いや、自由に生きろって言われても。

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第二部 バンドー皇国編 3章

179.取り敢えずの敵は誰だ?

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 「民を顧みず己の野心にのみ忠実な王、それが父でした。しかしその強さに従っていた者達は父の強さしか見ていなかったのです。そして父が和平に傾くや将軍以下武闘派の御家人達は父を糾弾し、そして亡き者に…」

 ジュリア、ジュリエッタの投下した爆弾に俺達はいきなり困ってしまった。なにせ旅の目的がいきなりいなくなってしまったらしい。

 「それで、今はその将軍とやらが実権を握ってるのか?」

 「はい。ですが殆どの文官は和平派の貴族出身でした。それが粛清されてしまっては政は立ち行かぬでしょう。ただ戦をしたいだけの人間が国を治められるとも思えませんので。」

 「それで、その将軍様にはなぜ誰も逆らわない?」

 「…強いからです。個人としての武も動員兵力も。」

 「はぁ…富国強兵政策で民が泣き、周辺国家から嫌われ孤立する未来しか見えないよね。」

 ライムの言うとおりだな。ビートが飽きて散策に行ってしまったのか、いつの間にか会話に混ざってるし。

 「で、あんた達はどうしたいんだ?オーシューとエツリアに救援を頼みたいのは分かった。だが望みは薄いだろうな。バンドーの干渉でたくさんの人が苦しみ、死んでいった。姫さんの首一つで納得するかどうかはわからん。」

 「!…」

 双子の姫君はガックリと肩を落とす。

 「私達は…どうすればいいのでしょうか…」

 「一度、滅んでしまえばいいのさ、この国は。そして姫さん達が新しい国を興せばいい。国が廃れても民がいれば立て直せる。まあ、俺にとっては他人事だから気楽に言えるがな。」

 「カズト様はお優しいのか辛辣なのか分かりませんね。国を憎んで民を憎まずと言った所でしょうか。」

 そうだな…バンドーという国の印象は最悪だ。でもそこに住まう人達は…違うよな。

 「900年前にクロー=ホーガンって人物がいたのを知ってるか?」

 「…なぜその名前をご存知なのでしょうか?その名は歴史から抹消され、なかった事にされてしまった人物です。バンドー皇都の禁書の中にわずかに記述が残っているだけなのですが。なので皇族以外でその名を知るものはいないハズです。」

 「そのクローが何をしてどうなったかは?」

 「はい、中央との戦で多大な戦功を上げましたが反乱を企てた咎で追放したと。」

 まあ、歴史は勝者が改ざんするのは世の常とは言え…流石にあっさりとは受け入れ難いな。

 「あんた達は900年前の皇帝の血を引いているんだな?」

 「はい…」

 「カズにぃ、それならこのヒト達は私達の仇の末裔な訳だね。」

 「え?どういう事でしょう?」

 「俺とライムは900年前クローと従者のオニワカの魂を受け継いでいる。セリカの召喚魔法に反応して呼び寄せられたのもその為だ。そして900年前の記憶も残っている。」

 「「!!」」

 「私達はね、兄である皇帝の為に必死で戦ったよ?でもバンドーの勝利がほぼ確定的になった頃、皇帝は私達が邪魔になった。追手を差し向けられて、必死に逃げた。そしてオーシューに落ち延び、そこで私達は消滅した。」

 それを聞いたジュリアが沈痛な面持ちで言う。

 「本来なら称賛されるべきなのに歴史から抹消され、しかもわずかに残る資料には罪人に仕立て上げられたと…」

 さて、ここまで聞いて引き下がるか踏みとどまるか。どうせ目的を失った旅だ。行先を賽の目に任せるのもいいだろう。

 「カズト様、ライム様。伏してお願い申し上げます。このバンドーなどという国はどうなろうと構いません。ただ、何卒この国の民だけはお救い頂きたく。」
 「ただでとは申しません。我ら姉妹はバンドー皇族の最後の血流。この命をもって過去に遡る不義を償いたく。」

 言うなり姉妹は短剣を取り出しお互いの胸を突こうとした。しかしそこに黒い疾風が走り抜け2人の短剣を叩き落とした。

 「よくやった、ビート。」

 『にゃお!』

 「これは…さっきも居た黒猫ちゃん?」

 「まったく…早まるんじゃねえ。さっきも言ったがあんたらの命なんて欲しくないんだ。だが、覚悟は伝わった。」

 ぽん!とビートが煙に包まれ、煙が晴れるとそこに褐色の猫耳美女が現れた。

 「「え?え?」」

 【私はケットシーのビートと申しますの。カズト様の眷属をさせて頂いておりますわ。ところであなた方。カズト様の視界を血で汚すなどお止めなさい。今までのカズト様の言動は全てあなた方の覚悟を確認する為のもの。でも、どうやらあなた方はカズト様のお眼鏡にかなったようですわね。】

 「「え?え?」」

 ビートが説明している間に俺はマジックポケットから紙を取り出し手紙を認めていた。セリカとサーブ王へ。内容は同じ。特に依頼や要望を書いている訳ではない。今聞いた話と成り行き、そして今後の俺の方針。それだけだ。

 「ラン、チェロ。眷属ってのはどれくらい離れてると俺を感知出来なくなる?」

 【主よ。主がこの世界に存在する限りどこにいようと感知できる。】

 【そうですね。主殿が呼びかければどこからでも駆けつけられます。】

 「「ええ?えええ~??」」

 それなら安心だな。俺は手紙をそれぞれジュリアとジュリエッタに渡す。
 ランとチェロが本来の姿を現して俺と会話するが、ジュリアとジュリエッタはまだまだびっくり出来るようだ。機会が有ればサンタナとアクアも見せてやろう。リアクションが楽しみだ。

 「それ持ってセリカとサーブ王の所に行け。ランとチェロを貸してやる。その2頭と俺の名前を出せば王と言えど面会できるだろう。ただし、面会は出来てもそこから先はあんたら次第だ。」

 さて。ランとチェロがバイコーンとユニコーンだと知ってもはや声も出ない程驚いていた4人だったが無理矢理乗せて走らせた。残る問題はこの捕虜たちなんだが。

 「おい、将軍様とやらはどこにいる?」

 「わからん。わからんが本領はショーナンだ。」

 うむ。これでこいつらには用はない。ここに放置して行こう。
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