114 / 240
第二部 バンドー皇国編 3章
212.かつての『敵』との邂逅
しおりを挟む
「申し上げます!間もなくジュリエッタ第二皇女殿下がエツリアからの援軍2000と義勇軍300を率いて到着なされます!」
午前中の戦闘訓練を間もなく終えようとしていたタイミングで伝令兵が駆け込んで来た。
「分かりました。出迎えにいきましょうか。ディアス王太子殿下もおられるのですよね?粗相のないように。」
「は!」
ジュリアが伝令を受け出迎えに準備をするよう伝令に指示を出し、俺達にも出迎えるよう促して来る。
「カズト達も出迎えて頂けますか?」
俺達と『友達』になったジュリアは俺の仲間やソレイユ限定だが高貴な血筋の者が持つ特有のオーラを消し去り年相応の少女のように振舞っていてとても楽しそうだ。しかしそれはあくまで俺達限定。
「お初にお目に掛かります。バンドー皇国第一皇女のジュリアです。ディアス王太子殿下でいらっしゃいますね?この度の参戦、誠に心強く思います。」
と言いながら深く頭を下げるジュリアは凛とした雰囲気を纏い先程の少女の姿は欠片もない。一国を預かる者のオーラを感じる。
「セリカもそうだけど女ってのはオンオフの切り替えが見事すぎて逆に怖いな…」
「こら、カズにぃ!心の声を口に出すな!」
しまった。ジュリアがジト目でこっち見てる。
そんな一幕もあったがジュリアが援軍と義勇兵に感謝と労いの言葉をかけて兵達を休ませる。そして俺はテル達に声を掛けた。テル達、特にユキには話さなきゃならない事があるからな。
「よお、ご苦労さん。いろいろ大変だったみたいだな?」
「あ、カズトさん。リッケンとバッカーから筒抜けですか。」
自分達の情報が俺に筒抜けだった事を知り苦笑するテル。
「いや、リッケンとバッカーが必要だと思って連絡入れてくれたんだろ。確かに危機一髪ってとこだったからな。でも、テルもユキも見事だったぞ?」
ホント、見事なモンだったよ。ユキのアツい想いとかテルのジュリエッタの落としっぷりとか。
「そんな2人に話があるんだがちょっと付き合って貰えるか?」
警戒しているな。いや、俺をじゃない。無言で頷き俺に従う2人。俺は代官屋敷の一室へと2人を導き入れる。
俺はソファに座り、手で2人へ着席を促すが2人は座らない。そしてユキが口を開いた。
「カズト殿?これはどういう趣向なのだ?敵意はないが2人程隠れているようだが。」
「流石。いや、結構前から気付いていただろ。まあ、悪いようにはしないから座ってくれ。」
そこへドアをノックする音がする。
「どうぞ?」
そこへトレーに紅茶と焼き菓子を乗せたカートを押してくるメイド…じゃなくてライムかよ!?
「はい、テル君にユキちゃん。おいしいよ?カズにぃは私をのけ者にしたから無し!」
テルとユキはメイド服姿のライムにポカンとしていた。いや、テルは若干頬を染めているか?無理もない。このライムの姿に萌えない奴は日本男児として失格だ。あ、ユキがテルをつねった。
「悪い悪い、まあ、とにかくライムも座れ。」
「はーい。」
「それでカズトさん、話とは?」
お互いの雰囲気が微妙になったところでテルが本題を切り出した。
「ああ。いいぞ。出て来い。」
俺が何処へともなく声を掛けると天井から人が2人降って来た。そして俺の横に並んで片膝をついて控えている。
そして苦無を握ってユキが立ち上がっていた。
「貴様ら!なぜここにいる!」
ユキの一言で相手が何者か察したテルも立ち上がりナイフを抜く。
「2人とも抑えてくれ。」
俺はかなりの威圧感を放って2人を止める。隣にいるライムも横で控える2人も脂汗を流して耐えている。
「か、カズトさん、済まない。止めてくれないか。話を聞こう…」
テルがどうにか言葉を絞り出して武器を収めた。テルに頭を撫でられユキも苦無を太腿のホルダーに戻して席に着く。そこで威圧を解くと弛緩した空気に一同深く呼吸する。
「悪いな。やり合うのは話を聞いてからでも遅くないだろ?察しの通りこの2人は加藤段蔵と望月千代女。俺が雇った。」
「「!?」」
『敵』を雇った。2人の認識からすればそうだろう。だがこっちの世界に来て『敵』の定義も変わっている筈だ。
