100 / 240
第二部 バンドー皇国編 3章
198.だって女の子だもん
しおりを挟む
敵の第一波を退けて街に凱旋した私達を人々は熱狂して迎え入れてくれた。兵士や騎士団に歓声が浴びせられ、それに手を振り応える兵士や騎士達。そしてしんがりで街に足を踏み入れた私とソレイユ。狼を従えて目覚ましい活躍を見せたソレイユ達の凱旋には一際大きな歓声があがる。でも。
私とビート、エスプリが入門した時、歓声が止まった。
ああ、分かる。これは怯えだ。なにか恐ろしいものでも見るような、そんな目をしてる。
「あはは、こんな血まみれじゃみんな引くよね!私、洗ってくるよ!」
なぜだろう?私は街の為に戦い、汚名を被るのを承知の上で敵を虐殺したのに。感謝して欲しくてやった訳じゃないのに。何一つ恥じる事なく堂々と凱旋すれば良かったんだ。だけど。
怖くなった。
怯えや恐れを多分に含んだ幾百、幾千もの視線に耐え切れずに私は街の外へと逃げ出した。人気の少ない森の中で膝を抱え一人蹲る。
「カズにぃは今までこんなにキツい思いをしてきてたんだね。私はいつもカズにぃに守られていた。カズにぃは…強いなぁ…カズにぃに会いたいな。。。」
会いたい。会いたい!カズにぃに会いたい!!
いつしか私は泣いていた。そして泣き疲れて眠っていた。
◇◇◇
「なんなんだよ、この雰囲気は?」
なんて言うか、バケモンでも見るような目で俺達を見てるんすよ。いや、俺達を、じゃねえな。正確に言えば姐さんをだ。
姐さんは確かに強え。バケモンなんかよりずっと強え。でもまだ18の娘さんなんだ。それがっすよ?必死に街の為に戦って来たのに戻って来てみりゃこの視線だ。逃げ出したくなるってもんすよ。
案の定、姐さんは明るく振舞ってたけど街の外に飛び出して行っちまった。
「猫先生、エスプリ先生、姐さんをお願いするっす。」
俺達には俺達に出来る事をやらなきゃな。俺は腹の底からでっかい声を絞り出して叫んだっすよ。
「こらあああ!お前ら!お前らは恩人に対してそんな目をする様なくそったれなのか!!!お前らがそんなんだったら俺達はもうこの街を守るのやめんぞコラーーー!!」
◇◇◇
ステイブル・ブリジの援軍2000を引き連れた俺は南へと向かっていたが、ある程度街に近付くと既に戦闘が始まっている事を理解した。索敵エリアにはまだ入っていないがサンタナが言うには精霊達が騒いでいるらしい。
「ジュリア、もう始まっているみたいだ。俺はチェロを連れて先に行くから後から付いて来い。」
「はいっ!ご武運を!」
ライムがいるんだ。滅多な事にはならないと思うが…
「ラン、チェロ、急ごう。」
【承知!主よ、全速力で行く!】
全力で走るランとチェロのスピードはそれ程時間を掛けずに俺を戦場へと運んでくれた。尤も、今は誰もいない無人の荒野だ。血の匂いが酷く濃い。
【既に終わっていましたか…】
【うむ、ライムにビート、それにアクア様が付いていてよもや負ける事は無いだろうが…】
索敵でライムの反応を探す。
……いた。何故か街の外で。一人ぽつんと。何かあったのか?俺は反応のある場所へ急行した。
「ラン、チェロ。ここで待っててくれ。」
少し離れた場所でランとチェロを待てせておき、膝を抱えて蹲っているライムへと歩み寄る。泣いてるのか?らしくないな、と思いながら俺は無言でライムの横に腰かけた。
「……おかえり、カズにぃ…」
ライムは顔を伏せたままだ。
「ああ、ただいま。」
「…私ね、頑張ったよ。カズにぃが居なくても大丈夫なように頑張った…」
