いや、自由に生きろって言われても。

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第二部 バンドー皇国編 3章

207.器の違い

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 「こうしてカズト様の元には人が集まって来るのですね。」

 「まあね。でもカズにぃだから出来る事で他の人じゃこうは行かないでしょ。」

 「そうですね…人の貴賤を問わず、いえ、もはや人かどうかすら関係なく受け入れる度量の広さと何者にも媚びないその強さ。敵には容赦しない苛烈さを持っていながら従っている者は恐怖からではない。」

 「あははっ!そんなに大袈裟なもんじゃないよ?カズにぃね、捨てられてる動物とかほっとけないない人なの。後先考えずに助けちゃってさ。動物に好かれやすい性質タチのクセにそんな事するからさ、そのうち動物園でも作るんじゃないかって心配だよ。」

 「…私やセリカ様、精霊王様ですら捨て犬や捨て猫と同じですか…」

 「そうだね。相手の立場や身分で差別しないし助けるにあたって見返りを求めるでもない。人も動物もカズにぃからすれば一緒。」

 おい、さっきから黙って聞いてれば。ライム結構ひどくない?しかも全然フォローになってねえし。

 「そんな人がさ、居場所をくれたり命を救ってくれたらさ、もう一生掛けて恩返ししたいって思っちゃうよ…」

 あれ?

 「あっ!分かります!すっごく分かりますよライム様!!!」

 俺は今ソレイユの訓練を見てる。狼たちとの連携とか魔法の運用とかなかなか内容の濃い訓練だ。胡坐をかいて座って見ているんだが背中には横たわっている巨大な銀狼、フェンリルのエスプリが、膝の中にはビートが黒猫姿で丸くなっている。モフリストとしては極楽状態だ。でもな。

 「お前らな、人の噂は聞こえない所でやれよ…」

 すぐ横でライムとジュリアが女子トークしてるんだよ。

 「何言ってるのさ?どれだけカズにぃへの愛が深いかこれからカズにぃに聞こえるように話すんだから。」

 それ、話さなきゃいけない??充分伝わってるから大丈夫だよ??

 【ふむ、マスターよ、取り込み中済まぬがステイブル・ブリジで面白い事になっておるのじゃ。】

 ん?アクアに連絡って事はユキに何かあったか?

 【いえ、正確にはテルにも、ですがね。】

 実況中継してもらうか。

◇◇◇

 「下郎、そこをどけ。私はジュリエッタに用があるのだ。」

 「失礼ですがあなたはどちら様ですか?皇女殿下を呼び捨てするような無礼な方を近づける訳には行かないのですが。」

 いきなり乱入してきて偉そうな態度のディアスにテルはやんわりとした口調だがきっぱりと拒絶の意を示す。視線は据わり頬の傷も相まって関わりたくない人種の人が逆に逃げ出しそうな迫力だ。

 ユキは視線でジュリエッタに確認するがジュリエッタは首を振る。

 「どうやら皇女殿下もあなたの事をご存知無いようだ。お引き取りを。」

 「くっ…私はエツリア王国王太子、ディアスだ!」

 以前エツリアへ助力を求めに行ったジュリエッタだが、謁見の間にディアスはいなかった。面識は無い。

 「その王太子殿下が手順も踏まずになんとも情けない事ですね。」

 今度はジュリエッタが氷の視線で一言浴びせる。

 「なっ!私は貴様の要求に応えて援軍を率いてわざわざやって来たのだぞ?無礼は貴様の方だろうが。」

 そもそもこのディアス、強行に出陣を主張したのは次世代の近隣諸国の王、つまりセリカや双子の皇女の『出来の良さ』に危機感を覚えたからであった。このままでは自分は埋没してしまう。その前に戦で手柄を立てて自分を認めさせる。危機感を持って行動を起こす。これは悪い事とは言い切れないだろう。

 しかし父王が言った『テルに従え』という言葉。これが我慢ならなかった。おそらく父は自分の器を見定めようとしている。それはなんとなく理解した。しかしディアスは間違った方向に解釈してしまった。傲慢な態度で接し、自分を大きくみせてやろうと。なんとも幼い思考回路だがこれが現時点でのディアスと言う人間なのだろう。

 「あら、それは失礼致しました。ご無礼、お許し下さい。重ねて、今回の派兵に感謝致します。」

 まさに口先だけのジュリエッタの謝罪と謝辞。

 「き、きさまぁ!!!」

 ジュリエッタに掴みかかろうとしたディアス。しかしユキがフッと動いた時にはディアスは宙を舞い床に叩き付けられていた。そして喉元にはテルの愛刀が抜き身で突き付けられていた。

 「ぐっ…貴様ら…私に向かってこのような真似をしてタダで済むと思っているのか!?」

 「殿下!貴様ら殿下に何を!」

 駆け寄って来るディアスの側近たちの前にユキが立ちふさがり威圧する。

 「まず自分達の主がどれだけの無礼を働いたか聞いたらどうだ?手順も踏まず他国の城内にズカズカと踏み込み皇女殿下に手を上げたのだ。今首をやるからそこで待っていろ。」

 「今ユキが言った通りだ。そして俺達はジュリエッタ殿下に雇われた護衛。危害を及ぼす者は王子だろうが王だろうが排除する。覚悟はいいか?」

 それを聞いたディアスは口元を歪めてニヤリと笑う。

 「いいのか?貴様。私は知っているぞ?」

 「?」

 「貴様、キャスター辺境伯家の長男にして一家皆殺しの犯人だろう?この事が知れればお前はエツリア中のお尋ね者だ。」
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