そうして爺さんと千代ちゃん、ユキとテルがお互いの今までを話した。
「なるほど…そうであったか。私の現在の主君はこのテルと言ってもいい。お館様はこちらにはおられぬ。私はもう軒猿ではない。もはや争う理由もないか…」
「そういう事じゃな。儂は元々雇われの忍び。儂はこの殿の強さと器に惚れた。じゃから殿に雇われた。元の世界では互いの主君が敵同士じゃったからあの戦闘は致し方ない事じゃったが今は違うからの。こちらに飛ばされて来た時もお嬢の事は気に掛かっておっての。儂が言うのもなんじゃが、無事で良かったわい。」
「アタシも殿に惚れたのさ。爺さんの言う通り、強さと器にね。だからアタシらは殿に忠誠を誓った。その殿のお仲間ならアタシにも争う理由が無いねえ。元々、お嬢に恨みがあって傷つけた訳じゃない。あ、そうそう、アタシは女としても殿にぞっこんだけど殿はなびいてくれる素振りもないしこっちの世界に飛ばされた直後に目に入ったのはこのしなびた爺ぃだ。その点、そんないい男に拾われていい仲になっているアンタが羨ましいねえ。」
爺さんと千代ちゃんの言葉にはユキを傷つけた事に関して謝罪は無かった。戦場で敵と出会えば倒すのみ。それはユキも、傭兵だったテルも十分に承知しているのか気にしている風でもない。そして千代ちゃんの最後の言葉に頬を赤らめて俯くユキが初々しい。
「加藤殿、望月殿、『生ける伝説』とも言えるお二人と共に戦える事、光栄に存ずる。私は『雪』と申す者。未熟者なれど何卒宜しくお願い申し上げる。」
「そんな堅苦しいのはいらんわい。儂の事は『段ちゃん』と呼んで欲しいのう、ユキちゃんや。」
「アタシの事は『千代ちゃん』と呼んどくれ。お雪ちゃん。」
思ってたのと違う!!そう叫びたいのを我慢してるテルとユキに苦笑する俺とライムだった。
午前中の戦闘訓練を間もなく終えようとしていたタイミングで伝令兵が駆け込んで来た。
「分かりました。出迎えにいきましょうか。ディアス王太子殿下もおられるのですよね?粗相のないように。」
「は!」
ジュリアが伝令を受け出迎えに準備をするよう伝令に指示を出し、俺達にも出迎えるよう促して来る。
「カズト達も出迎えて頂けますか?」
俺達と『友達』になったジュリアは俺の仲間やソレイユ限定だが高貴な血筋の者が持つ特有のオーラを消し去り年相応の少女のように振舞っていてとても楽しそうだ。しかしそれはあくまで俺達限定。
「お初にお目に掛かります。バンドー皇国第一皇女のジュリアです。ディアス王太子殿下でいらっしゃいますね?この度の参戦、誠に心強く思います。」
と言いながら深く頭を下げるジュリアは凛とした雰囲気を纏い先程の少女の姿は欠片もない。一国を預かる者のオーラを感じる。
「セリカもそうだけど女ってのはオンオフの切り替えが見事すぎて逆に怖いな…」
「こら、カズにぃ!心の声を口に出すな!」
しまった。ジュリアがジト目でこっち見てる。
そんな一幕もあったがジュリアが援軍と義勇兵に感謝と労いの言葉をかけて兵達を休ませる。そして俺はテル達に声を掛けた。テル達、特にユキには話さなきゃならない事があるからな。
「よお、ご苦労さん。いろいろ大変だったみたいだな?」
「あ、カズトさん。リッケンとバッカーから筒抜けですか。」
自分達の情報が俺に筒抜けだった事を知り苦笑するテル。
「いや、リッケンとバッカーが必要だと思って連絡入れてくれたんだろ。確かに危機一髪ってとこだったからな。でも、テルもユキも見事だったぞ?」
ホント、見事なモンだったよ。ユキのアツい想いとかテルのジュリエッタの落としっぷりとか。
「そんな2人に話があるんだがちょっと付き合って貰えるか?」
警戒しているな。いや、俺をじゃない。無言で頷き俺に従う2人。俺は代官屋敷の一室へと2人を導き入れる。
俺はソファに座り、手で2人へ着席を促すが2人は座らない。そしてユキが口を開いた。
「カズト殿?これはどういう趣向なのだ?敵意はないが2人程隠れているようだが。」
「流石。いや、結構前から気付いていただろ。まあ、悪いようにはしないから座ってくれ。」
そこへドアをノックする音がする。
「どうぞ?」
そこへトレーに紅茶と焼き菓子を乗せたカートを押してくるメイド…じゃなくてライムかよ!?
