いや、自由に生きろって言われても。

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第二部 バンドー皇国編 3章

206.環境の変化に順応しようとする者は成長するが…

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 テル達からの情報ではこちらに着くまで数日かかるらしい。その間に俺達は訓練、ローレルとおっちゃんにはソレイユと千代ちゃん、段蔵爺さんの装備を手入れして貰っている。ソレイユの7人は以前テルとユキが作って貰い今も愛用しているオーガの骨を仕込んだレザーアーマーを仕立てて貰う。

 「アタシは片目が魔眼になっちゃってから良く見えるようになったのよ。だから近接武器よりは弓の方がいいかな。」

 ソレイユの7人は今回の装備の素材となったオーガとの戦いで全員が身体のどこかしらを欠損する怪我を負った。その際にライムとアクアの治癒魔法により回復したのだが、その欠損した箇所限定で水属性の魔力を纏うようになった。おそらく原因はアクアだろうが本人はそうなった原因は分からないと言っている。そんな中、エリーゼ以外の6人は身体強化だったり魔法だったり、直接戦闘に役立つ能力を身に付ける事が出来た。しかしエリーゼが身に付けたのは『魔眼』。目に魔力を流すと『良く見える』能力。

 他のメンバーがどんどん『強く』なって行くのを横目に自分だけは変わらない『強さ』。何度も折れそうになった事だろう。皇女の思い、赤備えに加入する時の自分自身への誓い。それだけを支えに他の6人に置いて行かれそうな自分を奮い立たせて道を探した。

 そして彼女が導き出した答えが『支援特化』だ。『魔眼』の力は単に視力向上だけではなく、『魔力』を見る事が出来る。伏兵を見破る。発動前に魔法を潰す。危険予知において仲間をサポートする重要なポジションだ。ホントは狙撃用ライフルでも持たせたら無双しそうなんだけどな。

 ともあれ、他の6人のメンバーも試行錯誤する彼女を貶したり見下したりする事なく共に戦う道を模索した。そして先頃の戦闘では彼女の『魔眼』により何度も危機を脱している。そして絆はより強固なものとなった。



 普段は飄々としている2人の忍び。しかし胸の内はどうなのか。2人の武器を仕立てる為の会話でこんなやり取りがあった。 

 「人知れず自軍を勝利に導くのが忍び。その存在すら悟られずに成し遂げるのが忍びの技量。しかしの、研鑽を積んだ技を晴れがましい舞台で披露したい、そんな思いもあるんじゃよ。」

 「アタシらくのいちは男の忍びよりも下衆な存在として扱われる事が多くてねえ。まあ、武術で真向から戦う事もするが男に取り入って情報を探る事も多いだろ?好きでもない男に抱かれ、男を喜ばすための技を磨く。そんな風に思ってる輩が多くてね。もちろん間違いじゃないさ。けどそれだけじゃないんだよ。事が終わった後でこっそり泣いている娘だっているのさ。本当は身に付けた武術で役に立ちたいのにってね。」

 なるほど。それじゃあ俺が2人に陽の光を浴びさせてやろう。

 「爺さん、千代ちゃん。戦場での得物は何を使うんだ?」

 「ほ?儂ゃ苦無や手裏剣じゃが?」
 「アタシもかねぇ。あと吹き矢とか。」

 「そうじゃねえよ。暗殺に使うものじゃない。俺達と戦場を駆け巡る時に使う武器だ。」

 「!! なんと、儂らを戦場に?間諜の仕事ではなくかの?」

 「当たり前だろ。ユキに深手を負わせるくらい強いヤツに裏方なんて勿体ねえ。諜報活動なら気にすんな。アテは別にあるから。」

 「あ、あの殿?アタシはくのいちだよ?」

 「それが?」
 
 戦国の世、忍びが表舞台に立って活躍すれば当然顔も売れてしまうだろう。いくら変装するとは言っても姿形は明るみに出ない方が好ましいのは分かる。特にくのいちは男に取り入って情報を探るのだから裸ひとつで任務をこなす必要もあるだろう。変装どころの騒ぎではないはずだ。

 だからこそ、この2人は表舞台に立つ事に免疫がない。でもな、ここは戦国時代じゃないんだ。それに雇い主は俺だし。

 「別に堂々と顔と名前を売り出せばいいじゃないか。こっちの世界にバレたらまずい知り合いがいる訳でもないだろう?」

 2人は感極まった顔で俺の前に控えた。

 「殿。儂には小太刀を二振りお願いしたい。まさかこの歳になって血沸き肉躍るとはのう…」

 「私には薙刀と脇差を。戦場では『くのいち』ではなく『もののふ』としての望月千代女をご覧に入れまする。」

 「わかった。ガイアとローレルには言っておく。後で2人と仕様を詰めてくれ。期待しているよ。」

 この2人、オンオフの切り替えが突然過ぎてびっくりするぜ…

◇◇◇

 「結構集まりましたね、テルさん。」

 義勇兵を募集したところ集まった冒険者や傭兵、ならず者達は200人を数えた。

 「皇女殿下の命懸けの行動に胸を打たれた連中ですよ。」

 少しだけ感激した表情を見せたジュリエッタだがすぐに感情を飲み込み表情を引き締める。

 「期待に応えねばなりませんね…」

 「確かにそうだが別に殿下おひとりで背負う物でもない。ジュリア殿下やセリカ様やカズト殿、そして私達もいる。」

 ユキの言葉にジュリエッタが頷いた時、伝令が入って来た。

 「申し上げます!エツリアのディアス王太子殿下が2000の援軍を率いて到着なされました!」

 伝令の後をズカズカと大股で歩いて来る華美な甲冑とマントを身にまとった男。まっすぐにジュリエッタへと向かって来る。スッとジュリエッタの前に立ち塞がるテルとユキ。

 その男のテルを見る目は憎悪に燃えていた。
 
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