いや、自由に生きろって言われても。

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第二部 バンドー皇国編 3章

205.不穏分子

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 「…というのがカズトさんからの伝言です。」

 ステイブル・ブリジ城にて紛糾?していた会議はカズトの鶴の一声?で収まってしまった。正確にはカズトの伝言をリッケン経由で伝えたテルの一声で。

 「わかりました。カズト様がそう仰るのならば。」

 (カズトさんの一言であっさりかよ!?)

 必死にジュリエッタの説得にあたっていたテルはなんだか悲しくなる。

 (何が違うんだろうなぁ?見た目?強さ?頭?う~ん…)

 テルは自分はカズトの劣化版であるとの認識があったりする。しかしそれは劣等感ではなくカズトに対する憧れのようなものでマイナスの感情は一切ない。自分が必死に言葉を尽くして説得しても折れる事がなかったジュリエッタがカズトの一言であっさり引き下がったのはカズトと自分の差であると思った。しかしテルのその考えは的外れであった。いや、差と言われればそうかもしれない。

 容姿に関して言えば女性の意見は真っ二つに分かれるだろう。テルとカズト。完全に好みの問題である。テルが劣っているという事はない。

 強さや頭の回転。これは強さで言えばカズトに軍配が上がる。頭の回転は五分五分だろう。しかしその強さもジュリエッタのように武術の心得がない者から見れば等しく化け物染みて強い。なので差別化の要因にはなり得ないのだ。

 落ち込むテルの頭を撫でて慰めているリッケン。
 
 その姿を見たジュリエッタが慌てて謝った。

 「す、すみませんテルさん!別にカズト様と比べてテルさんが、その…」

 実の所テルとカズトの差とは普通の女の子に対して接する態度と皇女に対して接する態度の違いである。テルもカズトも意識してやっている訳ではないしどちらが好印象を与えるかと言われればこれも完全に個人差だ。今回はたまたまカズトの媚びない態度がジュリエッタの琴線に触れただけである。むしろ誰に対しても媚びないカズトの態度はトラブルになりやすい。

 「まあまあ、ではテル殿には義勇兵を連れて南へ向かって貰おう。準備に数日必要でしょうが殿下も同行で宜しいですな?」

 「もちろんです!テルさん、ユキさん、引き続きよろしくお願いしますね!」

 レックスが纏めてジュリエッタが同意する。何かぐったりと疲れたテルと茶菓子をたっぷり食べてご満悦のユキだった。

◇◇◇ 

   【オーシューでは準備が整った様ですね。シュヴァルツフルス城に集結したようですよ。】
 
   シュヴァルツフルス城とは旧カムリ領都の俺が、と言うかサンタナとアクアがぶっ壊した城である。現在絶賛修復中で城の名前も改めたらしい。ちなみにカムリ領はアイヅ領に改められた。まあ、そりゃそうだよな。カムリは逆賊だし。そもそもなんであの馬鹿兄貴の名前が領地の名前になってたのか意味わからん。

   【シルビアとガゼールが8000を率いてヒタチ領から進軍じゃそうじゃ。実質の指揮官はアクセルじゃがな。】

   うん、戦力的にも妥当だな。この連絡はシルビアんトコの『あくあちゃん』からだろう。

   【セリカは主力12000を率いてヤシューから進軍だそうですよ。地竜親子も参加で。】

   うん。でもサンタナ、さっきから誰と話してるの?ライズミー王城の分身体もセリカについてんのかな?

   【いえ、カペラです。】

   「は!?なんでカペラが軍に同行してるんだよ!」

   カペラとはユーゲン村の宿屋のマスコット、キャロルちゃんにプレゼントしたサンタナの分身体だ。まさかキャロルちゃんも同行してるのか?

   【セリカがルーチェとキャロル共々お世話係として連れて来た様ですね。どうも、キャロルがカペラを連れて王城に直訴しに行ったとか。わたしもおにいちゃんに会いたい!とか言って。】

   「キャロルちゃん、すげーな…」

   「恋する幼女も侮れないね、カズにぃ?」

 むぅ…

 「あの村の住人は以前カズがレベリングしたんだろ?」
 「坊主が自重しねえから村人がみんな騎士なみに強くなったらしいじゃねえか。」

 うん。たしかに。盗賊殺しの村なんて噂も…

 「心配いらないんじゃない?カペラもいるし、あの親子、その辺の石ころでゴブリン爆散させるじゃん。」

 「あの…カズト様?石ころでゴブリンが爆散って、それもう騎士なんかよりずっと強いですよね!?」

 ライムの一言であの可愛らしいキャロルちゃんの印象がジュリアの中でどうなったか非常に心配なんだが。

◇◇◇

 エツリアからジョーシュー領へ2000の兵を率いて進むディアス王子が近衛の騎士に尋ねる。

 「父上はテルという冒険者を存じていらした様だが何者なのだ?」

 「は。先頃のオーシュー内乱の折、ウフロン防衛戦があったのはご存知で?」

 「ああ、それくらいはな。」

 「その防衛戦で全軍の指揮を執ったのがテルという冒険者らしいのです。その戦術眼はもちろんの事、戦士としての力量も飛びぬけているとの事です。」

 「バカな…防衛戦の主戦力はインテグラーレ公爵の軍だったのだろう?公爵程の上級貴族が冒険者に指揮権を与えるなどと。」

 「テルという冒険者はセリカ女王陛下の信頼も厚く、インテグラーレ公爵も随分と気に入られたとの事ですな。特に公爵の家臣からも不満が出た様子も無かったとか。」

 「…それ程に優れた人材がなぜエツリアにいたのだ?オーシューの冒険者なのだろう?」

 「…これは噂なのですが…6年前、キャスター辺境伯の家中の者が全員殺害されていた事件がありました。」

 「ああ、それなら辺境伯が乱心して家族家臣を皆殺しにした後自害した、そう聞いている。」

 「公式にはそうなっておりますが真相は未だ不明です。しかし、その事件の際に辺境伯の長男が行方不明になっておりまして。」

 「まさかその辺境伯の長男がテルだとでも?」

 「噂、と申し上げました。」

 (ふむ、問い詰めて白状させれば指揮権を冒険者などに委ねる事にならずに済むかも知れんな。)

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