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第二部 バンドー皇国編 3章
181.セリカvsジュリア
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◇◇◇
オーシュー王国王都ライズミー王城謁見の間
「それで、ジュリア皇女。この私の前にわずか1人の従者のみを連れて、しかもカズトの眷属と共に現れるとは一体どういった要件でしょうか?(私ですらランには乗った事がないというのにカズトったら!)」
「え?」
「コホン!なんでもありませんわ。」
「はい。恥知らずなのは承知の上で参りました。まずは陛下にはこちらのカズト様からの書状を。」
ジュリアの持っていた書状を控えていたソアラが改める。そして溜息をひとつついた後セリカに渡す。
「やはりマスターですね。予想を裏切りません。」
苦笑するソアラを見て書状の内容が予想できたのだろう。
「まあ、ジュリア皇女がランに乗って現れた時点で確定事項ですがね。一応読んでみますか。」
ジュリアは女王と側近の女のやりとりをポカンとして見ていた。自分がラングラーに乗って現れただけで大凡の事情が分かるとはどういうことなのだろうか。
「なるほど。成り行きは分かりました。それではジュリア皇女。あなたの考えをお聞きしましょうか。初めに言っておきますがあなたを助けたカズトの思いをあなたがどの程度理解をしているのかを試しています。もしも、カズトの思いをあなたが理解していないようなら今この場であなたの命は絶えるものと心得なさい。あなたは我が国の仇の血流なのですから。」
セリカから尋常ではない威圧感が放たれる。わずか齢17とは思えないセリカの威圧感の前に思わず平伏してしまいそうになるジュリアだが必死に心を奮い立たせ視線を上げセリカと相対する。
「カズト様が私を生かし、陛下に謁見する機会を与えて下さったのはいくつか理由があると考えます。まず一つ、謝罪をする事。」
セリカは無言で続きを促す。先程より威圧感が和らいでいる事にまだジュリアは気付いていない。
「そして一つ。私は何が何でも生き延びて、バンドーの民を救う事。この命はバンドーの民を救うために捧げる事。セリカ陛下。御身がそのようになされた様にです。」
ここに至るとセリカからは威圧感が消え、その視線は先程の厳しさが嘘のように優し気だ。
「なので陛下。私はこの場で死する訳には参りません。」
「ジュリア皇女。」
セリカはジュリアに歩みより、膝を折りジュリアと視線を合わせる。
「は。」
「これがカズトの書状です。」
『襲われてた女を助けたらバンドーの皇女だった。話を聞いてやってくれ。俺はバンドーの国は許さないが民は救いたいと思う。』
「これだけ…」
ジュリアは開いた口が塞がらない。もっと詳細にバンドーの民を、そして自分を助ける為の口添えをしてくれているものと僅かではあるが期待していた。しかし書状に見えるのはただの一言。
しかしこの僅かな文言でセリカの近衛の女も女王自身も全てを悟っていたように見えた。
「これがカズトという人間です。何者も彼を縛る事は出来ない強さがありますがその強さは常に弱者の為に振るわれます。そして、優しくて厳しく、温かい。」
この言葉を口にしているセリカの眼には深い思慕、いや恋慕といった方がいいかも知れない。その色がはっきりと見える気がした。きっとセリカはカズトに対してそういう想いを抱いているのだろう。それはジュリアにも分かる気がした。助けてくれたあの時の事を思い出す。
「そのカズトがあなたを助けるべきと判断したのですから初めから答えは決まっていたのですよ。ジュリア皇女、試すような真似をした事、ここに謝罪します。」
「!」
ジュリアは何も言葉を発する事が出来ずにただただ深く頭を垂れた。同時に思う。
(あの一文のみの書状で国家の大事を判断出来るものなのだろうか?いや、実際に女王陛下は即断したように思える。だとすれば何という信頼感だろう。)
羨ましいな、と思った時、極度の疲労と緊張感が途切れた事によりジュリアの意識は闇へと沈んでいった。
「…ここは?」
見慣れぬ部屋の中。柔らかいベッドと布団。隣には護衛の兵士がまだ眠っていた。思えばこの様な上等な寝床は随分と久しぶりな気がする。
「お目覚めになりましたか?ジュリア殿下。」
「ええ、お見苦しい所を。それと、殿下はお止め下さいな。父は殺され、国は乗っ取られたも同然。今の私に立場などありませんよ。」
ジュリアに話し掛けたのは確か女王の近衛を務めていた女だ。
「ではジュリア様。体調が戻るまではごゆっくりと…」
「いえ!こうしている間にも民達は…。」
「『急いては事を仕損じる』という諺があるそうです。興味があるならいつかマスターに聞いてみては如何でしょうか。」
近衛の女性は強引にジュリアを寝かしつけた。見た目に寄らず凄い力だ。
「あの、マスターとは?」
「ああ、これは失礼しました。カズト様の事です。私達は元々はカズト様配下だったのですよ。私は『ソアラ』と申します。お見知りおきを。」
「そうですか。あの、ソアラさん。」
「なんでしょうか?」
「宜しければ女王陛下やカズト様の事を教えて頂けませんか?」
「ふふっ、宜しいですよ?」
◇◇◇
「へーっくしゅ!へーーっくしゅ!へーーーっくしょいっと!ちきしょーめ!」
