105 / 240
第二部 バンドー皇国編 3章
203.思考の停滞と事態の停滞
しおりを挟む
まだ憶測に過ぎないが、と前置きした上で俺は語り始めた。
「その怪しい女、『人が多く死ねば復活が早まる』みたいな事言ってたんだろ?もうさ、それって人外確定だな。そして魔物でもないだろ。人の負の感情みたいなものを糧として成長するとかもう妖怪じゃねえの?」
「妖怪?」
「なるほど、妖怪ねぇ…」
『妖怪』という単語を聞いた反応は綺麗に二通りに分かれた。納得したのは日本人。妖怪という存在そのものが理解出来ないのがこっちの世界の人間。
もっとも俺だって妖怪に出くわした事なんてないから説明のしようもない。ただぼんやりと概念として知識にあるだけだ。
「まあ、そんな訳で俺の口からは『化け物』としか言い様がないな。普通の人間じゃ抗えないだろう。」
ジュリアに皇国内に召喚魔法陣の類はあるか尋ねてみたが知らないとの事だった。しかし。
「将軍の屋敷の地下に隠し部屋があっての。儂らもそこには立ち入る事が出来なんだが…そこはほれ、儂じゃからの。ちいっと、調べてみた事があったんじゃ。」
お?流石は伝説の忍びだな。こりゃいい買い物したかぁ?
「勿体付けずに早く言いなよ、爺さん。」
「まあそう急かすな千代ちゃんや。部屋の中にはな…なぁーんも無かったわい。無かったが…隠し部屋の床一面には血で描かれた六芒星のような紋様の『残骸』があったんじゃ。」
何かの術が行使されたのは間違いないな。それにしても『血の六芒星』とは穏やかじゃないな。ここは俺の頼りになる先生に聞いてみよう。
「サンタナ。召喚魔法陣に血って何か心当たりない?」
【申し訳ありません。召喚魔法に必要なのは魔力であって血液などの触媒が必要などとは聞いた事が有りません。召喚魔法とは似て非なる物ではないでしょうか?】
「アクアはどうだ?」
【すまぬが妾も心当たりがないの。】
うーん。こりゃあここまでだな。でも『召喚魔法ではない』。この意見は結構信憑性があるように思えた。なぜかって?そりゃあ将軍が短期間に2度も発動させてるからさ。俺達をセリカが召喚出来たのは魔法陣に数百年分の魔力の蓄積があったからこそなんだぞ?
【そうですわね。膨大な魔力を消費する召喚魔法を連発するだけの魔力があるなら召喚などに頼らず自分が戦えば良いのです。】
ビートの意見には誰しもが納得した。もちろん俺も。でもなぁ…そうなると。
「それじゃあアタシらはなぜこっちに飛ばされて来たのかねぇ…」
スタート地点に戻ってしまった。もう考えすぎて知恵熱出そうだから纏めちゃうか。
「結局どれだけ考えても分からないものは分からないってな。どっちにしてもその『妖怪』が黒幕ならそいつをぶっ飛ばさなきゃ終わらない。いいか?出来なくてもやるんだ。絶対にな。それからこんな面倒な事を仕出かした挙句に俺達の旅の目的を奪いやがった将軍とやらにはきっちりと八つ当たりされてもらう。」
「ああ…カズにぃが素敵すぎる…」
「ほんとだねぇ…ああ…ライムが羨ましいよ、いつも一緒でさぁ…」
「んふふ…ローレル姐、今夜一緒にすr《スパーン×2》
危ない事を言いかけたライムとローレルにハリセン食らわせた。最近は俺もコートのマジックポケットに常備している。話の内容を想像してしまったのかジュリアは真っ赤な顔をしてあわあわしているし。
「ローレルとおっちゃんには職人としての仕事を頼みたいんだ。ライム、アレ出して。」
「はいよー。」
ズズン!と地響きを立てて現れたのはソレイユが身体を犠牲にして仕留めたオーガの死体。
「丸ごと一体分だ。ソレイユの7人分の装備の充実を図ってくれ。」
「へえ…腕がなるねえ…」
「全くだ。坊主といると上質な素材には事欠かねえな!がっはっは!」
2人は瞳を輝かせてソレイユの7人にオーガをどこかに運ばせて行った。まあ、間違いはないと思うが後で一応釘刺しておくか。無駄にオーバースペックなモン作りかねないからな。
