いや、自由に生きろって言われても。

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第二部 バンドー皇国編 3章

189.ライムの提案

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 トラとオーガ、それにビッグハンドをライムに収納してもらい街に戻った俺達は腕のいい工房を街の人に聞き取り調査をしてみたのだがどうもオーガクラスの素材となると今一つ怪しいレベルらしい。それに代官の発注した装備の赤備えの件でどこも工房は手一杯らしい。

 「うーん、赤備え推進の反動がこんな所で…」

 【あら、ご主人様?朗報ですね。】

 サンタナが何か受信したようだ。受信と言うのもおかしいのかも知れないがちょっと適当な単語が思いつかない。

 【王都の分身が言うにはジュリア皇女がこちらに向かい出発したようなんですが…護衛がローレルとガイアだそうです。】

 「おお、まさに渡りに船だな!」

 「凄いタイミングだね。職人がいない時にこれ?」

 ご都合主義な展開にライムも苦笑だ。

 「どうかしたんすか?アニキ。」

 「ああ、ジュリアがこっちに向けて出発したらしい。」

 「え?そそそそうなんで?」

 「うぬぬぬ…キンチョーするっすね…」

 お前ら今からそんなに緊張してたら本番で心臓止まるんじゃないのか?

 【おや、これはまた…ふふふ、面白い事になったの。」

 今度はアクアか。

 【何故かテルとユキがエツリアにおったのじゃが、どうもあの2人、ジュリエッタの護衛でこっち来るみたいじゃぞ?】
 
 なんだこの役者が揃った感は。

 「どしたの?カズにぃ。」

 「いや、今ちょっと神様を疑ってたところだ。」

 「?」

 さて、代官に伝えた方がいいだろうなと思ったその時代官の方からやって来た。

 「おお、揃っていたか。今し方、領主様から使者が来てな。少しお主らの意見を聞きたい。」

 「丁度良かった。俺からも代官殿に話があった。」

 「うむ、では場所を移そう。」

 そうして俺達が向かったのは応接間。堅苦しい会議室もアレだが豪華な応接間も赤7人には居心地が悪いらしい。

 「あ、アニキ…俺らも居なくちゃダメっすか?」

 「当たり前だバカ。皇女が来たらお前らはこういうの増えるからな?」

 「うげえ…」

 「……始めてもよいか?」

 「ああ、済まない。始めよう。」

 「では儂の方から行こう。」

 領主からの連絡か。味方が増えるか敵が増えるか。

 「まずは我が主は儂の報告を受けて皇女を受け入れる方針を固めたようだ。もし皇女殿下、若しくはオーシューやエツリアが軍を率いて来るならば領都『ステイブル・ブリジ』を拠点にして活動する事を認めるとあるな。それに近隣の領主にも密書を送ったとの事だ。」

 そうなると俺達は一旦戻る事になるか?しかしそうなるとこの街は…

 「代官殿。この街は領の南端だよな?最前線になるんじゃないか?」

 「そうだな。わが『ジョーシュー』領が反旗を翻せばここは真っ先に攻められるだろう。」

 赤7人はゴクリと生唾を飲み込んでいる。蹂躙される街を想像したか。それとも自分達の死を見たか。

 「実はジュリアとジュリエッタの2人がそれぞれオーシューとエツリアを出発したとの事だ。軍の方は流石にまだ準備が整わないだろうな。特にオーシューは内乱が収束したばかりだ。」

 「…となると、すぐには援軍が望めないか。攻められた場合は我らだけで持ちこたえねばならん訳だな。厳しいのぅ…」
 
 「皇女達が到着するまで少し時間がある。赤備えを少し鍛えるか。代官殿。この辺りに魔物が多発するエリアはないか?それもとびきり狂暴なヤツ。」

 「ふむ…それならば…」

 カズトに説明している時の代官の悪い笑みを見て脂汗を浮かべる赤7人。

 「赤7人と街にいる軍人や騎士団から根性ありそうな奴を集めてレベリングをしようと思う。」

 「やっぱりっすね…」
 「…ええ、分かってたわよ…」

 遠い目をする7人。いや、そんな目をしてもダメだ。こいつらに生き残ってもらうにはどうしても必要な事だ。

 「ねえ、カズにぃ。提案なんだけど。」

 「ん?なんだ?」

 「レベリングは私に任せてカズにぃはステイブル・ブリジに戻って皇女達を出迎えたらどうかなぁ?」

 ライムが俺と別行動する事を望むとは珍しい。

 「私もね、強くなりたいんだ。カズにぃの事を頼れない状況に自分を追い込まないと。」

 可能性の一つとして予想はしていた。前に俺が敵の監視役を取り逃がした事に危機感を抱いたのだろう。

 「それにね、レベリング対象者にはかなり無理をさせるつもり。だから回復役として私は必要。でもカズにぃはそこら辺は役立たず。」

 ぐっ…その通りだけれども!

 「そして私も無理をするつもり。カズにぃは私の事大好きだからきっと見てられなくなると思う。」

 コイツめ、しゃあしゃあと…そうかも知れないけれども!

 …けどまあ、強敵の出現を本能で予感してるんだろう。バンドーの将軍が皇帝暗殺なんて暴挙に出たのが単に意見の相違なんて理由だろうかという疑念が消えない。なにか大きな力を手に入れたからこそ国盗りに動いたのではないだろうか?

 「まあ、いいだろ。但し条件がある。ライム自身の治癒の為にアクアを置いていく。」

 「うん、それは助かるよ。いいかな?アクア様。」

 【うむ、よかろう。】

 【カズト様、それなら私も残って宜しいでしょうか?】

 ビートもか。

 【ただの魔物相手はライムには役不足でしょう。私自身の為にもライムとお互いを高め合うのもよいと思いますの。」

 ふむ。ライムの相手をすると言うことね。

 「わかった。アクア、ビート。ライムを頼む。」

 成り行きを見守っていた代官が話を締める。

 「話は纏まったようだな。ではライム殿に精霊様方、宜しくお願い致す。」

 「代官殿、それじゃあ俺は領都に向かう。済まないが馬を1頭都合して欲しい。」

 「うむ。承知した。殿下を頼む。」

 こうして俺はサンタナのみを連れてステイブル・ブリジへと出発した。

 
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