「はい、テル君にユキちゃん。おいしいよ?カズにぃは私をのけ者にしたから無し!」
テルとユキはメイド服姿のライムにポカンとしていた。いや、テルは若干頬を染めているか?無理もない。このライムの姿に萌えない奴は日本男児として失格だ。あ、ユキがテルをつねった。
「悪い悪い、まあ、とにかくライムも座れ。」
「はーい。」
「それでカズトさん、話とは?」
お互いの雰囲気が微妙になったところでテルが本題を切り出した。
「ああ。いいぞ。出て来い。」
俺が何処へともなく声を掛けると天井から人が2人降って来た。そして俺の横に並んで片膝をついて控えている。
そして苦無を握ってユキが立ち上がっていた。
「貴様ら!なぜここにいる!」
ユキの一言で相手が何者か察したテルも立ち上がりナイフを抜く。
「2人とも抑えてくれ。」
俺はかなりの威圧感を放って2人を止める。隣にいるライムも横で控える2人も脂汗を流して耐えている。
「か、カズトさん、済まない。止めてくれないか。話を聞こう…」
テルがどうにか言葉を絞り出して武器を収めた。テルに頭を撫でられユキも苦無を太腿のホルダーに戻して席に着く。そこで威圧を解くと弛緩した空気に一同深く呼吸する。
「悪いな。やり合うのは話を聞いてからでも遅くないだろ?察しの通りこの2人は加藤段蔵と望月千代女。俺が雇った。」
「「!?」」
『敵』を雇った。2人の認識からすればそうだろう。だがこっちの世界に来て『敵』の定義も変わっている筈だ。
そうして爺さんと千代ちゃん、ユキとテルがお互いの今までを話した。
「なるほど…そうであったか。私の現在の主君はこのテルと言ってもいい。お館様はこちらにはおられぬ。私はもう軒猿ではない。もはや争う理由もないか…」
「そういう事じゃな。儂は元々雇われの忍び。儂はこの殿の強さと器に惚れた。じゃから殿に雇われた。元の世界では互いの主君が敵同士じゃったからあの戦闘は致し方ない事じゃったが今は違うからの。こちらに飛ばされて来た時もお嬢の事は気に掛かっておっての。儂が言うのもなんじゃが、無事で良かったわい。」
「アタシも殿に惚れたのさ。爺さんの言う通り、強さと器にね。だからアタシらは殿に忠誠を誓った。その殿のお仲間ならアタシにも争う理由が無いねえ。元々、お嬢に恨みがあって傷つけた訳じゃない。あ、そうそう、アタシは女としても殿にぞっこんだけど殿はなびいてくれる素振りもないしこっちの世界に飛ばされた直後に目に入ったのはこのしなびた爺ぃだ。その点、そんないい男に拾われていい仲になっているアンタが羨ましいねえ。」
爺さんと千代ちゃんの言葉にはユキを傷つけた事に関して謝罪は無かった。戦場で敵と出会えば倒すのみ。それはユキも、傭兵だったテルも十分に承知しているのか気にしている風でもない。そして千代ちゃんの最後の言葉に頬を赤らめて俯くユキが初々しい。
「加藤殿、望月殿、『生ける伝説』とも言えるお二人と共に戦える事、光栄に存ずる。私は『雪』と申す者。未熟者なれど何卒宜しくお願い申し上げる。」
「そんな堅苦しいのはいらんわい。儂の事は『段ちゃん』と呼んで欲しいのう、ユキちゃんや。」
「アタシの事は『千代ちゃん』と呼んどくれ。お雪ちゃん。」
思ってたのと違う!!そう叫びたいのを我慢してるテルとユキに苦笑する俺とライムだった。
0
お気に入りに追加
5,673
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。