84 / 240
第二部 バンドー皇国編 3章
182.ジュリエッタvsサーブ
しおりを挟む
◇◇◇
エツリア王国王城内謁見の間
「それで、ジュリエッタ殿。我がエツリアに何用か。その首を差し出しにでも来たか。」
エツリア王サーブは厳しい視線で問いかける。対してバンドー皇国皇女ジュリエッタも毅然とした態度で応ずる。
「はい、お望みとあらば。しかし、まずはこちらの書状を。」
カズトの記した書状を恭しく差し出すジュリエッタ。サーブ王の側近がそれを受け取りサーブ王に手渡すと無造作に封を破り読み始めるサーブ王。
「ふん。アレもお節介な男よな。」
書状の中身を知らないジュリエッタはサーブ王の反応がどういったものか今一つ分からない。
「ジュリエッタ殿。貴殿は何をどうしたいのか。そしてエツリアにはどうして欲しいと言うのか。命懸けでここまで来たからにははっきりとした返答を期待出来るのであろうな?」
いきなりぶち当たった分岐点。ここで選択肢を誤ればバッドエンドへ一直線。しかしジュリエッタの答えは決まっていた。
「はい。エツリア王国にはバンドー皇国を滅ぼして頂きたく。」
「…ほお?」
いささか予想外の返答にサーブ王の目が細くなる。
「そして、我が愛する民を救って頂きたいのです。」
「なるほどな…あの男が手を貸すだけの器があると言う事か。」
「は?」
「カズト殿はな。バンドーの国は許せぬが民に罪はない。自分は民を助ける。余にはただ皇女の話を聞いてやってくれとだけ書いておった。つまり、そなた次第では余は敵にも味方にもなりえた訳だな。」
「…はい。」
「して、条件だがな。」
「は。民の安寧さえ確約して頂ければバンドーの領地は切り取り自由。事が済めばわが命も差し出しましょう。しかし、姉上の命だけは何卒。」
「そなたの姉は大方オーシューにでも向かったのであろう?カズト殿が助けたのであればセリカ女王はそなたの姉を全力で守るであろうな。心配致すな。」
「条件は事後オーシューとそなたらの3国で調整となろう。今は休むが良い。」
「は、ありがたきしあ…わ、せ…」
ここでジュリエッタは緊張の糸がぷつりと切れたのか気を失ってしまう。
「皇女を休ませろ。丁重にな。」
サーブ王はそう侍女に命じると頬に手をあて考え込む。
「ディアスをここへ。」
「は、父上、ここに。」
隣室に控えていたのはサーブ王の息子でエツリア王太子のディアス王子だ。
「お前の世代は手強いおなごばかりだな。セリカといいジュリエッタといい。お前に渡り合えるか?」
「確かにそうでございます。ですが父上。自分とてまだまだこれから伸びて行きましょう。心配はいりませぬ。それで父上。お願いしたき儀が。」
「申してみよ。」
「は。バンドーとの戦にて初陣を飾りたく。」
「うむ。よかろう。今から準備をしておくがよい。鍛錬を怠るな。」
「は!」
退出していく息子の背を見ながら笑みを浮かべるサーブ王。
(ふ、さほど歳の変わらぬ隣国の姫たちの覚悟を見て尻に火が付いたか。確かに今のままではオーシューのセリカや今のバンドーのジュリエッタとは渡り合えまい。恐らくエツリアは飲み込まれてしまうであろうな。そうならぬ為には敢えて虎穴に放り込むのも手ではあるか。そしてその上で…)
なにやら浮かべていた笑みが悪い笑みに変わっていく。悪巧みを思い付いたらしい。
◇◇◇
ランとチェロがいないため、てくてくと徒歩で南下している俺とライム。徒歩故にさして距離は稼いでいないのだが、まあとにかく絡まれる。今日はここまでで3回目、今目の前にいる4人をあわせて16人目。
「ごべんだざい!」
鼻血を出して土下座しているヒャッハーはどうやら謝っているらしい。ヒャッハーと言うか、傾奇者だな。ド派手な衣装だが俺にはこのセンスは分からないな。
普段の俺達ならこんな連中は軽く一蹴してそれで終わりなんだがこの国に入ってからは少し思う所がある。
「あのさ、こんな事してるあんた達の事も守ろうとして、ジュリアとジュリエッタの2人の皇女はそれぞれオーシューとエツリアに助けを求めに命懸けで脱出したんだよ?今まで敵だった国の王様に、あんた達みたいのも助けて欲しいって懇願しに行ったの!どれだけの覚悟が必要か分かる?」
「はい!すみませんでした!」
「いや、まだわかってない!いい?あの2人はね、自分の首を差し出すつもりで行ったんだよ?それがなにさ!あんた達と来たらこんなトコでこんな事して!恥ずかしくないの!?」
「へい!ごめんなさい!」
「いい?こんなあんた達を助けようとして敵国に渡った皇女が死んだら…」
「ゴクッ…」
「私があんた達をとびっきり惨たらしく殺してあげるから。」
「ひっ!わかりました!これからは心を入れ替えます!申し訳ありませんでしたぁ!」
軽くお仕置きした後、ライムに鬼の説教をして貰っている。俺が説教すると連中失神しちまうからライムに説教を頼んだんだがこれが思いの他効果的で、しかもすげえ怖い。
こいつらみたいなのが簡単に改心するとは思ってないが、ジュリアとジュリエッタの行動を世間に広める助けににはなるだろう。少しでもバンドー国民の希望になればと思う。狙いはそこだったのだが…
なんでこうなった…
エツリア王国王城内謁見の間