「…ああ。」
「…わかってた。覚悟はしてた。でも…街の人達の視線に耐えられなかった…」
「………」
「私ね、たくさん殺した。後々の事を考えるとね、その方がいいと思ったの。最初に相手の心を折った方がいいって。日和見を決めてる周りの領主達を引き込む為にもその方がいいって。」
ライムはここで漸く顔をあげて俺を見る。ひどい顔だ。俺のライムにこんな顔させやがって。
「ライム。お前が辛いならこんな国見捨ててオーシューに戻ってもいいんだぞ?どうせ敵国だし俺達の前世から見てもジュリア達は仇の血脈だ。」
「ううん。私は決めたんだ。ジュリアとジュリエッタと…赤備えのみんな…ソレイユって名前になったんだけどね。みんなを死なせたくないから頑張るって。」
再び俯いてライムは続ける。
「でもね、私の心は弱かった。ごめんね、カズにぃ。私はカズにぃみたいに強くなかった。だからカズにぃに頼らせて?世界中に嫌われてもカズにぃさえいてくれたら私頑張れるから。」
俺は立ち上がりライムの正面に立つ。そしてライムの左手を手に取って立ち上がらせた。強引に。勢い余ってライムが俺の胸の中に飛び込んでくる。
「あっ…」
そのまま包み込むようにライムを抱きしめて囁いた。
「今お前を引っ張った左手の指輪。ただのアクセサリーじゃないだろ?お前を受け入れる俺の覚悟だ。今更こんな恥ずかしい事言わせんな。」
「カズにぃ…」
「悪かったな。もうお前の側から離れないよ。いつも俺が支えてやる。…ってさっきからお前なに?」
さっきから視線を感じてたんだがいい雰囲気だったから無視してたんだよ。でもさ、でっけえ狼が俺の事クンクンしてくるんだよ。
【貴様、何者だ?我が主にナニをしようとしている?】
は?ライムが主?そしてナニとか言うな、いかがわしく聞こえるだろ。
「あはは、ダメだよエスプリ。この人がカズにぃ。この人に絡んじゃだめだよ?ミンチにされて食べられちゃうからね?で、この子はエスプリ。ロートブルクの主でフェンリルなの。私の眷属になっちゃったんだ。私共々よろしくね?ペコリ。」
恐ろしく美しい毛並みの巨大な銀狼が可愛くお座りして尻尾を振っている。馬と同じくらいの大きさの狼だ。なるほど、大した魔力だな。
【なるほど、貴殿が主の…ユニコーンとバイコーンが居たのでまさかとは思ったのだが。】
へえ、でもあいつらと喧嘩にならなかったのか?
【ユニコーンの方から主の匂いがしたのでな。話をしてみたのだ。そして警告されたのだ。くれぐれも攻撃を仕掛けるなと。】
「はは、そうか。じゃあこれからもライムを宜しく頼むよ。守ってやってくれ。」
それにしてもこいつ…モフり甲斐がありそうだ。ふふ、ふふふふ…
私とビート、エスプリが入門した時、歓声が止まった。
ああ、分かる。これは怯えだ。なにか恐ろしいものでも見るような、そんな目をしてる。
「あはは、こんな血まみれじゃみんな引くよね!私、洗ってくるよ!」
なぜだろう?私は街の為に戦い、汚名を被るのを承知の上で敵を虐殺したのに。感謝して欲しくてやった訳じゃないのに。何一つ恥じる事なく堂々と凱旋すれば良かったんだ。だけど。
怖くなった。
怯えや恐れを多分に含んだ幾百、幾千もの視線に耐え切れずに私は街の外へと逃げ出した。人気の少ない森の中で膝を抱え一人蹲る。
「カズにぃは今までこんなにキツい思いをしてきてたんだね。私はいつもカズにぃに守られていた。カズにぃは…強いなぁ…カズにぃに会いたいな。。。」
会いたい。会いたい!カズにぃに会いたい!!
