いや、自由に生きろって言われても。

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第二部 バンドー皇国編 3章

218.初めから選択肢はない

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 「おいおいおい、こりゃ本格的にただ事じゃねえぞ。」

 立ち上る紫色の瘴気と渦巻く不気味な雲。俺達の場所からもそれは視認出来た。

 「普通に呼吸しても大丈夫だろうな…?」

 誰かがそう呟いた。確かにな。あんな気色の悪い雲の下にこれから乗り込むんだ。そりゃ心配にもなるわな。

 「ま、取り敢えず進んでみよう。何か異変を感じたらすぐ知らせてくれ。」

 そう言って進み始めたが異常はすぐに感じ取れた。何と言うか、だるい。息苦しい。今の所は行動に支障をきたす程ではないが。

 「みんなは体調に変化はないか?」

 「私は何ともないけど…カズにぃ、ちょっと顔色悪いよ?大丈夫?」

 【!!ご主人様!『魔力吸収』のスキルを今すぐ止めて下さい!】

 珍しくサンタナが切羽詰まっている様子だ。ここは素直に従っておこう。

 「あれ?楽になったな…」

 俺は魔力による防御フィールドを全身に常時展開している。その魔力元として『魔力吸収』のスキルも併せて常時発動させていた。別に自前の魔力でも事足りるのだが折角のスキルなので自然界に漂っている魔力を吸収させてもらっていたのだ。

 【ご主人様。このショーナン領に入ってからの周囲の魔力が…その、変質しています。】

 【うむ、マイ・マスター。もはや魔力と呼ぶのも烏滸がましい。魔力とは違う、別の何かに変わりかけておる。】

 2人の精霊王が口を揃えて言う。そしてさらにエスプリも。

 【この気はロートブルクの山にいた時に感じた禍々しい波動。それと同じ感覚がする。】

 …何か対策を講じないとヤバいか。今は影響が無いように見える俺以外のみんなもこんな妖気だか瘴気だかに晒され続けて体にいい訳がない。

 「一旦戻って出直した方がいいのではないでしょうか?」

 セリカの意見ももっともだと思うが…

 「でも多分コレ、放っておくとどんどん汚染範囲が拡がっていくよね?」

 そうなんだ。ライムの言う通り、時間を掛ければ掛ける程追い込まれて行く様に思える。やっぱ短期決戦だよな。

 【ご主人様。私とアクアでここにいる全員に魔力を浄化する障壁を付与する事は可能です。】
 【だが我らの魔力も無限ではない。そうじゃの…3日間。それが限界じゃろう。しかも浄化障壁を付与している間は戦闘に関しては期待には応えられん。】

 3日の間にカタをつけろ、か。相手の戦力も分からないのになかなかに無茶を言う。けど、3日以上モタモタしてたら汚染はショーナン領だけに留まらない事は確実だしな。

 「サンタナ、アクア。全員に浄化障壁を。」

 【分かりました。行きますよ、アクア?】
 【うむ、任せよ。】

 2人の発した魔力が頭上でぶつかり合い交じり合う。サンタナの緑とアクアの青はやがて白い光の粒子となって全員に降り注ぐ。

 「よし、早速行動に移るぞ。爺さん、千代ちゃん、ソアラはクノイチを3隊に分けて情報収集だ。いいか、戦闘は可能な限り避けて情報を持ち帰る事を優先だ。俺達は将軍の屋敷を目指して進む。」

 「は。ではマスター、行って参ります。」
 「ほっほ。では行って来るかの。」
 「殿、期待して待っててくれよ?」

 3人は迅速に編成を終え散って行く。

 「それではカズト、私達も行きましょうか。」
 「カズ君をなるべく温存出来るように私達が頑張りますからね!」

 スタリオンに乗ったセリカとサニーが俺に言葉をかけてずんずんと進んで行く。女王陛下に先頭を任せる訳には行かないと、フルスロットルの6騎が慌てて駆けて行きグロリアとシルビアもそれに続く。

 「このメンバーなら雑兵の千や二千は簡単に蹴散らす事は出来そうだが…カズ、どう見る?」

 ローレルはエルフだ。ヒト種よりもこの禍々しい気を敏感に感じているんだろう。そこはドワーフのガイアも一緒だった。

 「その雑兵が人間だったら、だがな。」

 おっちゃんの意見に関しては望み薄だろうと思っている。こんな妖気の中で普通の人間が無事でいられるとは思えない。

 「その雑兵が人間かどうかは置いとくとして、敵味方に関わらず『死』が敵の首魁を強化していく可能性があるってのが問題ですよね。」

 テルの言った事が最も気がかりな点だ。段蔵爺さんと千代ちゃんの話ではどうもそうらしいしな。だが、そうは言っても雑魚を素通りしてラスボスと対戦、そんな都合のいい話はないだろう。

 「今回に限っては小細工を弄せず正面からぶつかるのがいいかも知れんな。時間に猶予が無い以上、敵は倒す。敵の首魁がそれで強化されるのは勘弁してもらいたいが、致し方ないと私は思う。」

 「そうだね、ユキちゃんの言う通り、立ち塞がる敵は倒す!その上でパワーアップしたラスボスもやっつける!どの道、カズにぃや眷属達を擁する私達が勝てないならこの国はおしまい。下手に軍勢を連れて来て味方の犠牲者で敵が更にパワーアップとかそれこそ勘弁だしね!」

 結局、ライムの言う通りか。自慢でも増長でもなく、俺が勝てない相手に誰が勝てるかって話だもんな。悪いが、この世界の運命は俺達に任せて貰おうか。

 「…という事でだ。悩んでる間にも事態は悪化するばかりだ。ここは俺らしくドカンとやってやる。」

 「坊主、、だろうが。」

 ムスッとした顔でガイアが言う。

 「ハハ、そうだな。」

 俺達は馬首を返してセリカ達の後を追った。
 
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