「ちょっとカズにぃったらおっさんくさいんだけどー?」
「むぅ…」
オーシュー王国王都ライズミー王城謁見の間
「それで、ジュリア皇女。この私の前にわずか1人の従者のみを連れて、しかもカズトの眷属と共に現れるとは一体どういった要件でしょうか?(私ですらランには乗った事がないというのにカズトったら!)」
「え?」
「コホン!なんでもありませんわ。」
「はい。恥知らずなのは承知の上で参りました。まずは陛下にはこちらのカズト様からの書状を。」
ジュリアの持っていた書状を控えていたソアラが改める。そして溜息をひとつついた後セリカに渡す。
「やはりマスターですね。予想を裏切りません。」
苦笑するソアラを見て書状の内容が予想できたのだろう。
「まあ、ジュリア皇女がランに乗って現れた時点で確定事項ですがね。一応読んでみますか。」
ジュリアは女王と側近の女のやりとりをポカンとして見ていた。自分がラングラーに乗って現れただけで大凡の事情が分かるとはどういうことなのだろうか。
「なるほど。成り行きは分かりました。それではジュリア皇女。あなたの考えをお聞きしましょうか。初めに言っておきますがあなたを助けたカズトの思いをあなたがどの程度理解をしているのかを試しています。もしも、カズトの思いをあなたが理解していないようなら今この場であなたの命は絶えるものと心得なさい。あなたは我が国の仇の血流なのですから。」
セリカから尋常ではない威圧感が放たれる。わずか齢17とは思えないセリカの威圧感の前に思わず平伏してしまいそうになるジュリアだが必死に心を奮い立たせ視線を上げセリカと相対する。
「カズト様が私を生かし、陛下に謁見する機会を与えて下さったのはいくつか理由があると考えます。まず一つ、謝罪をする事。」
セリカは無言で続きを促す。先程より威圧感が和らいでいる事にまだジュリアは気付いていない。
「そして一つ。私は何が何でも生き延びて、バンドーの民を救う事。この命はバンドーの民を救うために捧げる事。セリカ陛下。御身がそのようになされた様にです。」
ここに至るとセリカからは威圧感が消え、その視線は先程の厳しさが嘘のように優し気だ。
「なので陛下。私はこの場で死する訳には参りません。」
「ジュリア皇女。」
セリカはジュリアに歩みより、膝を折りジュリアと視線を合わせる。
「は。」
「これがカズトの書状です。」
『襲われてた女を助けたらバンドーの皇女だった。話を聞いてやってくれ。俺はバンドーの国は許さないが民は救いたいと思う。』
「これだけ…」
ジュリアは開いた口が塞がらない。もっと詳細にバンドーの民を、そして自分を助ける為の口添えをしてくれているものと僅かではあるが期待していた。しかし書状に見えるのはただの一言。
しかしこの僅かな文言でセリカの近衛の女も女王自身も全てを悟っていたように見えた。
「これがカズトという人間です。何者も彼を縛る事は出来ない強さがありますがその強さは常に弱者の為に振るわれます。そして、優しくて厳しく、温かい。」
この言葉を口にしているセリカの眼には深い思慕、いや恋慕といった方がいいかも知れない。その色がはっきりと見える気がした。きっとセリカはカズトに対してそういう想いを抱いているのだろう。それはジュリアにも分かる気がした。助けてくれたあの時の事を思い出す。
「そのカズトがあなたを助けるべきと判断したのですから初めから答えは決まっていたのですよ。ジュリア皇女、試すような真似をした事、ここに謝罪します。」
「!」
ジュリアは何も言葉を発する事が出来ずにただただ深く頭を垂れた。同時に思う。
(あの一文のみの書状で国家の大事を判断出来るものなのだろうか?いや、実際に女王陛下は即断したように思える。だとすれば何という信頼感だろう。)
羨ましいな、と思った時、極度の疲労と緊張感が途切れた事によりジュリアの意識は闇へと沈んでいった。
「…ここは?」
見慣れぬ部屋の中。柔らかいベッドと布団。隣には護衛の兵士がまだ眠っていた。思えばこの様な上等な寝床は随分と久しぶりな気がする。
「お目覚めになりましたか?ジュリア殿下。」
「ええ、お見苦しい所を。それと、殿下はお止め下さいな。父は殺され、国は乗っ取られたも同然。今の私に立場などありませんよ。」
ジュリアに話し掛けたのは確か女王の近衛を務めていた女だ。
「ではジュリア様。体調が戻るまではごゆっくりと…」
「いえ!こうしている間にも民達は…。」
「『急いては事を仕損じる』という諺があるそうです。興味があるならいつかマスターに聞いてみては如何でしょうか。」
近衛の女性は強引にジュリアを寝かしつけた。見た目に寄らず凄い力だ。
「あの、マスターとは?」
「ああ、これは失礼しました。カズト様の事です。私達は元々はカズト様配下だったのですよ。私は『ソアラ』と申します。お見知りおきを。」
「そうですか。あの、ソアラさん。」
「なんでしょうか?」
「宜しければ女王陛下やカズト様の事を教えて頂けませんか?」
「ふふっ、宜しいですよ?」
◇◇◇
「へーっくしゅ!へーーっくしゅ!へーーーっくしょいっと!ちきしょーめ!」
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「むぅ…」
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