いや、自由に生きろって言われても。

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第二部 バンドー皇国編 3章

177.トラブル誘因体質

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 「カズにぃ、これはオーシューやエツリアよりタチが悪いかも知れない。」

 「そうだな。虐げられてはいてもオーシューやエツリアの民は明日に希望を持って生きていた。」

 セリカは民の幸福を願い俺達を召喚した。出会いは最悪だったがセリカの国を思う心は本物だったから俺達は力を貸した。だがこの国は言わば敵国、前世の俺達にとっても仇を為した国だ。救う義理はないし国を救おうとする英雄の卵にも知り合いはいない。

 「気の毒だとは思うがこれに関しちゃ俺達の出る幕じゃないよ。俺達が皇帝ブッ飛ばして国を乗っ取るなら話は別だけどな。」

 「そうだねえ…ブッ飛ばすのはいいとしても国を乗っ取ったってねえ…」

 『皇帝泣かして土下座させる』なんて言って来たが実際それは皇帝の出方次第で場合によっちゃ土下座で済ませられない事も有り得るだろう。しかし俺はカムリ公の事を思い出す。

 「実際皇帝が悪なのかどうかは見極めなきゃダメだよな。カムリの場合もギャランがまともなヤツならああはならなかったかも知れない。兄妹喧嘩は避けられなかったにしてもな。」

 「うん…内乱まで発展する事は無かったかも知れない。」

 同じ事がバンドーにも言えるかも知れない。あくまでも可能性の話だが。どうもヒャッハー3人組の言ってた『将軍』ってヤツが怪しいがな。

 「ま、どっちでもいいがあっさりと終わらせたいもんだな。」

 【ご主人様。そうは問屋が卸さないようですね。】

 【うむ、前方でなにやら騒いでおる輩がおるわ。我とマスターの旅路を邪魔する無粋な輩じゃのう】

 【精霊王様?お二人ともカズト様がトラブルに自ら巻き込まれに行くような言いぐさは少々カズト様がお可哀そうですわよ?】

 サンタナとアクアが感知したように、俺の索敵スキルも反応を拾っていた。そしてビートの言う通り好んで巻き込まれに行くつもりはないのだが、ここは一本道、トラブルの種は向こうの方から近付いて来る。

 「あー、ライム、準備しといて。ビートもな。ランとチェロは一先ず様子見で。明らかに敵なら遠慮はナシで。」

 【承知。】

 【久々に暴れられますかね?】

 「さて、どうだろうな。」

 まもなくトラブルの種が視認出来る距離まで近付いて来た。冒険者風の出で立ちをした若い女が4人。だがその冒険者風の装備が全くサマになっていない。どう見ても偽造だな。この時点でトラブルの種は巨大化している。偽装する必要のある身分の女が襲われているんだからな。

 4人のうち2人は剣の心得があるようだ。10人程の追手をなんとか捌きながら逃げて来ている。どこぞの姫君と護衛と言った所か。その内の1人が俺達を見つけてはっとした顔をするがすぐに我に返り、

 「そこの冒険者!逃げなさい!巻き込まれますよ!」

 俺達に警告して来た。へえ?助けを求めるんじゃなくて逃げろ、か。

 「ライム、気に入った。助けるぞ!」

 「はいよ!了解!」

 「ライム!槍貸して!」

 「はい、これ!」

 ライムが空間収納から適当な槍を取り出してくれた。ライムも同じく槍を持っている。

 護衛らしき女2人と追手との間に割って入る。

 「早く逃げろ!」

 「し、しかし貴殿らは!」

 「いいから!」

 「くっ!すまん!」

 追手の指揮官らしき男がこちらを威圧するように言う。

 「貴様ら邪魔だてするか!? そこを退け!」

 「あー、ムリ。だってどう見てもアンタらの方が人相悪い。」

 「…やれ。」

 追手の中の2人が剣を片手に斬りかかって来るが…

 「ひ、ひい!」

 「くっ!」

 俺とライムは首元に槍を付ける。寸止めだ。

 「それ以上踏み込んだらブスリ、だったな。」

 「どうする?まだやる?諦めて引き返すなら見逃すけど?」

 だが敵の指揮官は。

 「あれを逃がす訳にはいかんのだ!やれっ!」

 俺は舌打ちをする。今のを見せても実力差が理解出来ないか。

 「ライム!事情を聞きたい。殺すな!」

 「わかった!でも痛いのは我慢してよ!」

 戦闘は一瞬だった。特別な事は何もしていない。ただ槍を振り回しただけだ。俺達の感覚で言えば、だが。俺が槍を一振りした時の刃風が追手の戦意を根こそぎ奪い、ライムの放った石突での一撃が鉄の盾を破砕したのを見た連中は武器を捨て投降した。

 追手を拘束して転がしておいたのだが、索敵に赤い点が一つ。少し離れた所で留まっている。

 「おい、他に仲間は?」

 「いない。これで全部だ。」

 どうやら嘘はついていない。ならばただの監視か?赤い点をロックオンしマジックミサイルを1発お見舞いしてやる。だが手応えがない。

 「…なんだ?相殺でもされたか?」

 赤い点がもの凄い勢いで離れていった。どうやら逃がしてしまったようだ。そういや、仕留めきれなかったなんて初めてだな。

 「あの…」

 さっきの娘さん達が戻って来た。お?姿が見えないと思ったらビートめ、しっかり護衛に付いてたんだな。エライぞ。

 「なんだ。戻って来たのか。そのまま逃げちまえばいいのに。」

 「なっ!見くびらないで下さい!そのような不義理など出来ません!」
 「そうです!恩人に礼の一つも言わずに去る事など出来ましょうか!」

 あれ?この2人顔が同じ?双子かな?

 「そうか、そりゃ悪かった。ケガはないか?」

 「ええ…私達は。ですが従者の2人が…」

 双子らしき娘が悲し気に目を伏せる。なるほど、満身創痍だな。

 「ライム。治癒頼めるか?」

 「うん、そっちの2人だね!」

 ライムのヒールの光を浴びてみるみる完治していく従者の傷。

 「あ、あの…あなた方は一体…?」

 「……」

 「はっ!? 申し遅れました。私はバンドー皇国第一皇女のジュリアと申します。」
 「同じく私は第二皇女のジュリエッタと申します。お気付きでしょうが私達は双子です。」

 「「この度は危ない所をお助け頂きありがとうございました。」」

 なんてこった。トラブルの種どころかとびっきりの爆弾だった。

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