「さて、ジュリア。これ以上は話が進まないだろう。敵の被害も相当にデカかったらしいから少しは時間が稼げる筈だ。援軍も含めて軍の再編成をした方がいいんじゃないか?」
「そうですね。次の戦闘に向けて準備を進めましょう。」
◇◇◇
ジョーシュー領都ステイブル・ブリジ城。
「ヤシューとヒタチは殿下の支援に回りオーシュー軍の通過及び駐留に協力するとの事です。」
ジョーシュー太守レックスは近隣の領主から来た返答の書状の内容をジュリエッタに説明していた。事前に通達していたのだが漸く返答が来た形だ。しかし懸念事項がある。バンドー、エツリア両国と国境を接するコーシン国である。
レックスは近隣諸侯と同じくコーシン国にも使者を送っていた。コーシン国の返答は『中立』であった。バンドーにおける争乱においては将軍側にも皇女側にもつかない。文字通りに解釈すればそのままの意味だ。だが、エツリアがバンドーの争乱に介入して戦力が手薄になっている間にエツリア本国を急襲する、そんな危険を孕んでいる内容だ。元々コーシンには海が無い為エツリアには海を求めて度々侵攻を繰り返していた国である。そんな国が態度を明らかにしない為にエツリアはバンドーに大規模な援軍を送れない事態になってしまった。
「ふん、こちらの世界も日本でも、かの国の王は小賢しいな。」
とはユキの弁である。宿敵であった武田信玄を揶揄しているのだろう。
「エツリアの援兵が望めないとなるとジョーシューの兵はこれ以上動かせませんな。先日のジュリア皇女へ付けた兵の他に軍を動かせばこの領の兵力が極端に少なくなってしまいます。コーシンへの牽制の為にもこれ以上は…」
ジョーシューがコーシンへの睨みを効かせる為の兵力を維持出来ねばコーシンがエツリアへ攻め込む危険が増してしまう。
「正規兵以外を動かしてゲリラ戦術でもやるか…」
テルの発した一言に皆喰いついてきた。
「その怪しい女、『人が多く死ねば復活が早まる』みたいな事言ってたんだろ?もうさ、それって人外確定だな。そして魔物でもないだろ。人の負の感情みたいなものを糧として成長するとかもう妖怪じゃねえの?」
「妖怪?」
「なるほど、妖怪ねぇ…」
『妖怪』という単語を聞いた反応は綺麗に二通りに分かれた。納得したのは日本人。妖怪という存在そのものが理解出来ないのがこっちの世界の人間。
もっとも俺だって妖怪に出くわした事なんてないから説明のしようもない。ただぼんやりと概念として知識にあるだけだ。
「まあ、そんな訳で俺の口からは『化け物』としか言い様がないな。普通の人間じゃ抗えないだろう。」
ジュリアに皇国内に召喚魔法陣の類はあるか尋ねてみたが知らないとの事だった。しかし。
「将軍の屋敷の地下に隠し部屋があっての。儂らもそこには立ち入る事が出来なんだが…そこはほれ、儂じゃからの。ちいっと、調べてみた事があったんじゃ。」
お?流石は伝説の忍びだな。こりゃいい買い物したかぁ?
「勿体付けずに早く言いなよ、爺さん。」
「まあそう急かすな千代ちゃんや。部屋の中にはな…なぁーんも無かったわい。無かったが…隠し部屋の床一面には血で描かれた六芒星のような紋様の『残骸』があったんじゃ。」
何かの術が行使されたのは間違いないな。それにしても『血の六芒星』とは穏やかじゃないな。ここは俺の頼りになる先生に聞いてみよう。
「サンタナ。召喚魔法陣に血って何か心当たりない?」
【申し訳ありません。召喚魔法に必要なのは魔力であって血液などの触媒が必要などとは聞いた事が有りません。召喚魔法とは似て非なる物ではないでしょうか?】
「アクアはどうだ?」
【すまぬが妾も心当たりがないの。】
うーん。こりゃあここまでだな。でも『召喚魔法ではない』。この意見は結構信憑性があるように思えた。なぜかって?そりゃあ将軍が短期間に2度も発動させてるからさ。俺達をセリカが召喚出来たのは魔法陣に数百年分の魔力の蓄積があったからこそなんだぞ?
