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第二部 バンドー皇国編 3章
193.ジョーシュー太守レックスという男
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「ここがお城の正門っすよ。ただ入れてくれるかどうかは…」
「まかり通るから問題ないさ。ああ、ありがとな。ここでいいよ。」
俺は案内をしてくれた3人組に礼をいい、正門を守る門番に話し掛ける。
「俺はオーシューの冒険者カズト。領主殿に会いたいんだが。」
「おいおい、お前気は確かか?たかが冒険者が領主様に会いたいってそんな事が…」
言いながら門番は暫し考え込む。
「ま、まさかアンタ…天罰の黒天使カズトか!?」
「あー…出来ればその二つ名はあんまり言わないで欲しいかな…」
最近慣れて来たかと思ってたけど他国の人にまで知れ渡ってるとなるとこれはまた恥ずかしい。
「ちょ、ちょっと待っててくれ!あ、そこに椅子があるだろ?それに座って待っててくれ!」
門番は城内に走り込んでいく。さて、少し観察でもするかね。
「なあ、サンタナ。この間より道行く人たちの表情がいいような気がするな。」
【そうですね。領主が皇女の保護を打ち出したおかげで戦になりそうですから緊張した面持ちの者もいますが。】
「それってさ、逆に言えば死を恐れてるって事だろ?いいんじゃないか?ヤケクソになって生きるよりは生に執着した方がさ。」
【…確かにそうですね。さすがご主人様です。】
そうしてるうちに執事っぽい若い男がやってきた。
「天罰のカズト様ですね?お館様がお会いになるそうです。どうぞこちらへ。」
案内された部屋で待っていると20代半ばくらいの若い男が入って来る。こいつが領主か?思ったより若くて拍子抜けだが雰囲気はあるな。
「貴公がカズトか!噂は聞いている。楽にしてくれ。俺はこのジョーシューを治める太守、レックスだ。」
「俺はカズト。異世界人ゆえ礼に欠けるところはご容赦願いたい。今日は突然の来訪にも関わらず面会して頂き感謝する。」
ここのお国柄なのか?なんと言うかサバサバしていて気取ってないヤツが多いな。太守ともあろう者が護衛も連れずに豪胆な事だ。
「何、礼儀など最低限弁えていればよい。我々御家人は元々を辿れば傭兵や土豪、腕っぷし一つでのし上がったならず者だ。貴殿ら冒険者と大して変わりはないよ。」
へえ…貴族みたいな血筋に誇りを持つ人種とはまた違うんだな。
「早速だが用件を聞こう。」
そうだな。何から言ったものか…
「南の街の代官殿の話ではこの街を反抗の拠点とする、そう聞いたのだが間違いないだろうか。」
「ああ、間違いない。ここジョーシューはコーシン、エツリア、オーシューと三方を隣国に接していて本気で攻める気もない小競り合いで消耗させられて来た。バンドーの中では辺境に位置する我が領だが辺境に求められるのは何よりも武だ。それ故血気盛んな者も多いが地元を守って来たという誇りもある。今回の皇女殿下の行動はそんな我らの誇りを肯定するものだと考える。」
「ならばなぜ皇女を保護しなかった?」
「それを言われると辛いのだがな。俺達辺境の者は将軍を好かん。だが皇女が国を捨て逃亡するなら助ける義理はない。そう思い静観していたのだ。しかし…皇女殿下の真意が代官を通じて伝えられた時は自分を恥じたよ。」
「なるほど、事情は理解した。俺は皇女が到着するまでこの街に留まらせてもらうよ。ジュリアはオーシューを、ジュリエッタはエツリアをすでに出立している。彼女らは俺のいる所に来る。それから、一つ頼みがあるんだが…」
「ん?なんだ?」
「南の街の防衛の件だ。今は俺の仲間が兵達を鍛えているが動員兵力はそれ程多くは無いだろう?だが領主殿が皇女保護を打ち出した今、あの街は危機にある。援軍を出して欲しい。皇女殿下を大将として。」