いつしか私は泣いていた。そして泣き疲れて眠っていた。
◇◇◇
「なんなんだよ、この雰囲気は?」
なんて言うか、バケモンでも見るような目で俺達を見てるんすよ。いや、俺達を、じゃねえな。正確に言えば姐さんをだ。
姐さんは確かに強え。バケモンなんかよりずっと強え。でもまだ18の娘さんなんだ。それがっすよ?必死に街の為に戦って来たのに戻って来てみりゃこの視線だ。逃げ出したくなるってもんすよ。
案の定、姐さんは明るく振舞ってたけど街の外に飛び出して行っちまった。
「猫先生、エスプリ先生、姐さんをお願いするっす。」
俺達には俺達に出来る事をやらなきゃな。俺は腹の底からでっかい声を絞り出して叫んだっすよ。
「こらあああ!お前ら!お前らは恩人に対してそんな目をする様なくそったれなのか!!!お前らがそんなんだったら俺達はもうこの街を守るのやめんぞコラーーー!!」
◇◇◇
ステイブル・ブリジの援軍2000を引き連れた俺は南へと向かっていたが、ある程度街に近付くと既に戦闘が始まっている事を理解した。索敵エリアにはまだ入っていないがサンタナが言うには精霊達が騒いでいるらしい。
「ジュリア、もう始まっているみたいだ。俺はチェロを連れて先に行くから後から付いて来い。」
「はいっ!ご武運を!」
ライムがいるんだ。滅多な事にはならないと思うが…
「ラン、チェロ、急ごう。」
【承知!主よ、全速力で行く!】
全力で走るランとチェロのスピードはそれ程時間を掛けずに俺を戦場へと運んでくれた。尤も、今は誰もいない無人の荒野だ。血の匂いが酷く濃い。
【既に終わっていましたか…】
【うむ、ライムにビート、それにアクア様が付いていてよもや負ける事は無いだろうが…】
索敵でライムの反応を探す。
……いた。何故か街の外で。一人ぽつんと。何かあったのか?俺は反応のある場所へ急行した。
「ラン、チェロ。ここで待っててくれ。」
少し離れた場所でランとチェロを待てせておき、膝を抱えて蹲っているライムへと歩み寄る。泣いてるのか?らしくないな、と思いながら俺は無言でライムの横に腰かけた。
「……おかえり、カズにぃ…」
ライムは顔を伏せたままだ。
「ああ、ただいま。」
「…私ね、頑張ったよ。カズにぃが居なくても大丈夫なように頑張った…」
「…ああ。」
「…わかってた。覚悟はしてた。でも…街の人達の視線に耐えられなかった…」
「………」
「私ね、たくさん殺した。後々の事を考えるとね、その方がいいと思ったの。最初に相手の心を折った方がいいって。日和見を決めてる周りの領主達を引き込む為にもその方がいいって。」
ライムはここで漸く顔をあげて俺を見る。ひどい顔だ。俺のライムにこんな顔させやがって。
「ライム。お前が辛いならこんな国見捨ててオーシューに戻ってもいいんだぞ?どうせ敵国だし俺達の前世から見てもジュリア達は仇の血脈だ。」
「ううん。私は決めたんだ。ジュリアとジュリエッタと…赤備えのみんな…ソレイユって名前になったんだけどね。みんなを死なせたくないから頑張るって。」
再び俯いてライムは続ける。
「でもね、私の心は弱かった。ごめんね、カズにぃ。私はカズにぃみたいに強くなかった。だからカズにぃに頼らせて?世界中に嫌われてもカズにぃさえいてくれたら私頑張れるから。」
俺は立ち上がりライムの正面に立つ。そしてライムの左手を手に取って立ち上がらせた。強引に。勢い余ってライムが俺の胸の中に飛び込んでくる。
「あっ…」
そのまま包み込むようにライムを抱きしめて囁いた。
「今お前を引っ張った左手の指輪。ただのアクセサリーじゃないだろ?お前を受け入れる俺の覚悟だ。今更こんな恥ずかしい事言わせんな。」
「カズにぃ…」
「悪かったな。もうお前の側から離れないよ。いつも俺が支えてやる。…ってさっきからお前なに?」
さっきから視線を感じてたんだがいい雰囲気だったから無視してたんだよ。でもさ、でっけえ狼が俺の事クンクンしてくるんだよ。
【貴様、何者だ?我が主にナニをしようとしている?】
は?ライムが主?そしてナニとか言うな、いかがわしく聞こえるだろ。
「あはは、ダメだよエスプリ。この人がカズにぃ。この人に絡んじゃだめだよ?ミンチにされて食べられちゃうからね?で、この子はエスプリ。ロートブルクの主でフェンリルなの。私の眷属になっちゃったんだ。私共々よろしくね?ペコリ。」
恐ろしく美しい毛並みの巨大な銀狼が可愛くお座りして尻尾を振っている。馬と同じくらいの大きさの狼だ。なるほど、大した魔力だな。
【なるほど、貴殿が主の…ユニコーンとバイコーンが居たのでまさかとは思ったのだが。】
へえ、でもあいつらと喧嘩にならなかったのか?
【ユニコーンの方から主の匂いがしたのでな。話をしてみたのだ。そして警告されたのだ。くれぐれも攻撃を仕掛けるなと。】
「はは、そうか。じゃあこれからもライムを宜しく頼むよ。守ってやってくれ。」
それにしてもこいつ…モフり甲斐がありそうだ。ふふ、ふふふふ…
0
お気に入りに追加
5,674
あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。