【そうですわね。膨大な魔力を消費する召喚魔法を連発するだけの魔力があるなら召喚などに頼らず自分が戦えば良いのです。】
ビートの意見には誰しもが納得した。もちろん俺も。でもなぁ…そうなると。
「それじゃあアタシらはなぜこっちに飛ばされて来たのかねぇ…」
スタート地点に戻ってしまった。もう考えすぎて知恵熱出そうだから纏めちゃうか。
「結局どれだけ考えても分からないものは分からないってな。どっちにしてもその『妖怪』が黒幕ならそいつをぶっ飛ばさなきゃ終わらない。いいか?出来なくてもやるんだ。絶対にな。それからこんな面倒な事を仕出かした挙句に俺達の旅の目的を奪いやがった将軍とやらにはきっちりと八つ当たりされてもらう。」
「ああ…カズにぃが素敵すぎる…」
「ほんとだねぇ…ああ…ライムが羨ましいよ、いつも一緒でさぁ…」
「んふふ…ローレル姐、今夜一緒にすr《スパーン×2》
危ない事を言いかけたライムとローレルにハリセン食らわせた。最近は俺もコートのマジックポケットに常備している。話の内容を想像してしまったのかジュリアは真っ赤な顔をしてあわあわしているし。
「ローレルとおっちゃんには職人としての仕事を頼みたいんだ。ライム、アレ出して。」
「はいよー。」
ズズン!と地響きを立てて現れたのはソレイユが身体を犠牲にして仕留めたオーガの死体。
「丸ごと一体分だ。ソレイユの7人分の装備の充実を図ってくれ。」
「へえ…腕がなるねえ…」
「全くだ。坊主といると上質な素材には事欠かねえな!がっはっは!」
2人は瞳を輝かせてソレイユの7人にオーガをどこかに運ばせて行った。まあ、間違いはないと思うが後で一応釘刺しておくか。無駄にオーバースペックなモン作りかねないからな。
「さて、ジュリア。これ以上は話が進まないだろう。敵の被害も相当にデカかったらしいから少しは時間が稼げる筈だ。援軍も含めて軍の再編成をした方がいいんじゃないか?」
「そうですね。次の戦闘に向けて準備を進めましょう。」
◇◇◇
ジョーシュー領都ステイブル・ブリジ城。
「ヤシューとヒタチは殿下の支援に回りオーシュー軍の通過及び駐留に協力するとの事です。」
ジョーシュー太守レックスは近隣の領主から来た返答の書状の内容をジュリエッタに説明していた。事前に通達していたのだが漸く返答が来た形だ。しかし懸念事項がある。バンドー、エツリア両国と国境を接するコーシン国である。
レックスは近隣諸侯と同じくコーシン国にも使者を送っていた。コーシン国の返答は『中立』であった。バンドーにおける争乱においては将軍側にも皇女側にもつかない。文字通りに解釈すればそのままの意味だ。だが、エツリアがバンドーの争乱に介入して戦力が手薄になっている間にエツリア本国を急襲する、そんな危険を孕んでいる内容だ。元々コーシンには海が無い為エツリアには海を求めて度々侵攻を繰り返していた国である。そんな国が態度を明らかにしない為にエツリアはバンドーに大規模な援軍を送れない事態になってしまった。
「ふん、こちらの世界も日本でも、かの国の王は小賢しいな。」
とはユキの弁である。宿敵であった武田信玄を揶揄しているのだろう。
「エツリアの援兵が望めないとなるとジョーシューの兵はこれ以上動かせませんな。先日のジュリア皇女へ付けた兵の他に軍を動かせばこの領の兵力が極端に少なくなってしまいます。コーシンへの牽制の為にもこれ以上は…」
ジョーシューがコーシンへの睨みを効かせる為の兵力を維持出来ねばコーシンがエツリアへ攻め込む危険が増してしまう。
「正規兵以外を動かしてゲリラ戦術でもやるか…」
テルの発した一言に皆喰いついてきた。
0
お気に入りに追加
5,674
あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。