「なんだと!?皇女殿下を前線に赴かせよというのか!?」
「当たり前だ。俺は後ろで踏ん反り返ってるヤツには力は貸さない。セリカは常に最前線に身を晒して戦った。だから俺は力を貸したんだ。また、そうでなくては民はセリカに心酔しなかったんじゃないかな。」
「なるほど、分からんでもない。街のならず者達が最近の行動がおかしいとはそう言った理由があるのか。」
「おかしい?」
「ああ。何というかな。風紀の乱れを正そうとする輩が増えて来ているようなのだ。ならず者がだぞ?」
「ああ、それな…俺達に絡んで来て…ちょっと説教してやったら改心した奴らだ。」
「『天罰』が説教か…ははは!さぞ恐ろしかった事だろうな!はははは!」
さも愉快そうに笑いやがって。こっちはかなり面倒だったんだぞ。
「それで、南の代官が推進しているという『赤備え』なんだがな。我が領全体で推し進める事にしたよ。いいじゃないか。ジョーシューの精兵が赤備え、バンドーに武を轟かせんってな。」
ふふふ。面白い領主だな。なんと言うかノリがいい。
「では援軍の件は…」
「うむ、手配しよう。ただ、隣国のコーシンや近隣の領主の動向がまだはっきりとせん。防衛の為の兵は残さねばならんのは理解してくれ。さしあたって出せるのは2000が限界だ。」
「ああ、充分だ。済まない。感謝する。」
「何、感謝するのはこちらの方だ。貴殿らがジョーシューの民の心に火を着けたのだからな。」
「それは違うよ、領主殿。火を着けたのはジュリアとジュリエッタの民を思う心だ。」
「ふん、その皇女殿下を助けたのが貴殿らと言う事だ。殿下が到着するまで城でゆっくりとするがいい。出入りに関しては自由に出来るように手配しておく。では俺は公務に戻るよ。」
俺は部屋を出て行くレックスに一礼して見送った。
《ちょっと!貴方!殿下を救って下さった恩人を放置してくるとは何事ですか!!!!歓待するのが筋ではないですか!?》
《わ、わかった!すまん!謝るから耳を離すのだ!もげるから!もげるからっ!》
廊下からそんな声が聞こえてくる。『かかあ天下とからっ風』だったか?こっちの世界も変わらないようだな。
「まかり通るから問題ないさ。ああ、ありがとな。ここでいいよ。」
俺は案内をしてくれた3人組に礼をいい、正門を守る門番に話し掛ける。
「俺はオーシューの冒険者カズト。領主殿に会いたいんだが。」
「おいおい、お前気は確かか?たかが冒険者が領主様に会いたいってそんな事が…」
言いながら門番は暫し考え込む。
「ま、まさかアンタ…天罰の黒天使カズトか!?」
「あー…出来ればその二つ名はあんまり言わないで欲しいかな…」
最近慣れて来たかと思ってたけど他国の人にまで知れ渡ってるとなるとこれはまた恥ずかしい。
「ちょ、ちょっと待っててくれ!あ、そこに椅子があるだろ?それに座って待っててくれ!」
門番は城内に走り込んでいく。さて、少し観察でもするかね。
「なあ、サンタナ。この間より道行く人たちの表情がいいような気がするな。」
【そうですね。領主が皇女の保護を打ち出したおかげで戦になりそうですから緊張した面持ちの者もいますが。】
「それってさ、逆に言えば死を恐れてるって事だろ?いいんじゃないか?ヤケクソになって生きるよりは生に執着した方がさ。」
【…確かにそうですね。さすがご主人様です。】
そうしてるうちに執事っぽい若い男がやってきた。
「天罰のカズト様ですね?お館様がお会いになるそうです。どうぞこちらへ。」
案内された部屋で待っていると20代半ばくらいの若い男が入って来る。こいつが領主か?思ったより若くて拍子抜けだが雰囲気はあるな。
「貴公がカズトか!噂は聞いている。楽にしてくれ。俺はこのジョーシューを治める太守、レックスだ。」
「俺はカズト。異世界人ゆえ礼に欠けるところはご容赦願いたい。今日は突然の来訪にも関わらず面会して頂き感謝する。」
