪魔法が失敗した為に女は再び将軍の夢枕に立ち術式を教えて今度は成功した訳だ。

 「じゃが長時間封じられていた妾は力を取り戻す為に多くの『命』が必要での。この領内の者どもや戦で死んだ者の魂魄を食いまくった訳じゃ。魂魄を食った抜け殻には妾の妖気を注入して傀儡として使役しておるよ。故に傀儡を倒しても妖気が妾に戻ってくるだけじゃな。ほーっほっほほ。」

 魂魄が無いんじゃ異形の者達は元に戻せないってわけだな。気の毒だが…面倒な手加減をする必要もないって事だ。

 「あー、みんな聞いたな?妖怪おばさんの話じゃどうもあのバケモン共は元に戻せないらしい。手加減無用でやっちまうぞ。」

 「おっし、ライムさん、ご馳走様でした。美味しかったですよ。」
 「うむ、ライム殿は菓子も作れるのか。今度是非教えて欲しい。」

 「あら、ユキちゃん、テル君に?」

 おーい、さっきまでお茶会してたとは言え緩みすぎだろ…




 「ほーっほっほっほ!おーーほっほっほふがっ!」

 「やかましい!この妖怪ババア!」

 高笑いにイラっと来た俺はヤツの口に指弾を食らわせていた。
 
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