「それで、ジュリエッタ殿。我がエツリアに何用か。その首を差し出しにでも来たか。」
エツリア王サーブは厳しい視線で問いかける。対してバンドー皇国皇女ジュリエッタも毅然とした態度で応ずる。
「はい、お望みとあらば。しかし、まずはこちらの書状を。」
カズトの記した書状を恭しく差し出すジュリエッタ。サーブ王の側近がそれを受け取りサーブ王に手渡すと無造作に封を破り読み始めるサーブ王。
「ふん。アレもお節介な男よな。」
書状の中身を知らないジュリエッタはサーブ王の反応がどういったものか今一つ分からない。
「ジュリエッタ殿。貴殿は何をどうしたいのか。そしてエツリアにはどうして欲しいと言うのか。命懸けでここまで来たからにははっきりとした返答を期待出来るのであろうな?」
いきなりぶち当たった分岐点。ここで選択肢を誤ればバッドエンドへ一直線。しかしジュリエッタの答えは決まっていた。
「はい。エツリア王国にはバンドー皇国を滅ぼして頂きたく。」
「…ほお?」
いささか予想外の返答にサーブ王の目が細くなる。
「そして、我が愛する民を救って頂きたいのです。」
「なるほどな…あの男が手を貸すだけの器があると言う事か。」
「は?」
「カズト殿はな。バンドーの国は許せぬが民に罪はない。自分は民を助ける。余にはただ皇女の話を聞いてやってくれとだけ書いておった。つまり、そなた次第では余は敵にも味方にもなりえた訳だな。」
「…はい。」
「して、条件だがな。」
「は。民の安寧さえ確約して頂ければバンドーの領地は切り取り自由。事が済めばわが命も差し出しましょう。しかし、姉上の命だけは何卒。」
「そなたの姉は大方オーシューにでも向かったのであろう?カズト殿が助けたのであればセリカ女王はそなたの姉を全力で守るであろうな。心配致すな。」
「条件は事後オーシューとそなたらの3国で調整となろう。今は休むが良い。」
「は、ありがたきしあ…わ、せ…」
ここでジュリエッタは緊張の糸がぷつりと切れたのか気を失ってしまう。
「皇女を休ませろ。丁重にな。」
サーブ王はそう侍女に命じると頬に手をあて考え込む。
「ディアスをここへ。」
「は、父上、ここに。」
隣室に控えていたのはサーブ王の息子でエツリア王太子のディアス王子だ。
「お前の世代は手強いおなごばかりだな。セリカといいジュリエッタといい。お前に渡り合えるか?」
「確かにそうでございます。ですが父上。自分とてまだまだこれから伸びて行きましょう。心配はいりませぬ。それで父上。お願いしたき儀が。」
「申してみよ。」
「は。バンドーとの戦にて初陣を飾りたく。」
「うむ。よかろう。今から準備をしておくがよい。鍛錬を怠るな。」
「は!」
退出していく息子の背を見ながら笑みを浮かべるサーブ王。
(ふ、さほど歳の変わらぬ隣国の姫たちの覚悟を見て尻に火が付いたか。確かに今のままではオーシューのセリカや今のバンドーのジュリエッタとは渡り合えまい。恐らくエツリアは飲み込まれてしまうであろうな。そうならぬ為には敢えて虎穴に放り込むのも手ではあるか。そしてその上で…)
なにやら浮かべていた笑みが悪い笑みに変わっていく。悪巧みを思い付いたらしい。
◇◇◇
ランとチェロがいないため、てくてくと徒歩で南下している俺とライム。徒歩故にさして距離は稼いでいないのだが、まあとにかく絡まれる。今日はここまでで3回目、今目の前にいる4人をあわせて16人目。
「ごべんだざい!」
鼻血を出して土下座しているヒャッハーはどうやら謝っているらしい。ヒャッハーと言うか、傾奇者だな。ド派手な衣装だが俺にはこのセンスは分からないな。
普段の俺達ならこんな連中は軽く一蹴してそれで終わりなんだがこの国に入ってからは少し思う所がある。
「あのさ、こんな事してるあんた達の事も守ろうとして、ジュリアとジュリエッタの2人の皇女はそれぞれオーシューとエツリアに助けを求めに命懸けで脱出したんだよ?今まで敵だった国の王様に、あんた達みたいのも助けて欲しいって懇願しに行ったの!どれだけの覚悟が必要か分かる?」
「はい!すみませんでした!」
「いや、まだわかってない!いい?あの2人はね、自分の首を差し出すつもりで行ったんだよ?それがなにさ!あんた達と来たらこんなトコでこんな事して!恥ずかしくないの!?」
「へい!ごめんなさい!」
「いい?こんなあんた達を助けようとして敵国に渡った皇女が死んだら…」
「ゴクッ…」
「私があんた達をとびっきり惨たらしく殺してあげるから。」
「ひっ!わかりました!これからは心を入れ替えます!申し訳ありませんでしたぁ!」
軽くお仕置きした後、ライムに鬼の説教をして貰っている。俺が説教すると連中失神しちまうからライムに説教を頼んだんだがこれが思いの他効果的で、しかもすげえ怖い。
こいつらみたいなのが簡単に改心するとは思ってないが、ジュリアとジュリエッタの行動を世間に広める助けににはなるだろう。少しでもバンドー国民の希望になればと思う。狙いはそこだったのだが…
なんでこうなった…
0
お気に入りに追加
5,674
あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。