ここのお国柄なのか?なんと言うかサバサバしていて気取ってないヤツが多いな。太守ともあろう者が護衛も連れずに豪胆な事だ。
「何、礼儀など最低限弁えていればよい。我々御家人は元々を辿れば傭兵や土豪、腕っぷし一つでのし上がったならず者だ。貴殿ら冒険者と大して変わりはないよ。」
へえ…貴族みたいな血筋に誇りを持つ人種とはまた違うんだな。
「早速だが用件を聞こう。」
そうだな。何から言ったものか…
「南の街の代官殿の話ではこの街を反抗の拠点とする、そう聞いたのだが間違いないだろうか。」
「ああ、間違いない。ここジョーシューはコーシン、エツリア、オーシューと三方を隣国に接していて本気で攻める気もない小競り合いで消耗させられて来た。バンドーの中では辺境に位置する我が領だが辺境に求められるのは何よりも武だ。それ故血気盛んな者も多いが地元を守って来たという誇りもある。今回の皇女殿下の行動はそんな我らの誇りを肯定するものだと考える。」
「ならばなぜ皇女を保護しなかった?」
「それを言われると辛いのだがな。俺達辺境の者は将軍を好かん。だが皇女が国を捨て逃亡するなら助ける義理はない。そう思い静観していたのだ。しかし…皇女殿下の真意が代官を通じて伝えられた時は自分を恥じたよ。」
「なるほど、事情は理解した。俺は皇女が到着するまでこの街に留まらせてもらうよ。ジュリアはオーシューを、ジュリエッタはエツリアをすでに出立している。彼女らは俺のいる所に来る。それから、一つ頼みがあるんだが…」
「ん?なんだ?」
「南の街の防衛の件だ。今は俺の仲間が兵達を鍛えているが動員兵力はそれ程多くは無いだろう?だが領主殿が皇女保護を打ち出した今、あの街は危機にある。援軍を出して欲しい。皇女殿下を大将として。」
「なんだと!?皇女殿下を前線に赴かせよというのか!?」
「当たり前だ。俺は後ろで踏ん反り返ってるヤツには力は貸さない。セリカは常に最前線に身を晒して戦った。だから俺は力を貸したんだ。また、そうでなくては民はセリカに心酔しなかったんじゃないかな。」
「なるほど、分からんでもない。街のならず者達が最近の行動がおかしいとはそう言った理由があるのか。」
「おかしい?」
「ああ。何というかな。風紀の乱れを正そうとする輩が増えて来ているようなのだ。ならず者がだぞ?」
「ああ、それな…俺達に絡んで来て…ちょっと説教してやったら改心した奴らだ。」
「『天罰』が説教か…ははは!さぞ恐ろしかった事だろうな!はははは!」
さも愉快そうに笑いやがって。こっちはかなり面倒だったんだぞ。
「それで、南の代官が推進しているという『赤備え』なんだがな。我が領全体で推し進める事にしたよ。いいじゃないか。ジョーシューの精兵が赤備え、バンドーに武を轟かせんってな。」
ふふふ。面白い領主だな。なんと言うかノリがいい。
「では援軍の件は…」
「うむ、手配しよう。ただ、隣国のコーシンや近隣の領主の動向がまだはっきりとせん。防衛の為の兵は残さねばならんのは理解してくれ。さしあたって出せるのは2000が限界だ。」
「ああ、充分だ。済まない。感謝する。」
「何、感謝するのはこちらの方だ。貴殿らがジョーシューの民の心に火を着けたのだからな。」
「それは違うよ、領主殿。火を着けたのはジュリアとジュリエッタの民を思う心だ。」
「ふん、その皇女殿下を助けたのが貴殿らと言う事だ。殿下が到着するまで城でゆっくりとするがいい。出入りに関しては自由に出来るように手配しておく。では俺は公務に戻るよ。」
俺は部屋を出て行くレックスに一礼して見送った。
《ちょっと!貴方!殿下を救って下さった恩人を放置してくるとは何事ですか!!!!歓待するのが筋ではないですか!?》
《わ、わかった!すまん!謝るから耳を離すのだ!もげるから!もげるからっ!》
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