いや、自由に生きろって言われても。

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第二部 バンドー皇国編 3章

214.カズト、美味しいトコ取り

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 俺はテルとディアスを誘って部隊編成について会議を開く事を提案し、2人と共に屋敷の中へ戻る。たまたま通りかかった侍女に皇女や代官に、集まって欲しい旨の伝言を頼み、今は空いていると言う部屋へと向かう。

 「カズトさんはいつもそんな編成とか考えてるんですか?」

 歩きながらテルが問いかけて来るが聞かれて俺自身も『俺の仕事じゃねえよなあ』と思わなくもない。

 「俺は指揮官になった覚えはないんだけどな。でもほら、俺達の戦力って特殊すぎて他の人は正確な戦力分析が出来ないんだろ?いつからかなぁ…こんなになっちまったの…」

 遠い目をしながら歩いているとやがて指定された部屋に着く。ドアを開け中に入ると長テーブルが中央にあり四方を椅子が囲んでいる。全部で30人程は座れそうだ。適当な場所に腰を掛け出席者が集まるのを待つ。

 【ご主人様、カペラからの話ではセリカは軍を割らずに全軍でヤシューに入り、現在は領都に駐屯している様ですね。シルビアやアクセル達も同行していますね。】

 突然具現化したサンタナが報告してきた。ディアスは仰天しているがテルは免疫が出来ているようだ。
 
 「サンタナ、クノイチ達も全員来てるのか?」

 【クランメンバーは全員集合ですね。】

 なるほど…いっその事少数精鋭の遊撃隊を編成して…そこまで考えたところで扉がノックされた。ジュリア、ジュリエッタの双子姉妹と代官。それに各部隊長クラスに俺のパーティメンバー。そして爺さんに千代ちゃん、ユキ。

 「大体揃ったみたいだな。」

 俺は集まって貰った趣旨を説明する。セリカがヤシュー領都に来ている事まで。どうやらセリカがヤシューに全軍を集結させたのはヤシューの領主から直接書状が届いた為らしい。

 「それで編成と指揮系統をどうするか、なんだけどさ。」

 それぞれが意見を出し合い議論が白熱する。いいね。自分達の国の事だ。必死になって考えるべきだ。今回は決定に従おうかな。あまりにおかしな作戦じゃない限りは。

 「カズにぃもいろいろ考えてたんでしょ?いいの?」

 「まあな。でもこの国の事はこの国の人が主体で物事を進めるのがいいんじゃないかって思ってさ。」

 「うん、私もそう思うよ。でも、ジュリアとか無茶言い出しそうでさ。」

 「責任感強いからな。そこは落としどころを探すよ。」

 そんな会話をライムと交わしていた矢先の事だ。

 「私はヤシューの軍を率いて東から。ジュリエッタはジョーシューの軍を率いてブシューの北を抑える。セリカ様のオーシュー軍はヒタチの軍と共にボーソー領を攻略。これでいかがでしょうか?」

 これはダメだろう。言い出しっぺのジョーシューが守りに徹するようではヤシューもヒタチも納得すまい。それは軍の士気に直結する。ただ、3方面で展開する作戦は悪くない。助け船を出そうとした矢先。

 「殿下。目下の最大戦力はオーシュー軍です。ここはオーシュー軍を前面に押し立ててはいかがでしょう?」

 どこのバカか知らないがよくもこんな事を俺が居る前で言えたもんだ。さて、皇女はどう出る?口を開いたのはジュリアだった。

 「…あなたのような恥知らずは必要ありません。今この時をもって解任します。出て行きなさい。」

 その言葉はまさしく氷点下。

 「な!馬鹿げている!わざわざバンドーの兵の血を流さずとも他国の兵が…」

 「…この下衆が。」

 この馬鹿に最後まで語らせる事なく俺とライム、ビート。テル、ユキ。段蔵爺さん、千代ちゃんが周囲を囲み刃物を突き付ける。ローレルは魔力を練って魔法を放つ寸前だった。

 「貴様のような奴がいるならオーシューはこの一件から手を引く。バンドーの事など知った事か。全員撤収だ。」

 俺が部屋から出ようとするとオーシュー組と爺さん、千代ちゃんだけでなくテルとユキも付いてこようとしている。もちろんこれは芝居だがみんな心底腹を立てたのは本当だろう。

 部屋を出ようとした俺達の前にジュリエッタが駆けて来て両手を広げて立ち塞がった。

 「お、お待ちくださいっ!何卒!配下の無礼はお詫び致します!どうか!どうか!」

 ジュリエッタの必死の懇願。対してジュリアは。

 「愚か者。自分の国を立て直すのに他国の力を借りる時点で私達がどれほどの恥を忍んでいるのか分からないのですか?それを抜け抜けと…私とジュリエッタが命を懸けて繋いで来たえにしをあなたの一言が全て台無しにしました。どう始末をつけてくれるのです?」

 バカな一言を口にした愚か者は跪き項垂れていた。

 「カズト。それにディアス殿下。これでどうかお怒りを鎮めては頂けないでしょうか。」

 言うなりジュリアは儀礼用の短剣を抜き跪いている男に向かって突き刺そうとした。

 「テル!」

 テルは俺の意図を察したようで無言で頷く。瞬間、ジュリアの短剣はテルの手に握られていた。

 「な!?」

 突然消えた短剣に驚愕するジュリア。ほっとするテル。俺は男の前に歩み寄り、胸倉を掴んで引き上げる。

 「いいか。良く聞け。皇女2人は将軍の追手に追い付かれ間一髪だった。そんな状況でも通り掛かった俺達に逃げろと言った。では無くだ。そんな皇女だから俺は助けた。そして皇女はこうも言った。オーシューとエツリアに行き助力を求めると。自分の首と引き換えにな。さらに、バンドー皇国は無くなっても構わない。だが民だけは救って欲しい。そう懇願して2人は俺の前で自害しようとさえした。ここでも2人は命を懸けた。そんな2人が命懸けで守ろうとした民がてめえみたいなクズだと皇女の覚悟が報われねえよな?」

 そして。

《バキィッ!!》

 横っ面を一発ぶん殴る。

 「ジュリア。こいつの事は任せるがこの会議に出席させるには不適格だ。」

 「…はい。ありがとうございます、カズト。」

 民を愛して命を懸けたジュリアに自ら民に手を掛けるような真似をさせる訳にはいかないだろ。

 「カズトさん、美味しいとこ持って行きましたね?」

 横でテルがニヤついていた。
 
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